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【-?日~9日目】タフティ視点 私の大切な


 何とか一話にまとめようとしたら、いつもの数倍の長さになってしまいました・・・。

 短い話が好きな方はごめんなさい!



 私の名前はタフティ。トナリノ町でシスターをやってるわ。


 シスターの朝は早い。そりゃあもう早いのよ。


 朝のお祈りが始まる前に、教会内の掃除をしなければならない。最初に来るジジババなんて、夜が明けたらすぐ来るんだから。まだ日も登る前に、掃除を始める。だが、その日最初に来たのは、いつもの老人ではなかった。


 「久しいな、タフティ。息災か?」

 「うわっ。ヴァーンじゃない。まだ、夜明け前よ?」


 ヴァーンは私がシスターになってから、ちょくちょく監視をしに来る。それにしても今回はちょっとペースが速くない?数日前に来たばっかりじゃない。


 「君はまともに挨拶ができないのか・・・。前回、朝のお祈りに間に合わなかったのでな。前日に町に入って、泊まったのだ。」


 あぁ、そういえば。エヴァちゃんの聖なる光に感動して、また来るとか言ってたっけ。そういうのは社交辞令にしとけばいいのに・・・。


 でもまぁ、あれに祈りたくなる気持ちは分かる。エヴァちゃんが発現させる天使は、それはもう見事なもので、本当に生きているとしか思えないような動きをする。信仰心に乏しい私がそうなのだ、根っからの信者であるヴァーンにはたまらないだろう。


 「わざわざお祈りに来たんだ?」

 「一応、この町で女神らしきものを見たという証言があるので、それの確認も兼ねているがな。」

 「あぁ、その事件の犯人は、反応見る限り多分エヴァちゃんよ?聖なる光で遊んでたんじゃない?」

 「勝手に事件にするんじゃない。ただの調査だ。だがまぁ、そんなところだろうな。」


 そんなのわざわざ調査しに来る意味あるのかしら?あっさり納得してるし・・・。


 「今日は私の監視目的じゃないわけね?」

 「聖なる光も出せぬ者が修道士になると決まった時、どうなることかと思っていたが・・・。今や、わざわざ他の町からお祈りに来るほどの人気ぶりだからな。そう心配はしていない。」


 そう、ヒーラーの適性がない私が、修道士になろうとしたのには、一応、理由がある・・・。



―――――――――――――――――――――――


 私には妹がいる。名前はエイメ。


 エイメは生まれつきの病気で。みんなが走り回るような年になっても、元気に走り回るようなことは出来なかった。せいぜい誰かに支えられながら、家の周りをゆっくり歩くのが限界だ。


 反対に私は子供の頃から、体を動かすのが好きで、暇さえあれば、野を駆け回り。年の近い子供を見つけると、男女問わず追いかけまわしていた。


 そんな村のガキ大将だった私も、エイメが生まれてからはそっちにかかりきりになった。暇さえあれば、エイメの元に行き、一緒に遊んだ。エイメが笑う顔を見ていれば私は幸せだった。何がそうさせるのか、エイメのためなら何でもやろうと、本気で思っていた。動き回れないエイメにつくので、必然的に私も大人しくなっていく。そのあまりの変貌ぶりに、周りの大人は、私が病気なんじゃないかと疑ったほどだ。


 エイメが家で本を読むようになると、こんなことを言い出した。


 「ねーね?エイメ、おいのりがしたい。」


 エイメが読んでいたのは、神話の本だった。私は神様になんか全く興味はなかったので、お祈りなんてどういうものかも知らなかった。


 「お姉ちゃんが聞いてるから、お祈りしていいよ?」

 「ちがうよー。きょうかいにいくのー。」


 教会なんてこの村で見たことないけどなぁ・・・。お母さんに聞くと、トナリノ町に行かないと無いと言われた。トナリノ町かぁ。まぁ、そう遠くはないかな?


 「じゃあ、行こうか。」

 「いけるのー?」


 まぁ、普通は馬車を使っていくものだけど。私はそんなにお金持ってないし。エイメ一人くらいなら、私がおんぶしていけばいい。


 出かける準備をして、エイメを背負う。


 「行ってきます。」「いってきまー。」

 「行ってらっしゃーい。暗くなる前に返ってくるのよー?ていうかこの時間からどこ行く気ー?」

 「トナリノ町ー。」

 「そう・・・ハァ!?」


 家を出て、トナリノ町に向けて走り出す。馬車の出る方向的にあっちだろう。


 「はやーい。」


 エイメが背中でキャッキャと喜んでいる。それだけでどこまででも走れる気がした。しばらく走っていると、私の住んでいた田舎の村とは比べ物にならないほど、大きな町が見えてきた。


 町の隅にある丘の上。目標の教会はすぐに見つかった。ここでお祈りとやらがしたいんだよね?ノックもせずに扉を開ける。


 「はい?あら、可愛い子羊ちゃんだこと。」


 出迎えてくれたのは変わった服を着たおばあさんだった。エイメが目を輝かせているから、間違いではなさそう?


