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第12話「シスコンって正直キモいもんね♪」

 まだ姉貴が十二歳の頃に起きたその事件により、姉貴の人生は大きく狂うこととなった。って感じで今回は話を始めようと思う。



「あ、ちょっと待ってヒロ君」


 と思ったら、天使が物語の進行を制止した。


「あ? なんだよ」


「ただ語るだけじゃつまんないでしょー? どうせなら、その話私たちで再現V作らない?」


「……」


 また、コイツは面倒くせえこと言い出しやがった。


「……ヤダって言ったら?」


「心のアイドル暴露の刑♪」


 ――ってわけで、再現V作んぞコンチクショウ!


「ふんふん。つまり、幼い頃美沙ちゃんは一人で学校から帰途についてる途中で、変質者に遭遇。素っ裸の上にトレンチコートだけを身に着けたその典型的な変態に襲われそうになったとき、自分の身を守るために美沙ちゃんの中でもう一人の凶暴な人格が覚醒しちゃったわけかー」


「……今の説明でこれから作ろうとしてる再現Vの必要性なくなったな」


 俺たちは今、地元の小学校の前に来ていた。その目的は言うまでもなく姉貴の過去のトラウマを再現Vにまとめるためだ(たち悪いな……)。


「なに言ってるのヒロ君? まだ、謎になってる美沙ちゃんの人格が変わる要因とかを織り交ぜつつ面白おかしく再現Vを――」


「姉貴は変態に襲われて、逆に返り討ちにした時の後遺症により、男性恐怖症になった。それから、知らない男には触られただけで過去のトラウマが引き金となり自分を守るために本来の優しい人格とは真逆の凶暴な人格が表に顔を出すようになった。身内の俺でさえ、抱きつくとか、きわどいスキンシップ的な行為をしようもんなら、スイッチが入っちまうんだよ。つーか、人のトラウマを面白おかしく再現しようとすんな、アホ」


 つまり、前回はこちらから姉貴のスイッチを入れ、凶暴化させて天使の居候を阻止しようと企てたところ、不慮の事故により、俺は半殺しの目にあったわけだ。ちなみに、スイッチの入った姉貴も昨日俺が気を失ってる間に天使の居候あっさり承諾したみたいだけどな……。


「ふむふむ。でも、当時まだ小学生だった美沙ちゃんによく変態を返り討ちにできたねー」


「ああ……。姉貴は六歳の頃から空手を習ってるかんな。今じゃ、学生日本一。言うまでもなく、当時の実力もそこら辺の大人よりよっぽど強かったんだよ」


「へえー。でも、変態返り討ちにしたのに、なんで今もトラウマになってるの?」


「いや、そりゃ思春期真っ只中の女の子が素っ裸の変態親父に襲われりゃ、トラウマにもなんだろ……」


「あはは。でも逆に、変態親父のほうもトラウマになってたりしてー」


「……いや、笑えねえよ」


 現場を目撃したわけじゃねえが、通行人が姉貴を止めなきゃ、変態親父は確実に撲殺されてたらしいからな……。しかしまあ、それも当然の報いだ。いちいち男に触れられただけで入れ替わる人格。しかも、元に戻ったとき、スイッチの入っている間の記憶はないらしい。表には出さないけど、当時の姉貴は相当キツかっただろう。いや、今だってきっと――。


「よーし。じゃあ、そろそろ再現V作ろっか!」


「――いや、謎は明らかになったんだからもうその必要はねえだろ。つーか、小学校の前でビデオカメラ片手に突っ立ってちゃ、俺のほうが変質者に間違われちまうだろが」


 そう。再現Vを作るためと、天使が家にあったビデオカメラを持ち出し、半ば無理やりそれを俺に持たせているのだ。しかも、時間帯は図って夕方前のちょうどいい具合に下校時間。今にも昇降口のほうから生徒が出てくるのではないかと、こっちは気が気じゃねえ。そして、そんな俺の様子がまた周りから見れば怪しさ満点なんだろうな、畜生。


「だめだよ、ヒロ君。そのビデオカメラがなきゃ、再現V作れないでしょ?」


「だから、その必要性がねえって言ってんだよ!」


 思わず怒鳴ってしまってから、はっとして周りに目を向ける。案の定、通行人の方々がいぶかしげな目を俺に向けていた。そう、天使の奴は常人の目には映らないわけだから、今の俺は不審度120パーセントってわけだ。


