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第十一話 カサブランカ沖海戦

お待たせしました。

遣独潜水艦の到着編その2です。

――ヴィシー・フランス艦隊 戦艦ジャン・バール


「やはり植民地人は田舎者だな。礼儀の一つも分かっていない」


 ミショリエ中将が相手を挑発する様な返信を送らせた直後、事態は急変した。突然、米側の駆逐艦隊が攻撃行動としか思えない動きを始めたのである。ミショリエ中将は躊躇なく攻撃を指示した。


「攻撃開始しろ!連中に礼儀と言うものを教えてやれ!」


 ミショリエ中将はその程度の野蛮な相手だと思っていたため何の疑問も持たなかったが、実は米側の動きは仏艦隊への攻撃を意図したものでは無かった。ちょうどその時、生き残りの仏潜水艦の一隻がようやく米艦隊に追いつき潜望鏡をあげたのである。米側の駆逐艦の動きはそれに反応したものであった。だがこの動きは仏艦隊から見れば交渉途中に米艦隊が突然攻撃行動をはじめた様にしか見えなかった。


 どのみち劣勢な自軍にわずかでも勝機が有るとすれば先手を打ってから乱戦に持ちこむしかない。そして両艦隊が接近していた事から、彼の思惑どおり両艦隊はあっという間に乱戦状態にもつれこんでいった。


 幸い仏側が先手を取れたお蔭で、初撃に有効打を打ち込むことに成功していた。ジャン・バールは敵戦艦の一隻に15インチ砲4発を命中させ主砲塔の一つを使用不能とする事に成功していたのである。いくら測量用の粗末な照準器しか持っていなくても、この距離で主砲を外すはずがなかった。駆逐艦らも敵艦隊に切り込む事に成功し乱打戦となっている。


 ミショリエ中将が見る限り、なぜか米艦隊の動きは精彩を欠いていた。だがその幸運もいつまで続くか分かったものでは無い。今は敵が混乱しているだけだ。いずれ立ち直り数の優位を生かしてこちらを圧殺しようとしてくるだろう。日本潜水艦を逃がすためにも出来るだけ派手に立ち回り混乱を拡大する必要が有った。


「届くか分からんが日本の潜水艦に連絡しろ!今の内にここを離れる様に伝えるのだ!満足に出迎えも出来ず申し訳ない、貴艦らの幸運を祈ると付け加えてくれ」



――遣独潜水艦隊 伊34


 会合地点に予定より早く到着していた伊30と伊34は米艦隊の出現に驚き海中に身を潜めていた。どのみち会合時間は夜である。米艦隊をやり過ごしてから仏艦隊を待つつもりであった。だが米艦隊は会合地点に居座ったどころか、目の前で戦闘を開始したのである。


 伊34艦長の木梨中佐は、戦闘海面が彼らからやや離れているため潜望鏡をあげて様子を確認する事にした。


「不味いな」


 状況を確認した木梨が呟く。


「一体、外はどういった状況で?」


 隣で先任が不安そうな顔で尋ねる。


「どうやら出迎えの仏艦隊と米艦隊が戦闘を始めたらしい。米側は空母2隻、戦艦2隻の大艦隊だ。空母は動いていない様子だから手加減はしているんだろうが、それでも仏側は厳しいね」


「我々の到着が察知されていたと言う事でしょうか?」


「いや、かなり後方だが輸送船団が見える。恐らく目的は我々では無い。カサブランカへの上陸が目的じゃないかな。我々はそれに偶然ぶつかったみたいだね」


「では仏艦隊に助太刀を?」


「しないよ。我々の目的はロリアンへの到着だ。余計な戦闘は避ける様に言われている。むしろこの戦闘の混乱に乗じてここを離れる方が得策だ」


 木梨の返答に先任や他の士官らは少し不満そうだった。木梨もマダガスカルで歓待を受けた彼らの気持ちが分からないでも無かったが、艦長として、戦隊指揮官として、今戦っている仏艦隊を見捨てる事になっても作戦目的を見失う訳にいかなかった。


