閑話四 ミッドウェーの真実
山本五十六長官の死は公式には戦死とされております。しかしそれは戦後に様々な憶測を呼ぶ事となりました。
「長官!長官!お気を確かに!すぐに衛生兵が参ります!」
神主席参謀が血塗れの山本の胸を手で押さえながら必死に声をかける。
敵戦艦部隊との戦闘は日本有利に進んでいた。だが突然、日本艦隊の司令部は危機に陥った。司令長官の山本五十六が床に打ち倒されたのである。
それは最後に残った敵戦艦メリーランドの放った一弾であった。武蔵の第二砲塔に命中したその砲弾は分厚い天蓋装甲に弾かれ空中で炸裂した。その弾片が昼戦艦橋の窓から飛び込み山本に命中したのだった。
山本の第一種軍装の胸元は大きく裂け、血が止め処無く溢れている。既に山本の顔は蒼白だった。誰が見ても死相が現れていた。
「神君、もういいよ。自分の事は自分が一番良く分かる……て、敵戦艦の様子はどうだい?」
「最後のコロラド型も撃沈致しました。味方大勝利です」
有馬艦長が涙ぐみながら答える。有馬は嘘を言っていた。日本艦隊の攻撃が途絶えた隙に敵の最後の戦艦は戦場を離脱しようとしている。もう仕留める事は困難だった。
「有馬君は優しいねぇ……手負いの旧式戦艦一隻くらい見逃してあげよう。宇垣君……宇垣君はそこにいるかい?」
大量に出血した山本は既に目も見えない様子だった。
「はっ、長官!ここにおります!」
宇垣参謀長が血溜まりを気にせず山本の傍らに跪く。
「残念だが僕はもうここまでみたいだ。だが僕が死んでも作戦は止めちゃ駄目だよ……」
「し、しかし……」
「皆のお蔭で敵は全て排除できたんだ。僕が死んだくらいでせっかくの機会を無駄にしちゃあいけない」
「はっ。近藤中将とも相談致します」
「……近藤君は……彼は多分日本へ帰りたがるよ。だからここに居る皆で説得して必ず作戦を続行させるんだ。ここが……この戦争の山場だ。勝負所だよ……ここで踏ん張れば日本は勝てる……皆、後はよろしく頼むよ」
そう言って微笑むと山本は永遠に目を閉じた。
「「「長官!!」」」
武蔵の艦橋が漢たちの嗚咽で包まれた。
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以上は良く知られた山本五十六連合艦隊司令長官の最期の様子である。ミッドウェー海戦や山本五十六を題材にした作品は戦後に幾度となく映画化されており、上記は山場のシーンである事からご存知の読者も多いことだろう。
記録では山本五十六は敵の偶然の一弾で不幸にも戦死したとされ、大勲位、功一級、正三位と元帥の称号が贈られるとともに国葬が執り行われている。友邦ドイツもその死を悼み剣付柏葉騎士鉄十字章を授与している。
これは歴史の常識であり疑う人はほとんどいないであろう。
しかし丹念に記録や当時の証言を紐解いでいくと、山本五十六の死については様々な疑問が生まれてくるのである。
■■疑問1 謎の修理記録
最初の疑問は武蔵の修理記録である。
ミッドウェー攻略作戦終了後、武蔵は日本に帰投し長崎造船所にドック入りしている。この時の修理記録は今でも三菱重工に保管されているが、不思議な事にその内容が先のシーンと一致しないのである。
修理内容は不発魚雷の撤去とバルジの修理、そして艦橋エレベーターの修理となっている。
確かに前日の戦闘で武蔵はその艦腹に8本の魚雷を撃ちこまれていた。幸い全て不発であり、この事実は米側の記録とも完全に一致している。エレベーターの修理についても定期点検とされており本件とは関係ない。
問題なのは、どこにも第二砲塔天蓋と昼戦艦橋窓の修理記録が無い事である。
