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第十五話 北極海の氷鳥

 諸事情により更新が遅れに遅れてしまいました。大変申し訳ありません。今回はロケット魚雷を手にしたUボートと米国が護衛することになった援ソ船団の戦いの話となります。少々長くなってしまったため2話に分割しています。

――ソビエト社会主義共和国連邦 モスクワ クレムリン


 1942年(昭和一七年)10月、戦争の今後を話し合うため米ソはモスクワで会談を行っていた。英国の停戦により世界情勢は大きく様変わりし会談も以前に比べて簡単には出来なくなっている。米国からソ連への移動も危険が増したことから今回はルーズベルトではなく全権特命大使としてウィリアム・アヴェレル・ハリマンが参加していた。


「米国は今こそ連合国としての義務を果たす時である!」


 そのハリマンの前でスターリンがテーブルに拳を叩き付け咆哮していた。


「もちろんその点については我が国も重要な課題と認識しています。だからこそ我が国は今現在もウラジオストクに十分な物資を送り込んでいるではありませんか」


 ハリマンが冷静に答える。スターリンの獣の様な態度にも全く動じていない。


 鉄道王であった父エドワード同様に実業家である彼は、個人的には米国がソ連へ過度に肩入れしている現状をあまり良く思っていなかった。ハリー・デクスター・ホワイト財務次官補が経済の専門家でありながらソ連寄りの政策提案をしている事も彼にとっては理解し難いことである。


 現状では欧州も政体は違えど取り敢えず落ち着きを取り戻しつつある。彼としては米国が損害を被る前にさっさと戦争なんぞ切り上げてビジネスに戻りたいのが本音であった。


「下着やミルクでファシスト共と戦えるか!今は戦車!航空機!燃料弾薬が必要なのだ!米国はファシスト共が世界を征服するのを黙って見過ごすつもりなのか!」


 米国が安泰で安全に取引さえ出来れば別に相手がファシストでも誰でも別に構わないんだがな。今欧州の復興需要に食い込めれば大儲け出来るだろうに。吠え続けるスターリンを眺めながらハリマンはそんな事を頭の片隅で考えていた。枢軸国と英国、そして驚くことに米国全権特命大使を前にして米国まで罵り続けるスターリンのいつ終わるとも知れない罵詈雑言を彼は大人しく聞き流していた。


「我が国がウラジオストクに武器弾薬を送れないのは貴国の事情でしょう。無理に送れば日本に貴国への開戦理由を与えるだけです。そうなれば例え最終的に日本を降せるとしても当面は日本海を通って物資を送り届ける事は不可能になりますが」


 スターリンが罵り疲れて一息ついた合間を見計らってハリマンは指摘した。


「そんな事は分かっている。だから大西洋の船団をさっさと復活させろと言っている!」



 連合国のソ連に対する支援には大きく二つのルートがある。一つは大西洋を渡りアイスランドからムルマンスクへ向かうルート、もう一つは太平洋をウラジオストクへ至るルートである。かつては喜望峰からペルシャ湾を経由するルートも存在したがインド洋と地中海が枢軸国の海となった現在では完全に閉ざされている。


挿絵(By みてみん)


 ムルマンスク、ウラジオストクどちらのルートもソ連にとっては重要である。しかしその役割や性格は大きく異なっていた。


 支援の量や額としてはムルマンスクよりウラジオストクルートの方が大きい。しかし日本海に面するウラジオストクへ至るには枢軸側である日本の領海を絶対に通過する必要があった。だがその日本とソ連は開戦に先立つ昭和16(1941)年4月に中立条約を締結していた。


第二条

 締約国ノ一方カ一又ハ二以上ノ第三国ヨリノ軍事行動ノ対象ト為ル場合ニハ他方締約国ハ該紛争ノ全期間中中立ヲ守ルヘシ


 この中立条項により日ソは世界大戦の異なる陣営に属しながらも直接戦火を交わしていなかった。ウラジオストクに向かう船舶もすべてソ連船籍であり運び込まれる物資も民生品に限られている。積荷も日本が厳しく監視していた。つまりソ連は戦争遂行に必要な武器弾薬燃料の支援をすべてムルマンスクルートに頼っていた。更にウラジオストクの支援物資により国内の生産力を武器弾薬の製造に振り向ける事が出来ていたのである。



