最後の予言
四駅は案外あっという間だった。彼女の最寄り駅である。一度改札の外に出た。彼女を迎え、家まで送っていく予定だ。地震が起きたことによる吊り橋効果も相まって私に強い愛情を抱くことになるだろう。想像するだけで幸せな気分になる。
私が改札を出て三十分くらい経った後に、笑顔の彼女の姿が見えた。
彼女は私の知らない男と手をつないでいた。その男は身長が私より五センチほど高く、顔も名前が出てこないが俳優に似ている。
彼女は私と話している時よりも楽しそうに笑っていた。私はそれを見て、とっさに身を柱の陰に隠した。
「ほんとに楽しかったよ!ありがとう!地震にも感謝しなきゃね」
彼女の笑顔がはじける。私はあの顔を初めて見た。
「俺も楽しかったよ。本当に」
そういうとその男は彼女の頬にキスをした。私はそれを見て、彼女に見つからないように改札内へ入り、最寄り駅に向かう電車に乗った。
私は癒してもらうつもりで余計に傷ついた心で乗った電車の中でツイッターを開いた。「予言者」への糾弾の声はまだ増え続けている。
電車の中で大きなため息を三度ついた。瞬きを何度も繰り返した。彼女の連絡先を消し、着信拒否に設定した。出来ることならこのスマートフォンと自宅にあるパソコンを叩き壊してやりたかった。しかし、高価なので行動に移すことは出来なかった。一流企業に勤めていてもそういうことが出来るほど稼げるわけではない。
最寄り駅に到着したものの、私はなぜか足に力が入らず、立ち上がることが出来なかった。結果、乗り過ごしてしまった。それからそのまま、電車に乗り続け、終点まであと一駅というところである決心をした。そして、先ほど叩き壊そうかと思っていたスマートフォンを取り出した。
そしてツイッターにアクセスし、私は予言をした。
『これが最後の予言です。明日午前七時十三分、関東圏の青い車体の電車で何かが起きます』
フォロワーの数は減っていたが、それでもかなりの数がいた。多くの人は信じていないようだったが、私の予言は確実に広まるはずである。書き込んだ後、ネットユーザーの反応は見なかった。
スマートフォンをポケットにしまうと同時に電車は終点に到着した。私はそこで一旦降り、反対方向に進む電車に乗った。始発駅なので、電車は空いていた。
最寄り駅で降り、私は今まで手が出なかった高級レストランに入り、一番高いものを頼んだ。絶品であった。もう一度食べたいと思った。しかし、もうこの料理を味えないだろう。




