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第三話 此の親にして此の子あり

 全国約一千万の猫の諸君、宗教というものをご存じだろうか?


 宗教とは人間共が自身や世界がのっぴきならない存在に支配されていると想定した思想である。

 この世に蔓延る人類の過半数が様々な宗教を信じていて、生涯をかけて献身的に崇めているというのだから凄い。商売に利用したら大儲けできそうだ。

 故郷のトラ爺から聞いた話によると吾輩達の住んでいる島国は八百万の支配者によって治められているらしい。吾輩の身近な人類は八百万の支配者を望んでいる従属欲求の強い連中のようだ。家畜願望生物め、確かそういう奴らの事を人類語で『社畜』と言うのだ。宗教は一定のコミュニティで発生する現象なので、たぶん『社会性豊かな畜生の群れ』の略だろう、言い得て妙だな。


 とにかく吾輩達猫類からは及びもつかない心理で作られた迷信、それが宗教だ。


 普段は人間共の社畜根性を鼻で笑うばかりの吾輩だったが、今こそはそれを改めねばならない。人類も猫類も等しく追い詰められて困窮した状況下では助けを乞いたくなるものだ。溺れる者は藁をも掴むし、今際の念仏誰も唱えるし、人窮すれば天を呼ぶのだ。誰か吾輩を助けてくれにゃいか?


 現状の吾輩は腰が抜けて逃げることもできない。キモい人こと佐藤ノナリー(スケフジ哲也)の魔手に絡めとられて、されるがままにキングサイズベッドへと横たえられた。

 ノナリーは荒い鼻息を「ぐふふ」と漏らした。

 彼奴の両手は吾輩を包み隠したピンク色のフリフリ衣服の、胸元に咲いた小さな飾り帯を解こうとして右往左往している。実際に吾輩をすっぽんぽんにする工程で飾り帯は関係のないフェイクだが、それを指摘して背面のジッパーを差し出すような愚かなマネはしない。

 この可憐なるピンク色のフリフリは吾輩の最後の砦なのだ。

 フリフリ型の防波堤が決壊した先に待っている残酷な未来など考えたくもない。


「ぁ、っ……その、落ち着こう。一旦落ち着いて考え直そう。な?」


 吾輩は震える声を絞り出して、覆いかぶさる悪漢の説得を試みる。


「衆道なんて何年も前に廃れた文化だし。非生産的な行為に意味なんてないんじゃないか?」

「ぐふふふふ、人間は意味のないことに意志を見出す数少ない生物だ。つまりねこみみはかわいい、かわいいはジャスティス! かわいいはフリーダム! おお! なんて素晴らしき自由! 正義! 民主主義! 僕と君は民主主義の名のもとに結ばれる運命だ!」


 無茶苦茶だ。

 この狂気に駆られる狂人には如何なる冷静な判断も期待できない。

 このようなどうにもならない状況下でこそ、非実在聖支配者に助けを乞いたくなるところだ。信心深くない罰当たりな吾輩といえど八百万もいる支配者様方のことだ、誰か一人くらい助けを寄越してくれるに違いない、そう思う、そう思いたい。誰か助けて。


「そ、そうだ! 吾輩には今ここで直ちに貴様の愛に答えることは出来ない理由がある!」

「ぐふ? 理由?」


 苦し紛れの妙案を捻りだしてから一時的に変態の猛攻を押し止めた。


「わわわ吾輩は敬虔なる信徒である。宗教上の理由で婚前交渉は固く禁じられているのだ」


 苦しい、本当に苦しい言い訳だが、現在の吾輩にはこれ以外で奴の蛮行に抗う術が思いつかなかった。

 人類にメタモルフォーゼした後の吾輩は手足が細く、力ではノナリーに対抗できない。全く信じていないがのっぴきならない存在の威光にすがるしかない。


「……宗教上の理由、ぐぬぬ」


 ノナリーは吾輩の上で腕を組んで、難しい表情になった。

 宗教自体が人間にとって都合の良い物語なので、数分前まで猫だった吾輩が途端に敬虔な信者になるなんて有り得ないにも程があるのだが、このキモい人は気が付いていない。しかも同性を無理矢理手籠めにするような無頼漢も宗教上の理由を無視はできないようだ。ありがとう人間共の奇妙な習性、びば信仰、はらしょー八百万ののっぴきならない超越者様。ありるいや! ありるいや!


