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【5日目】ヴァーン視点 胃が痛い仕事


 私は審問官のヴァーン。


 各教会で、正しくお祈りがされているか。神の教えに違反したことをしていないかを調べるのが私の仕事だ。

 今日は頭の痛くなりそうな仕事を片付けに来た。


 場所は、トナリノ町。あまり強いモンスターの出ない、平和な町として有名だ。だからこそ冒険者が集まらず、冒険者向けの産業も発達せず、数ある町の中でも、あまり栄えていないという話もあるが。


 今回の問題は町ではない。そこにある教会の主。シスタータフティ。聖なる光も出せないのに、修道士をやっている唯一の存在だ。


 彼女はいつもシスターと名乗るので、聖なる光を出さずお祈りをする彼女特有の職業だと思っている人も多いが、シスターとは女性の修道士を呼ぶ別名で修道士と変わらない。普通は聖なる光を出した本人が祈りの言葉の先導をするのだ。


 彼女になぜ、そんなイレギュラーが許されたのか。それはただただ、彼女の戦闘能力が異常に高かったことに他ならない。


 ある日、癒しの神を祭る総本山に乗り込んできた彼女は、声高らかに訴えた。


 曰く、なぜ聖なる光が出せなければ、修道士になれないのか。

 曰く、祈る気持ちがあれば、適性など関係ないのではないか。

 曰く、祈りに来る人達のほとんどが適性などない、日々の祈りは無意味だというのか。


 筋が通っているようで、無茶苦茶な理論だ。聖なる光が出せなければ何に祈るというのだろうか。そもそもお祈りの先導に、そこまで特別な意味は無い。そう儲かるような仕事でもないので、ほかにやることもない、少しの適性がある人間がやってきたのだ。わざわざ別人に頼むようなことでもない。


 総本山には、私をリーダーとした審問官のチームがある。各教会が教えに背いていないか、正しくお祈りが行われているかの確認。そしてこの件のように、荒事で事を解決するしかない場合に、私たちに仕事が回ってくる。


 合計8人のチームで、その日は全員総本山に集まっていた。全員が全員、荒事をする前提で組まれたメンバーなので、戦う力は申し分ない。名の知れた冒険者にも引けはとらぬだろう。


 しかし、結果は惨敗。8対1にもかかわらず、彼女には傷一付けることは出来なかった。


 結果、彼女は修道士の一人として認められ。いままでトナリノ町のシスターとしてお祈り先導してきた。


 私の知っている限り、トナリノ町に在住していた、治癒師のクラハに聖なる光を出す役をお願いし、町の2~3割ほどの信仰者を集めていたはずだ。


 しかし、最近ある噂が、総本山の耳に入ることになる。

 トナリノ町の教会では、天使が舞い降り。その天使に向かってお祈りをするのだと。


 聖なる光以外に、お祈りすることは認められていない。治癒師のクラハを他の町で見た、という噂も同時期に入ってきており、タフティが聖なる光以外を信仰の対象としているのではないか、という疑惑が持ち上がった。


 調査のために、審問官を派遣することになったのだが、私以外の全員が、タフティに対し若干のトラウマを抱えており、全力で行くのを拒んだ。結果リーダーたる私が直々に行くこととなったのだ。私とてタフティには会いたくないのだが・・・。