 「お祈りしに来ました?」「ましたー。」

 「そう。もうしばらくすると、夕方のお祈りが始まるから、座って待っててちょうだい?」


 言われた通り、長椅子に腰かけて待つ。おばあさんはお祈りの言葉が掛かれている小冊子を私とエイメに渡すと、お祈りについて教えてくれる。


 やがて、長椅子の3~4割くらいが埋まると、夕方のお祈りが始まった。おばあさんの読み上げた後を、エイメは一生懸命追っていた。何がそんなに楽しいのか、私には分からないけど、エイメが嬉しそうだからいいや。


 それからは毎日、朝と夕方にトナリノ町に走り。お祈りをする日々が続いた。お母さんは私がトナリノ町に行くというのを、ごっこ遊びの類だと思ってるらしい。適当に見送ってくれた。


 エイメがお祈りしている間、私は町の近くで遊ぶことにした。エイメのお祈りを邪魔してはいけないし、お祈りに興味がない私には、エイメがかまってくれなくて暇なのだ。町の近くのモンスターに喧嘩を吹っ掛ける。ぼこぼこにすると、逃がす。そんなことを繰り返してしていたら、町の周りからモンスターが減っていった。


 そんな日々が続いたある日、問題が起きる。トナリノ町の修道士のおばあさんが、年を理由に修道士をやめることになったのだ。


 「まぁいい年だし、仕方ないわよね。」

 「うん、私もそう思う。」


 トナリノ町に代わりの修道士などいない。トナリノ町からは、いくつかの教会なんてない村と、オオキナ大国に行く馬車が出ている。教会に行きたかったら、オオキナ大国に行くしかない。


 「じゃあ明日からは早めに出なきゃね。」

 「・・・早めに出て、どこに行く気?」


 最近はエイメも遠慮というものを覚えてきた。エイメのためならなんだってするのに・・・。


 「一番近い教会ヨ。」

 「それって、オオキナ大国に行くしかないよね・・・。」

 「・・・まぁ、そうなるわね。」


 思った通り。エイメは難色を示す。


 「いくらお姉ちゃんでも、私をおんぶして行くわけにはいかないでしょ?」

 「そんなの余裕よ余裕。トナリノ町からオオキナ大国までは馬車で一本よ?」


 まぁその間に何もないってだけで、村からトナリノ町までと比べると、距離は桁違いなんだけど・・・。私なんかより、よっぽど賢いエイメがそれを知らないわけもない。


 「もう、良いよお姉ちゃん。私もいくら祈っても体の一つも良くならない、神様には愛想が尽きたところだし。」


 嘘だ。エイメほど熱心な信者も少ない。遠慮を覚えて、私にお願いすることもほとんどしなくなった今でも、トナリノ町に連れていくことだけはお願いしてきたのだ。お祈りの後の、私にお礼を言うときのエイメが、どんな時よりきれいな笑顔を見せてくれるんだ。


 「そうよね。こんだけ祈ってるんだからいい加減、奇跡の一つでも起こせって話よねぇ?そうだ、今日から神様じゃなくて、私にお祈りしたらいいんじゃないかしら。」

 「もう、お姉ちゃんったら。聖なる光以外を祈りの対象にしてはならない、ってルールがあるからダメなのよ?」


 エイメが笑いながらそう言った。


 違う!私が見たいのは、そんな何かを押し殺したような笑顔じゃない!!


 愛想が尽きたと言いながら、信仰のルールを守ろうとする。愛想が尽きたなんて嘘だという証拠だろう。エイメのためなら何でもする。エイメが心から笑えない、そんなルールなんて。・・・私が壊してやる。


 「ちょっと出かけてくるね。」

 「うん?行ってらっしゃいお姉ちゃん。」


 私はそのまま、総本山へと乗り込んだ。何人かが、私を止めようとしたが、全員無力化していった。


 「何?あんたで最後?全員倒したから私の意見が通るってことでいい?」

 「・・・そんなルールではない。」


 ルール、ルールってどいつもこいつもうっさいわねぇ。私はそのルールに文句つけに来たのよ!