「ちなみにどの宗教に帰依しているの?」

「にゃ?」


 しまった。一口に宗教と言っても世の中には沢山の宗教がある。時として宗教観の違いから同族同士で争ったり、大衆の恐怖心を煽る組織的暴力行為を正当化するために騙られるなど、近年の宗教団体は無数にあるのだ。

 嗚呼ヒューマン、じぇいぺぐに残らない存在を崇める点ではどれもこれも似たり寄ったりじゃにゃいか、一本化してくれ、ややこしい。

 当然ながら人の崇める宗教なんて猫の知るところではない。具体的に述べろと言われても困ってしまうのだ。


「に、にぃーんじん、ぴーまん、きゃべつ……きゃべつ教? とか」

「ぐふふふぐふふふふ。きゃべつ教! 数年前に壊滅したと風の噂で聞いたが存続していたのか、なるほどきゃべつ教ならば仕方がない。ぐふふ、婚前はダメか、ぐふふ」


 吾輩に覆いかぶさっていたノナリーは何が面白いのか、例のキモい笑い声をこぼしながら退いた。


 あるのか『きゃべつ教』。ものは試しに言ってみるものだ、言った者勝ちだ。

 この際、あるならあるでどんな教義の教団でも構わずに利用してやろう、ノナリーの口振りからして謎の新興宗教団体『きゃべつ教』は乱交とかを御法度にしているに違いない。

 貞操が守られるのなら社畜道でも喜んで歩こう、吾輩は今日から立派な『きゃべつ教』の信徒だ。


 そして必ずや隙をみて逃げだしてみせる。

 吾輩はこの瞬間から崇め始めた見知らぬ超越者に誓いを立てた。




 ***




 どうしてこうなった。


 十回目以降は数えるのをやめた疑問が、吾輩の脳内で反芻された。

 吾輩は座り心地が良い割に居心地の悪いソファーの上で身を縮めて座っていた。


 吾輩が緊張を強いられているその場所は広々とした一室に、豪奢な照明、豪奢な暖炉、豪奢なアームソファーが六脚、豪奢なセンターテーブル、豪奢な観葉植物、豪奢な犬を象った大小様々の石像、豪奢な絵画、豪奢なシカの首のヤツ、豪奢な……豪奢なヤツ、など、取りあえず頭に『豪奢な』と付けておけば描写をサボれそうな類いの家具や調度品の数々が節操無しに並べられている、佐藤家の応接室だ。


 応接室に用意された六脚のアームソファーの内、四脚が尻に敷かれている。

 まず一脚に尻を乗せているのが吾輩。その隣の一脚にキモい佐藤ノナリー(スケフジ哲也)がキモい腰を掛けている。そして吾輩達からはセンターテーブルを挟んだ反対側の二脚にそれぞれ人のオスとメスが座っている、彼らは同年代のつがいなのだろう、どちらも吾輩やノナリーに比べて高齢者だった。

 彼方のオスが座っているアームソファーの斜め後ろには燕尾服を来た一人のオスが真っ直ぐに立ち、目を伏せていた。


 合計五人の人が居合わせているにも関わらず応接室は水を打った静けさに包まれている。

 週に二回行われる猫集会では三匹集まった時点で下ネタ談義に花が咲いて喧々囂々のしゃべり場と化すのに、なんだこいつらなんでこんなに静かなんだ、それで満足なのか、実はその後ろの棒立ちのヤツとかよくできた蝋人形じゃないのか、そう思えてならない。


 吾輩は隣りに腰掛けた、この状況の元凶である人物を睨み付けた。


(なぜ吾輩が貴様の両親に紹介されなければならないのだ。しかも、なんなんだ貴様の家庭は。面接だってこれよりフレンドリーだぞ)


 吾輩の抗議の眼差しが通じたのだろう。ノナリーは嫌らしい眼差しを返した。


(ぐふぐふぐふ、婚前がダメなら婚後でいいじゃない! さっさと結婚して明るい家族計画!)