 これまでムルマンスクルートの船団は英国またはアイスランドを起点としていた。船団護衛も基本的に英国が行っている。しかしマダガスカルや地中海での損害も癒えぬ状況下で強行されたPQ-17船団の壊滅以後、ムルマンスクルートのソ連支援船団は途絶えたままとなっていた。更に英国が枢軸国との停戦に向けて舵を切った今では再開の見通しも立っていなかった。


「英国が脱落したため今後は我が国が船団護衛を担う事になります。しかしご存知の様に枢軸国の勢力も増しています。新たな体制を整えなければ前回の船団と同様に壊滅の憂き目を見るでしょう。我が国も準備に時間がかかります。すぐに船団を再開する事は困難だとご理解ください」


「そんな悠長な事を言っている状況では無いのが分からんのか!支援は今すぐ必要なのだ!」


 ハリマンにもスターリンの焦りは理解できた。ソ連の南方戦線は崩壊の危機に晒されているのである。


 枢軸国は既に地中海を自由に使える状況にある。ソ連黒海艦隊も既に壊滅している。トルコと交渉したドイツはボスポラス海峡を通してソ連南部に黒海方面から多くの戦力を送り込んでいた。このためこれまで天然の要害となっていたカフカス山脈は用をなさなくなりバクー油田を初めとした南方資源地帯は直接ドイツの攻撃に晒されていた。


 ソ連軍は油田を破壊しつつ後退しているためドイツも油田は確保できていない。しかしドイツは北アフリカ戦線も消えたため石油の消費も抑えられており中東の油田も利用できる。このため状況はソ連に一方的に不利な方向へ傾きつつあった。


「それも理解しています。そこで護衛体制が整うまでは輸送船を単独でバラバラに送り出す事を提案します。護衛が無い代わりに敵から発見されにくくなる事が期待できます。ただし船舶は我が国で用意しますが船員は貴国持ちとなります。我が国も輸送船の被害が多く苦労している事情をご理解ください。護衛体制も年末には整う見込みです」


 ハリマンはあらかじめ用意してきた回答をスターリンへ伝えた。実際これが現状では米国のできる精一杯の対応でもある。米国は日本と南洋を巡る戦いで潜水艦により多数の輸送船と護衛艦艇を喪失していた。一応の対策を行った今でもハワイ航路や西海岸で損害が継続している。輸送船や護衛艦艇の数はともかく船員の手当てや抜本的な対策が追いついていないのが現状であった。


「いいだろう。船員はいくらでも用意する。だから一日も早く物資を届けるのだ」


 物乞いの分際で偉そうに。取敢えずは納得した様子のスターリンを見ながらハリマンは心の中で侮蔑した。この作戦では多くの輸送船がムルマンスクへ辿り着けないだろう。失われる船と物資は惜しいが全て金で買えるものだ。米国民の命には代えられない。ソ連の船員がいくら失われようとも米国は痛くも痒くもない。それにこの男も自分以外の命がいくら失われても気になどしないだろう。例えそれが自国民の命であろうと。



 こうして「Operation FB」と呼ばれる輸送作戦が行われる事となった。


 作戦にはソ連船籍とされた輸送船30隻が参加した。船員は全員が黒海や極東からかき集められたソ連人である。ウラジオストクの太平洋艦隊からも水兵が引き抜かれていた。そして11月から12月にかけて航路も時間もランダムに設定された輸送船が一隻ずつアイスランドからムルマンスクに向けて出航していった。


 米海軍は輸送船の安着率を5割程度とみていた。これでも高めの予測である。連合国は8月のカサブランカ海戦後に日本の厄介な魚雷(ホワイトサンダー)の技術がドイツに渡ったと考えていた。しかも今後はスエズを通して日独の連携も密になると予想されている。いずれ近い将来にドイツもホワイトサンダーに類する新型魚雷を使い始める事は間違いなかった。だが今であれば独航船による輸送作戦が成功する可能性もあると思われた。



 しかし米国はデーニッツやシュペーアらの熱意を甘く見ていた。


 ドイツはわずか1ヵ月で新型魚雷G7rの量産体制を整えたのである。ロケット魚雷は構造が簡単な上に手元には既に図面や実物もある。ヒトラーの最優先命令の後押しもあり短期間で量産できたのはむしろ当然の事であった。そして量産品の発射試験で再び感動したヒトラー直々にEisvogel(カワセミ)の秘匿名を与えられ、11月には実戦配備が開始された。