 しかし、仮に聖なる光以外に祈ってもいいと認めさせたところで、私の妹がそれを信じるだろうか?なんか偉そうなの持って行って説明させる?私がエイメに怒られそうね・・・。

 でも、私が言っただけじゃあ、いつもの冗談だと思われるだけよね・・・。


 そうだ。修道士のおばちゃんは、自分が修道士であることを証明するカードを持っていた。私が修道士になれば、聖なる光なんてなくても、お祈りしていいって、エイメも思ってくれるんじゃなかろうか。


 私の足元にいるやつに話しかける。


 「あなた、名前は?」

 「・・・ヴァーンだ。」

 「そう、じゃあヴァーン?私が修道士になるにはどうしたらいいの?」

 「・・・修道士希望なら最初からそう言いなさい。なぜ審問官を投げ飛ばしながら入ってきたんだ君は・・・。テストをして合格すれば、修道士として認められる。テストはしてあげるから、そこをどきなさい。」


 ・・・テストってやっぱりあれよね?


 「・・・私、聖なる光出せないけど、テスト合格できる?」

 「・・・・・・・・無理だ。」


 あ、やっぱり?


 「なんでよ!神に祈る気持ちがあれば、聖なる光なんて出せなくても、修道士になったっていいでしょ!!ヒーラーの適性が無ければ祈るのは無意味ってわけ!?」

 「そもそも修道士自体が、適性の低いヒーラーの救済処置のようなものだからだ。ヒーラーの適性があるものは、【神の使いし我々を癒す者である】という教えに、「光を出せるだけじゃ誰も癒せないだろう」と言われないよう。人々を導き、心を癒すという役割を与えた、という一面もある。」


 ・・・思ったより真面目にかえってきた。ていうかこの人、結構ぶっちゃけなかった?


 「そもそも君に、神に祈る気持ちがあるとは思えない。」


 すごい、ぐうの音も出ないとはこのことだ。どうせ適当にルールに従ってるだけだろうし、ごり押しで行けるだろうと思ったのに・・・。こいつ案外考えてるわね・・・。


 「じゃあその、人々を導く修道士様を派遣しなさいよ!」

 「ヒーラーの適性者自体、数少ないんだ。派遣できるような修道士はいない。」


 まぁ、それはそうだろうと思ってたわよ・・・。だから私がなるしかないの!


 「ええーいっ!いいから私を修道士にしなさい!してくれなきゃ、なんか、こう、この辺壊す!」

 「子供か君は!?なまじ力が強い分たちが悪い!」


 結果だけ言えば、私は修道士となることが認められた。ただし、条件付きで。


 「水木土、朝夕二回、しっかり聖なる光に向けてのお祈りを先導すること。これが条件だ。」

 「分かってるわよ。」

 「()()()()()だぞ?」

 「なによ、私が他の物で誤魔化すとでも思ってるの?」

 「あぁ、思ってる。」


 でしょうね。



―――――――――――――――――――――――


 まぁでも。ヒーラーに全く当てがないわけじゃない。


 「邪魔するわよーっ!」

 「何何!?急患!?」


 総本山に特攻した夜、私はその足で、トナリノ町の治癒師のもとに直行した。


 「あなた、聖なる光出せるわよね?」

 「出せるに決まってるじゃない。だから何よ?」

 「教会でのお祈りを復活させるわよ!」

 「何?私に修道士にでもなれっていうの?」

 「いや、私が修道士、あなたは聖なる光を出すだけでいいわ!」

 「はぁ!?訳が分からないんだけど・・・。」


 治癒師に詳しい説明をする。突然上がり込んで訳の分からないことを言う、初対面の人間の話なんて、よく聞いてくれたと思う。


 「まぁ、そういうことなら手伝ってあげなくもないわ・・・。でも、私は高いわよ!」

 「一回につき銅貨2枚くらいでいい?」

 「ガキの小遣いじゃないのよ!?銀貨5枚は貰うわ!」

 「えー・・・銀貨1枚!」

 「低すぎるわよ!4枚!」


 話し合いの末、銀貨2枚に決まった。なんやかんや言いながら、私に合わせてくれた。クレハは本当にいい子だと思う。


 「ありがとう。本当に・・・。」

 「ちょっと!放しなさいよ!・・・・・別にいいのよ、この町平和で、暇してるんだから。」


 翌日の朝から、祈りの復活を触れ回り、その日の夕方のお祈りから修道士としての活動が始まった。私の中の修道士のイメージ。引退したおばちゃんの真似をして読み上げる。何となくキャラクターもそっちに寄っていった。クレハが気持ち悪いと言ってきたので頭をガシガシ撫でておいた。


