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6日目 質問するなら、疑いようのない、閉じた質問でお願いします。


 現在の所持品

 How to healer 1冊

 祈りの言葉の小冊子 1冊

 冒険者カード 1枚

 パジャマ 1セット

 銀貨16枚 銅貨16枚

 紅茶の半分入った水筒 1つ

 ロボットサンドイッチ下 1つ


 朝、目を覚ます。


 ・・・・・・む~


 なんだか熱っぽい。


 体は熱いし、目がぐるぐるする。体を置いて、どこかへ旅に出られそうだ。これはまずい。


 お薬?薬局とかあるのかなぁ?あれ、そういえばヒーラーの仕事にお医者さんみたいなものがなかったっけ?


 這うようにして、カバンに入っているHow to healerを取りに行く。たしか病気を治すようなものはなかったと思うけど・・・。ヒールが効いたりしないかな?体の抵抗力を上げるだけでもうれしいんだけど。


 一番強いヒールのページを開く。


 『やぁ!皆!このページで紹介するのは、ヒールの中でも最難関で、最も効果が強いものだ!

  その名も、【癒しの神の口づけ】どうだい?名前聞くだけで効果が強そうだとわかるだろう?

  この奇跡を発現させれば、どんな怪我だってたちどころに治っちまうんだぁ!死んでさえいなければ、命の危機に瀕している重傷者も元気いっぱいに!手足の二三本くらいなら、完全に失っていても生えてくるぞ!

  おいおい、これさえあれば他のヒールなんていらないじゃないかって?もちろんデメリットもあるぞ!

  効果が強力な分、祝言も長いんだ!戦闘中に使うのは現実的ではないな。というか、必要魔力が多すぎて、発動できる人がほとんどいない!もし発動できたのなら伝説になれるぞ!!』


 手足はついてるし、伝説にもならなくていいから、風邪が治したい。書いてある祝言を読み上げる。


 (――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。)


 うん、魔力を半分くらい持ってかれるなぁ。まぁいっか、どうせいつも余らしてるし。


 対象を自分に選択して発動する。すると足元から、複雑な魔法陣が浮かび上がり、光を放つ。どこからともなく、ファンファーレが聞こえだし、空から、赤い宝石のついた白い杖を持ったお姉さんが、天井を貫通して私のところまで舞い降りてきた。ちょっと待って。他の奇跡みたいに、ちょっと光って終わりじゃないの!?


 お姉さんは私の元まで舞い降りると、私の頬にそっと、口づけをした。すごい、思ったより物理的に、女神の口づけだ。熱っぽく怠かった体は、嘘のように元気になる。そして、笑顔で手を振りながら、飛び立っていく女神さまに向けて。私の体は自然と、片膝をつくと、両手を合わせ握り、こう祈る。


 どうか、この現象が私にしか見えないものでありますように。


 ドンドンドン!


 「おぉーーいっ!なんかすげぇもの見たんだけど!嬢ちゃんなにかしたのか!?」


 扉をたたく音が聞こえる。この宿を中心に騒ぎがどんどん、広がっていく。


 私に出来ることは、ただただ、笑顔を作ることだけだった・・・。



―――――――――――――――――――――――


 朝のお祈りが終わると、タフティが質問攻めにあっていた。内容は今朝の現象について。タフティは知らぬ存ぜぬで通していたが、何となく私のせいだろうと感づいているのだろう。たまにこちらに向く視線が、「おい、何してくれとんねんワレ?」と言っている。


 「まぁ、エヴァちゃんに質問しても返ってこないだろうし。うち的には宣伝になったからいいんだけどね。何かするなら、説明できる範囲のものでお願いね?」


 人が散ると、タフティが話しかけてきた。私がやったと言うと、何をしたんだ?と返ってくるので、知らないことにしていたようだ。実際に女神様の姿を見た人々の中に、お祈りをしようという気になった人が何人かいたらしく、いつもこないような人が来ていたらしい。


 「じゃ、私は行くから。」


 そう言ってタフティは出ていく。いつも通り、いつもの席で、ロボットサンドイッチの朝食をとる。いつも同じサンドイッチに、飽きたか飽きてないかでいえば飽きたけど、無人販売所の魅力には敵うものはない。


 朝食を済ませると、いつも通り祝言の練習だ。一応、高難易度の物も練習はする気だが、今日の一件もあるので、出来る限り使わないように気を付けよう。


 そろそろ、無人販売所に行こうかな、そう思い始めたころ。


 コンコンコン


 教会の扉が叩かれる。・・・タフティならいませんよー?


 「・・・?失礼するぞ?」


 一人の青年が入ってきた。一直線に私のところへ向かってくる。


 「人の気配がするのに返事がないので、入ってしまったが・・・。まずかったか?」


 私の気配を察するとはやりおる。いや、別に気配を消して生きてるつもりはないんだけど・・・。

 いつも、「いたんだ!?」見たいな反応が多いのに、教会外から気づくのはすごいと思う。

 とりあえず、人が入ってまずいことはないので、首を横に振る。


 「そうか、よかった。僕は勇者。君がシスタータフティかい?