挿絵(By みてみん)


 この新型魚雷を抱えたUボート群にOperation FBの輸送船らはまともに突っ込む形となった。英国封鎖や地中海の任を解かれたUボートが北極海に集結した結果、ソ連支援ルート上のUボート密度は以前より高まっている。ドイツは空軍との連携不備により全てを捕捉する事は出来なかったものの20隻の輸送船を撃沈する事ができた。


 結局ムルマンスクには10隻の輸送船しか辿り着けなかった。安着率は3割を切っている。更に全てが独航船であったため米側は沈没状況を詳しく把握できていなかった。米海軍はドイツが新型魚雷を実戦投入するのは早くても年明けからだろうと予測していたため、予想を超える輸送船の大量損失原因を多数のUボートによるものだけと考えていた。



 ソ連は結果的に満足な支援は得られなかった。しかし幸い今は厳冬期のため戦線は安定している。その間に状況を改善したいスターリンからの矢の催促に応じる形で米国は新たな支援船団の編成を急いだ。アイスランドのレイキャビクからムルマンスクへ向かうこの船団は規則に従いPQ-18と命名され、60隻の輸送船と50隻近い護衛艦艇で編成されることとなった。


 護衛艦艇の中には対日戦のために準備していたサンガモン級飛行艇母艦2隻も含まれている。また米軍は潜水艦に対する切り札として開発を進めている兵器を試験的に少数投入する事を決定していた。


 更にティルピッツをはじめとしたドイツ水上艦艇に対する抑えとして、戦艦2隻(マサチューセッツ・アラバマ)、空母2隻(レキシントン・サラトガ)を加えて増強されたTF(タフィー)19が間接護衛艦隊として随伴する事となっていた。


 PQ-18船団は大規模である分、情報秘匿が困難である。ドイツが必ず船団を察知し強烈な妨害を行ってくる事は間違いなかった。しかもドイツはそろそろ新型魚雷を本格的に投入してくるはずである。このため米軍はPQ-18船団の護衛に可能な限りの対策を盛り込んで挑もうとしていた。



――北極海 アイスランド東方海上 ドイツ海軍 Uボート U-199


 1943年(昭和十八年)1月、U-199はPQ-18船団を襲撃するUボート群の一艦としてアイスランド東方の船団予想進路上に展開していた。


「またUボートに乗れる日が来るとはな」


 夜の海上を見張っていたU-199艦長のオットー・クレッチマー中佐は双眼鏡を降ろすとしみじみと言った。


「艦長……その台詞はもう百回は聞きましたよ。まぁ嬉しいのは良く分かります。私も同じですから」


 見張り甲板で艦長の横に立つ先任士官が相槌を打つ。事実、彼らが今再びUボートに乗っていられる事は奇跡に近かった。


 クレッチマーらが以前に乗っていたU-99は2年前に英海軍との戦闘で撃沈されていた。その沈没間際にクレッチマーは勇気をもって英駆逐艦に救助を求めたのである。この英断によりU-99の乗員のほとんどが救われていた。当然彼らはそのまま英国の捕虜となっていたが、停戦により昨年秋に釈放されドイツへ帰国する事が出来ていた。


 帰国したクレッチマーに対しデーニッツは地上勤務を勧めた。しかし彼はこれを固辞し再びUボート勤務を希望する。U-99の元乗員らも全員がクレッチマーと共に戦う事を希望した。こうしてクレッチマーらはデーニッツの計らいによりU-199を与えられ再び海に繰り出す事となったのである。U-99の生き残りはクレッチマーに恩義を感じているためU-199は新造艦にもかかわらず練度も士気も極めて高かった。



前のフネ(U-99)も良かったが、このフネ(U-199)も素晴らしい。たった2年でこれほど進化するものなのだな」


 U-199は昨年秋に就役したばかりの新造艦である。IXD2型と呼ばれるこのタイプのUボートは、U-99のようなこれまで主力であったVII型より遥かに大きな船体と長大な航続力を持つ。そのサイズは倍以上となり日本の潜水艦に近い。量産性と引き換えに船体を複殻式構造としたことで可潜深度も深くなり静粛性も高まっている。大型となったにもかかわらず水中速力や機動性はVII型に引けを取らない。無音航行サイレント・ランを多用する「静かなるオットー」にとって正に好みの艦であった。


