第8話 骨休みと、新しい訪問者の「ヤバい」情報開示
遅くなり、すみません。途中、小難しい話もありますが、個人的にそういう知識を知れるのも、小説の醍醐味かと思ってますので、もしよろしければ、読んでくださいね。
「・・・それにしても、大変ね。信一さんは」
「・・・ん??」
不意に、綾音は思い出したような声でそう言った。
安岡は、突然のことで、”意味がわからん”とういう感じに首を傾げる。
頭を撫でられていた友希人は、次第に恥ずかしくなったのか、安岡の手から離れ、少し離れた場所に腰を下ろしている。杏奈も、彼の後を追いかけ、二人一緒に地面を眺めていた。安岡は、そんな二人に顔を向けたまま、視線だけを背後の綾音に向けていた。
「何だ? 藪から棒に??」
安岡は、不思議そうに眉を寄せ、綾音に苦言を述べた。
だが、綾音は、いかにも心外だという具合に、目を丸くし、ちょっと含みをもたせた優しい口調で言った。
「別に、おかしなことを言っているつもりはないかな。
だって、今朝、あんなことが後なのに、それでも、子どもたちの小さな変化にちゃんと気づけたんだから、それってすごいことだと思うなぁ」
「いや、そんなの、普通のことだろう?」
安岡は、少し険を含んだ口調でそういった。だが、綾音は、小さく頭を振り、それを否定した。
「ふふっ、そんなことないかな? 私なら、あんな具体性も方向性も・・・ましてや品性の欠片すら持ち合わせていない、あの理不尽な要求を、まともに相手にするのも馬鹿馬鹿しく思ってしまうかな。だから、嫌味の一つや二つ・・・いえ、相手が自身の無能を呪って、この世に生まれたことを後悔するまで、徹底的に叩きのめしたくなるもの」
そう言い、綾音は、まるでイタズラを思いついた子どものような、無邪気な笑みを口元に浮かべ、鈴を転がすような優しい声で話し始めた。安岡は、内心、ずいぶん楽しそうに。と、感心半分、呆れ半分という感じのため息が口からもれ、肩の力が抜けたような気がした。
だが。
(・・・ん?? 最後、なんていった??)
ふっと、安岡は言葉のある違和感が引っかかった。綾音は、代わらない口調で、言葉をつづけた。
「だから、あんな”面倒な課題”を片付けた上で、この子たちの小さな変化にちゃんと気づいてあげた…。それって、口で言うほど簡単なことじゃないかなーーーー何物にも代えがたい、とてもすごいことだと思うかな。…だから、」
「・・・まぁ、あれぐらい、誰でも・・・」
そう安岡は、口を挟み、言葉を遮った。だが、綾音は、そんな様子を一切気にした素振りを見せず、口元に嫌らしい笑みを浮かべた。
「それは、すごいわね。
あの、ただ相手の神経を逆撫でするだけで、何の生産性も具体性もない、罵詈雑言の言葉の数々。それこそ、幼稚で品性の欠片も、どっちが『報連相』や『社会の常識』を疑いたくなるレベルの、あの一方的な要求! 私だったら、相手の無能を100個ぐらいあげつらって、徹底的に論破しないと気が済まないレベルのあの”課題”を。文句も言わずに、短時間で終わらせて、その上でこの子たちの変化に気づけたのは・・・とてもすごいことだと思うかな?」
「・・・まぁな。人間、やろうと思えば、なんとかなるものだ」
そう答えた安岡だったが、その瞬間、必死に頭の中を働かせていた。
脳内に警鐘が鳴り響いている気がしていた。
(・・・そう言えば、あの機能訓練の報告書の件、どうしたっけ・・・)
安岡の背中に、言い知れない悪寒が流れ落ちるのを感じた。
綾音は、ゆっくり、一歩を踏み出しながら、可愛らしく小首をコテっと傾け、不自然なほど甘く、ゆっくりとした口調で言葉を続けた。