「では何が不味いんで?」


「伊30の遠藤中佐が堪えられるかどうか……彼らは僕らよりマダガスカルで仏国の世話になっているからね。簡単には仏艦隊を見捨てられないかもしれない」


 そう言うと木梨は伊30の潜望鏡に向けて、戦闘を控えて離脱する旨の発光信号を送った。遠藤中佐は逡巡しているのだろう。しばらく間を空けてから了解の返事がきた。


「なんとか遠藤中佐も分かってくれたらしい。さて潜航して離脱しようか」


 そう言って木梨が潜航指示を出そうした、まさにその時に仏艦隊から通信が入った。その自己犠牲的な内容を聞いた木梨は慌てて潜望鏡に取りつくと再び伊30を確認した。


「先に行かれたし。義を見てせざるは勇無きなり。貴艦の航海の安全を祈る……か。馬鹿野郎が。やっぱり我慢できなかったか……」


 木梨は彼にしては珍しく悪態をつくと、新たな指示を出し始めた。



――ヴィシー・フランス艦隊 戦艦ジャン・バール


 ミショリエ中将の予想通り、多少なりともまともに戦えていたのは最初だけであった。敵戦艦に主砲を命中させた直後、ジャン・バールは敵2戦艦から倍返しの反撃を受け、あっという間に戦闘力を喪失していた。


「電路復旧を急げ!なんとしても主砲を動かせるようにしろ!」


 ミショリエ中将の横で艦長が必死に応急処置を指示している。いかに分厚い舷側装甲を誇るジャン・バールでも、この距離では16インチ砲弾を防ぐことは出来ない。戦闘距離が近いため被弾がすべて舷側に集中しており被弾数の割にすぐに沈没する危険が無い事が幸いだった。だが唯一の主砲塔は電路を切断され動かなくなっている。未成艦のため他の備砲も無い。足が遅いため敵の動きを邪魔することすらできない。ジャン・バールは完全に無力な存在になり果てていた。


 他の仏軍艦艇も苦戦している。既に軽巡プリモゲを始め、いくつかの駆逐艦が洋上で停止している。抵抗を続けている駆逐艦の数は当初の半分にも満たない。撃沈された艦が無いことから敵がこちらを沈めないように手加減している事は明らかだった。だが、このままでは全艦が戦闘力を奪われるのも時間の問題だった。


 戦闘能力を失ったと判断されたジャン・バールは戦場で敵から放置されていた。艦橋への被弾が無くミショリエ中将をはじめとした司令部要員は全員無事である。これも手加減されたからだろう、そう考えながら戦場を眺めていたミショリエ中将がため息をつく。


「もう少し粘れるかと思ったが甘かったか。屈辱的だが敵はこれでも手加減しているらしい。せめてもう一矢は報いたかったな」


「日本の潜水艦は逃げおおせたでしょうか?」


「そう信じたいな。そうでなければ報われん。だが日本人は非常に義理堅いと聞いている。我々の犠牲は決して無駄にはならんよ」


 そう言うとミショリエ中将は再び戦場に目を移した。その時、戦場後方の敵空母部隊で動きが有った。



――遣独潜水艦隊 伊34


「まったく、遠藤中佐にも困ったものだな。仕方ない。本艦も助太刀する。航空機に出られると不味い。まずは空母を黙らせるぞ。針路50」


 愚痴りながらも木梨は苦笑していた。彼も内心は仏艦隊を救いたかったのである。


「針路50、よーそろー」


 先任や発令所の士官らも木梨の判断を聞いて嬉しそうだった。階下からは水兵らの歓声も聞こえる。木梨は潜望鏡を覗きながら苦笑を深くした。


 米軍の2空母、レンジャーとワスプは、それぞれ2隻の駆逐艦を護衛に伴い戦場の後方で遊弋していた。伊30と伊34はまっすぐレンジャーとワスプへ向かう。日本の潜水艦の接近に気付いた駆逐艦がすぐに向かってくる。それらの駆逐艦をあっさりと魚雷で仕留めた彼らは、申し合わせた様にほぼ同時にそれぞれ2本の魚雷を空母へ放った。


 改二型で炸薬量が増え、より凶悪に進化していた九九式魚雷が空母の舷側に命中する。自軍の魚雷4本分に相当する被害を一度に受けた両空母はあっという間に洋上に横転した。


「魚雷再装填急げ!」


 既に伊34は4本の魚雷を消費している。床下の予備魚雷4本は戦闘中は使えない。再装填棚の分を含めて彼らは残り8本の魚雷で戦う必要があった。対する敵艦の数はまだまだ多い。帰路の事も考えるとここからは慎重に戦う必要があった。木梨が戦闘を避けたかった本当の理由は、この魚雷の数であった。


