表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語は「ヒーローアクションです」「ラブロマンスです!」  作者: Cさん
一章は「苦悩の物語」「恋の物語です!」
8/36

ロンギング・コスチューム

悪魔は微笑んだ

 昼休みが終わりに近づくと早乙女さんは「次移動教室なので失礼します!」と言って一足先に帰っていった。真面目だ。


「沙八ちゃん可愛かったなあ、LIMEも交換しちゃった〜」


 智は楽しそうにニコニコしているが、何かを企んでいる風ではなかった。あの時の恐ろしい笑みは見間違いだったのか、早乙女さんに毒気を抜かれたか、いずれにせよ何事もなくて安心する。

 俺たちもそろそろ戻ろうかと、二人を抱えて飛び降りる。白が吐きそうになっているが、無視しておいた。


「盾一、今度の土日は暇?」

「ん? あー、日曜なら開いてるな」


 教室に戻る最中、智がそんなことを聞いてきた。


「じゃあ日曜は三人で映画を観に行こうよ」

「いいけど、珍しいな、智がそんな風に誘うなんて」

「バド部の先輩に前売り券貰ってね。感想聞かせてって言われてるんだよ。白もどうせ暇でしょ?」

「おう、タダなら行くぜ」


 しかし智の交友関係の広さには驚かされる。まさか先輩にまで好かれているとは。先輩なんて誰一人として名前すら知らないぞ。やはり部活をしていると自然にそうなるものなのか……。


「智、お前良い先輩持ってんな……」

「ありがとう、でも盾一には可愛い後輩がいるでしょ。盾一が良い先輩になってあげるんだよ」


 難しいことを仰るな。そりゃあなれるものならなりたいけれど、俺は早乙女さんに振り回されてばかりだ。


「あ、良い先輩より、良い彼氏になってあげた方があの子は喜びそうだね! あははは!」

「聞こえないな」


 午後の授業二分前を知らせるチャイムが鳴り、智が白に「先に教室着いたら百円」と言って二人は猛スピードで走り出した。こら、廊下は走らない。


 ○


 午後の授業が終わり帰宅の時刻となり、白と智は俺を置いて体育館に向かってしまった。白は百円でバド部の手伝いをさせられるらしい。よくやるな。

 そんなわけで、俺は一人校門の前で立っていた。今日はヒーロー活動の日、早乙女さんの新人教育も兼ねたいから一緒に行こうかとLIMEで誘ったのだ。コスチュームも改良されたのが届いてるだろうし。

 早乙女さんからの返信は『放課後デートと参りましょう!』だった。もう少し緊張感がほしいのだけど。


「……ぁぁぁああああダーリーーーン!!!」


 昇降口から一直線に、赤い四本の触手をフル稼働させながら、早乙女さんがやってきた。何かトンデモないことを叫んでいた気がする……まずい、辺りが騒がしくなってきた……!


「早乙女さん、妙なことを口走るのはやめようか。ザワザワし始めてるんだよ」

「いやー私たちの関係が周知の事実になればいいな、と」

「先輩後輩ね」

「夫婦です」


 違うよ。

 ずっとこの調子なら早くここを離れた方が良さそうだ。騒ぎが治まる様子がない。

 ちょっと本気めで走って、事務所へ向かう。(ヴィラン)もいないのに何故こんな異能を使っているのか……。


「お、お疲れ様です……ふぅ」

「ナンダ、疲レテルノハオ前ジャナイカ、エクシード」

「ああミラーファントムさん、お久しぶりです」


 事務所では、所長の札が立った机に座ったミラーファントムさんが出迎えてくれた。異能の影響で西洋の鎧みたいな顔だが彼も日本生まれである。


「フリーショットさんはどちらに」

「アイツハ他ノ事務所ノヒーロー達トノ定例会議ニ向カッタ。……エクシード、後ロノソレハ何ダ?」

「え?」


 にゅるりとうねる四本の触手が、こちらを指していた。早乙女さん、追い付いたん


「逃がしませんよ……せんぱぁい」

「ひっ……」


 もうこれ(ヴィラン)だよ。ストーカー(ヴィラン)サオトメだよ。

 畜生、サオトメがジリジリと距離を詰めてくる、くそっ、逃げ場がない……!


「オオ、オ前ガクトゥルーカ。俺ハミラーファントム、宜シクナ」

「……おや? もう事務所でしたか。こちらこそ宜しくお願いします、ミラーファントム」


 ふう、ミラーファントムさんに助けられた。というか今まで意識無かったの? 俺は君が怖いよ。

 額の汗を拭いつつ、俺は早乙女さんへコスチュームに着替えるように言って、俺自身もコスチュームに着替える為更衣室に入った。

 指定のロッカーを開けて見慣れたコスチュームを着る、普段ならそれだけだが、今日くらい、早乙女さんのデビューの日くらいは細かい汚れも拭き取って――


「先輩まだですかー? 早くしないと入っちゃいますよー。10……9……8……」

「オッケー今行く待ってなさい」


 こっちの気持ちも考えてくれよ……。まあ逸る気持ちもよく分かる。ストーカー気質な部分もあるとはいえ彼女だってヒーローなんだから。


「うわぁ! エクシードだ! 先輩がエクシードになってる! なんで!?」

「クトゥルー、落ち着きなさい」


 更衣室を出るとコスチュームを纏った早乙女さん、クトゥルーが目をキラキラさせながら飛び付いてきた。タイツのパツパツ具合も改良され、もう恥ずかしがる様子はない。少し残念。

 クトゥルーのコスチュームを見てると、自分のものが些か地味過ぎるように思えた。迷彩服に胸当て、グローブ、ヘルメット。ヘルメットのシールドが黄色いのみで、それ以外は青一色だ。つまらない。


「わあ、憧れのエクシードが目の前にいますよ! 見てますか先輩!」

「どっちも俺だよ」


 ……憧れてくれるというのなら、それでもいいか。

アイエエエ!? エクシード!? エクシードナンデ!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