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悪役令嬢の婚約者に言い寄る伯爵令嬢の婚約者の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/07/12

「仕方なかったのよ!」


 と顔は薄ら覚えている女に言われた。


 俺はウルリッヒ、家門名は捨てた。ただのウルリッヒだ。

 いきなり市場でそう言われたのだ。


 あれは婚約者だったか?




 ☆☆☆


 俺はこう見えても騎士爵の息子だった。

 婚約者は領地が隣同士だったよしみだ。

 伯爵令嬢だった。


 ああ、プレゼントを贈り。お茶会を定期的に開く仲だった。

 学園を卒業すれば結婚かなとぼんやり思っていた。

 貴族の結婚なんてそんなものだ。


 ある日、寮に帰ったら。

 王子とその取り巻きがいた。


「ウルリッヒ、貴様、騎士でありながら婚約者に暴力をふるうとは何事か!」

「こんな時間まで何をしていた!」

「はい?」


 身に覚えがなかった。今日はプレゼントを買いに街に行った帰りだった。

 つるし上げにあい。学園の講堂で糾弾された。


 婚約者を見ると殿下の後ろでプルプル震えている。証言もおかしい。


「はい、私は見ました。彼女が裏庭で泣いているところ」

「エスコートの時にウルリッヒが乱暴に引っ張っているのをみました」

「ウルリッヒとご令嬢がいるときいつも辛そうな顔をしていました」


 無いことの証明は難しい。


「やっておりません」


 としか言えなかった。


 それから婚約者のご両親と父母との話会いで婚約は破棄。


 おかしい。男が出来たのか?と思った、案の上婚約者は王子とべったりだった。

 更に、おかしい。王子にも婚約者がおられるのだが・・・


「ウルリッヒ、学園を退学しなさい。もう、どこの家門にも奉公できないぞ」

「はい、父上・・」



 俺は弟に家督を譲り屋敷を出た。


「若旦那!グスン、グスン」

「ニーナ、俺を見送ると立場悪くなるぞ」

「元々悪いです。ついていきます」

「ダメだ。仕送りできなくなるだろう?」


 俺を見送ってくれたのはメイドのニーナだけだった。

 妹のように可愛がった。


 その後は流れるように冒険者になった。

 良くある話だ。


「剣士のウルリッヒ・・・ああ、女性に乱暴を働いた男だな。俺がぶちのめしてやるぜ!」


「先輩、ご勘弁を」


 よくからまれた。

 だから、薬草探しで糊口をしのいだ。

 ある日、森の入り口に立派な馬車が止った。


 メイドが左右に1人ずつ。いかつい護衛騎士が1人いた。

 学園で見かけた事がある。

 公爵令嬢、王子の婚約者だったな。


「貴方、ウルリッヒ・アーベルね」

「失礼、面識がないのでお名前を拝聴できれば」

「エリザベーター・エッゲルトよ・・・」

「今は家門無しのウルリッヒです」


 扇で顔を隠し目は不機嫌そうだ。いや、表情が読めない顔か?


「貴方、雇ってあげるわ。王子と元婚約者を告発しなさい。保護してあげるわ」

「ご冗談を・・・」

「王子は、私がイジメをしていると言い出したわ。同じ無実の罪の仲間だわ」


「もう、過去の事です」

「大丈夫よ。台本は用意したわ。あちらも状況証拠を持ち出したのだもの。こちらも状況証拠レベルの事を言っても大丈夫よ」

「お断りします」


「あら、何故かしら?」

「それは・・・ただの悪口は言いたくないから・・・」


「クスッ!」


 笑い声がもれた。

 笑いをこらえているのか?