 空母部隊は戦闘海面から距離が離れていた。このため潜航したままでは仏艦隊を救う事が出来ない。


「浮上して距離を詰めるぞ!浮上!」


 海面に浮上すると遠藤中佐も同じことを考えたのか伊30が近くに浮上してきた。見張所に出た木梨は同じく艦上に出て来た遠藤中佐に敬礼すると、機関を始動させ米仏海軍が殴り合いを続ける戦場へと向かった。



――ヴィシー・フランス艦隊 戦艦ジャン・バール


 後方の敵空母の護衛についていた駆逐艦の動きが慌ただしくなったかと思うと突然爆発した。そして今度は空母が2隻とも爆発し横転した。


「ざまあみろ!我が軍の潜水艦が生き残っていた様です!」


 副官が喜色にあふれた声をあげる。だが浮上した潜水艦を見たミショリエ中将は何が起きたかをすぐに理解した。


「あれは我が軍の潜水艦ではない。もちろんドイツのUボートでもない。どうやら我らの客人の様だ。逃げろと言ったのに、まったく日本人と言うのはお人好しだな……馬鹿共めが……」


 そう言うミショリエ中将の目には涙が滲んでいた。


「いくら日本人の潜水艦が強力でも2隻だけでは厳しいだろう。艦長、早く主砲を復旧させてくれ。少しでも助力する必要がある」



――トーチ作戦部隊 旗艦 重巡オーガスタ


 突然、後方の空母部隊が潜水艦の襲撃を受けた。しかもあっという間に全滅である。水上砲戦部隊も仏艦隊との要らぬ戦闘で少なくない損害を負っている。これでは例え戦闘に勝利しても査問会は避けられない。これで自分のキャリアは終わりだ。ヒューイット少将は頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。


 だが今現在の戦闘を放り出す事はできない。参謀に状況を確認する。


「敵の新手の潜水艦は?」


「空母を攻撃後に大胆にも浮上してこちらへ向かってきています。通信が途絶える前にワスプの艦長から報告がありました。敵潜水艦は極めて高速の魚雷を使っており回避が困難だったとの事です。もしかしたら例の「ホワイトサンダー」かもしれません……」


 「ホワイトサンダー」。その言葉でオーガスタの艦橋はざわついた。それはマダガスカルで英艦隊を全滅させた日本軍の超高速魚雷に連合軍がつけた渾名である。本来は黒々とした魚雷が白い泡と共に高速で向かってくる姿からそのように名づけられたという。これまでその魚雷は日本軍しか使っていないはずだった。連合軍はその技術がドイツに渡る事を極端に恐れていた。


「ドイツがホワイトサンダーを手に入れたと言う事か!?」


 だがその杞憂はすぐに間違いとわかった。接近している潜水艦がUボートではなく日本海軍のType B1(巡潜乙型)であると判明したからである。だが日本海軍が大西洋にまで進出してきたと言う事は、ホワイトサンダーがドイツに渡るのも時間の問題と言えた。


 だがそこにヒューイット少将は光明を見つけた。現在、連合国は新型魚雷の秘密を手に入れようと躍起になっている。恐らくはドイツへの派遣任務中であろう日本の潜水艦がどうしてわざわざ戦闘に介入してきたのかは不明だが、これはチャンスであった。もしここで彼が魚雷の現物を手に入れる事が出来れば、今回の失態をある程度は覆す事が出来るかもしれない。


「まだドイツの手にホワイトサンダーは渡っていない。むしろこれは我々が手に入れるチャンスだ。接近中の潜水艦をなんとしても撃沈しろ!可能であれば拿捕しろ」


 そしてヒューイット少将は戦艦と巡洋艦以外のすべての駆逐艦10隻を潜水艦の迎撃に向けた。恐らくその何隻かは返り討ちに遭うだろうが必要な犠牲だ、彼はそう考えた。いや考えようとした。


 この時既に彼の判断力はおかしくなっていたのかもしれない。空母が失われた今、本来ならば上陸作戦は即時中止とされるべきであった。駆逐艦を迎撃に向かわせた事も、これまでの情報や空母部隊を仕留めた敵の手際から全て返り討ちにあう可能性も高い。だがここで引いた所で待っているのは厳しい査問である。彼は賭けに出てでも大きな成果を挙げる必要があると考えていた。



――ヴィシー・フランス艦隊 戦艦ジャン・バール


 目の前で敵の駆逐艦が一斉に反転した。そして日本の潜水艦へと向かっていく。慌てて仏軍の残存艦艇が追おうとするが、その前に2隻の戦艦と4隻の巡洋艦が立ちふさがった。既に米艦隊は仏艦隊への砲撃をほとんど止めていた。仏艦隊はどれも艦上構造物を滅茶苦茶に破壊されほとんど攻撃力を失っている。仏艦隊は米艦隊に弄ばれている様な状況だった。


