4日目 修学旅行の話は地雷。
現在の所持品
How to healer 1冊
祈りの言葉の小冊子 1冊
パジャマ 1セット
銀貨3枚
紅茶の半分入った水筒 1つ
ロボットサンドイッチ下 1つ
「あら?エヴァちゃん、どうしたの?」
朝、昨日と同じような時間に教会に来たのに、誰も来ていなければタフティも猫を被っていなかった。
「あぁ、教会は好きに使っていいわよ?今日は誰も来ないし、エヴァちゃんにはいい空間かもね。」
誰も来ないの?お祈りは?両手を合わせてお祈りのポーズをとりながら首をかしげる。
「お祈り?今日は炎の日だからお休みよ?・・・知らなかったの?
え、ごめん。知ってるものだとばかり。」
炎の日とやらだとお休みなんだ。ちょっと待ってその周期によっては私生活していけなくなるんだけど。
「でもどんな田舎育ちでもだいたい知ってるわよね・・・。もしかしてエヴァちゃん、ドリーマー?」
ドリーマーってハジマリノ村のお兄さんが言ってた、この世に突然現れる、前世の記憶がある人間だっけ?大体あってる気がする。
「そっかぁ、それは失念してたなぁ。そういえばエヴァちゃんの声聞いたことないもんね。」
声?声で判別がつくの?でも今はそのことより、炎の日とやらの周期が知りたいから説明してくれないかなぁ?じっと見つめたのが効いたのか効いてないのか、詳しく話してくれた。
「えーっと。この世界は炎、水、樹、土の4つの日で一週間として、三週間で一月、8か月で1年ね。今日は7月の9日炎の日。」
なんか全体的に短いんだなぁ、4×3×8で・・・96日で一年が過ぎるのか。慣れるまで大変そう。
「そんで神話の一説に、癒しの神様と炎の神様はすごく仲が良かったんだけど、ある日喧嘩しちゃったとかなんとか言う話があって。炎の日には癒しの神様へのお祈りはしないことになってるの。あ、今私ちょっとシスターっぽくなかった?」
タフティが嬉しそうにそう言った。最後のがなければそれっぽかったのに・・・。
それはともかく4日に一度収入が無い日があるわけか。お祈りのある日の収入が銀貨2枚で。一日に必要なお金が銀貨1枚と銅貨12枚・・・。足りないね。
最低限のお金くらいは持っておきたいし、早めに何か収入源を探さねば。タフティに頭を下げると、教会で朝食を済ませ、仕事を探して街に繰り出す
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仕事ってどうやったら見つかるの?
お祈りはタフティに無理やりって感じだったからなぁ。ていうかそもそも私に出来るお仕事ってほとんどない気がする。力もないし、コミュニケーション能力が絶望的だからなぁ。
そういえばそもそもこの町に来たのも教会を求めてだっけ。そうだ私はヒーラーだった。ヒーラーの仕事を探せばいいんだ。修道士が今やってるやつで、あとは治癒師と冒険者?
治癒師は人との会話が多そうなので却下で。冒険者って私にもできそうなこと、あるかなぁ?実は冒険者に関係ありそうな建物はもう見つけてある。ひときわ大きく、目立つ木製の建物。看板には【冒険者ギルド】の文字。
これって入っていいのかな?お店屋さんなら入っただけで怒られることはないだろうけど。ちょっと冒険者ギルドに入ったことはない。どんなものかも想像がつかない。私はいつも通り、逃げる準備だけして。眉をひそめ、ショルダーバッグのベルトを握りこむと扉を開けた。
カランコロン
ドアの鈴が鳴る。中は広く、カウンターや、紙がいくつも張ってある大きなコルクボードがある。・・・どうしよう?
「あ、見ない顔ですね。こちらで受付をお願いします。」
カウンターにいたお姉さんが話しかけてきてくれた。ひょこひょこそちらへ向かう。
「冒険者カードはお持ちでしょうか?そうですか、ではこちらの契約内容をお読みの上、必要事項のご記入をお願いします。」
鉛筆と紙を渡される。横に避けて書けるところは書いていく。名前と性別、職業はヒーラーでいいのかな?・・・あとは書けそうなところがない。恐る恐るお姉さんに提出してみる。
「はい、エヴァ様ですね。すぐ冒険者カードをお作り致しますので、少々お待ちください。」
住所とかすっ飛ばしたけど特に問題なかったようだ。頷くと、近くにあった椅子に腰かける。すると少し遠くから男性の怒鳴り声が響いてきた。少し身構えてしまったが、私とは関係なさそうだ。若いお兄さんとおじいさんが口論になっている様子だ。
「ダメだ!俺たちはそんな危険を冒すようなことはしないんだ!!」
「うむ、君たちのことはよく知っておるし、尊重もしたいと思っておる。しかし今回ばかりはなんとかやってもらえないだろうか?必要ならば、ほかの冒険者にも召集をかけよう。」
「近距離は俺らのタッグの邪魔になる。それに連携のうまくとれない味方の遠距離攻撃なんて、ない方が安全だ!」
「そうじゃな・・・。しかし、こちらも他に手が無いのだ。冒険者の規約には市民を守らなければならないとある、悪いが冒険者ギルドの管理人として、命令とさせてもらう。」
若い男の方がやるせない感じで首を振る。そして、こちらを向きそうなのを、長年の直感で感じ取り、目をそらす。目を合わせないのは成功したと思うのだが、こちらに近づいてくる気配がある。なんで?なんでくるの?
「君。もしかしなくても君はヒーラーだよね?」
完全に私に話しかけてきている。周りにほかの人いないし。恐る恐る相手の方を見て、頷く。
「俺はチーム【安全第一】のリーダー、アイティ。よろしく頼む。」
チーム名ってもっとこう、かっこいい名前付けるものじゃないの?工場の現場方針みたいになっちゃってるよ?
「いつもはチームメンバーの3人で活動しているんだが、今回受けたクエストが少し難易度が高いんだ。もし良かったら、一緒に戦ってくれないだろうか?」
待って待って待って。え?ただでさえチームなんて組みたくないのに、3人パーティーに突っ込まれようとしてるの?3人仲良しの中、私一人って地獄じゃん!地獄見る奴じゃん!中学時代の私の修学旅行かっ!
全力で首を横に振る。
「そうか、それは悪いことをしたね。」
本当に申し訳なさそうな顔でそういうアイティ。別に誘ったくらいでそんなに気にしないでも・・・。
「僕が声をかけてしまったことによって、君にも命令がかかると思う。本当にごめん。」
チラッとさっき口論が行われていた方を向くと、口論相手だったおじいさんが、良い笑顔で手招きをしていた。
・・・見なかったことにして出口に向かう。出口の前には、出来立てほやほやの、私のカードを持った受付のお姉さんが、これまた良い笑顔で待ち構えていた。
「冒険者である以上、契約違反でない限り、ギルド長からの命令は受けないといけないんだ。」
若干疲れた顔をしたアイティが教えてくれる。私、ああいうお読みください、ってやついつも全然読まないんだよねぇ。ちゃんと読まないとダメだねぇ。
本当に怖いのはモンスターなどではなく人間だ。そう思った。