 「ただいま!」

 「お帰り、お姉ちゃん。」


 そして、私が修道士になった意味を成す時が来た。


 「これを見なさい!」

 「え?修道士?お姉ちゃんが・・・?どうして?」


 どうしよう、修道士を証明するカードを見せるのが楽しみすぎて、この後考えてなかった・・・。


 「えぇっと、私が神よ!」

 「落ち着いて?」


 うん。


 「まぁそういうことよ。」

 「どういうこと!?」

 「いいから!私の後に続いてお祈りしなさい!聖なる神の奇跡の光にー。」

 「神の奇跡たる聖なる光に、だよ?お姉ちゃん。」

 「え?あなた暗記してるの?気持ち悪いわね。」

 「・・・はぁ。お姉ちゃんも暗記するくらい読んでもらうからね?」

 「望むところよ。私の記憶力の悪さに絶望するんじゃないわよ?」


 二人で見つめ合い、笑いあった。



―――――――――――――――――――――――


 教会でのお祈りを済ませると、家に帰って、エイメのためにお祈りをする。そんな生活を続けて、町の人たちからもある程度の人気が出たころ。問題が発生した。


 「その・・・。治癒師として、オオキナ大国に救援に来れないかって・・・。」


 教会に重苦しい空気が立ち込める。いやまぁ。誰もが尊敬する、この世界で一番の治癒師になりたいって言ってたものね。

 私のわがままばかりに付き合わせるわけにはいかないわよね・・・。


 「そう。良かったじゃない。必要とされてるんでしょ?行ってきなさいよ。」

 「私相手にその気持ち悪い笑顔やめなさいよ!!・・・何日か開けることになっちゃうのよ?どうする気なのよ・・・。」

 

 聖なる光が条件に入ってるからなぁ・・・。審査通らないだろうなぁ。


 「気持ち悪いって、結構好評なのよ?・・・あんた一人くらい、いなくてもなんとかするわよ。それとも、一人で行くのが怖いのかしら?」

 「何よ、その言いぐさ!もう泣きついてきても知らないんだからね!?」


 そう言うとクレハは教会から出ていく。しかし、すぐ戻ってくると、私に一枚の紙を渡した。


 「・・・これ、オオキナ大国の地図。ここで働いてるから。」


 泣きついてきても知らないんじゃなかったの・・・?つい頭を撫でてやる。


 「気を付けて行ってくるのよ?」

 「子ども扱いしないでよ!」


 クレハはそれだけ叫ぶと、今度こそ教会から出ていった。


 さて、見送ったはいいが、本当に困った。ヒーラーの当てなんてあるわけないし・・・。なんかバレなさそうな代わりの物ないかなぁ。家からいろいろ持ってきて試してみる。炎とかでも案外騙せるんじゃないかしら?


 そんなことをしていたら、教会の扉がノックされる。うえぇ?お祈り以外でお客さんとは珍しい、慌てて聖なる光誤魔化しグッズを片付ける。


 「どうぞー。」


 私は暇さえあれば、神へのお祈りをしていて、その結果シスターとして認められた。そういう設定でやってるんだから、お祈りの姿勢だけでもしておこう。ステンドグラスに向かってなんかそれっぽいポーズをとる。


 「どうしましたか? 迷える子羊よ。」


 扉が開く気配がしたので、振り返ると、そこには小さな女の子が一人。長くて黒い髪に、白い肌に白くて可愛らしい服と白いベレー帽。モノクロをイメージしたお人形さんみたいだった。


 まって十字!ベレー帽とショルダーバッグに十字!クレハが言っていた。十字はヒーラーの証だって!


 神よっ!

 私はその日、初めて心から神に祈りをささげた。



―――――――――――――――――――――――


 今日も無事にお祈りを終える。すっかり指定席とかした右後ろの長椅子には、いつも通りエヴァちゃんが座っていた。だいぶ人気も出て、席もパンパンなのに、誰も座ろうともしないからすごいわよね。私も特に何か言ってるわけじゃないんだけど・・・。


 ヴァーンがエヴァちゃんに感謝の言葉を告げている。


 「今日も素晴らしい聖なる光だった。ありがとう。」


 お礼を言われたエヴァちゃんは、いつも通りの困り眉毛で会釈だけ返していた。お礼言われてもって感じなんだろうな・・・。


 でも、信仰深いヴァーンがあれだけ気に入ってるんだ。やっぱりいい物なんだろうなぁ。・・・エイメのために聖なる光を出しに来てくれないかな?無理強いしない程度に聞いてみよう。