「我々が英国でバカンスを楽しんでいる間にそれだけ激しい戦いがあったのでしょうな。魚雷の方も随分と様変わりしましたからね」


「G7r(Eisvogel)か。あれも良いものだな」


 クレッチマーが頷く。彼が再び任務に就く際に最も驚いた事が昨年末より配備が始まったという新型魚雷G7rであった。新しい艦と共にレクチャーを受けた魚雷の性能と運用戦術に驚いた事も記憶に新しい。


「元は日本人の魚雷らしいですな。潜水艦については我々が上だと思い込んでいましたが連中も中々やるもんです。あれで英国は停戦に追い込まれたらしいですからね」


「一発で決められるというのがいいな。実に私好みの魚雷だよ。日本人とは気が合いそうだ」


 従来のUボートの雷撃戦術は日本が九九式を多用する前と同様、一目標に対して複数射線をもって行うものであった。その中にあってクレッチマーの戦術は異彩を放っていた。彼は緻密な観測と計算により敵に対して常に一本の魚雷しか使用しなかったのである。彼は自らの戦術を「Ein Torpedo, ein Schiff」 (一雷一隻)と呼んでいた。彼の戦術を真似してみたUボート艦長もいるにはいたものの彼ほど上手くできた例は無い。


 その様な拘りを持つクレッチマーにとって新型魚雷G7rは理想的な魚雷であった。すでに彼は艦と新型魚雷を完全に把握している。慣熟訓練は今や枢軸国の海となっている地中海で行われた。以前とは比べ物にならない程安全で恵まれた環境で訓練を行えた事も彼にとって新鮮な驚きであった。実戦もOperation FBの輸送船を相手に肩慣らしも済んでいる。


「襲撃が楽になった代わりに士官室を潰されてしまいましたがね。せっかく新型艦に乗れたのにまた魚雷と一緒に寝る羽目になるとは夢にも思いませんでしたよ」


「仕方なかろう。新しい戦術では前部発射管の4発だけでは足りんからな」


 G7rの配備に伴いドイツも日本に倣って次発装填棚の設置を進めていた。しかしIXD型になって多少大きくなったとはいえ日本の伊号より遥かに小さな船体に余分なスペースなどなく、その皺寄せは士官室の廃止という形で表れていた。



「そう言えば日本人のトップエース、名前は確かヘル木梨と言いましたかな、彼のスコアも凄いらしいですな。艦長に迫る勢いらしいです」


 クレッチマーは2年前U-99を失うまでに44隻/256,684tもの艦船を撃沈している。2年間のブランクがあったにもかかわらずこのスコアは未だに抜かれていない。一方、木梨は撃沈数こそ少ないものの獲物に大型艦が多かったためトン数では20万トンに迫るスコアを稼いでいる。


「我々も負けてはいられんな。今回の作戦ではしっかり稼がせてもらおう」


 クレッチマーと先任が見張りを続けながら談笑していると、足元のハッチから士官が顔をのぞかせた。


「艦長、ナクソスに反応がありました」


「潜航!すぐに敵機がくるぞ!」


 そう叫ぶとクレッチマーらはラッタルを滑り降り艦内に戻った。



 U-199には敵のレーダー波を検知する新型の警戒機ナクソスが備えられていた。以前のメトックスではメートル波しか捉えられなかったが、マダガスカルの鹵獲兵器と停戦後の英国からの情報を参考に開発されたナクソスではセンチ波も探知可能となっている。


「方位と感度は?」


 現在U-199は潜望鏡深度で潜航中である。U-199の様な新造艦では警戒機の装備方式も改善されていた。メトックスの様な手持ち式ではなく潜望鏡の様に伸縮するポスト上に備えられている。このためU-199は潜航中でも安定して探知する事が可能であった。