確かに第二砲塔は敵弾を弾き返したから修理が不要だったのかもしれない。弾片も窓の隙間から飛び込んだのかもしれない。しかし少なくとも第二砲塔の天蓋には敵砲弾の当たった跡が残るはずである。
しかし現在でも見る事ができる武蔵の砲塔にはその様な傷は残っていない。この後の記録を見ても修理されたという記録は一切残っていない。実に不思議な事である。
■■疑問2 消された論文
次の疑問は、本当に敵砲弾の弾片は艦橋に飛び込んだのかである。
この疑問は黛治夫氏から出された。黛氏は戦艦砲戦の専門家である。ミッドウェー海戦には参加しておらず横須賀砲術学校の教頭を務められていた。
戦後、黛氏は日米両国の戦闘記録を丹念に調査し、戦艦メリーランドが最後に放った砲弾がどのような振舞いを行ったかを研究し論文にまとめて発表した。
その中で黛氏はメリーランドの砲弾は第二砲塔に命中していないと主張している。
仮に命中していても跳弾し空中で爆発した砲弾の弾片が艦橋に飛び込むことは有り得ないと結論付けている。弾片が艦橋に飛び込むにはもっと手前の海面で砲弾が跳弾する必要があり、落下角度からみてその可能性も無いとしていた。
つまり黛氏は間接的に山本五十六が砲弾の弾片で死んだのではないと言っているのである。
残念ながらこの論文は発表直後に黛氏自らの手で回収され現在は残されていない。しかし現代の研究者達が最新のコンピュータ計算によって導き出した答えも全く同じ結論になるそうである。
もしそれが本当ならば、一体何が山本五十六を殺したのであろうか?なぜ黛氏は論文をすぐに撤回したのであろうか?
■■疑問3 不可解な戦藻録
戦藻録とは宇垣参謀長(当時)が日々つけていた日記をまとめ出版したものである。太平洋戦争の開戦前から終戦まで日々起こった事や宇垣氏の感じた事を丹念に記録してあり、第一級の史料としても知られている。
宇垣氏はミッドウェー海戦で山本五十六と共に戦艦武蔵に乗り込み、山本五十六の死にも立ち会っている。
しかし不思議な事に毎日丹念につけられている日記が、この海戦当日だけ抜けているのである。
戦後にこの点を尋ねられた際に、宇垣氏はあまりにも衝撃的な事件で記憶が飛んでしまい良く覚えていなかったと語っている。
確かに目の前で司令長官が戦死するという事実は衝撃的であるが、まったく記憶が無いというのは俄には信じられない話である。
■■疑問4 海軍反省会の禁忌
海軍反省会とは戦後しばらく経って海軍OBらが集い戦争の諸々について自由に語り合った会合である。その会話記録は残されており、これもまた一級品の史料とされている。
会合では様々な話題があがっており、当然ながらミッドウェー海戦にまつわる物も多い。しかし不思議な事に山本五十六の死に関する話題だけは一度も話された事が無かった。
時々話題がそこへ行きそうになると、必ず誰かが別の話題へ強引に誘導するのである。まるでその話がタブーであるかの様に。
なぜ山本五十六の死は触れてはいけない話題なのであろうか?
■■疑問5 謎の悪臭
山本五十六の死亡後、その遺体は艦内の冷蔵室に保管されていた。このため日本に遺体が帰り着いた時も腐敗もなく非常にきれいな状態だったと言われている。
艦内で山本五十六の遺体の処理や搬送を行った水兵の証言は未だ見つかっていないが、武蔵に乗り組んでいた水兵らからは興味深い証言がいくつも得られている。
その証言に共通するのが「悪臭」である。多くの水兵が、ミッドウェー海戦当日に艦内に悪臭がしたと証言しているのである。
また悪臭がした場所は艦橋に集中していたと言われる。そして不思議な事に悪臭がしたのは当日のみで以後は臭わなかったと言う。
山本五十六が死亡した当日だけ発生した悪臭とは、一体何であったのだろうか?
