始めての訪問
澪ちゃんが、問題と向き合うまでの物語です。
「それは、大変でしたね」
「そうなんです。だから、私、あまりのショックで……」
そう言われ、お母さんは泣いた時のように声を震わせた。
でも、お父さんと話した時のように、声が大きく、嫌な感じがしない―――だから、そう見えない今は、なんか作り物のように見えた。
私の隣に座っている父は、成り行きを見守っている。大体、このような話をする時は、お父さんが、話をするんだけども、今回は母がその代わりをしている。
いや、代わりと言うより、あれは完全なフライングだ。だって、向こうが座るやいな、いきなり台風のように話し始めてしまった――それこそ、父が呆れて話すタイミングを忘れてしまったかのように。
私、黒川澪は、今年10歳になる、小学生5年生。
学校で起こった事件に巻き込まれて数日後、私は、出張から戻ってきた父が連絡した何処かにすぐ、車に乗りここまで連れてこられた。
それまで数日、何があったのか、正直覚えていない。色んな人がやってきては、私に色んな話をしたと思う。
でも、そのほとんどはすぐ、母の話を聞いて帰ってしまった。
中には私が話せるまで待ってくれる人がいたと思う。でも、話だそうとしても、声が出てこなかった。どうせ、学校の先生のように話半分でちゃんと聞いてくれないと思ったから…。いや違う。なんといえばいいか、分からない。
もし、頭の中を直接見せられたら、ちゃんと伝わると思う。でも、それがどう言ってしまえばいいか、分からなかった。
ぐちゃぐちゃのドロドロの、触ったら気持ち悪そうな黒や白い雲みたいな何かが頭の目の前にあって、その隙間から私の言葉や何かが見えては隠される。
それを横に隠すように話して、消えるのを待っている。だって、それを開けるととても痛くて、辛くて、気持ち悪くて、胸が激しく息苦しくなるものだと言うのだけはわかる。
だから、それを見たくない。近づけたくない。そんな言葉が近くにゆっくり、チクチク近づくと、体が固くなって、頭がぽっかり、あいた穴のように、何もかも分からなくなる。
そんな話が出来ないから、私は口を開けたくなくなった。
もし、『アン』や『モモ』のように、紙に勝手に、みんながわかる何かが書かれたら、私はそれを気分楽に書けると思う。でも、私は、学校でそうしちゃいけないと教わった。
おかしな事をするから、馬鹿だ。
相手のわかる言葉にしないから、駄目だと
そして、それが自己責任だと。みんなが笑っていることは、みんなのおかげ。悪いことは自分のせい。それっておかしいと思うけど、それが大人だと。
だったら、話しても仕方ない。そう思っているんだと、私はオモッテイル?
話が飛んじゃった。
そんな日々を過ごし、お父さんが出張から帰るまで家で過ごした。
学校には行けていない。行きたくないというのもあるけど、学校から近所の誰かが、そんな手紙を持ってきたとお母さんが言った。確か、小学校の最初のクラスでよく遊んだ子だといってた。あそこのお母さんは優しい人だった。
みんなが盛り上がっていた時に、私が話しかけやすいように声をかけてくれた。2年ぶりに同じクラスだったと、クラス分けの時に声をかけてくれたような気がする。
でも、その後から声をかけてはくれなかった。まぁ、あの状態だと仕方ないとは思うが(コナンくんのふうに言えば、しゃーねぇ、か)
そう簡単に考えられない……。
目の前に座る女性を見る。
テーブルの向こう、背筋をピンと伸ばして座る女性。
多分、お母さんと同じぐらいの年だと思う。淡いブルーのゆったりとしたシャツに、白く折り目もしっかりした長いスカート。お母さんのようにセカセカした動きではなく、とても静かでゆっくりとした動き。
キレイな人だと思う。
黒く、キレイな長い髪と、細く白い首筋、小さな顔。
くちびるはほんのりツヤがあって、まつ毛も一本一本丁寧に整えられている感じ。先ほど、この席に向かった時も、挨拶で頭を下げた時、髪がサラサラ流れるように動いて、まるでどこか嫌な気持ちを温かくしてくれるような、ホッとさせてくれるような、大人の女性。
(日本人形?)
(誰が市松人形ですか!! いい加減にしてください)
誰かの憤慨する声が聞こえた気がする。
まぁ、本当にあのアニメのようなやりとりが通じる人なら、楽なんだろうな。
(リツコ先生ほどグラマラスじゃないけど……)
私は、さっきからずっとバンバンと音がする胸が収まればと思い、頭の中でアニメのワンシーンを流す。すると、ふんわりと柔らかそうなピンクの髪、見るからにのんびりした雰囲気をしたノロちゃんが、私を励ましてくれたような気がする。
(大丈夫。私みたいにイジイジしてない澪ちゃんなら、頑張れるよ)
そんな声を聞こえたような気がする。
それで、少し心のハラハラが大人しくなったような気がする。
女性の胸に名札があって、そこに『酒井』と書かれていた。だから、
(……酒井先生かな)
私がそんな風に思っていると、酒井先生は私を見て、小さく笑った。
でも、私は少し嫌な気持ちになった。目の前が少し、くすんで汚い。黄色い土のような色になったように見えた気がした。
優しく、小さな笑う顔のはずなのに、何故だろうと考える。
すると、昔、似た笑顔の人がいたような気がした。そうだ。もし、あの子のお母さんなら、あの子の話を聞いていたら、何かしてくれたかもしれない。
私のお母さんは、少し前、私が学校に通って4回目の温かい時期ぐらいから、外に出て家に帰るのが遅くなった。でも、いつも家にいたあの子のお母さんなら、そんな話を聞いたのかもしれない。でも、結局何も無かった。何もして、くれなかった。だから、この人も同じなんだろう。私は、そう思うことにしたと思う。
数日前のことを思い出す。
父が出張から帰ってきて、母が父に学校で何があったのか、事情を説明したのだと思う。その時、声が大きく、母も父も怖い。凄い声が聞こえた。弟が、私の部屋にやってきて、部屋の隅で小さく、膝を抱えている私の近くにやってきて、「おねぇちゃん。大丈夫?」と言った。
私と4つ違いの、今年入学したばかりの弟。
その時、なんて私が言ったか、覚えていない。でも、その後、弟の姿が消え、お父さんが代わりに入ってきて、私を抱きしめてくれたのは、微かに覚えている。
「大丈夫。大丈夫だから」
お父さんの普段とは違った、震えて弱々しい声が聞こえたと思う。
そして、私はここに来た。お父さんの知り合いだという、この場所に。それで、少しはよくなってほしいと思いたかった。
話がかなり前後していますので、少し解説します。
前半は母と酒井さんのやり取りを聞いていた主人公は、好きなアニメのキャラと妄想劇を繰り広げます。おい、何やっているんだ!と言いたいですが、まだ精神が未熟な子どもが取る行動として、理解してくれたら嬉しいです。
ちなみに、出てきた名前は某国民アニメの名前と、リメイク中の『霊能力教師』の生徒です。私の幼少期で注目している友人はいませんでしたが、読者の中にわかる人がいたら、幸いです。