 「少し遅れてしまったか。」


 朝一番の馬車で向かったのだが、私がトナリノ町に付いたのは、お祈りの時間から少し遅れたころだった。


 教会へと向かうが、すでに祈りを終え、町に帰っていく人たちとすれ違う。なにやら、ダンディーな男がこちらに熱視線を送っている気がするが、気のせいだということにする。


 「じゃあ、行ってくるからねー?」


 教会からタフティが出てきた。長い金髪に整った容姿。言葉遣いと態度だけ、何とかなれば美少女の部類に入るのだろう。


 「うげっ!ヴァーンだ!」

 「うげっとはご挨拶だな、シスタータフティ。人に会ったらこんにちは。だ。」

 「さようならー。」

 「待て、話を聞きに来たのだ。時間を作ってもらいたい。」

 「えぇっ!ちょっと待ってよ、今からこの窃盗の罪を自白した男を連行しなきゃいけないんだから。」

 「・・・君は教会で一体何をしているんだ?」

 「これに関しては、私のせいじゃないわよ!!」


 なぜ教会で、罪の自白が行われるのか。警察で行うべきだろう。しかし、実際に犯罪者なら、ほかっておけ、とも言えない。


 「教会の中で待たせてもらってもいいか?」

 「あぁ、いいわよ?茶でもしばいてて?」

 「教会内は飲食禁止だろう・・・。」


 相変わらず無茶苦茶のようだ。ろくに掃除もせず、クモの巣だらけでないことを祈りながら、教会に入る。


 中は綺麗に保たれていた。物音一つしない構内は、荘厳な空気に包まれている。うむ、教会自体に問題はなさそうだな。長椅子の一つを借りようと見渡す。


 「うおっ。」


 ビックリした、誰もいないと思ったら、端っこの長椅子に一人腰掛けていた。


 長い黒髪に低い背、白い服にベレー帽とショルダーバッグにあしらわれた十字。私の声に驚いたのかビクッ!と反応していた。


 「驚かしたならすまない。君はこの教会で修道士をしているのか?」


 少女が頷く。修道士の確保できなかったタフティが、何かで代用しているのかと思ったいたのだが・・・。修道士自体はいるらしい。


 「名前を聞いても?」


 少女がショルダーバッグをこちらに突き出してくる。エヴァ君と言うらしい。しかしなぜ喋らない?


 「エヴァ君は喋ることができないのかい?」


 エヴァ君は首を横に振った。喋ることは出来るのか。


 「声を出さない理由があるのかい?」


 エヴァ君は首を横に振った。理由はないらしい。


 「では、なぜ喋らない?」


 エヴァ君は困った表情を見せ、体を引く。答えられないことでもあるのだろうか?

 そういえば私は良く顔が怖いと言われる。私が怖いのかもしれない。


 「なるほど、私とは会話したくない、ということか?」


 エヴァ君は困った顔を強くし、少し泣きそうな顔になりながら、強く、首を横に振る。私が怖いからではないのか?


 「では、なぜ話さない?話さなければ、分からないこともあるだろう。」


 エヴァ君は半泣きで、少しでも私から距離を置こうと、体を反らす。うむぅ、怖がらせるつもりはなかったのだが。


 教会の外から人の気配がした。そちらに向こうと思ったら腹部に鋭い痛みが走る。


 「クォラァ!!」


 タフティが、私の腹部に見事なドロップキックをかました。吹っ飛ばされ。倒れているところを踏まれる。


 「なぁに、エヴァちゃんいじめてんのよ!!」

 「いや、いじめたつもりはないのだが。」

 「いじめはいじめられた方がいじめと思ったらいじめなんですぅ!」

 「では、ガシガシと私を足蹴にしているのも、いじめなのではないか?」

 「私のは愛の鞭よ!」

 「君は、数秒前の自分の発言を、思い出したまえ。」


 これだから、ここには来たくなかったのだ。


 「いいから、エヴァちゃんに謝りなさい!」


 嫌な思いをさせたのなら、本望ではない。謝るのはやぶさかではないな。タフティの蹴りを、腕で防ぎながら立ち上がる。さっきまでのところに・・・いない。


 「どこに行ったんだ?」

 「はぁ!?何逃がしてんのよ!!私が初めて会ったときは、嫌がっても絶対に手を離さなかったわよ!?」

 「いや、君に蹴り飛ばされていたんだが。というか、嫌がったのなら放してやりなさい。」


 私を蹴る力が強くなる。


 「いいから!なんとか見つけて、土下座でもなんでもして連れてきなさい!この町の、猫かぶった私とエヴァちゃんの人気なめんじゃないわよ?エヴァちゃん泣かせたなんて、私が言いふらしたら、町の半数以上を敵に回すと思いなさい!」

 「それは困るな。」


 教会から出てきた人数を考えると、あながち嘘でもなさそうだ。総本山のイメージを悪くするのは良くない。いや、それ以前に・・・。


 「取り戻せなかったら、元気に帰れるなんて思わないことね。」

 「町の人たちより、君一人を敵に回すことの方が怖いことを思い出したよ。」


 何としても、エヴァ君には戻ってもらわねば。


 「しかし、会話が通じないのだ。また私が話しかけても逃げられるのではないか?」

 「そうねぇ、じゃあ手紙でも書いていきなさいよ。」

 「ふむ、あとは手紙を渡す方法だな。」

 「怖くないアピールすればいいのよ。一発ギャグで心をつかんで、手紙を渡す。完璧じゃない?」

 「私に人を笑わせる才能などないが。」

 「私が伝授してあげるわ。大船に乗ったつもりで任せなさい!」

 

 なぜか一発ギャグをすることになった。真面目な話をしていたつもりなんだが・・・。


 「君、楽しんでないか?」

 「そんなことないわよぉ。神に誓って真剣よ。」

 「君の神への誓いほど安っぽい物もないな。」


 謝罪の手紙を書き、一発ギャグのレクチャーを受けると、エヴァ君を探しに教会を出る。そもそも見つからなければ話にならない。


 「エヴァちゃん探すなら、人通りの少ないところを探すのよー。」


 ・・・ふつう逆じゃないのか?


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