「これでは本末転倒ではないか!何としても助けに向かうのだ!このままではフランス海軍の恥となるぞ!艦をぶつけてでも敵の封鎖を突破しろ!」


 ジャン・バールの艦橋で顔を真っ赤にしたミショリエ中将が叫ぶ。だが依然としてジャン・バールの主砲は復旧していない。彼に現在使える武器はその戦艦の持つ巨体しか無かった。ジャン・バールは衝突を覚悟して単艦で米戦艦と巡洋艦に立ち向かっていった。



――遣独潜水艦隊 伊34


「やっぱり、この数を相手にするのは難しかったかな」


 木梨中佐は部下の前で初めて弱音を吐いた。伊30と伊34は接近する駆逐艦を一隻また一隻と屠っていたが、敵は数が多い上に散開して接近してくる。潜水艦の動きは鈍いため敵に散開されるとどうしても連続して攻撃できない。なんとか4隻の駆逐艦は仕留めたものの、このままでは敵の対潜兵器の射程に入るのも時間の問題だった。


「やられる前にせめて仏艦隊だけでも助けるか。少し遠いが戦艦を仕留めてしまおう。皆、こんな結果となって済まない」


「艦長、気にしないでください。誰も後悔なんぞしておりません。むしろ無茶を聞いて頂けて全員感謝しております。共に戦えて光栄でした」


 先任以下、発令所の皆が木梨に頭を下げていた。


「私もだ。先任、そして皆もありがとう」


 木梨は頷くと戦艦ノースカロライナに向けて2本の魚雷を発射した。



――トーチ作戦部隊 旗艦 重巡オーガスタ


 ヒューイット少将は駆逐艦と日本潜水艦の戦闘を観察していた。嬉しい事に駆逐艦らは日本潜水艦を追い詰めつつあった。4隻の駆逐艦が、いやたった今5隻目が失われたが、もうすぐ駆逐艦の攻撃範囲に入る。一旦潜航を強要出来れば後は通常の対潜戦闘と変わらない。問題なく処理できるだろう。浮上降伏してくれれば御の字だが、沈めてしまっても後でフロッグマンを送れば良い。ヒューイット少将はほくそ笑んだ。


 その時、ノースカロライナの舷側に2本の水柱があがった。どうやら日本の潜水艦は自らの防御より仏艦隊の救援を優先したらしい。敵ながら見上げた根性だった。ノースカロライナは急速に傾いていく。その様子を見ながらヒューイット少将はこれで賞罰の天秤はどのくらい傾くかと考えていた。すでに彼の中では色々な物が麻痺してしまっている様だった。


 更にワシントンの舷側にも水柱があがった。速度を落としたワシントンの後方からジャン・バールがぶつかる。魚雷と激突の衝撃で舵機が故障したのかワシントンはフラフラと明後日の方向へ進み始めた。


 そしてヒューイット少将の乗る重巡オーガスタの目の前をボロボロになったジャン・バールが通り過ぎようとしていた。もう遅い。今更そのボロ船で何が出来るのか。ヨロヨロと進むジャン・バールを見て彼はせせら笑った。もう面倒だ。沈めてしまおう。彼はジャン・バールに止めを差すべく自艦での雷撃を命じようとした。



――ヴィシー・フランス艦隊 戦艦ジャン・バール


 自分達が追い詰められているにもかかわらず、この期に及んで日本人達はこちらに助けの手を差し伸べてきた。すでに一隻の戦艦は横倒しとなり、もう一隻も明らかに戦闘不能となっている。


「まったく日本人という奴は……」


 ミショリエ中将は呆れていた。また返しきれない恩をフランスは抱え込んでしまった。霞む目を拭って目の前の重巡を睨む。戦艦の包囲は突破したが、まだその先に重巡が立ちふさがっていた。その重巡は敵艦隊の旗艦らしかった。その時、待望の報告がもたらされた。


「電路復旧しました!主砲、使用可能です!」


「目標、右舷前方の重巡!あの糞野郎を吹き飛ばせ!」



――トーチ作戦部隊 旗艦 重巡オーガスタ


 冷ややかな笑顔で雷撃を命じようとしていたヒューイット少将の顔が凍りついた。死んでいたはずのジャン・バールの主砲塔が旋回したのである。そしてオーガスタに向けてピタリと狙いを定めた。


