森の歌声
「そういえば、ガハラ。岩鉄に明日の授業で使うモリヤテヒキガエルとペニツルカンゴタケを取ってくるようにたのまれてなかったけ?」
「あ、いけね!忘れてた……」
宿題をやり忘れた……というよりはほとんどやらなかったがためにガハラは岩鉄の罰を受けるとこになっていた。
こればっかりはガハラが悪いと思う。アイドルを思う気持ちはわかるが、まず身の回りのことを考えてからだと思う。
まぁ、今回の罰は極めて軽い方だから苦労することもないだろう。
「はぁ〜、鬱だな……」
このまま、寮に戻ろうかと思ったが、意気消沈するがガハラみて、やれやれと思い仕方ない
「手伝ってやるよ。」
「マジか、流石は心の友よ!」
わかったからそんな目で抱きつくのはやめてほしい。まぁ、今回は俺にも原因があるし、ちょうど暖炉の薪のスックがなくなりそうだから手頃な枝を拾いながら手伝おう。
「んじゃ、俺はモリヤテヒキガエル。バサラはペニツルカンゴタケな。」
「はいよ。」
ガハラは網を持って上流の方へ向かい、バサラは手頃なカゴを腰に巻きつけて竹やぶが生い茂る森へ向かった。
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「あった、あった。」
森の中を進むと竹やぶが生い茂る場所へと出た。
そこには普通の竹よりもひと回り細いタケが長くずらりと並んでいた。
ペニツルコングタケは条件さえ揃えばどこにでも繁殖する強い生命力と、他の植物より水や栄養分を吸収するためその土地にはペニツルカンゴタケ以外生えることはない。
それゆえ、農家の宿敵であり。雑草よりも厄介なのだ。
ほとんどは捨てられるが、味は絶品だしすり潰して粉末状にすれば風邪薬の代用にもなる。
折れないように慎重にとっていく。まぁ、生命力が強いから折れてもそこから生えてくるが根っこの部分が1番美味しいのでゆっくり地面を掘り進める。
一時間後
「ふぅ、結構取れたな。」
カゴいっぱいになったペニツルカンゴタケを見て満足するバサラ。
岩鉄に要求された本数は充分にあるし、余ったやつは天ぷらにして食べよう。
日が落ちてきた事だし、これ以上森にいるのは危険だからバサラは引き返す事にした。
道中
「あの馬鹿の方は取れたのかな?」
モリヤテヒキガエルは上流に行けば、沢山いるが巨体な割に跳ねるし飛び回るから結構捕まえるのに苦労する。
まぁ、忍耐と体力が自慢なやつだから心配しなくてもいいか。
むしろ、お腹が空いたからって焼いて食べてたりして。
「うえ……」
焼いてるところを想像すると気持ち悪いとしか思えず吐きそうになった。そもそもあのカエルには猛毒があるから食べれないんだった。
いくらアホのガラハもそれくらいはわかっていると思う……多分。
まぁ、食べても腹痛が起こるだけだから死ななきゃ問題ない。
カゴから食材が飛び出さないように慎重に歩いているとどこから女性の声が聞こえてきた。
「あっちか?」
声のする方は道が開拓されていないい、わば獣道出会った。草木はぼうぼうでゴツゴツとした岩が目立ち、何よりこの不安定な地面。
マングローブでも雨が降ったわけでもないのにドロドロとした柔らかい地面に苦戦しながらも声の方向へと進んでいく。
一体この声はなんなのか、歌のように聞こえるがこの先に何が待っているのだろうか。
期待と不安をのそ負いながらも無我夢中で足を動かす。
「あ、なんだここは?」
しばらくすると、広場のような場所に出た。
見渡す限りの草原でほのかにふく夜風が心地いい。
新月のはずなのに、ここだけなぜか満月で明るい。
この森にこんな場所あったけ?
こんなに広い草原ならかなり目立つはず。なのに、どうして地図にないのだろうか。
奇妙な場所。しかし、どこか懐かしい感じがする。
初めて見たのに……
呆然と草原を眺めていると、またあの声が聞こえた。
先ほどよりも鮮明にそして、それは美しい歌声であった。
大地が森が空が……全てが1つになっていく感じだ。
何かに導かれたかのように進むとそこには少女がいた。
鮮やかで多彩な巫女服を纏い、祈るように歌っていた。
彼女が舞うたびに、心がどんどん満たされていく感じがする。
よく見ると、彼女の周りには様々な色をした光る球体がくるくると周っている。
まるで、子供が無邪気に遊んでいるかのように……
気がつけば、その少女にバサラは目入っていた。
その歌声もさることながら、それよりも目を引くものがそこにはあった。
腰まで伸びた雪のように白く美しい銀色の髪。ガラス細工のように繊細できめ細やかな肌。
瞳の色が左右異なっていた。
右目は炎よのうに赤い真紅の瞳。
左目は蒼穹のごとく透き通った蒼色の瞳。
そう、彼女はオッドアイだった。
しかし、その表情はどこか悲しそうだ。
「あ……」
気がつけば、バサラの右頬に一滴の涙が伝っていた。
混乱するバサラ。
わからない。なぜ自分は泣いているのか。なぜ、こんないい歌声を可哀想としか思えないのか……
救ってあげたい
そんな気持ちがどこからかわいてきた。
しばらくして、歌が終わりを迎えると球体が地面に吸い込まれるかのように消えていく。
そして、命が尽きたかのように倒れこむ少女
「大丈夫か!?」
本能的に体が動き、優しく彼女を受け止めた。
「息はある。だが……」
すごい熱だ。しかもどんどん心臓が弱まっていく音と呼吸が激しくなっているのがわかる。
このままでは、死んでしまう。
バサラはカゴの中からペニツルカンゴタケ掘っている時にたまたま見つけある植物をを取り出してそれを手の中で握りつぶす。
すると中から独特の匂いを放つ液体が漏れる。
「頼む、聴いてくれ」
それを少女に飲ませる。
すると、熱が引いていき血流が良くなって肌の色が明るくなっていった。
「…………んっ」
しばらくすると彼女の瞼が少しずつ開いていく。
「よう、大丈夫か?」
目の前の光景に驚きを隠せないのかあたふたし始める少女を安心させるためにそっと頭に手を置く。
「俺はバサラっていうんだ。君は?」
「………リース。」
「そうか、リースか。いい名前だ。」
「ん……」
頭を撫でると、リースと名乗った少女はまた倒れこんでしまった。
「………んん……」
可愛らしい寝息が聞こえる。多分、疲れてたんだろう。
バサラは自身の制服を脱いでそれを優しくリースにかけた。
ポカポカしてきて暖かくなったとはいえ夜はやはり寒い。風邪を引いちゃうといけないしな。
色々と聞きたいことはあるが、ここは彼女が起きるまで待つことにしよう。
「はぁ〜」
安心したかと思うと、とてつもない疲労感に襲われた。
味が棒になり、自然と体がゆっくり倒れ目の前の景色が夜空に変わった。
「綺麗だな」
こんなに星をはっきり見たことがない。つかめそうでつかめない、近くて遠い。そんな感じだ。
バサラはゆっくりと瞳を閉じそのまま、眠りについた。
この出会いをきっかけにバサラの運目は大きく揺れ動くことをまだ誰もしらない。