 下半身でモノを考える単細胞生物め、忌々しいアイコンタクトが成立したことすら反吐が出る。

 吾輩やノナリーの腰掛けた側から反対側に居並んでいるつがいは、吾輩の唾棄すべき未来の旦那様こと佐藤ノナリーの両親である。

 事前にノナリーからうけた説明が正しければ彼らは大の猫嫌いだ。

 紹介されてから十数分近く吾輩の頭部や臀部付近で揺れる猫々しい部位を凝視されているのだが、そろそろ目からビームが放てるだろう。やはり彼らは猫嫌いなのだ、吾輩は猫の化身なんだけど、どうしよう猫嫌い的に吾輩はセーフなのかアウトなのか。


 つがいの内のメスはまだいい、彼女は柔和な雰囲気を醸し出している人物なので直接吾輩に危害を加え無いだろう。しかし、その隣のオスはどうしたことだ。

 顔面が岩石で出来ていると説明されても納得できる強面で図体は樋熊のように大きい。噛み付かんばかりに吾輩を睨み付け。彼の片手には一口の刀が抜き身で握られている。彼の着用している白い縞々のスーツには縞をなぞる様に『斬捨御免』という言葉が全身に記されていた。


 吾輩はノナリーの父親と極力目を合わせないように俯いた。

 事と次第によっては本当に斬捨御免されそうで怖かった。


「それで」


 件の父親が口を開いた。大地を震わせるような声色が吾輩のねこみみに轟いて、波紋のように全身を震わせた。吾輩の括約筋が今現在も懸命に働いているのは奇跡だ、ちょっと気を抜いただけでお手軽に失禁できる程度のプレッシャーが襲い掛かっているのだから。


「貴女はネネコさんと言ったかな。倅とは結婚を前提に交際していると、そういう認識でよろしいか?」


 ちなみに『ネネコ』とはノナリーが急ごしらえで用意した吾輩の名前である。

 吾輩には故郷のご主人様から頂いた名前があるのだが、彼奴に教えるつもりはさらさら無いので黙っていることにした。『ネネコ』とはなんだか女々しいような名前だが、女々しい名前には慣れているので特に気にしていない。


「は、はい! いいえ! なんというかその、結婚を前提というか、前提が間違っているというか」


 そもそも吾輩はオスなので人類の定めた法律的にオスのノナリーと結婚できない、なぜその事実が真っ先に指摘されないのだ。確かに現状の吾輩はピンクのフリフリで着飾っているけど、それでもなお吾輩の溢れんばかりの漢気は輝き続けているではないか。


「やぜらしかッ!!」

「ひゃ、はい、結婚しますっ」


 親父殿の溢れんばかりの漢気の前に、吾輩の漢気が吹き飛んだ。

 いくら漢気溢れる吾輩といえども、抜き身のポン刀を振り回している人物から恫喝されて悠然としていられる傑物ではない。

 吾輩は尻尾を器用に使い、隣りでボケっとしているノナリーを突っついた。何もかもこいつのせいだ、こいつのせいで、吾輩の漢気に傷が付いたのだ。

 ノナリーは幸せそうに微笑んだ。


「あらあら、時と場所を弁えずに乳繰り合うなんて碌な教育を受けていないお嬢さんだこと、まるで糞ガキだわ」


 柔和な雰囲気の佐藤夫人が、柔和な笑顔のまま辛辣なセリフを吐いた。

 人は見かけによらないと云われているけど彼女ほど見た目と言動が解離した人物も珍しいだろう。母上殿は親父殿とは別のベクトルで怖かった。吾輩は満面の笑みに睨まれている。


