堕天使に出会う
今日はこの世界にとって特別な日になる
長らく閉ざされてきた他層の客がやってくる
それは宇宙人がやってくるような…ワクワクするのだが不安も残るそんな気持ちにさせる出来事だった
だが、これを期にたくさんの輸入品がこの「layer of the wisdom」を潤すだろう
我々にとっても相手方にとっても損な話ではないのだ
デット・シルヴェスター(僕)はこの日、特別早く起きてしまった
お祭りだからと早く起きるわけではなく自然と起きてしまったのだ
まだ薄暗い中、することもないので家(小屋)を出て昼には盛り上がるであろう大広場に足を運んだ
いつも僕をいじめて来るやからはこんな時間にはもちろんいない
デット「明日からはこの時間に起きようかな…」
それがあまりにも心地よくてついそんなことを呟いてしまった
小道や階段を下って下水管跡を進むとはしごがある
はしごをのぼり蓋をスライドさせるとそこは大広場だ
既に店やテーブルなどがセットされてあとは料理や酒を待つばかりだ
すると明らかに場違いな物が目に止まった
山吹色の高価そうな布を被せた四角い箱だ
デット(なんだろう…特別な何かかな…。触っちゃいけないだろうなぁ…)
目を逸らそうにもどうしても気になってしまう
デット(ちょっとだけなら…別にかまわないよね)
やはり僕も久しぶりのお祭りに気持ちが高ぶっていたのだろうか、それともいつもならいじられるはずの道を誰とも会わなかったことに弾んでいたのか
日常であれば放っておくはずの、やらないはずの行動を僕はしたのだ
ゆっくりと布をめくると奥の方に人(人型の生き物)が横たわっていた
もっとよくみようとさらにめくると突然
???「…眩しい、下ろせ」
と攻撃的に言われた
デット「ご、ごめんなさい!」
慌てて布を下ろして頭を抱えた
箱だと思っていたのは檻だった
中からは攻撃されない筈なのに僕は怯えてしまった
それほどに僕は臆病なのだ
向こうも驚いたようで物音がした
どうやら起き上がったようだ
???「…驚かすつもりはなかったんだが…申し訳ない。顔を上げて楽にするといい」
僕はゆっくりと顔を上げて檻と向き合った
???「よし、それでいい。こちらからは何も出来ないからそう怯えなくても大丈夫だよ」
デット「…ありがとう…ございます」
???「ありがとう?礼を言われるようなことはしてないよ。君は怖がりなんだね」
デット「あの…質問してもいいですか…?」
???「もちろんだよ。暇だからね」
デット「なんで檻に入ってるんですか?悪いことでもしたんですか?」
???「んん〜そうだなぁ…。これと言って悪いことはしてないけど…。多分珍しいから捕まっただけだよ」
デット「珍しい?」
???「私ね、堕天使なんだ」
デット「だ、堕天使!!?」
???「そうそう」
デット「あの…天使族の?」
???「そう」
デット「規則を破って堕ちてしまった?」
???「そう」
デット「悪いことしてるじゃん!」
???「たいしたことしてないよ。ただ、世界を1つにしようとしただけさ」
デット「世界を…1つに?」
???「突拍子もないだろう?世界は5層に分かれてる。それを1つにしようとしただけなんだ」
デット「そんなこと…」
???「できるよ。それほど私は強い」
デット「…………。じゃあ、なんで捕まったの?」
???「君は今日の客を知ってるかい?」
デット「知らないよ…他層から来るってことぐらいで…」
???「今日ここに来る、私を捕まえた奴らはね、魔族だよ」
デット「魔族…」
???「魔法と権力に目がない奴らさ。寝込みを襲わてね。まったく、つまらない奴らだよ」
デット「そうだったんだ…」
???「気をつけろよ」
デット「え…」
足音が聞こえてきた。話し声もする
???「まずい。早く後ろに回って布の中に!」
デット「で、でも…!」
???「早く!」
魔族「おーい、生きてるか〜」
???「煩いな、お前らは虫の一種か?」
魔族「お前こそ黙るんだな。立場を分かってないだろ?」
???「立場?笑わせるなよ。虫の羽音なんぞ聞いてても楽しくともなんともないわ」
魔族「今のうちにほざいておけ。時期にそうも言ってられなくなるぞ」
???「どう言う意味だ?私にもわかるようにちゃんと言葉をつかえ。虫語なんて知らないぞ」
魔族「…ちっ」
ガツンっと檻を蹴る音がして布が半分ほどめくられた
魔族「なめんなよ、堕天使!!」
???「舐めるな?こちらのセリフだよ。たかが魔族が天使に勝てるとでも思っているのか?」
それを合図に僕は布をまとって駆け出した
魔族「なにぃ…」
後ろで魔族達の声が聞こえたが追ってくる気配はなかった
家に着いて井戸から組み上げた水をかぶのみした
息を整えて改めて布を見る
繊細に編み込まれたその布は実は内側からは見えるが外側からは見えないと言う魔法の布だった
デット「堕天使の言う通りなんだ…。魔族とつるんだら何がおこるかわからないぞ…」
だからと言って僕がなにかできるわけでもない
布をたたんで立ち上がると、太陽の光が眩しかった
もう少しで皆起きて来るだろう
僕は太陽を見つめて一言「よし」と決意を伝えた