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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

常識を破った結果です

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/03/07

手慰み、第数弾でございます。

お楽しみいただければ、幸いでございます。

 この結婚式は、始まる前にケチがついた。

 花嫁が教会の控室に入り、衣装に着替えている時、外が騒がしくなったのだ。

 様子を見に行った、仲人の夫人に尋ねると、呆れ顔の答えが返った。

「葬儀の際に使われる寝台で、淫らな行為をされていた方々が、拘束されたそうです」

「まあ……」

 若い花嫁は目を見開いてそう言っただけだったが、それを目撃した者たちは、穏やかではなかった。

 その常識外れな行いをした者の片方が、元々花嫁の婚約者候補だったからだ。


 侯爵家のご令嬢の元に婿入りするはずだった伯爵令息は、ある理由からその候補から外された。

 その理由は、不可抗力ではあったものの、ある一組のカップルの逢瀬とそれに対する天罰を目撃してしまい、天罰のあおりを受けて、とんでもない症状を患ってしまったためだった。

 その症状のせいで、この場所で同じように愛おしい人との逢瀬を、大勢に目撃される羽目になったのには同情できるが……。

 新婚夫妻の両親たちは、困惑して伯爵令息とその相手を見下ろしていた。

 同じように見下ろした、急遽呼び出された神官は、静かに言う。

「……我が神にも、困ったものです。転生者を初心な者に転移させるのはまだ許せますが、まさか、男児に女性の転生者を転移させてしまうとは」

 いや、気まぐれに転移されるのも、余り了承できないが、神官の疲れ切った言い分を聞くと、文句も言い辛い。

 この国や他の国々でも崇拝されている兎の獣神は度々、神殿や教会に自分の趣味を持ち込むことを喜ぶことで、知られた神だ。

 勿論、持ち込む時期は、常識範囲内でならば、という規約もある。

 その上、今回は少し、異質だった。

「余興を邪魔した初心な者に、浮遊している転生者を転移させるご趣味、この失敗を機に改めていただければ、助かるのですがねえ」

 切実に願う神官の意に、結婚式の参列者たちは、盛大に同意してしまった。

 逸話だけではなく、数々の奇跡を目撃されている獣神には、困った趣味があった。

 いや、ここまででも困った話なのだが、更なる高みの趣味だ。

 それは、女の情事を見物する趣味、だ。

 これは、同性同士でも異性同士でも、構わない。

 女が絡むなら。

 男同士は、お呼びでない。

 それなのに、伯爵令息と教会の隅の寝台で絡まっているところを発見され、申し訳程度の衣服を羽織らせてもらって拘束された相手は、中年の男だった。

 どちらかというと、新郎新婦の親世代の年齢の、平民らしき男である。

 一体、どこの馬の骨だと思ったが、新郎側の両親には覚えがあったようだ。

「っ」

 新郎側の公爵夫人が青ざめた顔で目を伏せ、それを見た公爵が冷ややかに男を見下ろした。

「……どちらにしても、婚礼が行われる教会で、このような行為にふけるくらいには、異常な連中だという事だ。獣神とて、場所は兎も角、日時の考慮は考えてくれる」

「はい、その通りでございます。ですからこれは、神の采配に逆らう行為であることは、確かでしょう」

 式典への考慮のない、淫らな行為。

 些細な違いだが、神からすると重大な違いらしい。

 伯爵令息はすぐに神殿預かりとなり、中年の男と共に教会から連れ出された。


 強制力だとしても、これはあんまりではないか?

 娘の婚姻を機に、侯爵位を譲ることになった元侯爵は、その一連の事態を見守りながらも、そう嘆いていた。

 いや、前回が完全に救いようがなかったからこその、この結果なのだが、伯爵令息の所業も後の末路も、今回の方が遥かに酷くなりそうで、一時期は娘の婚約者候補にまでなった少年の不幸に、少しだけ同情してしまう。

