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【4日~5日目】アイティ視点 生ける伝説


 俺の名はアイティ。チーム安全第一のリーダーだ。


 エヴァさんと出会い、冒険したあの日。突如姿を消したエヴァさんを探し回ったのだが、ついに見つけることは出来なかった。


 知り合いの冒険者や、顔なじみの店員などにも聞いてみたが、出てきた情報は、新しい修道士がすごいらしい、ということくらい。あれだけの力があって、わざわざ修道士なんてしないだろう。俺たちが探しているのは冒険者だ。


 そして一日中トナリノ町を探し回った結果。俺たちはある結論に行きつく。


 そもそも、すでにトナリノ町を出たのではないだろうか。


 トナリノ町には、あまり強いモンスターが出ない。前回の麻痺持ちのウルフは、かなり特殊な例だ。そんな平和な町に、あれだけの冒険者がいること自体おかしい。この町でやってきた俺たちが、あの日初めて会ったのもおかしな話だ。


 では、なぜ俺たちがこの町を探し回っていたか。それはエヴァさんがこの町のギルドで、カードを作ったからだ。


 カードを複数枚持つ意味は無いだろう。つまり、エヴァさんはこの町で冒険者となったのだ。これは別に珍しい話ではない。強いモンスターのいない町だからこそ、入門編として、この町から始める人はいる。


 そういう、慎重な人は。何度か簡単なクエストをこなし、ある程度慣れてから、他の町へと旅立つものだ。だからこそ、この町にいると思っていた。


 しかし、エヴァさんの初めてのクエストは、かなりの大物となってしまった。入門編として、役割を果たせないと判断し、出て行ってしまったとしてもおかしくはない。


 「この町を出て、エヴァさんを探しに行こうと思う。」


 チーム安全第一は、ずっとこの町でやってきた。俺たちにとっては、初めての、町の外だ。安全を第一に考え、この危険の少ない町で、冒険者としてクエストをこなす。チームの考えに背く決断だ。・・・いや、仲間を巻き込むことはない。俺がエヴァさんを連れ帰るのを、この町で待ってもらおう。


 「お前らには、町で待っていてもらいたい。」

 「何言ってるのリーダー。一人より二人の方が安全。でしょ?」

 「二人よりも三人の方が安全。だろ?」

 「トューサ・・・。ヴァティ・・・。」


 俺は何を迷っていたんだ。


 「よし!これより、安全第一は、よりよい安全のために、4人目のメンバーを探しに行く!

  初めて出る町の外だ!準備は怠らぬように!忘れ物がないかちゃんと確認するように!」

 「「おーっ!!」」


 こうして、俺たちは、ここらで一番大きな国。オオキナ王国に向かうのであった。



―――――――――――――――――――――――


 「でかいな・・・。」


 トナリノ町はあまり大きな町ではない、ということは聞いていたが、それでも周辺の村から人が集まる、一つの町ではあったはずだ。しかし、初めて見る王国は、比べ物にならないほど大きい。大きくそびえたつ城に、広大な城下町は、全容が見えてこない。


 「えー・・・頑張るぞー。」

 「「お、おー・・・。」」


 こんな広いところで、土地勘もなく、人探しなんて出来るんだろうか?そんな疑問を持ちながらも、俺たちはエヴァさんを探し始めた。


 とりあえず冒険者ギルドに向かったが、そこで話を聞く限り、この国だけでギルドが3つあるらしい。とりあえず、3人で手分けして、各ギルドを中心として、探すことにした。


 「夜になったら、あそこの酒場で集合しよう。」


 集合場所だけ決めると、じゃんけんで、どのギルドを担当するかを決める。どう考えても目の前のこのギルドが移動距離が短くて済む。俺はじゃんけんに負けると、まだ見ぬギルドに旅立ったのだった。



―――――――――――――――――――――――


 「なにか情報はあったか?」

 「何もないな・・・。」

 「私なんて、夢見がちな新米冒険者だと思われちゃったよ。」


 そう、エヴァさんの特徴を挙げれば、挙げるだけ。そんな奴いるわけないだろ、って顔をされる。


 「聞こえないような小声で、広範囲の麻痺治療と麻痺耐性を数秒で暗唱しきる。計3人にバフをかけ続け、少しの怪我も異常状態もすぐ気づき、治してくれる。」


 うん、自分で言っててそんなわけないだろ、って言いたくなる。僕の考えた理想のヒーラーって感じだ。まぁ誰も信じないだろうなぁ。


 しかし、そんな話を信じる奴が現れた。


 「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないかな?」


 トューサとヴァティが口をあんぐりと開けて、俺の後ろを見ている。何かと思って振り返る・・・。


 「勇者・・・さん?」

 「ん?僕のことを知ってるのかい?隣、良いかな?」


 口を開いたまま、ただただ頷く。すげぇ、王国ともなると、こんな人とも出会えるんだ。


 伝説の勇者。数多の名のあるモンスターを、たった一人で討伐してきた男。負けなし、敵なし、怪我もなし。誰よりも強い敵と戦っているのに、傷一つ負っているのを見たことがない、という噂の、まさに生ける伝説。


 「自己紹介をさせてくれ、俺は勇者。こっちは使い魔のユン。」


 そう言って足元にいたウサギを持ち上げる。使い魔がいるとは知らなかった。


 「お会いできて幸栄です。勇者さん。」

 「敬語はやめてくれよ、年も近そうだし、仲よくしよう。」


 つい敬語になってしまった。なんかこう、オーラが違う。


 「それより、今の話をもっと詳しく聞かせてくれないかな?」


 俺たちはエヴァさんの話をした。勇者さんは、特に疑うことも、笑うこともせず、真面目に聞いてくれる。


 「トナリノ町かぁ、まだ、行ったことなかったなぁ。」

 

 それはそうだろう。強いモンスターが少ないこと以外、特に特色のない町だ。強者が好んで行くところではない。


 「どうも、ありがとう。僕も探してみることにするよ。どっちが先に見つけるか、競争しよう。」


 そう言って、勇者さんは酒場を出ていく。勇者さんならエヴァさんとお似合いかもしれない。そんなことを思うあたり、すでに心では負けている気がする。


 「「リーダー・・・。」」


 二人が心配そうにこちらを見つめている。いや、勇者さんは競争しようと言ったんだ。


 「俺たちも探そう!自分たちの安全のためなら、勇者さんにだって勝って見せる!そうだろう?」

 「「リーダー!!」」


 二人の顔が喜色に満ちる。そうだ、俺は安全のためなら土下座でも何でもする、そう決めたんだ!まだ夜は長い、会計を済ませて、探しに行こうとする。


 「お会計は、すでに勇者様よりいただいております。」


 ・・・いつの間に。

 

 「「リーダー・・・。」」


 なんか、すでにぼろ負けな気がする。


 これが、勇者の実力だというのか・・・。


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