「んもう、ヒロ君ったら何にも分かってないんだから。それにもう、後には退けないんだよ?」


「あ? どういう意味だよ?」


「だって、私美沙ちゃんここに呼んでるもん」


「はあ!?」


 驚きのあまり、声の裏返る俺。そんな俺をよそに、天使は唐突に向かい合う俺の背後を指差した。


「あ。噂をすればあれって、美沙ちゃん♪」


 天使の言葉に俺は勢いよく振り返った。そして、俺の目に飛び込んできたのは、数十メートル先の歩道をこちらに向かって歩いてくる姉貴の姿だった。


「あら、広之? もしかしてあなたもミリーちゃんに呼ばれてたの?」


 俺たちの元まで来ると、きょとんとした顔をしてそんなことを言う姉貴。


「姉貴こそ、なにやってんだよ! 今日友達と遊ぶって言ってただろ!」


「うん。でも、ミリーちゃんがどうしても大事な用があるっていうから途中で切り上げてきちゃった」


「そうそう。とっても大事な用事なの」


「うそつけ!」


 しかし、コイツまたなんで姉貴をここに……。まさか、再現Vに姉貴使う気じゃねえだろうな……。


「早速だけど、これから美沙ちゃんには再現Vに出てもらいまーす」


 やっぱ、ビンゴ!


「って、アホかお前ぇぇ! ちったあ、人の気持ちってもんを考えろぉぉぉ!」


「むー。なによー。私なりにちゃんと考えてるもん」


「いや、どこが! お前の言動どこをどう解釈すればそうなんだよ、言ってみろぉぉ!」


「あはは。怒り心頭シスコンヒロ君♪」


「シ、シス……! 誰がシスコンだ、ゴラァァ!」


「ち、ちょ! 落ち着いて広之!」


 天使につかみかかろうとした俺と天使の間に入り、姉貴は俺を制止した。そういや、天使につかみかかったりしたら、イフリートが出てくるんだったことを思い出した俺は、舌打ちして二人から顔を背けた。


「ねえ、どういうこと? ぜんぜん話が見えないんだけど……。それに、どうして広之ビデオカメラなんて持ってるの?」


「うん。それは、かくかくしかじかってわけで、そのときの再現V私たちで作っちゃおうってことなのー」


 天使の話を聞き、姉貴の表情は明らかに戸惑っていた。それを見て、俺はすかさず天使に向けて声を発した。


「――お前、いい加減にしとけよ。これ以上は洒落じゃすまさねえぞ、コラ」


「シッスシッスコンコンシッスコンコ〜ン♪」


「そこに直れ、ゴラアアアアアア!」


「ち、ちょっと、広之!」


 ――しばらくお待ちください――。


「ほんとにヒロ君は何にも分かってないんだから。私はね、美沙ちゃんのトラウマを解消するためにはちゃんと過去と向き合わなきゃ駄目だと思ったからこそ、この再現Vを作ろうとしてるのよー」


「いや、お前さっき面白おかしくとか言ってたよな?」


 天使につかみかかるのを姉貴に止められ、何とか落ち着きを取り戻した俺は、もう一度天使と会話を始めた。つーか、そろそろ小学生が校内から出てこないか本気で心配になってきたな。通行人の目もかなり気になる(周りからは俺が誰もいない方向に怒鳴っているようにしか見えないだろうからな。ちなみに、姉貴も天使のその特性は知ってます)。


「待って広之」


 黙って俺と天使の様子を見ていた姉貴が、俺の前に割って入った。その緊張した面持ちは、怒りのためかどうかは分からないが、姉貴がそんな顔をすることは稀なことだった。


「ミリーちゃん」


 感情を押し殺した姉貴の静かな声が、天使に向けられる。あまりの緊張感に俺は思わず息を呑んだ。まさか、姉貴の性格からして天使に殴りかかるなんてことは考えられないが、ことがことだけにどうしてもそれを危惧してしまう。スイッチなしでも姉貴の実力は学生日本一。果たして俺に怒りに任せた場合の姉貴を止めることができるだろうか? つーか、そうなった場合、そのドタバタでイフリートが出てくることは請け合いだ。その上、間違って姉貴のスイッチが入っちまおうもんなら……。だめだ。考えただけで目眩がする。


