表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

第14話「うまい話には充分注意しましょう」

 只今、俺は鬼ごっこの真っ最中です。鬼はバーサーカー、捕まればデッドエンド必至な、ごっこなどという子供の遊びのはんちゅうを明らかに超越した追いかけっこです。うん。鬼ごっこにしろ、追いかけっこにしろ、単語から恐ろしいほどこの緊迫した状況が伝わりづらいな。まあ、いいか。


 全力疾走しつつチラっと背後を伺うと、20メートルほど離れた場所から、姉貴がうつむき加減のまま、器用に前髪で顔を隠したまま俺を追ってます。すげえ。なんか貞○みてえ。○子が普通に走ってるよ。そこら辺のホラー映画よりよっぽど迫力あんな。天使もそう思ってか、横から姉貴の姿アップで撮ってます。って、見たくねえ。あれをアップで見たくねえ。つーか、お前後で覚えてろよ、このクサレ天使が。


 それにしても、100メートル11秒フラットという俺の自慢の脚をもってしても、逃げ切れねえとはさすが姉貴。あのバーサーカーを実の姉とは思いたくないが、さすが、日ごろ空手の修練に日々明け暮れているだけのことはある。徐々に差が埋まってきてるよ。なんてったって、向こうは疲労を感じねえみたいだしな。トップスピードのまま、一向にスピード衰えねーよ。ヤバイな、こりゃ。


「うわああああー!」


 チュドーン!


「ぎえええええー!」


 チュドーン! 


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。背後に不動明王像てきとうをかもし出したバーサーカーにより、無関係の道行く方々(男のみ)が次々に血祭りに上げられてるよ。走る貞○を見て、無条件で逃げ出しながらも、結局は追いつかれてデリートされてるよ。ちなみに、しぶとく3人ほど俺の少し後ろについて逃げてたけど、たった今力尽きてデリートされました。本当にすいません。そんで、お前はそんな方々の末路をアップで撮りに行くな、ドグサレ天使。


 ズオオオオオオ……。


 そんで、とうとう、背中になにやらむずがゆいような、生暖かいなにかが這うような感覚を感じ振り返ると、すぐ背後まで姉貴が迫ってきていた。なんか、俺の背中へ手を伸ばして「コオオオオオ……」とか言ってます。地獄行きまで残り10センチです。


「ヒロ君、見て見て、後ろ。後ろ。ほら、背後霊に呪われてるよ?」


 よし。無事生きて帰れたら、真っ先にこいつを殴ろう。って、終始よくついてきてんなと思ったら、お前その自転車どうした? どっからパクってきた?


「ねえ、こっち向いて、ヒロ君。その恐怖と疲労の入り混じった必死なマヌケ面をこっちに向けて♪」


ビデオカメラを俺に向けつつそう言ってくる天使。くそ。睨んでやりてえけど、これじゃ、睨むに睨めねえな……。つーか、そんな余裕ねーけど。


 ガシッ。


 ――って、え? ガシ?


 嫌な予感がして振り返ると、はい。姉貴がしっかりと俺のシャツの襟首をつかんでました。


「ノオオオオオオオ!」


 俺は反射的に着ていたシャツを脱ぎ捨て、振り向きざまそれを姉貴の顔にかぶせてやった。それは自分でも驚くほどの無意識的行為(防衛本能)だったが、そのおかげで視界をさえぎられた姉貴の動きが止まった。その隙にきつい一発をくれてやることもできたが、いつもの優しい姉貴の顔が俺の脳裏をよぎり、俺は思いとどまった。かわりに、天使の頭をはたいてやった。


「いったあー! なんで、叩くのヒロ君!」


 とりあえず、何も言わずもう一発入れてやったところで、背後からただならぬ殺気を感じたので、俺は振り返らず、すみやかにすかさず逃げ出した。天使の奴には、今晩のおかずにたっぷり一味唐辛子を仕込んどいてやるか。確か、前に辛いの苦手とか言ってた気がするし、得意な方でも絶叫する致死量を仕込んどいてやろう。


 しかし、何とか地獄から一度抜け出したとはいえ、状況にまったく変わりはない。いや、さらに悪化したといってもいいだろう。だって、俺今上半身裸で外走ってんだもん。上半身裸で全力疾走してんだもん。上半身裸で……。うう、周りの視線が痛い。

 

 そんで、天使の奴は嬉々として俺の裸撮ってるし……。こりゃもう、一刻の猶予もねえな。もう、すぐ背後まで姉貴迫ってきてるし(天然肌センサーで感知。つーか、怖くて振り返れません)、俺が上半身裸になってから、明らかに姉貴の殺気がレベルアップしてるし。早いとこ姉貴を元に戻さねーと……つってもな――。


 さて、ここでバーサーカーモードの姉貴を元に戻す二つの方法を挙げてみよう♪


1 姉貴の視界に動いてる男の姿を一人たりとも入れない(この方法をとったら、俺自身も死ななきゃならないので却下)。ちなみに、死んだふりとかしても無駄です。以前、知らないおっさん(何の罪もない)がそれを試みてましたが、あえなくデリートされてました。


