金の斧殺人事件
むかしむかし、ある男が、川の傍で木を切っていました。
ところが、その男は、うっかり手をすべらして、川に斧を落としてしまいました。
男は困り果て、遂にはしくしく泣きだしてしまいます。
――これで木を切れなくなってしまった。これではお金を稼ぐことなどもう出来ない。今までだって充分苦しい生活がさらに苦しくなってしまうのか。
すると突然、川の中から神々しい姿をした神様が手に立派な金の斧を持って現れ、こう聞きました。
「お前が落としたのは、この金の斧か?」
はい、と答えてもよかったのですが、いかんせんこの男は嘘がつけなかったのです。
「違います。私が落としたのはそんなに立派な斧ではありません」
すると神様は、今度はきれいな銀の斧を取り出して、こう聞きました。
「ではこの斧か?」
嘘がつけないこの男は、ここでもこう答えました。
「違います。私が落としたのはそんなにきれいな斧でもありません」
今度は普通の、ごくごくありきたりな――この男の――使い古された斧を手に取って尋ねました。
「では、この斧か?」
その斧を見た男は、素直にこう話しました。
「はい! それです! 拾ってください、ありがとうございます!」
その姿を見た神様は、男にこう言いました。
「そうか。お前は正直な男だな」
そして斧を3本とも男に渡しました。
――――――――
さて、男は仕事を終え、村に帰ります。
そこに寄って来たのはお隣の強欲な男。
目ざとく先程貰った金銀2つの斧を発見したようです。
「なんだ? その斧? 寄越せ」
この男は強欲なだけでなく、強引でもありましたので、腕力に任せて正直な男からその2つの斧を奪い取ります。
とは言え正直な方の男も、さりとて抵抗はしませんでした。
なぜなら、もう諦めているからです。
強欲な男との関係性について……
何も言わずに家に帰った男はしかし、悔しさに涙を流し始めました。
――もっと抵抗出来たんじゃないのか? いつもいつもこんな風に強引に稼ぎの一部を取られて……
――あの神様は自分の正直さに感心して2つの斧をくれたのに、正直どころか自分のためなら嘘を平気でつくような人に取られてしまうなんて。
――正直でなければあの斧を持つ資格なんてないのに……あの男の斧が奪われるべきなのに……
やがて男は泣き疲れ、眠ってしまいました。
そして目が覚めた時、男の脳裏にはある計画が浮かんでいたのです。
――――――――
翌朝、男は強欲な男にこう言いました。
「昨日のあの斧を手に入れたのは、川に斧を落として出て来た神様のおかげなんだ」
「ほう、そんな事があったのか。なるほど。俺もそれを試してみるとしよう」
男は嘘はついていません。
ただ、正直に質問に答える必要がある事に感付いていながら、口に出さなかっただけです。
強欲な男の事だから、きっと金の斧を落としたのかと聞かれた時に、嘘をつくと考えていたのです。
そして、男は今、恐ろしい事を始めてようとしていました。
強欲な男の家へと向かうと、そこに入り込み、その男の妻をいきなり殺してしまったのです。
昨日奪われた銀の斧を用いて。
金の斧を殺害に使用するには重すぎると知っていたのです。
そして、周りに誰もいないのを確認して、男は銀の斧を自宅へと運びました。
そして男は、昨日のあの川に向かいます。
いつものように、木こりとしての準備をして。
川に着くと、ちょうど強欲な男が川に斧を投げ捨てている所でした。
強欲な男は結局神様の怒りに触れて、斧を取り上げられていました。
男は計画通りと笑みを浮かべ、普段の仕事に取り掛かりました。
男が村に帰ると、強欲な男の妻が殺された事がもう話題になっていました。
そこで男はこう話しました。
「強欲な男が斧を川に投げ捨てているのを見た、と」
この男は嘘をついていません。
実際に投げ捨てているのですから。
それに普段の男が全く嘘をつかないのも手伝って、村人たちはこの事を完全に信じました。
そして、強欲な男は。
妻殺しの犯人だとして、村から追放されました。
こうして嘘がつけない男は自分に寄生する強欲な男とそれに寄生する妻を村から消す事に成功したのです。
めでたしめでたし。
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その後、男は金の斧を売り、裕福に暮らす……と思われましたが、その有り余るお金のせいで周囲からの恨みを買い、殺されてしまったようです。