「また、来るわね」


 使者でも寄越すのかと思ったが・・・

 公爵令嬢は直接下宿に来た。


「貴方には月金貨5支給するわ」

「お断りします」

「何故かしら?」

「それは、金貨5枚はベテラン騎士のお給金です。または戦時の騎士の給料ではないですか?」

「あら、素敵ね。お給金の相場も分かっているのね」



 その頃から周りの目が変わった。


「ウルリッヒ・・はもしかして・・」

「派閥争いに巻き込まれたのか?」

「いや、寝取られたのだろう」


 また、公爵令嬢は来た。今度は冒険者ギルドだ。いい加減にしつこい。



「ギルマス殿、ウルリッヒ殿を譲って頂けないでしょうか?冒険者ギルドに寄付をいたしますわ」

「ヒィ、今、応接室にお通しします」


 公爵令嬢はカーテシーで俺を出むかえた。


「ウルリッヒ様、今回で三回目ですわ。どうか、我が陣営に加わって下さいませ」


 これは断れない。正直気が進まない。


「はあ、どうしてもというのなら・・」


 お付きの護衛騎士に怒鳴られた。


「貴様! エッゲルト公爵家に仕官したい者は山ほどいるぞ!」

「ゲーリー、お止めなさい。それは傲慢よ」

「はっ、お嬢様!」



 俺は公爵家に仕官した。

 するとお嬢様の人となりが分かってきた。


「お嬢様に敬礼!」

「皆様、ご苦労様です」


 きちんと答礼する。


「まあ、マリ、有難う」

「もったいないお言葉です」


 メイドにも礼を言う。

 これが育ちの良さというものだろうか?


 俺は状況証拠の告白をしないですんだ。調書を取られたが。

 ただ、やっていないことはやっていないと言うだけだった。


 そして、お嬢様も婚約を破棄された。

 だが、それも上手く行くはずもなく。

 王子と俺の元婚約者は市井に落ちた。


「ウルリッヒ、見送りますか?明日9時に王子と貴方の元婚約者は王宮の門を出されるようですわ」

「興味ございません。仕事がございますから」

「あら、真面目ね」


 騒動が終わった後・・・


 俺は公爵家の文書官に任命された。


「お嬢様、何故ですか?」

「フフフ、信用に足る者が欲しかったのよ。ペラペラしゃべらない方が必要ですわ」


 それから10年、出世して晩飯の材料を買いに市場に行ったら・・・

 元婚約者に声をかけられた。




 ・・・・・・・・・・・





「仕方なかったのよ!王子に言い寄られて、私が被害者よ!」


「そうか・・・」

「ねえ。それでどこに住んでいるの?今、お金はいくら持っている?」


 何だ。貴族令嬢だったときの面影は微塵もない。

 胸の谷間が見える服を着て、肌はあれほうだい。髪もボサボサだ。

 どんな生活を送っていたか分かる。


「やり直しましょう!ウルリッヒ、高級文官になったのでしょう?」

「ごめん。もうやり直しはきかない」


「これも仕方ないのだ・・・」

「ちょっと、待ちなさい」


 仕方ないと言って走って逃げた。もう、あの市場には行けないな。


「はあ、はあ、はあ、ただいま、ニーナ。」

「若旦那、お帰りなさい。あら、そんなに私の料理、楽しみにしていたの?今作るわ」

「そうさ、楽しみさ。だが、もう、若旦那ではないだろうに・・・」

「私にとっては若旦那ですよ」



 あれから、文書官の一人前になった時、公爵家が釣書を何枚か持って来てくれたが断った。

 この時もお嬢様は笑っていたな。


「エリザベーター様の結婚記念日のパーティー近いでしょう。礼服アイロンかけておいたわ」

「ああ、有難う。お嬢様がニーナも連れて来いってさ。ドレス買いに行こうか・・あっ」


 おかしなものだ。一端、お嬢様と呼んだら一生お嬢様呼びが消えない。

 ニーナが若旦那というのを咎める資格はないか。


 人妻になったエリザベーター様にうっかりお嬢様と言わないか。

 こんな心配をする私は果報者なのだろうか?



最後までお読み頂き有難うございました。

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