同級生
「・・・もしもし」
知らない番号からの突然の着信に、幸代は恐る恐る電話に出た。
「もしもし」
そこから聞こえてきた声は、つい最近聞いたばかりの懐かしい声だった。
「・・・柏木君?」
そう、同窓会幹事の柏木だ。
どこかで工藤かもしれない、と思っていた期待が消えた。
「おう!先週ぶり。この前はありがとう。今大丈夫?」
柏木はいつも明るくて楽しそうだ。
「・・・大丈夫だよ」
なんだか力が抜けて、幸代はそのまま地面に座り込む。
「なんか声が元気ない?どうした?今何してるの?」
相変わらず、柏木はお節介だ。
でも、今はそんな柏木にすらすがりたい気分だった。
「今?今はね、地面に座ってるよ。道路」
つい心配して欲しくて、気を引くような言葉を選んでしまった。
私はどうかしている。
「は?地面?なんで?今どこにいるの?」
幸代の目から涙がこぼれた。
何にも関係ない同級生を相手に、何を言っているんだろう。
「ごめん、なんでもない。大丈夫だよ!それより何かあった?」
ちょっと前の自分の態度を反省した。
この人に心配してもらう権利は私にはない。
「本当に大丈夫か?何かあったら相談しろよ」
柏木は、優しい。
「うん、ありがとう」
幸代は涙を拭いた。
少し間があった後、柏木は思い出したように切り出した。
「ああ、そう、あのさ工藤って覚えてる?」
聞きたかった工藤の名前が出た。
「・・・うん、覚えてるよ」
何の事だろう。「工藤」の名前を聞いて、心がぎゅっとなった。
「実は、同窓会が終わった後、工藤から連絡を貰ったんだ。奥山の連絡先を教えてほしいって。
でも本人に聞かないで勝手に教えるわけにもいかないから電話した。
ほら、同窓会が始まった時に、皆の携帯番号を書いてもらっただろ?それを見て今電話してるんだけど」
「そうなんだね、そういえば、書いたね」
工藤も、私に連絡しようと思ってたんだ。
正直うれしかった。
「で、どう?大丈夫かな?詳しい事は工藤から聞いていないんだけど」
少し前だったら、迷ったかもしれない。
でも今のタイミングで連絡が来るなんて、ずるい。
「うん、大丈夫だよ。確認してくれてありがとう」
幸代も、工藤と話したかった。
「あぁよかった。今週忙しくてさ、奥山に連絡するの忘れてて、さっきまた工藤から連絡があったんだよ。
断られたら気まずかったわ。サンキュー」
後は当り障りのない会話をして、柏木との電話は気づいたら終わっていた。
幸代はしばらく電話を見つめて、動けなかった。
工藤がすぐそばまで来ている気がした。
気が付くとすっかり暗くなっていて、慌てて幸代は立ち上がる。
周りは住宅ばかりだ。何とか駅を探さなくては。
そして駅に着いたら智子に電話をして、今日は智子の家に泊めてもらおう。
久しぶりに女同士で色々話したい。
携帯電話の地図アプリを起動させ、幸代は歩き出す。
さっきまであふれていた涙は、もう消えていた。