勇者様御一行
長ったるい理事長の話が終わって、やっと解放されたバサラはあることに悩んでいた。
今日は始業式だけなので午前中で学校は終わりだ。
特にやることが無いので、このまま帰るべきかそれとも図書館で勉強するか。
どうしようかと首を傾げていると、不意にガハラガラ声をかけてきた。
「なぁ、この後どうする?」
どうやら、あちらも暇なようで俺と同じ事を考えていたらしい。
「そうだなぁ〜、取り敢えず食堂に言って昼食にする?」
「賛成!」
ちょうどお昼頃だし、この時間ならピーク時よりも空いてるだろうし。
席を立ち、食堂へと向かった。
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「なぁ、知ってるから最近、勇者様御一行がダンジョンの20階を突破したらしいな。」
「知ってる、今朝の新聞の一面を飾ってたよ。」
ダンジョンとは世界各地に広がる迷宮のことだ。
ダンジョンの中には凶暴なモンスターが存在する。スライムやオークといった代表的なのもいればドラゴンなどのレアモンスターといった凶獣もいる。
モンスターを討伐して、部位を取ったり隠されたアイテムを探したりして換金するのがステータスだ。
ちなみに、この学園にも人工的に作られたダンジョンが存在する。
学生専用のダンジョンなのだ。
普通ダンジョンで殺されれば死亡するがこのダンジョンだけは危なくなると自動的に入口へとワープするように魔法がかけられているそうだ。
自分の腕がどこまで通用するのかにうってつけなんだとか。
無論、出てくるモンスターは本物であるため、部位を持ち帰って換金することもできる。
「しかし、すげーよな。千年ぶりの聖剣適合者が俺たちの学院にいるなんてよ。俺たちとは天と地ほどの差があるぜ。」
ガラハの言うことに共感するバサラ。
その聖剣適合者の名はバルト・ラメンスト。
バサラ達と同じ平民出身だが、聖剣に選ばれたことによって彼を取り巻く状況は一変したそうだ。
その後勇者の後継者となったバルトは国王の娘と婚約をし、次期国王の座に着いた。
そして、バサラと同時期にアリステル学園に首席で合格。
2年でありながら生徒会副会長の座に着いている。
近い存在のはずなのに、ここまで遠くなると本当に人生何が起こるかわかないなと思うバサラだった。
「お、見ろよ。噂をすれば勇者様御一行だ。」
ガハラが指差す方向には、庭園を堂々と歩く勇者様御一行が目に映った。
8人で構成された勇者様御一行のチームは学園でも屈指の実力者ぞろいだ。
巨大な斧を構え、本当に学生か?と思うような巨漢をした男子生徒や巫女服を着た可愛らしい少女。中には獣人族やエルフといった地種族も混じっていた。
その真ん中にいるが、リーダーのバルトだ。
彼があわられると、学園中の女子達が黄色い声援を浴びせ、男子共からは嫉妬の嵐。
そんな男子達もバルトのチーム女子に夢中だ。
それに比べて、俺は……
「はぁ〜……」
「なんで、ため息をついたんだ?」
「別に……世の中は不平等だな〜ってね。」
箸を動かしていた手が止まり、食欲が失せた。
「なんだ、食欲がないのか。なんならもーらい!」
食欲が失せた事を確認した途端、遠慮なくバサラからおかずをむしり取る。
いつもなら、怒るところだが今はそんな気力もない。
はぁ〜、と春なのに冷たいため息がでる。
ため息ばかりついてると幸せが逃げるぞってどっかの誰かが言ってたけどため息つくのって不幸の時ぐらいしかないよね。
もともと幸せが逃げているのだから矛盾している。
まぁ、我慢しろということなんだろうけど。
昼食を食べ終えたバサラ達は食器を片付けた後、なんの進展もないまま、外に出た。