 そう前回も、この令息はやらかしていた。

 違うのは他人の結婚式か否か、というところだけだ。

 前回、侯爵となる娘は、この伯爵令息との縁談が進み、今日この日、挙式をする運びだった。

 目撃するのも、花嫁である娘と、自分たち夫妻で相手は、恐らくは遊び目的で買った、繁華街の人間だった。

 神聖なる教会で、しかも葬儀で故人が控える寝台を、そんな目的で使う時点で、常識の有無を疑える話だったので、直に結婚式を取りやめ、婚約もあちら有責で破棄した。

 入籍していなかったことだけが、娘にも侯爵家にも幸いな話だったのだが……一つ、誤算があった。

 神聖な式が行われる予定の場での罰当たりな行為に対し、獣神は正式な天罰を当てたのだが、その煽りを、初心な娘が受けてしまったのだ。

 結果、何処で死んだかも分からない、男の浮遊転生者に転移された娘は、豹変してしまった。

 元侯爵は、元々中継ぎだった。

 娘も、実は血が繋がっていない。

 契約では、先代侯爵の産んだ子供が成人したら離縁し、婿入りしただけの平民だった男は、元々結婚するはずだった女の元に、戻れるはずだった。

 だが、先代は娘が成人する前に病で儚くなってしまった。

 平民である男には本来、貴族になる資格すらないが、中継ぎとして仮の爵位を与えられ、今回成人した際、無事に爵位を娘に引き渡せた経緯があった。

 婚礼を見届けたら、愛する女を娶って、侯爵家の繁栄を祈って幸せに暮らすつもりだったのに、娘の縁組を初めからやり直す羽目になった。

 見合いの釣書を、爵位に見合う家に送る作業から再開し、一月ほどで縁組が整った。

 それが、今回の新郎側だったのだが、ここで問題が生じた。

 侯爵となった娘が、突如駆け落ちしたのだ。

 相手は、ひた隠しにしていた元侯爵の平民の娘で、それも混乱の拍車となった。

 幸いなのか未だに判断がつかないが、侯爵の目をかいくぐり、実の娘は逃げ帰ってきた。

 だが、二度目の挙式の直前のその暴挙の責を、まだ幼かった娘の肩に背負わせてしまう羽目になった。

 侯爵の行方がその後も分からなかったせいで、一時期は殺害容疑まで娘にはのしかかったのだ。

 それもこれも、獣神の天罰のせいだ。

 神殿ですら手を煩わせるため、転移者の浄化は不可能で、侯爵が無事に戻ってきても、侯爵家を立て直せる目途はなく、元侯爵の男が恐れ多くも後始末を済ませ、爵位を返上した。

 そしてすぐに平民に戻り、娶った妻と娘を連れて王都を離れ、ひっそりと生きた。

 今わの際に、婿入り先の侯爵の事を思い浮かべる。

 あんな結末になってしまった事、どう詫びればいいのか。

 後悔まみれのまま眠りについた夜、夢を見た。

 暗闇を歩いている元侯爵の前に、明るい焚火が見える。

 近づくとそこには、一人の男と大きな兎がいた。

 黒髪の真面目そうな男が、何かの丸焼きを串にさし、火で炙っている前で、白い大きな兎がこちらを振り返った。

 赤い瞳に知性を感じ、同時に気付いた。

「……っ」

「済まなかったな。これは、オレの落ち度だ」

 怒りが湧いた元侯爵に兎は短く言ってから、何かをこちらに放り投げた。

「そいつはもう、悪さは出来ない。これが証拠だ」

「本来、登場人物を手にかけるのは、禁忌行為なのだがな……」

 残念そうな男の声にそちらを振り返った兎が、すかさず返す。

「手をかけはしたが、食っているのはお前だろうが」

 言われて気づいた。

 男が先程からかぶりついている、串の先の肉。

 まさか。

 思い当たって足下を見ると、兎の投げた何かがそこには転がっていた。

 よくよく見るとそれは、兎の頭だ。

 血で汚れたその頭は、焚火の前の兎と同じく白いが、少し小さく見える。

「もとはと言えば、このドクズが作り出した、オレをモデルにした獣神だ。それがお痛をしたのなら、処理するのはオリジナルの責任だろう?」

「うん、旨い」

 お前には言っていないと、兎は露骨に顔をしかめてから、元侯爵に目を向けた。

「これから、お前を巻き戻す。時期は、お前が侯爵代理になった頃ぐらいだ。そこしか、神に祈る描写がなかったからな」

「……侯爵の死は、防げない?」

「残念だが、あれは自然死だろう? まあ、環境次第では防げただろうが、祈る余裕もなかっただろう」

「……」

 そうだ、全く余裕がなかったと思い出し、元侯爵は歯を食いしばった。

 過労で倒れて意識が戻らないまま、侯爵が世を去った時の、激しい後悔も思い出してしまったのだ。

 あの時、神に縋るという単純な行動も、忘れていた。

 黙り込んだ元侯爵を見つつ、兎は言った。

「……神官の一人も、巻き戻しておくから、何かの助けに使え。健闘を祈る」

 言った途端、元侯爵は巻き戻っていた。

 侯爵の葬儀の日だ。

 まだ頼りない血のつながらない娘の手を握り、必死で今後を考えていた頃だ。

 握り返してくる娘の手は、まだ幼い。

 この小さな手を、今度こそ守らなければ。

 元侯爵は、がぜん張り切った。

 神殿に向かい、兎が巻き戻した神官を探し出し、ある調査結果の一部を、こっそりと尋ねた。

 それは、数年前に起きた獣神の天罰が落ちた現場の特定だ。

 神殿での出来事だったら難しかったが、幸いにして娘の挙式と同じく、教会での行為だったから、やることは予定通りだった。

 例の令息の家の冠婚、若しくは法事の時期をそれとなく誘導して、その教会で開催するようにし、令息を巻き込んだ。


 ……これ、楽に死ねるか?

 元侯爵は、今更ながらに不安である。

 獣神は、色ごとでは女好きだが、実は子煩悩でも知られていた。

 なのに元侯爵は、まだ幼かった伯爵令息を、転移者の餌食に選んでしまったのだ。

 だが、これだけは考慮してほしい。

 娘二人を救うには、どうしてもっ、必要不可欠な犠牲だったのだっ。

 それでも許されないようならば、甘んじて罪を受けようと思う。


 だが、きっと本物の獣神とやらは、転移者を引きはがすくらい、出来るんだよな?

 それを、大いに期待している。










兎さん、激おこです。

養い子の胸ぐら掴んで、蹴りまくっておりましたが……効いていたかは、微妙です。

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