 と、俺が思考にふけっている間(その間5秒)に、姉貴が右手をおもむろに肩の上まで上げた。ま、まさか、殴る気か! と慌てて俺は背後から姉貴を止めようと足を踏み出した。


「姉貴、やめ――」


「ありがと! 私ももちろん協力するわミリーちゃん!」


「――ろ?」


 ぴょんとかわいく一歩前に飛び跳ね、姉貴は振り上げた手で天使の肩をポン、と軽く叩いた。一方、不意に目標物が遠ざかった俺はというと、それはもうありえないぐらい見事にずっこけた。


「ぶへえ!」


「? なにしてるの、広之?」


「それはこっちの台詞だよ! 何でそこで協力すんの!」


 倒れたまま、顔だけを上げて姉貴に抗議する俺。しかし、姉貴に悪びれた様子はまったくなかった。


「だって、ミリーちゃんが私のことそこまで考えてくれてるなんて、嬉しいもの。それに、このことで変に気を遣われるのって、正直少し重荷かなって思うし」


「ガーン(声にならない声)」


「痛恨の一撃。ヒロ君は999のダメージを受けた。ヒロ君は死んでしまった。パーティーはヒロ君一人を置いて逃げ出した。シスコンって正直キモイもんね♪」


 こ、この野郎……!


「ひぃろぉゆぅきぃ〜。見つけたぞ、こらあああああ!」


 ――って、今度はなんだちくしょう!


 俺はことごとく精神的ダメージを受けながらも背後から響き近づいてくる大声に反応し、立ち上がった。見ると、はるか100メートルほど先の歩道から、何者かがものすごい勢いでこちらに向かって走ってきていた。


 って、努じゃねえか、ありゃ……。


 短髪に派手な赤髪がトレードマークのセクシャルマスターは全力で走ってきながらも、こちらまで半分ほどの距離で失速し、こっちにたどり着く頃には息も絶え絶えに死にかけていた。そう、なにを隠そうこいつは虚弱体質なのだ。しかし、努は死にそうになりながらも姉貴と天使に飛びつくことは忘れなかった。


「ミリーちゅわーん。美沙すわーん」


「……」


 姉貴と天使に向かって飛びついた努を空中で叩き落す俺。地面に撃沈した努は口から血をぼたぼたこぼしながら、息も絶え絶えに恨めしそうに俺につかみかかってきた。


「ひ、ひろゆき、貴様……。いっつもいっつもこの俺の邪魔を……!」


「いや、いい加減お前の行為は自殺行為だということを知れ」


「こんなところで……はあ……偶然二人に出会えた運命を俺は……はあ……素直に表現してる……ぶへ……だけだろうがあ!」


「さっき俺に見つけたとか言ってなかったか?」


「黙れ、このシスコぐへえ!」


 俺は死にかけた努にとどめのボディブローをかました。あえなく地面に崩れ落ち、努はピクリとも動かなくなった。


「ちょっと、広之。やりすぎよ!」


 そう言って、姉貴は努の下へ駆け寄った。そして、肩にかけていた小ぶりなバッグからハンカチを取り出すと、それを努の奴に優しく差し出す姉貴。


「あ、ああ……。美沙さんがこの俺に……。こ、これはもう……私を抱いてくださいってことでべ!」


 俺は無言で努の腹を踏みつけた。


「広之!」


「いや、コイツはこれぐらいじゃ死なねえから。それより、お前が何でこんなとこにいるんだよ?」


「ふ……。昨日から美沙さんが合宿から帰ってくることは知ってたからな……。しかし、昨日は腹を壊して一日中動けず、今日になっても半日は動くこともままならず……。やっとの思いで動けるようになり、お前の家へたどり着くと、ミリーちゃんとお前が二人して家を出たとおばさんが言っていた。それで、ずっとお前たちの行方を捜すため外を徘徊してたわけだ……」


「……お前バカだろ?」


「うるせええ! ミリーちゃんは俺のもんだ! 美沙さんも俺のもんだ! つーか、この世の女はすべてこの俺のもんなんだよ、文句あるかコラア!」


「……とりあえず、もう10発ぐらい入れとくか」


 しかし、それも姉貴に止められ、10分後に復活した努に天使が一言。


「じゃあ、再現V努君にも協力してもらおっか♪」


 こうして、俺の心労はさらに10倍に膨れ上がったのだった……。


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