「それとも、まさかーーー忘れていた。とは、言わないわよね?? 信一・・・」
その瞬間、安岡の目には、彼女の笑顔が、まるで陶器で作られた精巧な仮面のように見え、優しい声色も、まるで獲物を見つけた猛禽類のような威圧感を醸し出していた。優しい笑みのはずなのに、その笑みに悪寒が走った。
「・・・アハハ、当然じゃないか。まさか、仕事をほっぽりだして、わざわざ、こんなところに来たり、するわけないだろう??」
その迫力に押され、安岡は、一歩、また一歩と後ろに下がろうと、体勢を動かす。
脳内で必死にパラダイムシフトを試み―――ようとして、失敗する。それは、まるで白いモヤに隠されている状態によく似ていた。体が虚無感に支配され―――人の身体を動かすように、安岡の身体や頭は、活動を辞めていた。
―――動いても、無駄。そう、本能が警報を鳴らしていた。
「・・・フフッ、逃さないかな」
クルッと視線を正面に戻した瞬間、綾音は、安岡に覆いかぶさるように屈み込んだ。
安岡が立ち上がろうと身体を起こした一瞬、安岡の眼前に綾音はゆっくりと歩み寄り、彼の身体を包み込むように、身体を寄せる。
「-――ッ?!」
ふっと、彼の頭に柔らかな感触が当たった。それは、少し芯の硬さを感じさせつつ、確かな重みを伴った、女性特有の柔らかさと存在感。鼻腔をくすぐるシャンプーの柔らかい臭いと、幸福感を引き出すぬくもり。その男性であれば、誰であっても抗いがたい誘惑の感触が彼の後頭部を襲い、そのまま彼の額に、彼女の包容力と慈愛の籠もった右腕が回された。そして、左腕の付け根が、安岡の左のこめかみにピタリと添えられ・・・。
(・・・? コメカミ??)
―――ミシ。 ―――ミシ。
安岡がその“正体”を理解するより早く、逃げ場のない密着した空間から不吉な音が鳴り響いた。
「・・・ちょ、ちょっと待て! 痛い痛い!!」
「普通、ここに来るなら、事前に仕事を終わらせてくるものかな?? それなのに、なんで片付けてこなかったかな!!!!」
―――ミシ。 ―――ミシミシ、ミシミシミシ!!
その瞬間、安岡の頭蓋骨から、本来聞こえてはいけない悲鳴が響き渡った。
「イタイイタイイタイ! ミシって言っている!!! いま俺の骨からありえない音がなってる~~~~!!!!!」
(・・・つうか、その質問。絶対タイミングが間違っている!!)
安岡の内心のツッコみをスルーして、綾音はコメカミを削り取ろうとする万力の圧力を一段階引き上げた。更に、突然の締め付けに態勢を維持できず、安岡の身体は後ろに引き倒され、バランスを崩した頭部にそのまま伸し掛かられる。至近距離で微笑む綾音の顔の瞳からは光が失われており、彼女の背後から、人には見えないどす黒く、禍々しいオーラが、陽炎のように立ち上がっていた。
「そうならないよう、昨夜、一緒に対策を考えたのに、それをスッポカした。だから、あのオンナに舐められる!! だから、お仕置きかな??!!!」
「イタイイタイイタイ! いや、ムリムリムリムリムリ!! お前だって知っているだろう!! あの指示内容で、終わらせてくるって、どんな完璧超人でもムリだし、対策ってお前があの場にいることが前提だろう??!!」
(それなのに、この仕打ちって、どう考えても、おかしいだろうが・・・!!!!)
安岡は、内心でそうツッコむ。
「それなら、こちらに一報連絡するとか、事情を知っている主任に報告するとか、他にやり方があったかな?? それを思いつかず、好き勝手言われるがままにしたのは、一体誰のせいかな?!?!」
―――ミシミシ、メキメキメキ!! ―――メキメキ、ミシミシミシ!!
