第1話 鈴木 美麗
CAST
岩本 有紗…高校2年生、美麗の親友。
美麗の自殺動機を探す。
(いわもと ありさ)
鈴木 美麗…高校2年生、有紗の親友。
夏休み目前に自殺した。
(すずき みれい)
関谷 栞 …高校2年生、美麗の友達。
(せきや しおり)
平川 直幸…高校2年生、美麗が好き。
(ひらかわ なおゆき)
多部 侑斗…高校2年生、美麗片思いの相手。
(たべ ゆうと)
臼井 瑞樹…高校2年生、有紗の友人。
(うすい みずき)
*この物語はフィクションです。
実際に存在する人物、団体等は一切関係ありません。
有名なクラッシックのBGMが流れる店内 のカフェスペース。
私、岩本有紗はそこで昼食を取っていた。
ハム、レタス、チーズが挟まった、オーソドックスなサンドイッチをかじりながら、その美味しさに舌鼓を打つ。
下校途中にあるこのパン屋は、高校に入学してからずっと通っている、私のお気に入りだった。
今日はテスト期間のおかげで、午前中で学校が終わった。
パンを買うと、店内で食べるときは珈琲や紅茶をオマケで付けてもらえる。
全て食べ終わり、紅茶を飲みながら苦手な英語を勉強するため、単語帳を開いた。すると…
ヴーッ、ヴーッ…
机に置いたスマフォが震える。
画面には母と表示されていた。
店内を見回すと、2人の老夫婦が食事をしている。
「もしもし。」
「もしもし⁉︎有紗っ、大変なのっ!」
囁き声で電話に出ると、反して母は慌てたような声で話し出した。
「なに?そんなに慌てて…。」
「美麗ちゃんが!」
「美麗?」
美麗、鈴木 美麗…
私の幼稚園時代からの幼馴染で、親友の女の子だ。
幼稚園、小学校、中学校まで一緒で、高校は別な学校になった。
その美麗が、どうしたと言うのだろう。
「美麗がどうしたの?」
「有紗、いい?落ち着いて聞いて?」
「お母さんこそ落ち着きなよ。」
じれったくなって、周りの目を気にせず少し大きな声を出してしまう。
しかし、老夫婦はこちらを気にせず談笑していた。
そのことにホッとしながら、話を続ける。
「で、美麗がどうしたの?」
「…あのね、美麗ちゃんが…」
ふぅ…と、ため息を一つ付き、気持ちを落ち着かせた様子の母は真剣な声色で話し出した。
「美麗ちゃんが…亡くなったのー。」
一瞬、周りのすべての音が聞こえなくなった。
視界が白くチカチカと点滅し、頭になにか重い物が乗ったようなズシリとした感覚にも襲われた。
スマフォ越しに聞こえる母の声も酷く遠くから聞こえる気がする。
人は、本当に衝撃やショックを受けた時、頭を鈍器で殴られたような感覚になるんだ…と、生まれてから17年目で、初めて知った。
***
葬儀の日…
美麗の高校の制服の人達の中に混じって、他の高校の人達も、4、5人くらいづつ固まって来ていた。
見かけた限りで4校くらいの制服を見かけた。
その人達は中学の時に見たことがある人ばかりだったから、中学の時の美麗の友達や、元部活仲間だろう。
そんな中、1人だけ違う制服でいる私は、少し浮いていた。
美麗は、明るくていつも笑っている子だった。
周りをよく見ているところがあるから、面倒見もよくて、後輩にも慕われていた。
友達ももちろんたくさんいて、とにかく、私とは正反対だった。
幼少から中学までの私は、人見知りが激しく、無口であまり愛想がいいとは言えなかった私は、友達と呼べる存在は片手で数えられるくらいしかいなかった。
つまらない子だっただろう。
だけど美麗は、面倒見のいい性格からか、私とずっと一緒にいてくれた。
美麗が一緒にいてくれたけど、いじめられたこともあった。
そんな時は、華奢な体や可愛らしい見た目に似合わず、度胸というか、気の強いところもあった美麗は、私をいじめた男子や女子に、1人で立ち向かっていった。
語りだしたら止まらない。
それほど長い時間を、彼女と過ごし、たくさんの思い出をもらってきた。
そんな風に、過去の記憶をたどっていると
「どうして…自殺なんて…。」
不意に、そんな声が耳に響いた。
(自殺…?)