 教会の掃除が終わると、教会にいるのは私とエヴァちゃんだけになる。いつも連れてるウサギは今日は見当たらなかった。


 朝食にサンドイッチを食べているエヴァちゃんに話しかける。


 「エヴァちゃん。今日は何か予定があるかしら?」


 エヴァちゃんが首を横に振る。ごめん、聞きながらどうせないだろうなぁとか考えちゃった。


 「もし良かったらなんだけど、うちの妹のために、エヴァちゃんの天使様出しに来てくれない?報酬は別で出すから。」


 エヴァちゃんは少し考えるようなそぶりをした後、指でOKサインを出してくれた。


 「ありがとう!」


 家までエヴァちゃんをおんぶして行く。馬車でもいいけど、知らない人と一緒じゃない方がいいだろうと思ったからだ。


 「ただいま!エイメ!今日はトナリノ町の天の使いが来てくれたよ!」

 「本当に!?」


 トナリノ町の天の使いと言えば結構有名だ。家にこもりきりのエイメでも、噂は聞いたことがあったらしい。説明する手間が省けた。

 エヴァちゃんを突き出すと、私に抗議の目を向けてきたが、目をキラキラさせたエイメを見ると、ぎこちない笑顔で手を振ってくれた。


 家でお祈りを始める。場所が違えど、何度もやってきたことだ。エヴァちゃんはいつも通り、天使様を発現させる。エイメは心ここにあらずの状態で、天使様を眺めていた。それでも、祈りの言葉は間違えることなく唱えられているからすごい。いままで積み重ねだろう。


 お祈りの終わりに、天使様とは別に、女神様が降臨して、エイメに口づけをするような演出までしてくれた。いつものお祈りではやらないのに。さっきも手を振ってくれたし、案外ファンサービスが行き届いている。ありがとう、エヴァちゃん。報酬は弾むからね?


 ポカーンとして夢心地のエイメを置いて、部屋から出る。報酬はどうしようかな。普通にお金渡してもいいけど、あんまり多いとエヴァちゃん遠慮しちゃいそうだし・・・。あ、そうだ。いつもサンドイッチばっかり食べてるし、お昼ご飯おごってあげるのはどうだろう。いいお店に連れて行ってあげよう。


 「じゃあ、今からトナリノ町に戻ると良い時間だろうし、今日のお礼に、お昼ご飯おごってあげるね?私が良さそうなの適当に注文するから、エヴァちゃんは食べたいのを選んで食べるだけ。どう?」


 エヴァちゃんが嬉しそうに頷いている。ご飯に興味が無かったらどうしようかと思ったけど。大丈夫そうね。


 バンッ。


 早速出発しようと思ったら、部屋の中から大きな音がした。


 「ごめん!」


 エヴァちゃんを残して、急いで部屋に戻る。部屋の隅に、布団が飛ばされており、ベッドの横にはエイメが立っていた。布団が飛ばされた音だったんだろうか?いや、それよりもエイメが・・・。


 「エイメ・・・?」

 「・・・お姉ちゃん!!」


 エイメが走って私に飛びついてくる。立つのも難しいはずのエイメが、そんなことできるなんてありえない。私に抱き着く力も、いつもの弱弱しい物とは違う。


 「あのね、お姉ちゃん。」

 「エイメえええ!!」


 エイメを力強く抱き返す。なんでとか、どうしてとか。そんなことはどうでもいい。治ったんだ!エイメの病気が!その事実だけで私の中には嬉しいしかない!!


 「エイメ!エイメ、エイメ!!」


 ボロボロと涙を流しながら、エイメを力いっぱい抱きしめる。名前を呼ぶ。嘘じゃないことを確かめるように。夢じゃないことを確かめるように。


 「ちょっと・・・痛いよ?お姉ちゃん。」


 そう言いながらも、エイメも力いっぱい抱き返してくれる、その痛みが幻でないと教えてくれた。



―――――――――――――――――――――――


 「ごめん、エヴァちゃん。エイメのお祝いも兼ねて良い?」


 エヴァちゃんは優しい笑顔で頷いてくれた。


 「ちょっとお姉ちゃん、その顔でお店に行く気?」


 そういうエイメもひどい顔だ。二人で顔を洗って、身支度を整える。


 もうエイメを有名なヒーラーに治療してもらうための資金は、必要なくなったんだ。せっかくだしパーッと使おう。エヴァちゃんを背負ってエイメと二人で競争するように、トナリノ町まで走る。


 クレハも帰ってきたし。冒険者に誘われてるエヴァちゃんを、私が拘束し続けるのも悪いわよね・・・。


 エヴァちゃんを野に放つ時が来たのかもしれないわね。


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