■■結論 山本五十六は暗殺された
ここまで読んだ諸兄は山本五十六の戦死がいかに不可解なものであったかご理解頂けたかと思う。
山本五十六の命を奪ったとされる砲弾の跡は無く、弾片が命を奪う可能性も無い。関係者は全て口をつぐんでいる。そして当日に発生した謎の悪臭。
これらの事実を繋ぎあわせると一つの結論が浮かび上がる。
山本五十六は戦死したのではない。誰かに暗殺されたのである。
おそらく悪臭とは何らかの毒ガスか薬物が使用された証拠であろう。そして関係者が口をつぐむのは当時現場にいた将官や海軍上層部も山本五十六の暗殺を知っていた事を意味する。
■■誰が山本五十六を殺したか
では激しい戦闘中に誰が山本五十六を殺したのであろうか?
本誌編集部ではその犯人を宇垣纏氏であると推理した。
宇垣氏は恐らく誰か上の人物から戦闘中に山本五十六の命を奪うように命令されていたと思われる。
戦闘を敗北させずに山本五十六の命だけを戦闘中に奪うという任務は非常に困難な物であっただろう。しかし宇垣氏はこれをやってのけたのだ。それを実現するための道具はあらかじめ渡されていた。
真実はこうである。
戦闘も終盤となり戦いの帰趨がはっきりするまで宇垣氏はチャンスを待った。そして艦橋の皆の意識が外に向いている時を見計らい、何らかの薬品で山本五十六を眠らせ背後のエレベーターに放り込んだ。そして確実に殺すために毒薬をエレベーター内に入れ扉を閉めたのである。
そして彼は何食わぬ顔で戦闘に戻った。
使われた毒物は悪臭を残すが毒性はすぐに無くなる様なものだったのだろう。だから遺体発見時に誰も二次被害に遭わなかったのである。長崎造船所でのエレベーター修理も証拠隠滅のために行われたのは明らかである。
関係者が口をつぐむのは山本五十六が毒殺されたという事実と、誰が手を下したか分からない為であろう。また彼らの逆らえない非常に上の方から圧力もかかっていたと思われる。
■■誰が暗殺を指示したのか
山本五十六の暗殺は、かなり権力をもった人間によって指示されたという事が明白となった。
では一体だれがそれを指示したのであろうか?
本誌編集部はイルミナティとフリーメイソンが背後にいたと推理している。
山本五十六と交友が深かった米内光政がフリーメイソンであった事は有名な事実である。そして間違いなく山本五十六もフリーメイソンであった。
ではなぜフリーメイソンが会員である山本五十六の暗殺を指示したのであろうか?
それは山本五十六がフリーメイソンを裏切ったからだと思われる。
フリーメイソンは緻密な計画で世界を戦争に導き利益を得ようとしていた。そして山本五十六もその計画の忠実な駒の一つであったのだろう。しかしある時から駒が勝手に動き始めた。そしてその動きはフリーメイソンの計画に破綻をきたすほどに問題とされた。
山本五十六がある時期から野心を露わにしはじめたのは有名な事実である。おそらくこの頃からフリーメイソンを裏切っていたと思われる。
そんな山本五十六を監視するためにつけられたのが宇垣氏だった。細かな日記をつけていた事からも宇垣氏が監視任務にあった事は疑う余地もないだろう。
そしてフリーメイソンとしてはミッドウェー海戦で日本を敗戦に導く必要があった。だからこの時に山本五十六を暗殺しようとしたのである。
そして暗殺は実行された。
しかしフリーメイソンが誤算だったのは、想像以上に山本五十六が将兵の心を掴んでいた事だろう。彼がいなくとも作戦は継続されてしまったのである。結果的にフリーメイソンの計画は失敗に終わったのだ。
現代でもイルミナティに指導されたフリーメイソンは世界を影から操り新世界秩序を実現しようと暗躍している。本誌はこれからもその動きに注目していきたい。
(オカルト情報誌 月刊ラー 2011年12月号 太平洋戦争開戦70周年特集)
ΩΩΩ<な、なんだってー!?