声のした方を見ると、美麗と同じ学校の男子と女子が2人で話をしていた。
「確かに最近ちょっと元気なかったけど…。」
「こんなことなら…ちゃんと話、聞いてあげればよかったっ…。」
「あ、あのっ…。」
気づいたら、夢中で声をかけていた。
「え?」
「す…すみません、急に…。」
衝動的に声をかけてしまい、自分が人とうまく話せないことを今更思い出す。それでも必死に言葉を探した。
「あの、美麗…自殺した…って…本当、なんですか?」
声が少し震えてしまう。
自分でもわかるほど、今、私は戸惑って、動揺している。
美麗が死んだと聞いた時は、ただショックだった。
だけど今は、この人達の言っていた話が信じられない。
美玲が、自殺なんて…
「本当…ですよ…。」
「自殺の原因を探すためにって、いじめ調査とか、そういうのがあったんです…。」
「いじめ…られてたんですか?美麗は…。」
握りしめた拳に力が入る。
「いえ、全然いじめられてなんてなくて…」
「だけど、最近…ずっと元気はなかったから…声、かけてあげれば…」
話しながら女の子が居心地が悪そうに下を向いた。
男の子の方は、遺影に目を向け、ジッと、遺影に映る美麗を見ていた。
その目を見てわかった。
この人は、美麗のことが…好きだったんだ…
その人に続き、私も美麗の遺影を見る。けどその微笑みは私の知ってる微笑みじゃなかった。
5月、私の誕生日に、会った時とは全く違う、どこか作り物めいた笑顔…
美麗は、こんな顔で笑う子じゃなかったはずだ。
写真がとられた季節は、ブレザーを着ていることから秋か、冬か、春頃であることがわかった。
少なくとも、5月に会った時には、もう美麗は、本当は笑顔を作ることすら危ういほどだったんだろうか。
だとしたら、どうして私は…気づけなかったんだろう…
会わなかった、2ヶ月。
この2ヶ月で、一体彼女に何があったんだろう。
「えっと、貴方は、美麗の…?」
女の子にそう聞かれ、一瞬、どう答えていいかわからなかった。
「あ…の、岩本有紗…です。美麗の、幼馴染…です…。」
「そうなんですか、貴方が…。」
「そっか…」
解したというように頷く2人。
首をかしげると、2人は説明してくれた。
「美麗、よく貴方の話ししてました。幼馴染で親友の子がいるんだって。あ、私は美麗の友達、同じクラスの関谷栞です。」
「俺は、平川直幸です。美麗さんのクラスメイト。」
2人も自己紹介をしてくれた。
美麗は、私の話なんてしてたのか…
そんなやりとりをしていると、棺に花と入れたいものを入れられる順番が回ってきた。
この日のために、書き綴った手紙。
普段から言葉にすることが苦手な私にはどうしたっていいものは書けなかった。
ぐちゃぐちゃな言葉しか、書けなかった出来損ないの手紙を棺に入れる。
最後になんて言ったらいいか、美麗はどんな言葉を望むのか…あんなに長い時間を過ごしたのに、わからなかった。
(寝てるだけみたい…。)
美麗の死に顔は、本当にただ寝ているだけみたいで、今にでも起き出すんじゃないかと錯覚させた。
それが余計に、美麗が死んだという事実を薄くさせていた。
関谷さんが泣いてる中、平川さんが涙をこらえている中…周りの人が泣いている中…
ただ1人、私だけが…
迷子の子供みたいに、何もできずに
泣くことも、最後の言葉をかけることもできずにいた。
***
出棺の時、帰っていいと言われたけど、まだ帰りたくなくて、私は葬儀場に残っていた。
関谷さんや平川くんも残っていた。
来賓で残っていたのは、私達3人だけだった。
「あの、関谷…さん?」
「あ、はい…。」
沈黙が続く中、勇気を出して、関谷さんに話しかけた。
私にとって、これは、かなり勇気のいる行動だった。