第3話「こいつ、世の中なめきってんな」
俺は今、自室で変態と向かい合ってます。とりあえず変態を勉強机の備え付けの椅子に座らせ、俺はベッドの上に座ってます。
「あのー、ずっと気になってたんだけど、私のこと変態って言うのやめてもらえない?」
いや、1度も口にだしてねえよ。人のナレーションにいちいちリアクションすんな。
「はーい。でも、変態は止めて。おかめちゃんって呼んでー」
だから、人のナレーションにリアクションすんな。つーか、どっちにしろ大差ねえよおかめちゃん。
「あはは。おかーめ、かめかめ〜」
「楽しそうだな、おかめちゃん」
「そういうあんたもね」
いや、楽しくねえ。全っ然楽しくねえよ。
「……てめえの目は節穴か?」
「私の目はプラチナよ?」
こんのおたふく面(今だけめんとかいてづらと読む)が……!
しかし、ここでキレるわけにはいきません。なぜだか分からない方は第2話を見て下さい。えー、面倒くせえよって方のために説明すると、コイツに危害を加えようもんなら、コイツのつけてるピアスからイフリートが出てくるんです。そりゃもう「殴り殺されるか、絞め殺されるか、消滅するか」の3択を迫られます。ちなみに、質問に5秒以内に答えなければ消滅させられます。「流儀」だそうです。
んで、このイフリートは多分火を自在に操る、言わずと知れた魔神だと思います。だって、火操ってたし。つーか、コイツに聞くのが1番てっとり早いか。
「なあ、おかめちゃん。さっきそのピアスから出てきたイフリートって、もしかして火を自在に操れることで知られてる魔神なのか?」
「うん。そうだよ」
はい。そうだそうです。なぜイフリートがピアスから? 壺じゃねーの? つーツッコみは機会があったらそのうちしようと思います。
え? 今? しませんよ。なんでって、そんなツッコんだこと聞くほどコイツと親しくなる気ないし。
「ねえねえ、さっきから誰と話してんの?」
「いや、だからナレーションにいちいちリアクションすんな! ややこしくなるから!」
「はーい」
「ったく……」
――よし。気を取り直して本題に入るか。
ってことで俺は椅子に座りながら、無遠慮に他人の部屋の中をキョロキョロ見回しているおかめちゃんに声をかけた。
「なあ、おかめちゃん」
「んー?」
「俺んちに居候するにあたって(あくまで内定)いろいろと聞いときたいことがあんだけどいいか?」
「え? いろいろって、スリーサイズ……とか?」
「んなもん誰も興味ねぇぇぇぇ!!」
「あはは。だよねー。興味あるのは、心のアイドルちゃんだけだもんね」
「う、うるせえよ……」
って、なに照れてんだ俺! アホか!
「はい。アホでーす」
「やかましいわ、ボケ!」
「そんな、ボケって……ポッ」
「なに照れてんだよぉぉぉぉ!! ボケってのはけなし文句じゃボケェェェ!!」
「……ポッ」
……マジで殺してやりてえ。
まあ、イフリートに勝てなきゃそれは不可能だけどな……。
「どうしたの? 元気ないねー、ヒロ君」
「うるせえよ」
全部てめえのせいだっての。つーか、ちゃっかり「ヒロ君」なんて親しげなニックネームで呼びやがって。まあ、ツッコむだけ疲れるだけだからスルーするけどもさ。
「……とにかく!」
俺はまたまた気を取り直して、そう声を出した。
「俺の質問に順番に簡潔にボケとか一切入れないで答えろ。いいな?」
「はい、はーい」
「Q
1、お前何者だ?
2、なぜに居候?
3、なぜに俺んち?
4、俺の個人情報どうやって入手した?」
「A
1、おかめちゃん。
2、天界から出てきたはいいけど住むとこなくてー。
3、どこいっても警察呼ばれてー。
4、ひ・み・つ」
分かりやすくまとめると……。
Q1、お前何者だ?
A1、おかめちゃん。
Q2、なぜに居候?
A2、天界から出てきたはいいけど住むとこがなくて。
Q3、なぜに俺んち?
A3、どこいっても警察呼ばれて。
Q4、俺の個人情報どうやって入手した?