「―――!!!!!」
そう言い、綾音は、腕に入れる力を強くし、締め付ける圧力をあげる。安岡は、首を左右に振り、その場から逃れようともがくが、キレイに決まった彼女の拘束は、彼の必死の抵抗を嘲笑うかのように、その動きを制限し、更に拘束に巻き込まれた毛髪が、彼の痛みのボルテージを加速させた。
「―――それに、今みたいに強く言い返せば、向こうも何も言い返せないはずなのに、なんでそれをあの時にやらなかったのかな??!! かなぁぁ??」
「痛い! 痛い!! 骨が、肋の骨が、板のように当たって、痛いから!!!!」
「―――失礼ね!! これでも、寄せれば谷間くらいはできるわよ!!!!」
そう言い、綾音は、今度は安岡がタップする腕を取り、そのまま腕の関節を掴み、関節技を決める。ヤバい!! と、安岡は態勢を変えようとローリング(体を捻り、技を外すこと)をするものの、態勢が悪いこともあり、あっさり決められる。
―――メキメキメキ!!
「―――ギブ! ギブギブギブギブ!! イヤイヤイヤ、おかしい!!! ここは、労わるように優しく接してくれるところじゃないのかよ!!!!」
「あははは―――おかしなこというね♪ しつけなんだから、痛みがないと覚えないでしょう♪ それに、ちゃんと労ったんじゃない! だから、今度は優しくカウンセリングしないとといけないかな?―――肉体言語でね!!!!」
「―――そんなカウセリングあるか!!!!」
安岡の心からツッコミをスルーして、綾音は満面の笑みを浮かべ、関節を決めた腕に力を入れる―――腕からギシギシと悲鳴を上げ、腕があらぬ方向に曲がっていく!!
すると、なぜか、先ほどまで友希人と一緒にいた杏奈が近くに寄る。そして、安岡と綾音の顔を交互に見た後、一言。
「――――先生、いちゃつくなら子供の見ていないところでやって! 見苦しいから」
「ちょ、杏奈!!! おま、最初のセリフがそれか??!!!」
――――バキ!!!!
「――――――――っ!!」
そうして、安岡の声のならない悲鳴が、朝の綺麗な青空の下、木霊した…。ちなみに、杏奈は、安岡を汚いものを見るような目で一瞥した後、そのまま、何事もなかったかのように元の場所に戻っていった。
そんな中、唯一、友希人だけ、そんな安岡の姿を悲しいものを見る目で見ていた。
―――一応、安岡をフォローしておくと、彼がこれほど低く見積もられているのは、現代社会特有の「認知のバグ」である。
本来、知能がある人の中で誰かとの衝突を避けるために自己評価を低く見積もる(メタ認知)の行動を取る者がいる。だが、皆の中にも、井戸端会議で奥様方の密談で「やっぱり、女子は大人よね。男子はいつまでも子ども」という言葉を聞いたことがあるのではなかろうか。だが、それは別に女性が優れているわけでも、男性が劣っているわけでもない。
2015年ダフネの論文によると、『人間の脳における男女特有の特徴を決定づける境界は1割にも満たない』という。つまり、女性が男性に比べ、『言語の能力の発達にリソースを割きやすい環境』にあるといえる。
更に、付け加えると、2000年代エイドリアン教授による『自己推定知能の研究』では、『女性は“言語能力”やEQ(気持ちを読み取る能力)の高さ』を“知能の高さ”と関連付ける傾向にあり、男性は『自己評価を実際より高く見積もる傾向にある』という調査結果がある。だが、残念ながら、EQとIQの因果関係については、現代の研究にて、脳の全く異なる場所で処理されていることがわかっている。更に、人は“身の丈に合った有用な事実を求める生き物”である。それは、情報でも、知識でも、経験でも…。
つまり、悲しいことにどれだけ素晴らしい研究、実績を発掘したとしても、それが信用に値しない事象であれば、それは『机上の空論』と大差がない。そして、“人は見たいものを見て、信じたいものを信じる”生き物である。
「男は傲慢な生き物」と教えられた女性と「女性は男を幼稚であると見ている」という話を聞いた男性。
