第一の予言
それからすぐに布団の上に座り込み、スマートフォンで彼女に電話を掛けた。まずは彼女が明日から女友達と旅行に行くというので、その旅行先の話といった当たり障りない会話から入り、そこから自然な流れで地震の話に持ち込むことにした。
「やっぱり地震とかって怖いよね~」
「え、どうしたの急に」
彼女は笑った。自然な流れで持ち込めなかったらしい。
「いやー昨日地震についてのニュース見て、そう思ったの!」
勿論嘘である。
「いやーでも大丈夫よ!私は結構対策してるもん!窓ガラスにはフィルム張ってあるしね」
どうやら、彼女の地震対策も万全らしい。きっと彼女は地震のあとも生き延びていただろう。しかし、私のように地震対策をしっかりしていたのに死んでしまうことがないようにしなければならない。
「ベッドの近くにタンスとか置いてない?」
「あーあるけど、突っ張り棒もあるしそれも大丈夫」
きっと私と同じ原因で死ぬこともなかろう。むしろカップルが同じ死因で死ぬのもロマンチックだと一瞬考えてしまったが、当然、死なないのが一番である。
「そうか、なら良かった」
安心した私はそれからまた当たり障りない会話をし、彼女との電話を切った後、大きめのため息をついた。それから立ち上がり、コーヒーを淹れ、テレビの電源を入れた。テレビの中の人々は明後日地震が起こるなんて考えていないだろう。特に面白い番組もやっていなかったので、テレビを消した。
一昨日の土曜日は一日中寝ていた。しかし、今日は全く眠気を感じない。昼食を食べ、これからどうしようかと考えていた時、ふと神様の一言を思い出した。
「この地震での死者は君を含めて13名だったらしいぞ」
そう、明後日起こる地震で死んだのは私以外にもいたのだ。このまま、自分だけが助かって良いものだろうか。その時、頭の中に一つの考えが浮かび、私はパソコンを立ち上げた。
掲示板を開く。そこで「予言者」と名乗り、五月十七日に大地震が起きるというスレッドを立てた。それから、自分は一度死んだこと、神様から聞いた地震の情報を記憶の限り書き込んでいく。それだけではどうやら信じて貰えそうにないので、適当な嘘も矛盾のない範囲で散りばめた。
それからも、ツイッターなどのSNSを駆使して、「予言者」として大地震が起きることを精一杯広めた。死者、けが人を無くすために。そして、このまま実際に地震が起これば、私はヒーローになれるのだという考えもいつの間にか頭の中にあった。
適当な嘘のおかげもあり、多数の人が信じてくれているようだ。インターネットで五月十七日と検索すると、地震の情報が出てくるようにまでなった。
地震情報の拡散を続け、気がつけば外は暗くなっていた。時計の針は十一時を指していた。腹の虫が鳴いている。料理は出来るが得意ではないし、疲れも溜まっていたので、インスタントラーメンで済ますことにした。それは最後の一袋だった。明日のご飯はどうしようかと考えながら私は麺をすすった。
昼間はあれほど眠くなかったのだが、夜は案外しっかり眠ることが出来た。私は朝九時ちょうどに起床し、枕元に置いたスマートフォンを手に取る。彼女からLINEが来ていたが、無視して電源を切った。それから、私はパソコンを立ち上げた。まずは、掲示板を確認する。掲示板は五月十七日関連の話題でもちきりであった。次に「予言者」として書き込んだSNSサイトを開く。信じている人、信じていない人が半々という状況だった。しかし、私はそれでも構わないと思う。なぜなら、信じていなくても地震について意識は向いているだろうからだ。
会社の同僚や小学校、中学、高校、大学の友人にも、私がその「予言者」であること伏せたまま、このことを広めた。返信はだいたい、信じていない内容だった。それから、彼女へも返信のついでにこのことを伝えた。彼女も信じていない様子だ。
地震がくる一日前、この日も「予言者」として活動を行っていた。地震の前日くらいはゆっくりしたいものだが、そんな暇はない。より多くの人に地震のことを広めなければいけないのだ。
嘘ではないかという批判の書き込みもあったが、嘘ではないという確信があったため、気にはならなかった。
ネットのニュースに五月十七日の地震のことが取り上げられていた。優越感を感じながら、テレビをつけると、なんとテレビでも地震のことが取り上げられていた。地震の専門家がコメントをしていた。
「まあ、根拠がないですからね。デマでしょう。でも地震の対策をする良い機会になったんじゃないですか」
この地震の専門家は頼りにならない。私はこの専門家の名前を覚えた。
そして気がつけば夜である。しかし、今夜は眠れそうにない。あと七時間程時間が経てば地震が来るからである。晩御飯はコンビニで買った弁当と紅茶である。苦労した自分へのご褒美にプリンを十個も買った。更に、数日ライフラインが途絶えるらしいので、ペットボトルの水を十本、充電器を買った。大荷物である。
地震の話題は確実に世間に広まっている。私はこれ以上広める必要もないと考え、ツイッターで「予言者」として『運命の時間まであと七時間』などという、特に内容も無いつぶやきをした。もう私にできることはすべてやったはずだ。
プリンをすべて食べ終わった頃、時計は午前0時を回っていた。遂に運命の日である。テレビをつけっぱなしにし、すぐに身をかくせるように机の近くに座った。これではタンスを動かした意味が無いなと一人で笑った。
体がこわばっているのを感じた。もし、神様が地震が起きるという事実を変えることができたらどうしよう。それが一番良いことのはずなのだが、なぜか私はそれが良いことだとは思えなかった。
午前二時十二分。震度三程度の揺れを感じた。ネット上では、これが「予言者」の言っていた地震なのではないかと物議をかもしていた。私は「予言者」として再びネット上に現れ、これが予言した地震では無いことを強調した。ネット上には怯えている声も上がっている。まるで私が人間の生死を握っているようだ。