8日目 人の会話に入っていける人は、多分私とは違う種類の生物。
現在の所持品
How to healer 1冊
冒険者カード 1枚
パジャマ 1セット
銀貨17枚 銅貨12枚
紅茶の入った水筒 1つ
ロボットサンドイッチ下 2つ
「・・・おはよう。」
「おはよう、エヴァ。今日はお祈りお休みだろう?何かするのかい?」
え?なんで?・・・そうか、炎の日はお休みなんだっけ。すっかり忘れてた。でも、前回安全第一と一緒に冒険した時のお金がまだ残ってるし・・・。別に何もしなくてもいいよね?
「・・・いつも通りだよ?」
「・・・そうか。僕は草原で遊んでから、教会に行くよ。あの薄暗い空間にずっといると、エヴァみたいになっちゃいそうだからね。」
すべてを諦めたような顔でそう言うと、ユンはピョンピョコと宿を出ていく。私みたいになることの何が不満かね?・・・全部か。
身支度を整えると、教会に向かう。いつも通り、右後ろの長椅子を陣取ると、これまたいつも通り、祝言の練習を始める。教会内では、タフティが構内の清掃をしている。あれはあれで、結構真面目なようだ。そんな、いつも通りの日々を過ごしていると・・・。
バァン!
「私が帰ってきたわよ!!」
突然、教会の扉が勢いよく開かれ、女の子が入ってきた。
背は私より小さいくらいで、短めの赤い髪をツインテールにしている。髪を結ぶゴムには、大きな十字が付いている。短い髪で無理やりツインテールを作っているので、ツインテールで出来たしっぽより、装飾の十字のほうが大きいくらいだ。
入ってくるなり、タフティと言い合いになっている。私は無関係を貫けると思ったのに、タフティが私の方を指さす。巻き込まれてしまった・・・。
「いつからそこに!?ていうかあんたの話してんだから、話に入ってきなさいよ!」
少女・・・たしかタフティがクレハと呼んでいた。クレハは私にそんなことを言う。他の人の会話に入っていくのが当たり前だと思ってる当たり、私とはそりが合わないと思う。無意識に体を引いてしまう。
「あ、いや、怒ってるわけじゃないのよ?悪いことしたわけじゃないんだから、もっと堂々としてればいいのよ?」
クレハは少し困ったような顔でそう言った。悪い人ではなさそう?
「とにかく!あなたがここで聖なる光を出しているヒーラーね!?
そう。私はこの町で治癒師をやっているクレハよ!あなたはエヴァちゃんで合ってるわね!?
そう。とにかく!この町でヒーラーを名乗るなら、私が認める人じゃないとダメよ!
そうなの!いいから私と勝負しなさい!
いや?あぁ、そうなの・・・。」
クレハは私に何度か話しかけると、タフティの元までとぼとぼ歩いていく。
「ねぇ、あの子、私と口きいてくれないんだけど、私、何か怒らせるようなことしたかしら・・・。」
「あんだけ喧嘩口調で話しかけておいて何言ってんのよ・・・。あの子はもともと誰とも口きかない子なだけよ。別に怒ってるわけじゃないわ。」
クレハがズンズンと歩いて戻ってくる。分かったこの子絶対良い子だ。
「そうならそうと最初からそう言いなさいよ!」
「だから、そうとは言わない子なんだって。」
「そうだったわね!」
なんかそうそう言ってる。とりあえず、撫でやすい距離まで来たから、撫でとこう。
「あ!何子ども扱いしてんのよ!・・・うまいわね。満足したらやめるのよ!」
そうだろうそうだろう。撫でられ慣れているであろう、ウサギをも魅了する私の撫でテクニックに酔いしれるがいい。いつも通り、片手をモフモフさせながら、祝言の練習を始める。クレハは気持ちよさそうに目を細めながら、なされるがままだ。なんか妹が欲しくなってきた。
「・・・いや、長いわ!いつまで撫でているつもりよ!」
あぁ、ユンの代わりになると思ったのに・・・。
「そんな悲しそうな顔するんじゃないわよ!・・・また、いつでも撫でさせてあげるから・・・。
今は勝負よ!勝負!