2 小動物(かわいい系に限る)に触れると、時々正気を取り戻す。実はファンシーグッズに目のない姉貴は、無類の動物好き(かわいい系のみ)であり、以前、偶然通りがかった、子犬連れのおっさんがそれで命拾いしたケースがあった。もちろん、100パー成功するとは限らないが、現状で使えそうなのはこの方法しかない。


 ――ってわけなのだが、こんなときにうまい具合にその辺をペット連れた方が歩いてるなんてうまい話が……と思っていたら、なんと前方に見えるは子犬を連れた女の子。うまい。うますぎる。逆に、手を出したくない。


「コオオオオオオオオオ……!」


 って、いってる場合じゃないな。うん。しかし、どうする? この状況で、うまく他人の連れてるペット(見た限り子犬らしいな)を快く貸してもらえるように、あくまで、相手をおびえさせないようにソフトに、それでいて、この状況の顛末を分かりやすく簡潔にそれでいて、連れている子犬の必要性を事細かに説明しつつ、その前に、この格好について誤解のないようにまずは説明をしなければならない……!


 よし。推定15,6歳の眼鏡をかけた、おさげ髪の似合う真面目そうな女の子がこっちに気づいた。今だ! この状況で――以下略――。


「おいいぃぃぃ!」


 って、あれ? なに叫んでるの? 違う違う、スマイルスマイル。って、いい加減壊れてきてんな、俺も。とりあえず、もう笑顔でごまかそう。スマイル。スマイル。


「そのワン公、こっちよこせ、ゴラアアアアアア!」


 スマイル。スマイル。


 本能が理性を押しやって、しかしながら、ささやかに残った理性でスマイルだけでも何とか作りこんだ俺だったが、台詞と表情のアンバランスさは逆に女の子に無駄に恐怖を植え込んでしまったらしい。女の子は悲鳴を上げて、逃げ――って、あれ? 悲鳴は? つーか、なんでその場から逃げ出さないの君?


「いやあああ! この変態ぃぃ!」

 

 すげえ! 逃げるどころか、立ち向かってきた!


 見た目真面目そうで、気の弱そうな女の子は、その見た目とは裏腹に、子犬を胸に抱えこっちに向かってまっすぐ突進してきた。いや、マジすげえ。貞○に呪われた変態(もやは吹っ切れたな)に向かって突っ込んでくるなんて、もう、なんつーか、すげえとしか言いようがないです。って、よく見ると女の子の胸に抱かれた子犬なんだけど……。


「なんだよ、その奇跡的に不細工な子犬はあぁぁぁ!」


「な、なんですってえ!」


 注・うまい話には充分注意しましょう。


「って、邪魔! どけどけ、ぶつかる! いらねーから! その不細工な子犬却下だから!」


「な! まだ言うかこのお! こうなったら……! 今よ、チイちゃん!」


「チイちゃん!?」


 女の子はなにを思ったか胸に抱いた子犬チイちゃんの前足二本の脇をがっしり持って、そいつを頭の上に掲げた。すると、あらわになった子犬の大事な部分からゴールデンシャワーが降り注ぎ、それは放物線を描き見事俺の顔面に命中した。


「って、ゴラアアアアアアアア!」


「あーはっはっは。じゃあねー」


 女の子は俺とすれ違うと、高笑いしながら走っていってしまった。ちくしょう。くせえ。べたべたする。つーか、アイツ自分のペットになに仕込んでんだ。


 ガシッ。


 ――って、え? ガシ?


 聞き覚えのある効果音に再び振り返ると、はい。姉貴が俺のズボンのウエスト部分つかんでました。


「ってなんでわざわざそこつかむんだよ!」


 やばい。ついツッコんだら、○子にすっげえ睨まれた。ハンパなくこええ。つーか、あんた俺を素っ裸にしてやろうとか思ってるわけじゃねーよな?


 うん。どうやら考え過ぎだったみたいだ。貞○は俺をデリートする事しか頭にないらしく、空いた方の拳を握り込んで、なんかそこに殺気を凝縮させ始めた。見えないはずの殺気がどす黒くなって拳の周りに収束してんのが見えてるのは気のせいだよな?


「ねえねえ、ヒロ君。素っ裸になって正真正銘の変態となって生きながらえるか、潔く人として死ぬかどっちにする?」


 そんでお前は究極の二択をビデオカメラ片手に振ってくるな。つーか、助けろ。助けて。お願いします、助けてください。


「あ、ちゃんとこっち向いて答えてね♪」


 その気ナッシングってか。お前、もう天界に箱詰めして送り返してやるからな。覚悟しとけよ、ドグサレ。


「コオオオォォォ……死ね」


 気のせいか、今背後から死ねって聞こえなかった? 


「ねえ、どっち♪」


「どっちもいやだあああああああ!」


 果たして俺の運命は!? ――次回に続く。って、なんかこの振り前にもあったな……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