「方位260、感度2。少しずつ強まっています」


 ヘッドホンを付けナクソスのダイアルを操作しながらオペレーターが答える。


「本艦は既に感づかれていると思うか?」


「方位が少しずつ北へ変わっていますので通常の索敵行動と思われます。ただしこれ以上近づかれるとナクソスのポストで本艦も発見される恐れがあります」


「分かった。ナクソスを下げろ。先任、観測データから敵機の索敵円と船団位置を予測してくれ。もう少し艦を敵の予想進路に寄せるぞ」


「司令部に報告をあげますか?」


「いや止めておこう。探知される可能性は出来るだけ避けたい」


 マダガスカルでHF/DF(ハフダフ)の存在を知ったデーニッツは各Uボートからの定時報告を廃止していた。現在はUボートの艦長に報告要否の判断を任せている。その代わりに長波通信による敵情情報の発信頻度をあげていた。完全とは言えないが前回PQ-17船団襲撃の反省から空軍との連絡も多少は改善され航空偵察の情報も反映されている。各Uボートはその情報に基づきそれぞれの判断で襲撃行動を行っていた。


 こうしてクレッチマーの駆るU-199はPQ-18船団の待ち伏せに向けて進路を北に向けた。



――北極海 アイスランド東方海上 米海軍 PBYカタリナ飛行艇 DUCKY1


「機長、また反応がありました。方位80。5㎞。強度からみてUボートの潜望鏡と思われます」


 機首に搭載された水上捜索レーダーのJスコープを覗きながらレーダー手が機長に報告する。彼らのPBYカタリナ飛行艇、コールサインDUCKY1はアイスランドのレイキャビクに拠点を置くVP-73哨戒部隊に所属している。今はPQ-18船団の護衛に組み込まれたサンガモン級飛行艇母艦サンガモンとスワニーに2機ずつ搭載され船団護衛に参加していた。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 九九式魚雷(ホワイトサンダー)を用いる日本潜水艦に対抗するため米軍のPBYも変貌を遂げていた。PBY-6と呼ばれるこの機体はベースとなったPBY-5Aから装備も形も大きく変わっていた。


 潜水艦を検知するため水上捜索レーダーと磁気探知装置が備えられた。両翼下には夜間にUボートを照らし出す大型サーチライトが吊り下げられる。機首レーダー下には浮上中の潜水艦を機銃掃射するための機銃が前方下方に向けて固定装備された。


 PBY-6は完全に対潜水艦戦闘に特化した飛行艇であった。


挿絵(By みてみん)


「どうします?攻撃しますか?今回の出撃は例の物も積んでますが……」


「いや止めておこう。今晩でもう3隻目だぞ。クラウツ共は随分と大勢で出迎えてくれるらしい。いちいち対応していたら限がない」


 副機長の問いかけに機長はうんざりした様子で答える。


「では見逃しますか?」


「もちろん報告はあげるさ。だが攻撃するのは近くの奴だけでいい。それに今回の奴もどうせすぐに隠れるだろうよ。レーダー手、反応が消えたら教えろ」


「機長、今反応が消えました」


「やはりこちらのレーダー波を検知している事は間違い無いな……まぁUボートは水中ではノロマだ。潜航させるだけで船団を襲う機会を減らせる。夜間はこうして頭を押さえつけるだけで十分だ。昼間は護衛空母の連中が上手くやるだろうよ。さて元の進路に戻るぞ」



 米軍は昼間は護衛空母の艦載機によって、夜間は飛行艇によって警戒を行いUボートを抑え込む事に成功していた。無理に襲撃をかけたUボートの中には既に撃沈されたものもある。ティルピッツ等の水上艦艇も戦艦2隻と空母2隻からなる間接護衛部隊が存在をあえて誇示する事で牽制されていた。空軍も護衛空母の艦載機により既に小さくない損害を受けている。


 ドイツ軍はPQ-18船団を攻めあぐんでいた。

 カワセミはドイツ語でEisvogelと言います。直訳すると氷鳥だそうです。ちなみに同名の砕氷艦が実在しています。


 英国との停戦でUボート最高のトップエースが復活してしまいました。氷鳥を得たUボート達は暴れまわる事になります。

 米軍も頑張って対策していますが追いついていないのが現状です。米政府内にも戦争の継続に疑問を感じる人が出始めました。


 一見しっかりと護衛されている様に見えるPQ-18船団ですが、これから地獄へ突入する事になります。

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