気付く
その日もいつもと同じ一日だった。
7時半の電車に一人で乗り、会社に向かう。
事務の仕事を17時に終え、まっすぐ家に帰る。
家には義母がいて、夫はいない。
二人で夕食を食べ、一人で眠る準備をする。
ただ、その日幸代はベッドサイドの夫のデジカメに気づいてしまった。
夫はいつもデジカメを持ち歩くタイプなので、家に忘れるなんて珍しい。
何かを見ようと思ったわけではない。
ただ、何となく興味本位で手を伸ばす。
土曜日のホームパーティーの写真があった。
幸代が、遠慮がちに笑っている。
この後、夫に怒られることになるとは、思わなかったな。
「ふう」とため息をついて、電源を消そうと思った。
ただ、幸代の手は意識とは反対に、それ以前のデータを読み込んだ。
「あれ?これ何の時だろう・・・」
その中には幸代の知らない夫の姿があった。
どこかのレストランでモデルのような女性たちに囲まれて、楽しそうに笑う夫。
別の日付でビリヤードやカラオケ、バーベキューをしている写真もある。
どの写真にも夫の横には女性がいた。
ある時はショートカット。違う写真ではロングヘアーと一緒に映っている。
ただ、全ての写真に共通して、幸代は見たこともない、幸せそうな夫の顔がある。
なんだ、これはなんなんだ。
手が、震えた。
信じられない。これは何の写真なのだろう。
よく見てみるとその中に、幸代の知っている顔を見つけた。
ちえだ。
幸代と会う時よりも、化粧が濃いので一瞬気付かなかったが、
絶対にちえだ。
もちろんちえの夫や娘はいない。
確かにちえと夫は仲がいい。
しかし、幸代の知らないところで二人が会う理由があるのだろうか。
知っている二人なのに、知らない二人の顔をしている。
夫は仕事が忙しいと言っていた。
プロジェクトのリーダーになったと。
「部下の木島がミスして、休日に客に謝りに行かなきゃいけなくなった」という事もあった。
あれは何日だったのだろうか?
夫に対する不信感が心の全部を支配する。
信じたくない。
でもココに映っているのは間違いなく、事実だ。
全てのデータを確認しても、夫と女性が二人きりで映っている写真はなかった。
でも、夫が幸代に内緒で、女性たちと遊んでいる事は間違いない。
夫は、何をしているのだろうか。
「おかえりなさい!」
玄関で義母の声が聞こえた。
今は考えている時間はない。
幸代は自分の携帯電話でデジカメの写真を撮影すると、
そっと元の場所にもどした。
その日は一睡もできなかった。
工藤から連絡が来たのは、その翌日だった。