本来であれば、“子ども”という枠組みの中、それぞれの長所や短所を見極め、教育するのが正しく、そこから異なる部分は“過去に原因を求める”べきである。だが、悲しいことに人はそこまで思考、想像力を働かせたりはしない。
その結果、安岡が賢明であろうと努めれば努めるほど、彼女たちのバイアスのフィルターを通った観測結果は、「実力がない」「能力の欠如」「劣っている」と映り、逆に、安岡のバイアスフィルターからは、「具体性の欠如」「惰性的」「他責志向である」と捉えてしまう。
“観測者も観察対象からすれば、また観測者なり”。
彼の問題は、実は巡って、それを非難している観測者自身の “怠惰が引き起こした問題”であるというのは、なんとも皮肉な話である。
「…ふぅ。ひどい目にあった…」
時間にして数分後、綾音の拘束から解放された安岡は、静養室前の広場で、頭を回し、状況を確認していた。受けた関節技は、ちょうどストレッチで筋肉を伸ばすように、上手い具合に身体の筋を伸ばしていたらしく、後遺症を残すようなダメージはない。だが、伸ばすように、ゆっくりと頭を左右に動かすと、首の裏からミシミシと音が鳴っていた。
「…チッ、ちょっとやり過ぎだろうが!」
安岡が舌打ち交じりに呟くと、綾音は、いたずらっぽい笑みを浮かべて笑った。
「そう? でも、フフッ、先より目も覚めた様子で、顔色も戻った感じだし、よかったじゃないかな? 少なくとも、さっきの死んだ魚のような目よりマシじゃないかな♪」
そう言われた安岡は、やはりどこか腑に落ちないという感じに、眉を吊り上げた。いや、口端を吊り上げ、引きつった笑みを浮かべた。だが、やはり気に入らないという感じに、顔は背け、口を動かす。
「それにしても、他にやりようはあっただろう?? 後ろから優しく抱きしめるとか、頬をつねるとか…!」
安岡のそんな呟きに、綾音は呆れたような大きなため息を吐いた後、口元に手を置き、馬鹿にしたような、いや、少しからかうような口調で言った。
「あら~? そんな優しさ、何もしてない殿方に無条件にあげるわけないじゃない。ワンちゃんのしつけも、飴と鞭の使い分けが重要というかな?」
「俺は、調教中のイヌか、なんかかよ・・・」
そう言い、安岡は諦めのため息を吐いた。だが、ふっと、何かを気づいたように視線を下に向け、手のひらを見つめた。
その間、綾音は、ポケットからメモを取り出し、何かを書き始める。その内容を指でなぞり、確認するようにフムフムと頷くと、大きなため息をつく。
「…はぁ、本当、何も教えなかったんだ。その前に、まずやるべきことあったと思うけどなぁ?」
「ん??」
安岡が顔を上げると、綾音は、先ほど書いたメモを安岡に渡した。
安岡が、内容を黙読すると、そこには、先ほど話しに出た初面談の子どもの名前と年齢、なんで来訪するに至ったのかなどの経緯が書かれていた。
「他には、ん? これは、今日予定されている進行ルートか」
綾音から受け取ったメモに書かれている内容は、以下の通りとなる。
【基本情報】==========
名前は、『黒川澪』。10歳。
今年の春、小学5年となり、学内の暴力事件に巻き込まれたショックで、茫然自失。
定型文以外の受け答えはできず、構造型会話のみ可能。精神的ケアと環境的ケアが必要。
【来訪スケジュール】
午前10時 ご家族到着予定。『面接』、学園説明。
午前11時 校内案内のち、訓練室にて『SST訓練』体験(知能、言語能力調査)。
午前12時 本校舎で授業を見学後、食堂にて昼食。
午後1時~2時 静養室にて医師、臨床心理士の簡易検査、診察を実施、
午後3時 解散予定。
(こりゃ、またえらく詰め込んだな)
安岡は、内心悪態をつきながら、視線を動かす。そもそも、どんな子が面接に来るのか、わからない以上、不自然な点などわからないのだけれども・・・。
「病院ではなく、施設で検査、診察か・・・。まぁ、医者が常駐していない場所では、おかしなことではないか・・」
緊急性や特殊な事情により、外部の専門医が、一室を借りて健康診断や簡易な検査、診察を行うのは、まぁ、決して多くないが、ままあることである。
「それにしても、かなり無謀なスケジュールだな。ショートや措置入院なら、まぁ、わからなくはないけど・・・」