「メスガキの分際で佐藤家に取り入ろうなんて、なんて豪胆な人なのかしら。ねぇ? 身の程知らず、って言葉は御存じ? 未開人には難しかったかしら? 厚顔無恥なのかしら? あはっ」


 吾輩なんでそこまで言われなければならないのだ。

 ノナリーへ助けを求めるようにアイコンタクトを飛ばした。


(ぐふふ、僕の母はとても純粋で影響を受けやすい人だ。最近は韓国のドラマを絶賛していたから、韓流ドラマ特有の『意地悪な姑』に感化されているんだろう)


 韓国とはなんだろう、字面を見るに国なのか? 地理の勉強は始めたばかりだからまだエジプト・アラブ共和国とアメリカ合衆国しか分からない。

 ノナリーの談が正しければ彼女に悪気はない、表情と言動の解離はそれが理由だったのだ。


「まぁまぁ母さんそのくらいにしなさい。ネネコさんが怯えているじゃないか」


 驚いたことに親父殿が助け舟を出した。吾輩が罵倒されて右往左往している様を見かねたのだ。

 現在進行形で刀剣をフルスイングしている以外は案外まともな人物なのかもしれない。うむ前言を撤回する、会話中に刀剣を素振りしている人物はまともではない、この屋敷に来てから度し難い環境に晒され続けて吾輩の常識が歪み始めているようだ。あぶない。


「年頃の倅に浮いた話が一つもなかったので、私達も心配していたところだ。ホモかもしれないとな。だからネネコさん、貴女と倅の交際は大変喜ばしいものだ」


 親父殿の眉間に刻まれた皺がより一層深くなる、くわっと目を剥いた。

 喜んでいるのか、喜びの表情とは一体何なのか。

 ただ一つ、残念ながら彼らの息子は彼らの懸念していた通りのホモだ。吾輩が親父殿の恐ろしさに恐縮していなければ、部屋の窓を開け放って「御町内の皆さま! スケフジさん家のノリナリ君はホモでありまーす!!」と叫んでいただろう。きっとどこかのアパートの管理人さんにも届いていただろう。でも吾輩はそんなことしない、命が惜しいからである。


「……しかしっ」


 親父殿が手に持った刀をへし折った。


 親父殿が手に持った刀をへし折った!?


 自分で描写しておいてなんだが、つい二度見してしまった。

 吾輩の心境が冷え切っていくのと対照的に親父殿の顔がより一層険しくなる。


「我が家は弥生時代から続く伝統ある犬派の家系だ。当家の敷居を跨ぐ上で何人たりとも『ねこみみ』や『ねこしっぽ』の着用は許されていない。ネネコさん、どういうつもりですかな?」


 実際には吾輩のコレとソレは皮膚から直に生えているものなので、取り外しも交換もできない。ただそれを安直に伝えたところで打開できそうにないのが問題だった。


「えっとそのこれはなんというか、えっと、スケフジさんの家の伝統をないがしろにしたわけではなくて。吾輩……あ、いや、わたしとしても誠に遺憾ながら」


「しぇからしかッ!!」

「ひぇ、ごめんなさい、外せませんっ」


 吾輩は視界が滲んでいることに気が付いた。意図せずに涙が流れ始めたのである。普段の吾輩ならば、たとえ涙を流しても「いかん、雨が降ってきたな」とカッコいいセリフの一つでも呟く余裕がある。