「早くあの戦艦を雷撃し……」


 彼が命令を出すことは出来なかった。ジャン・バールの主砲が火を吹き、4発の主砲弾がオーガスタを貫いたのである。やや旧式ながら水上砲雷戦に特化したノーザンプトン級重巡は排水量の割には良好な砲戦力と防御力を持っている。だが至近距離で放たれた15インチクラスとしては最強の砲弾に耐えられる訳が無かった。


 左舷前方から砲弾を受けたオーガスタは艦の前部が粉砕され瞬時に右舷へ横倒しとなった。そして大きな爆発を起こすと大西洋に沈んでいった。



 旗艦を失った事で次席指揮官となった戦艦ワシントンの艦長はすぐに撤退を決定した。既に艦隊は空母2隻に戦艦1隻、重巡1隻、駆逐艦10隻を失っている。自艦も舵機が損傷しまっすぐ航行する事もままならない。やっかいな潜水艦は健在な上、敵戦艦にもまだ戦闘力が残っている。もう上陸部隊の支援など不可能であった。


 不幸な事に戦艦ワシントンの艦長は帰投後に査問会にかけられる事となる。自艦が被雷した後にとった行動に敵前逃亡の疑いがかけられたのだ。確かに周囲から見ればノースカロライナとオーガスタを見捨てて逃げたようにしか見えない。最終的には責任を問われなかったものの、彼のキャリアは閉ざされる事となる。


 また、戦艦ワシントン自体も被雷とジャン・バールの体当たりにより新造時からの問題であった振動問題が再発悪化し、結局この戦争が終わるまで実戦に復帰する事は無かった。



――ノルウェー トロンヘイム 独戦艦ティルピッツ


 ティルピッツら独艦隊は特に大きな被害も無くトロンヘイムとナルビクに帰りついていた。


「日本人達も無事ロリアンへ辿り着いたそうだ。フランス人らは中々の根性を見せたらしい。我々も負けておれんな」


「最初はどうせ囮作戦だからと期待もしておりませんでしたが、なかなかどうして楽しめました。これでイギリスも懲りた事でしょう」


 司令官のシュニーヴィント大将は今日も上機嫌だった。トップ艦長も同様である。セーヌ作戦に対応して英国は戦艦ネルソン、ロドネー、クイーン・エリザベス、マレーヤ、巡戦レナウンを中心とした戦艦部隊を出してきた。だがKGV級を欠いた戦艦部隊は独艦隊に追随できず、しかもその練度は目を覆わんばかりに低下していた。


 結局、ネルソンとロドネーは何ら戦闘に関与できず、突出してきたレナウンはフッド同様に轟沈の憂き目に遭い、クイーン・エリザベスとマレーヤは隻数では優位であるにも関わらずティルピッツにしたたかに打ち据えられ中破してしまう。


 かつて七つの海を支配した栄光ある艦隊の姿はもうどこにも無かった。



――遣独潜水艦隊 伊34


「何とか助かったな。今回は本当に危なかった」


 米艦隊が立ち去った後、伊34は浮上航行していた。隣には伊30もいる。どちらも目立った損傷は無い。だが魚雷はほとんど撃ち尽くしていた。駆逐艦群との戦闘で外した魚雷もあったため、床下の魚雷庫の分を合わせても伊34は6本しか魚雷が残っていない。伊30に至っては床下の4本しか残っていなかった。


 2隻は周囲を仏海軍の艦艇に守られて航行している。とは言っても仏艦はどれもボロボロだった。傍目にはどちらが護衛しているのか分からない程である。ロリアン沖で護衛が独海軍に引き継がれると、仏艦隊は意気揚々と帰って行った。廃艦同然にしか見えないジャン・バールの艦橋で指揮官らしい将官が大きな身振りでいつまでも手を振っていたのが印象に残った。フランス人は感情豊かな人が多いんだな、そう木梨は思った。


 そして昭和一七年(1942年)8月、2隻の潜水艦は長い航海を終え、ついにロリアン港へ辿り着いたのだった。

やっと遣独潜水艦がドイツに到着しました。長かったです。

映画のノリが抜けていなかった様です。すいません。日本の潜水艦が主役のはずでしたが、なぜかフランスに主役の座を奪われてしまいました。

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― 新着の感想 ―
フランス海軍が激アツだわ
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