攻めて来た魔族
本編になります
僕はデット・シルヴェスター
どこにでもいるような普通の男の子だ
種族は獣族だが犬のような耳もなければ牙も尖った爪もない
言わば変わり種だ
だからって訳じゃないけど僕はよく同世代の皆にいじられるし、大人達の態度も冷たい
別にそれが嫌って訳じゃないんだけど…とにかく、僕が普通の獣族だって事を信じてほしい
……普通ではないんだろうけどね
で、今僕は必死に走っている
僕が生まれた町ヒューザーの坂道を下り、できるだけ大通りを避けて目指す場所もなくただひたすらに
路地の角をでたらめにまがって少し進んだ所で一旦息を整えた
デ「はぁ…はぁ…。ここまで来ればとりあえず大丈夫……のはず…」
壁に寄りかかって腕のすり傷を確かめた
血がじわじわとでてきていた
持っていたハンカチでぐるぐる巻にしたもののこれは問題だ
獣族の中には鼻のきく者がいる
血のにおいなんてものは相手を特定するのに最も適したターゲットマーカーだ
デ「…くそっ」
?「声を出すなよ獣族の子供」
デ「え…」
上右左後ろとどこを探しても見つからない
しかし、この声は…
?「お前には見えないよ。見えないようにしているんだから」
デ「やっぱり…さっきの!」
?「私はフレア、堕天使だよ。さっきは助けてくれてありがとう」
デ「どういたしまして‥‥って言うか僕を助けてよ!!」
フ「え。なんで」
デ「なんでじゃないだろ!?君のせいで追われてるんだよ僕は!!?」
??「においはこっちからするぞ!!」
デ「追いつかれた‥‥!」
フ「‥‥‥‥‥‥」
デ「どうすればいいんだよ‥もう僕死ぬのかな‥」
涙が溢れてきた
どうしようもなく臆病な僕は耐えきれずにその場にうずくまって顔を隠した
フ「‥‥わかったわかった。助けてあげるって。だからもう泣くなよ」
頭を撫でる手はとても優しかった
心から安らぐ感じで何かがふつふつと湧いてきた
顔を上げると目の前には自分よりも小さな女の子が目線を合わせるようにかがんで僕の頭を撫でていた
銀色に青を混ぜたような色の髪に呑み込まれそうになる深い青色の目、合わせたかのように青色のTシャツに黒いパーカーを着ている
フ「改めてよろしくね、デット・シルヴェスター。私はフレア。堕天使だけどこれからは違う、あなたの守護天使になるわ」
デ「守護天使‥?」
フ「そうだよマスター。まずは私の手を取って。この町から出るよ」
そう言って、僕の頭を撫でていた手を差し出した
後ろから怒鳴る声と重々しい足音がしたけど僕は差し出された手だけで頭がいっぱいでその後の事をよく覚えていない
意識が再び戻ったのはそれから10分後のことだとフレアは言った
目を開けると涼しい風とキラキラとした木漏れ日が心地よく僕を迎えた
一瞬、二度寝をしそうになったが慌てて体を起こすとそこはよく今より小さい時に遊んだ丘の上だった
町を見渡せるこの丘からは火と煙を上げた生まれ故郷の変貌を余すところなく僕に見せつけた
血の気が引いていくのがわかる
フ「あれは魔族の仕業だな」
背後からフレアが話しかける
フ「火属性の魔法陣が見えた。今日の交流会には出席していたから始めからこうするつもりだったんだろうなぁ」
デ「なんでそんなに落ち着いていられるんだよ!!あの町はこの層の中でもかなり大きい町なんだぞ‥。あの町は‥‥‥!」
僕はそこまでで言葉を飲み込んだ
気の上に座っていたフレアは悲しそうな顔をしていたが目の奥に怒りが見えたからだ
振り返った僕はそのまま固まってフレアを凝視した
フレアはそれに気づいたようで、鼻で笑うと気から下りて根元に座り隣を叩いた
フ「雨雲を呼んでおいた。じきに雨が降ってくる。座って話そうマスター。雨に濡れると風邪をひいてしまうかもしれないからね」
僕は言う通りにフレアの隣に座って空を仰いだ
上空は既に真っ黒な雨雲に覆われ雨が一滴、二滴と降ってきていた
フ「改めて礼を言うよマスター。あのままだったら魔族どもに罪をなすりつけられていただろうね」
デ「それはいいよ。僕だって助けてもらったんだし‥」
フ「でだマスター、ヒューザーには戻らない方がいいかもしれない」
デ「えっなんで?」
フ「あの状況を見てみなよ。今ヒューザーに戻ったとして町の者はマスターをどう思うだろうね」
デ「‥‥‥‥‥」
フ「デット・シルヴェスター、お前は私のマスターになった。それは他の奴から見れば堕天使のマスターになったようにしか見えないだろう。そのお前が、今町に戻れば確実に罪をなすりつけられるだろう」
デ「わかってる‥‥でも、もしもみんなが魔族に囚われてたらどうしよう‥」
フ「どうするかはマスター、お前が決めればいい」
デ「‥‥‥」
フ「よく考えるんだな。町に戻り自分が捕まるもしくは殺される可能性の高い方に行くのか、それとも町の人たちを見捨ててここを離れるか」
デ「言い方が悪いよ‥見捨ててなんて‥」
フ「今日はもう寝よう。雨雲のせいでわかりにくいが夜のはずだ。明日まで魔族もヒューザーを離れないだろうからな。寝ながら決めるといい」
デ「わかった‥‥」
木に寄りかかり楽な姿勢を取って目を閉じるとすぐに眠りについた
よほど疲れていたのだろう
そんなマスターに自分のパーカーをかけてフレアは一人町を見つめた
ありがとうございました(≧▽≦)ゞ
次回もよろしくお願いします