A4、な・い・しょ
「……なるほどな」
質問を終え一息つく俺。
「って、ボケんなっつったのに出鼻からボケてんじゃねぇぇぇぇ!!」
「……ポ」
「そりゃもうええっちゅうんじゃあぁぁぁ!!」
「あ、ヒロ君? そんなことしたら……」
うっかり、勢い余っておかめちゃんの肩につかみかかっちゃった俺。
「あ……」
―――しばらくお待ちください―――
「あはは」
「いや、笑い事じゃねえだろ!」
あのおっさん、今度は出てくると同時に俺を殺そうとしました。質問も問答もなしに、目があった瞬間ヒートナックルを俺の顔面めがけてねじ込んできました。
反射的に紙一重でかわしたのに(今だけ姉に感謝←深く考えず読み流してください)、頬がまだ熱いです。ちなみに2撃目を加えられる前におかめちゃんが助けてくれました。どうやら、あのおっさんおかめちゃんに逆らえないみたいです。
そこんとこの詳細はまた今度ね。
「と、とにかく! これ以上は俺の体が持たねえから……!」
俺は哀願しました。そりゃもう、哀願しました。
おたふく面被った女の子に。
「ヒロ君って、ツッコみに命かけてるんだね」
「いや、そこまでの覚悟ないから……。ってか、もうお前何者だよ。このままなあなあのノリで答えてくれ」
「うん。私はねー天使だよ」
「は? てん……?」
「しー。て・ん・し。天覧武道会の天に、使用料6万5020円の使で、天使だよ」
「……」
俺にどこからツッコめってんだよ……。
あ、なんか頭痛くなってきた。
「? どうしたのヒロ君。急に頭抱えたりして?」
「これが、おたふく面被った女の子に自分のこと天使だって言い出された時に取る正しいリアクションなんだよ」
「ふーん。変なの」
……お前にだけは言われたくねえよ。
「で、お前が天使だって証拠はなんかあんのか?」
俺は気を取り直して声を出した。
「えー、もしかしてヒロ君、疑ってる?」
「いや、もしかすんな。私天使ですっつってあっさり信じてもらえるほど世の中は甘くねーんだよ」
「私、辛いの苦手なんだよね」
こいつ、世の中なめきってんな。
「とりあえず、自分が天使ですっていう証拠なんか提示しろ。できなきゃ、虚言壁のある不法侵入者として警察に突き出すからな」
「えー、めんどくさー」
おかめちゃんは椅子を前後に揺すりながら不平をいってます。完全に居候させてもらおうって奴の態度じゃねえな。
「よし。なら早速110番――」
「いやあー! それだけはいやー!!」
「うおお!」
携帯片手に110番しかけたところで、なんかおかめちゃんがすごい勢いで俺にすがりついてきました。
「警察はいやー! ボケてもボケても「ふざけるな!」の一点張りで私の心はズタズタにぃー!」
「……」
なんか深く語らなくても、ここにたどりつくまでのこいつの苦労が目に見えるな。まあ、世の中「こんちは〜。ピザの宅配にきました〜」なんつって部屋のドアをノックする不法侵入者に「いや、誰も頼んでまへんがな!」なんてツッコんでくれる人間なんて、そうはいないわな。そのうえ、おたふく面なんて被ってりゃ、まあ、完璧アウトだわ。
今までのこいつのボケ倒しはこれまでの反動ってわけか(定かではないが)。なんか、ちょっと同情しちまうな……。
「殺してー! いっそ人思いに殺してー! お〜いおいおいおい……」
「分ーかった。分かったから。その泣き方やめろ。まだ警察呼ばねーから。離れろ。離れろって!」
「ありがとうごぜえます、御代官様〜」
「普通にありがとうできんのかおのれは」
つーか、おたふく面被った女の子に泣きながらすがりつかれるなんてこと、今後の俺の人生にゃ一度も起こらねーだろうな。
……どうでもいいけど。
「――で、お前が天使だって証明できるもんなんかあるか?」
「あ、うん。ある、ある〜」
そう言いつつ、おかめちゃんは両耳につけたピアスを外した。
ハート型のリングのあしらわれた、それはそれはかわいらしいピアスです。この中に二メートルを越える大男が宿ってます。
んで、おかめちゃんはおもむろにピアスを俺に渡した。
「なんだよ?」
「つけてみて?」
おいおい。こんなかわいらしくてぶっそうなもんを俺につけろってか?
あ、ちなみに俺両耳にピアス穴あけてます。はい。校則違反です。でも、一応今はヤンキーってわけじゃありません。
「まあ、つけるのはいいけど、それとお前が天使である証拠となんのつながりがあんだ?」
「そのピアスはね、天使しか装備できないものなの」
いや、装備って。ただのアクセサリーだろ。
「人間がもし間違って身につけようものなら、地獄の業火がたちどころに全身を焼き尽くして消しズミに――」
「おいぃぃぃぃぃ!!」
俺は耳の穴に通しかけてたピアスを思いっきり床に投げつけました。はい。全力で。
「殺す気かおのれはぁぁぁぁ!!」
「えー。だって、証拠見せろって言ったじゃん」
「だからってんな危険なことやらすんじゃねえ! ボケのはんちゅう明らかに越えてんだろが!」
「ツッコみは辛いね」
「そう思うなら自粛しろぉぉぉ!!」
ちなみにこの後、おかめちゃんは「自動車の運転免許証」を差し出し、そこにはなぜか職業の欄があり、そこに「天使」という文字が記されていましたとさ。
つーか、自動車の運転免許って。お前何歳だ? 職業天使ってなんだよ。とは思いながらも、もう、これ以上ツッコめねえから……。その辺はまた今度ね……。
「ってわけで、めでたし、めでたし」
「って、勝手にオチつけてんじゃねぇぇぇ!!」