 惨めだ。何で吾輩が知らないおじさんに方言で怒鳴られて泣かなければならないのだ。


 吾輩が女々しく啜り泣き始めた時、傍らでセンターテーブルを打ち鳴らす音が聞こえた。

 見やるとノナリーが立ち上がっていた。


「父さん、母さん、いい加減にしてください!」


 ノナリーが吾輩の肩を強引に掴み立ち上らせて抱き寄せた。吾輩はひくついた呼吸を整えながら、眼前に迫った胡散臭い顔を凝視する。


「僕とネネコさんは愛し合っているんです! 例え両親といえども、僕たちの仲にケチをつけることは許さない!」


 そう宣ったノナリーが吾輩に向けてウインクをした。

 まるで、君のピンチに駆けつけたよ、とでも言いたげな恩着せがましい仕草である。一つ誤解が無いように言っておくと、吾輩が現在窮地に立たされていた根本的な原因はこのド変態人類の身勝手な行動にあるのだ。それで吾輩を助けたとしても何のポイントにもならない。

 彼の恐ろしい両親がこの場にいなければ渾身の頭突きを御馳走してあげるのだが、今はこれ以上悪い状況に転がしたくない、本当に嫌でしかたがないけどここは彼の腕の中で静かにしておくのが得策だ。


「ノナリー……!」


 母上殿が目を見開いてたじろいだ。彼女の目元に涙のしずくが湧き上がっているので多分感動しているのだろう。


「倅よ、よく言うた。それでこそ漢だ……!」


 親父殿が頷き返した。彼の手には二口目の刀が握られており、彼の手振りに合わせてギラギラと光った。


「父さん、それじゃあ……!」


 ノナリーは親父殿の態度に光明を見たらしい。自分達の仲を許されたと考えたのだ。

 しかし、そうは問屋が卸さないのが現実だ。ノナリーと吾輩に向けて親父殿が「ならば」と切り出して『ねこみみ』を許容する条件を話し始めた。


「我が家の地下に広がるダンジョンから、二人の力を合わせて生還できれば、二人の愛を認めよう……!」

「な、そんな……!」


 語尾に「……!」って付けるのが流行っているのか。

 親父殿の言葉にノナリーは驚愕を表した。

 ダンジョンというと、城などの地下に作られた監獄という意味と、あと近年はロールプレイングゲームの普及により迷宮などの意味を含む言葉だ。そんなダンジョンを佐藤家は敷地の地下に保有しているらしい、アホか。


 親父殿の言葉やノナリーの態度から推察するにその佐藤ダンジョンは命の危険があるモノのようだ。いよいよもってこの家族に関わるべきではない、親父殿が怖いとかそんな事を言っている場合ではない、一刻も早くこの場から逃げるべきだ。


「あ、吾輩はちょっと化粧直しにいってくるのだ」


「問答無用! 笠井」

「はい、旦那様」


 親父殿に笠井と呼ばれた燕尾服のオスがここにきて初めての動きを見せた。どうやら蝋人形ではなかったらしい。

 彼は執事と呼ばれる職業従事者だろう、人間社会において古くから屋敷を守り様々な家事や戦闘をこなすエキスパートである。彼の燕尾服は黒色なので、所謂『黒執事』と呼ばれる執事だ、執事には他にも階級や役職ごとに『赤執事』『青執事』『白執事』果てには『虹執事』が存在している。すまん、吾輩は執事をよく知らないので適当なことを言った。


 笠井は無駄のない洗練された動きで懐から押ボタンスイッチを取り出すと親父殿に恙無く渡した。

 親父殿はその押すなと言われたら押したくなる類いの赤い押ボタンスイッチを躊躇なく押した。

 吾輩とノナリーの立っている周辺の床が観音開きの扉のように開いた。

 その間、実に一秒以内だった。

 逃げられにゃい……!


「ぐふふ、まさかこうなるとは事実は小説よりも奇なり、奇想天外だね」

「奇想天外だねじゃないわ、あんぽんたん! いい加減貴様のキモい言動と引き起こす結果にはうんざりだ!」


 地球上で万物が等しく、空中に投げ出された後は下方向に叩きつけられるだけ。

 自称愛し合う相手の顔面に頭突きを御馳走しながら、吾輩と最愛の宿敵は暗い地底へと吸い込まれていくのだった。

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