措置とは、病気や虐待、イジメなどで生命そのものが危険な場合に行われる、法的強制力が生じる手段だ。最も、ほんの20年ほど前は、かなり緩い制度だったらしいが・・・。
「そうね。今朝のケアカンファレンスで共有される情報だと思うんだけど、昨夜、戸越さんから連絡があったの。あちらの臨床の予定が合わないから、ぜひとも立ち会ってほしいって」
「そうか―――ん? 昨日? 普通、現場のスケジュール調整や何かで、3日。もしくは、5日はかかるんじゃないのか? そんな緊急性の高い案件なのか?」
「・・・それは、分からないかな? ただ、この一月で体重が4キロ近く減少し、返答も簡潔。口数も少なく、必要以上に受け答えをしない状態らしいんだ。加えて、彼女のお母さんの精神的困窮が著しい感じらしくて・・・。海外赴任していたご主人は、まともな受け答えができるようなんですが、それも微妙みたいなのかな。本人とあまりコンタクトを取れない状態らしくて、そこそこ緊急度が高いものと考えているって、一応、児童相談所からの“一時保護の重要性”は許諾を受けているようなの。一応、戸越さんが児相に確認したそうです」
「・・・なるほどね」
安岡は、顎に手をあて、考え込む。
「・・・だから、バタついているっていうのは、分かるけど、それなら、どうして期間を空けなかったのかな? いや、意味は分かるけど、それなら、小林さんにじゃなくて、他のSTもいるし、彼なら確か今日の午後だったはず。それなら、小林さんではなく、そのベテランのSTにスケジュールを抑えることもできたはず?」
「そこは、あの二人の暴走らしいかな。昨日、緊急会議で高梨さんと伊藤さんが、児相の調査報告書を見て、主任や教頭の慎重な意見を勢いで押し切ってしまったんですよ。教頭先生は、『特性が分からない子どもは、受け入れられん』と言ったらしいんですけど、ママさんたちの暴走と抑え役だった酒井さんも同調して、結局強行状態になったらしいかな」
伊藤さんというのは、本校の担任教員の一人だ。本名は伊藤静香。元公立小学校の教員をしていた40代の女性で、子育てが一段落したことをキッカケに、ここの職員の紹介で働き始めた女性教員である。ふくよかな体形と可愛らしい丸っこい顔という、いわゆる、近所の優しい世話焼きオバサンという雰囲気の女性で、実際教え方も上手い。ただ、少々思い込みが強い面があり、友希人や杏奈の“話せない”のを『人前で話す経験が不足しているから』と結論づけている節がある。実際、それで話すのを怖がらなくなった子もいるため、実績はあるのだが・・・。
「・・・らしいって、綾音はその場にいなかったのか?」
「アハハ、例の案件で、私不在・・・。それに、仮にいても、無理だと思うかな。代わりに行った心理士の子も、意見を聞かれたけど、話は出来なかったと言ってたし、まぁ、緊急度が高い案件であるのは分かるけど、それに、私もたまたま、知識が役に立っただけで、同じですからね」
「・・・そうだったな。・・・確かに」
安岡は、空を見上げて、小さな呟きを漏らし、自嘲気味に笑う。
そう、医者や弁護士、教師のように、資格一つあれば飯を食える仕事じゃない。だから、人によっては舐められ、3Kと馬鹿にされる。たとえ仕事にプライドがあったとしても、家政婦やお役所仕事と何が違うと言われても、反論できないし、反論しても理解してもらえない。
せめて、海外のように独立した組織があればと思うが、すると、競争率が高くなり、生き残れない。結局、どちらに転んでも、地獄なのは、変わらないんだろう。そう、安岡は、ふっとそう思った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
毎週更新の予定でしたが、前回の更新から二週間も空いてしまい、申し訳ありません。
今回、安岡の置かれている環境の再定義と、新しく登場する「黒川澪」というキャラクターの背景を整理するのに想定以上の時間がかかってしまいました。お待たせした分、物語の土台となる重要な情報を詰め込めたかと思います。




