【8日目】クレハ視点 数日ぶりの帰還
私の名はクレハ。トナリノ町で治癒師をしていた者よ。
過去形なのは、ちょっと理由があって、トナリノ町からは離れていたからね。
でも、今日この日、私はついに帰ってきたの!トナリノ町の治癒師クレハ復活よ!
「おはよう、おばちゃん!怪我人が出たとかいう話はない?」
「あぁクレハちゃん、帰ってきたんだねぇ。怪我人が出たなんて話は聞いてないねぇ。」
・・・まぁこの狂暴なモンスターも出ない、平和な町で怪我する人の方がまれなんだけど。
あ、でも。私が聖なる光を出す役をやってあげてた、タフティなんて泣いて喜ぶんじゃないかしら?ていうか審査通らなくてもう潰れてるかな?まぁ、潰れてたら再興に協力してあげなくもないわ。もちろん、向こうが誠心誠意お願いしてきたらよっ!
丘の上の教会へと向かう、相変わらず変なところに立ってるわよね、あの教会。まぁ、場所がわかりやすいのはいいことだとは思うけど・・・。いちいち丘を昇り降りしなきゃいけないのがねぇ。
教会の扉をバーンと開ける。両手を広げ、高らかに宣言する
「私が帰ってきたわよ!!」
「あぁ、クレハじゃない。おかえり。」
・・・もっとこう。泣いて抱き着いてくるかと思ったのに・・・。ちょっとおもしろくない。
「なにその、ちょっと買い物行ってた人が帰ってきたくらいのテンション。何日ここをあけたと思ってるのよ!」
「いや、そこまで長くあいてないし。」
もう!私は心配してきてあげたのに!
「そんなに慌ててないってことは、もう潰れた後みたいね!私が帰ってきたからには安心しなさい!あなたがどうしてもって言うなら、再興に一役買ってあげてもいいのよ!」
「いや、潰れてないし、大丈夫よ?」
え、潰れてないの?
「・・・もしかして、火とか起こして、聖なる光と偽ったとか?よく騙せたわね。」
「・・・そんなこと考えてもいないわよ。あなたの代わりの修道士が手に入ったの。」
あ、今目をそらした。火で誤魔化そうとしてたんだ。いや、そんなことより、修道士!?この町に私みたいなヒーラーがいるだけで奇跡なのに?聖なる光を出すだけっていう、訳の分からない仕事を引き受けてくれたの!?いったい誰が?あと人間を「手に入った」なんて表現するんじゃないわよ!相変わらずね!
「こんな怪我人の一人もいない町にヒーラー?どこからさらってきたのよ?」
「失礼ね。さらってなんかいないわよ。本人の意思よ。」
本当にさらってないなら、ちゃんと目を合わせて言ってほしいんだけど。何か隠したいときは目をそらすのがタフティの癖だ。誘拐なら、さすがに知り合い相手でも通報モノなんだけど・・・本当に大丈夫よね?
「本当だって言うなら、本人に合わせて、話を聞かせなさいよ。」
「エヴァちゃんなら、そこにいるわよ?」
タフティはそう言うと、私の右後ろを指さす。・・・?
「わっ!ビックリした!」
端っこの長椅子で少女が腰かけて、本を読んでいた。頭のベレー帽と肩に掛けたショルダーバッグには十字が付いている、なるほどヒーラーだろう。
「いつからそこに!?ていうかあんたの話してんだから、話に入ってきなさいよ!」
そう言うと、タフティがエヴァと呼んでいた少女は若干体を引いた。いや、怒ってるわけじゃないのよ?その、えっと。
気の弱いタイプは私と相性が悪いのよね・・・。