落ちこぼれ
聖騎士育成機関、アリステル学園。
大陸中から聖騎士を目指す若者が集う場所だ。
その中でもアリステル学園は大陸屈指のエリート校である。
アリステル学園は自由、平等を掲げているが、そんなのは表だけである。
実際には力こそが全ての完全実力主義なのである。
ここに通うようになってから2年あまり、バサラ・アルスタインはいつものように学園に登校した。
2年F組。それが俺のクラスだ。問題児や落ちこぼればかり集められた最下級のクラスである。
上級生からも下級生からも馬鹿にされたり軽蔑されるがもう慣れた。
相変わらず硬くて開けづらいドアを入ると45人いるはずのクラスメイトのうちわずか3人しかいなかった。
サボりか、はたまた退学になったのか。どちらにしろいなくなったところでどうでもいいだろうな。
春休みが終わって、新学期の始まりである。進級試験をギリギリでなんとか受かったが、二週間後の実技のテストと筆記試験で赤点を取ったらバサラは今度こそ退学である。
まぁ、今は進級できたことの喜びに浸かろう。
席に座ると後ろの男子から肩を叩かれ、話しかけれるた。
「よう、バサラ。宿題やったか?」
話しかけてきたのは、悪友のガラハ・マレスタイン。女子風呂を覗くのが趣味な変態である。でも、根は良くて話せば分かり合えるやつだ。
「もちろんだよ。もし提出出来なかったらこれだからね」
親指を下にして首筋をなぞるように滑らせる。退学という意味である。
ただでさえ、成績が良くないのだから授業態度と提出物をきちんと出して単位を取らなくてはならない。
「お願いだ!見せてくれ!」
予想通りの返事にバサラはため息をつくしかなかった。
宿題と言っても自由研究作文6枚と座学プリント3枚と例年に比べて比較的少ない量なのに、なんでこいつはいつも宿題をやらないのだろうか。
「理由は?」
「実は母ちゃんが病気で……」
「はい、嘘〜。」
「ちっ!」
おばさんが病気になるなんてありえない。元気の塊みたいな人だし。
嘘がばれて舌打ちをしているガラハだが、もうこのやりとりは日常茶飯事。いい加減気づいてほしい。
まぁ、なんでやらなかったのかはおおよその見当はつく。だいたいおこがましいことの理由はいつも……
「いやー、最近できたアクラスタジアム知ってるだろ?」
「あー、あれね。チケットが30秒で完売したって新聞で読んだ」
正確にはラフェストアクアスタジアムである。ラフェストとは世界有数の大貴族ラフェスト家の事である。
大人から子供まで楽しめるだけあって季節関係なく満員御礼なんだとか。
「実は、そこに有名アイドルグレープのシールズが水着ショーに出てな。これはどうしてもこの目で焼き付けないといけないと思ったんだ。」
初めて聞いたその情報にバサラも少し驚いた。今、人気急上昇中のシールズがこの国の近くに来ていたのか。
普段、アイドルなどに全く興味の無いバサラも彼女たちの活躍を度々新聞の記事で読んでいたので多少のことは知っている。
「でな、いつ来るか極秘扱いだからあの工場の煙突でてっぺんでずっと張り込んでたんだ。」
指差す方向に向くと、そこには街全体を見渡せるほどの大きな煙突が。
水着姿を見たいがために、あの梯子も無く常に黒煙がでる煙突の上で張り込んでいたようで、宿題をやる暇がなかったんだとか。
その根性に呆れつつもどこか見習いものだと思ってしまうバサラ。
「で、結果は?」
「もちろん!この目にしっかりと焼き付けたぜ!!」
張り込んだかいがあったようで本人はとても満足そうだ。
「あれ、なんか忘れてるような……」
話がずれていたことにようやく気付いたらしく、気がつけば授業開始時間の5分前。
「あ、そうだ!宿題を見せ……」
言いかけたその時、不意に教室のドアがガラガラと音を立てながら開いた。
「おう、お前ら。授業を始めるぞ。」
運悪く先生が来てしまった。それも、1番厄介な熱血岩鉄教師のマックス先生だった。
その後、宿題を忘れてる岩鉄にこっぴどく怒られたガハラの悲鳴が学園に響き渡ったのは言うまでも無い。