大地震
午前四時五十二分。これが、私の一度目の死の時刻である。
五月十七日月曜日、午前三時二十七分。地鳴りと非常に強い揺れを感じて目を覚ました。これは地震だ。
日頃、地震について何も考えてなかった訳ではなかった。むしろ、他人より考えていたと思う。
その証拠に玄関には、乾パンなどが入ったこの前の火曜日に点検した非常用の持ち出し袋が用意されている。しかし、実際このようなことが起こると、行動に移すことが出来ないのだとこの時初めて気づいた。
私はパニックになり、強い揺れの中、何も考えられずにその場にうずくまった。その瞬間、背中に強い衝撃を感じる。隣に置いてあった大きなタンスだろう。そのまま私の体は重いタンスの下敷きになった。
揺れが収まった頃には私の体の自由はタンスによって制限されていた。今、動かせる所は指先と膝から下のみである。もちろん、ここから脱出は不可能であるし、スマートフォンは玄関に置いてあるため、救急車を呼ぶなど他所と連絡は取ることは出来ない。
そのまま何も出来ずにいると、肺が圧迫されている感覚が段々と強くなっていった。
その時、初めて私は死を意識した。外から救急車のサイレンの音が近づいてくる。しかし、この救急車は私を助けに来たのではない。
段々と体中が表現しがたい不思議な感覚に襲われていった。ただ、今まで死んだ経験は無いが、私がこの先死んでしまうということは分かった。
そして、午前四時二十分。私はそのままの状態で意識を失った。もちろん、そこから死までの記憶はない。