  ・・・そうか。この町には人探しに来たんだ。見たところ、君はヒーラーのようだけど。超高速で祝言を唱える、凄腕のヒーラーというのは、君のことだったりしないかな?」


 他のヒーラーにあったことないから、祝言を読む早さなんて分からないや。少なくとも、一度クエストについて行ったことがあるだけの私が、凄腕と噂されることはないだろう。首を横に振る。


 「そうか。なにか心当たりはないかな?・・・そうか。ありがとう、時間をとらしてすまなかったね。

  僕はしばらくこの町で探しているから。もしそれらしき人物を見つけたら。勇者が探していたと伝えてくれると助かる。」

 

 そう言うと、勇者君は教会を出ていく。勇者って自分で名乗るものなんだなぁ。そう思いながら見送ると、勇者君のいた足元に何かある。


 忘れ物?何か持ってたっけ?そう思いながら、聖なる光を出して照らすと、小さな一匹のウサギだった。


 ・・・なぜウサギがこんなところに?


 ウサギはピョンッ!と長椅子に飛び乗ると、私をじっと見つめる。


 ・・・撫でていいかな?ちょっとくらい、いいよね?


 そっと、手を伸ばすと、ウサギは特に逃げるようなこともなく、私の手を受け入れる。目を細め、気持ちよさそうに撫でられている。なんなら、自分で体を擦りつけてくる「もっと撫でて。」と言わんばかりの態度だ。


 「君は、撫でるのが上手だね。」「・・・かわいい。」


 ・・・。二人が同時に声を出し、沈黙する。驚いた顔で見つめ合う。


 「「喋れるの!?」」


 いや、私は人間なんだから喋れるよ。え?声を出したの久しぶりだけど、喋れるよ?


 「なんで、勇者君相手の時は、喋らなかったの?」

 

 なんで、と聞かれると困る。喋りたくないから?でもあの人が特別嫌いなわけでもないしなぁ。


 「困ったような顔だねぇ。質問を変えようか。この町にそう何人もヒーラーがいるとは思えないんだけど、君はどれくらいの奇跡が使えるヒーラーなの?」


 どれくらいって聞かれるとこれも困る。ちょうど今朝の女神の口づけで魔力の半分くらい使ったから、女神の口づけ2回分くらいって答えればいいのかな?でもちょうど半分じゃないし、半分より少し少ないくらいだし。


 「うーん。自分の意見を伝えるのが苦手なタイプなのかな?じゃあ、答えやすい質問にしよう。今朝早く、僕と勇者君はこの町に着いたんだけど。その直後、女神の口づけを見たんだ。それでここに探し人はいると確信したんだけど・・・。それは君がやったのかい?」


 あ、それは私。あ、いや、でも・・・。


 「いや、この質問は悩む必要はないだろう?」

 「・・・他の人も発現させてて、それを見たのかもしれないし・・・。」

 「他の人”も”か。なるほど。ちなみに、興奮してた勇者君が言っていたんだけど、女神の口づけの発動が、最後に確認されたのは540年前だそうだよ。」


 540年前!?あ、でもこの世界の暦は私の知ってるのと違うんだよね。どんな暦だったか覚えてないし、どれくらいか分からないや。


 「僕的にはほぼ確定だし、違っても何の問題もない、凄腕ヒーラーなんだけど。一応、超高速の祝言というのが気になるなぁ。良かったら、この教会包むくらいのAoE(広範囲)ヒール使ってみてくれない?」

 「・・・いいけど。」


 それくらいなら、魔力的にも大して問題はない。


 (―――――――。)


 教会全体がちょっと光る。効果としてはこれくらいだ。怪我人もなにもいないからね。


 「・・・・・・・。」


 ウサギさんはポカーンとした顔をしている。それはそれで可愛い。

 すぐにドタバタと足音が聞こえてきて。教会の扉が開かれる。


 「今のヒールは!?」


 勇者君が戻ってきた。若干興奮気味だ。


 「女神の口づけが使用できる魔力量に、AoEヒールを唱えるのに2秒たらず・・・。勇者君、間違いなくこの人が探し人だよ。」

 「この人が・・・。名前を聞いても?」


 ウサギの名前を聞いてるんじゃないよね?知り合いっぽいもんね。ショルダーバッグを突き出す。


 「エヴァ君というんだね。エヴァ君、僕は一緒に冒険してくれる、仲間を探しているんだ。」


 勇者君は私に向かって、手を差し出してきた。


 その日、伝説の勇者と、大きな力を持つヒーラーが出会い。


 「エヴァ君。僕と、チームを組んではくれないだろうか。」


 そして。


 「そうか。嫌か。いや、うん。無理強いは出来ないよ。うん。」


 別れた。


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