え?いや?どうしても?別に野蛮な事しようってわけじゃないわよ?ヒーラーの勝負よ、ヒーラーの。
いや?そう、・・・じゃあ不戦敗ってことにするわよ!?
え?いいの?プライドとかはないの?」
ヒーラーのプライドはないなぁ、むしろやめたい。一人で戦える職業がいい。
「そうね、じゃああなたを私の弟子にしてあげるわ!
え?いいの!?やったぁ!見て!タフティ!私に弟子ができたわ!」
「いや、あんたがそれでいいなら、私は何も言わないけどね・・・?」
可愛い師匠が出来た。ほら、師匠?撫でてあげるからこっちおいで?そんなわけで、丸く収まりそうになったその時。
「ちょっと待ったーーです!」
全然可愛くないのが空から降ってきた。教会の天井に張り付いていたのか・・・。
「だ、誰よ!あんた!」
「シーラの名はシーラです!私もヒーラーです!」
「なるほど、私に挑もうってわけね!」
シーラは直立の状態で、両手だけを横に伸ばした姿勢で固まっている。
・・・あ、わかった。十字のアイテム持ってないから、体で表現してるんだ!くだらな!
「ひどいですよ、エーヴァちゃん!大事なことです!」
「なに一人で言ってんのよ!私とやるの?やらないの!?」
「もちろんやりますよ!シーラはエーヴァちゃんの弟子になるんです!」
「それじゃあ、私とやる意味ないじゃないの!!」
二人してすっごい騒がしい、せっかくの静かな教会が台無しだ。
「見なさい!タフティ!私に二人も弟子が出来たわ!」
「いや、その人を弟子にすることは、ステータスというより、バッドステータス・・・まぁあんたが嬉しいならそれでいいわ。」
「というわけでエーヴァちゃん!シーラを弟子に!・・・なんでクレハの弟子は良くて、シーラの師匠は嫌なんですか!?」
いや、分かるでしょ?ていうか、そもそもシーラってヒーラーだったの?
「あ、疑ってますね?ちゃんと聖なる光だせるんですよ!?ちょっと聖なる光の祝言を教えて欲しいです。」
「『我らが信仰せし癒しの神よ、その神聖たる奇跡を光とし、この現世へ発現させたまへ』よ!ていうか、それくらい覚えておきなさい!」
クレハがそう言って、聖なる光を出現させる。それを聞いたシーラは、祝言を唱えようとするが、どこかしらで間違える。
「私が信じてる神様よー。」
「ちょっと!雑すぎるわよ!一文字でも間違えたら発現しないんだからね!?」
そう言いながら、なんとかシーラの祝言を修正していく。飽きれるかと思ったけど、案外楽しそうだ。人に教える立場なのが嬉しいのかもしれない。
「祝言が長すぎるんですよ!」
「こんなの他のに比べたら、短いもんよ!?」
「ちょっとエーヴァちゃん!祝言書いてある本貸してください!」
How to healerをシーラに渡す。
「我らが、・・・信仰、せし癒しの神よ、その・・・神聖たる、奇跡を光とし、この・・・現世へ・・・、発現させたまへ。」
すごい躓きながらだけど、なんとか読み上げる。小豆サイズの聖なる光が、フヨフヨ浮いて、数秒で消える。
「ふぅ、・・・ほら!出せましたよ!魔力がゴリゴリ持ってかれるので、10秒が限界ですね!」
それじゃあ、お祈りの間出し続けることもできないじゃん・・・。それでヒーラー名乗っていいのかなぁ?How to healerを返してもらいながら、微妙な目を向ける。
「シーラ・・・。あなたを、エヴァちゃんの弟子と認めるわ!
弟子の弟子は私の弟子でもある!ヒーラーが二人も私の弟子になったわ!すごい快挙じゃない!?」
「師匠ーーッ!!」
ガシッ!
クレハとシーラが抱き着き合う。そんな光景を、タフティと二人で何とも言えない表情を浮かべながら眺めていた・・・。
勝手に私の弟子にしないでほしい・・・。