ウェーネと模擬戦
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冬が終わろうとしている頃。遂にエレナちゃんが身体能力強化魔法の第三段階をマスターした。何というか、色々と苦労をしたみたいなんだけど、弓を引くことに成功したんだ。……まあ、危ないので、矢を打たせては居ないけど。けど、無事に弓を引けるだけの身体能力強化魔法を発動する事が出来た。これを、レジエナに教えてくれると、後はレジエナの冒険者登録には、ウェーネが文字の読み書きと計算を覚えて、身体能力強化魔法を第一段階まで覚えてくれれば良いってだけになった。
「エレナちゃん。おめでとう。……まあ、そこまでの強化が必要なのかどうかは置いておくとしても、強化できると言う事はいい事だからね。私生活も楽になるし、使えて損はないから。後は、レジエナにその感覚を教えてやってくれ。まあ、それが終わったら、ウェーネの勉強を待ってから、冒険者登録をしに行くからさ。エレナちゃんは冒険者をやらないんだよね?」
「そうですね。あたしは冒険者登録は良いかなって。戦えた方が良いんでしょうけど、そこまで必要ないかなって思っているんですよ。でも、どうやってやればいいのかは、レジエナちゃんにちゃんと教えますので」
「ん。よろしく」
「あーしは第二段階で躓いているからなあ。何でこれを握れるようになるんだろう? 結構強い力が必要っしょ? そんなに違う訳?」
「全然違いますね。第三段階までいけば、割と何でも出来そうな気がしますから」
「えーねも第一段階までしか出来ない。それでも良いの?」
「ウェーネの場合は、ユニークスキルがユニークスキルだからな。俺と模擬戦をしているだろう? それだけでも十分だ。普通に戦えている。重いはずの斧を振り回せるだけの身体能力強化魔法を覚えたんだ。後はユニークスキルに従って行動できれば、結構な使い手になるとは思う。文字の読み書きと計算が出来たら、冒険者登録をしに行くから、楽しみにしているといい。まあ、それまでに勉強を何とかしてもらわないといけないんだけどな」
「うぅ……。勉強嫌い。何で覚えないといけないの?」
「文字が読めないと、依頼文も読めないだろう? 計算が出来ないと、素材が幾らで売れるのかが解らないだろう? それを覚えない事には、冒険者にはなれない。……訳でもないんだけど、碌でもない冒険者にしかならないんだ。マジでどうしようもない冒険者にしかなれないから、覚えておくに越したことはない。しっかりと勉強しておけ。模擬戦は昼からでも出来るだろう? 朝はしっかりと勉強するように。レジエナもちゃんと勉強したからな。半年から1年も勉強すれば覚えられる。皆が通る道だ。ボリクラは知らないが、エレナちゃんもレジエナも通った道だ。俺も両親から教わったしな。皆覚えさせられるんだよ」
「はあーい。頑張る」
勉強は大事だ。勉強が出来ない冒険者を、これでもかって見てきたが、本当に碌でもない冒険者しか居なかったからな。今は全員いなくなったけど。宿屋に泊まれなくなったからな。宿屋の値段が上がって、泊まれるだけの資金を確保できなくなってきたんだ。そういうのを追い出すために、値段を上げたんだから、狙い通りではあるんだけどな。使えない冒険者は要らない。そういう冒険者は、違う場所で稼いでもらえば良いんだよ。まあ、稼ぐって言っても、限界はあるとは思うが。そもそもお金の計算も出来ないのに、冒険者をやるんじゃないって感じではある。そのくらいは教育しておけって思うんだよな。今後は、教育されるとは思うけど。クレメンティア子爵家が、村長の所に、勉強を教える人材を送り込んだはずだ。それで、村人を、子供たちから順番に教育していくのだ。大人はもう無理だとは思うから、子供からなんだけど。子供を教育していけば、その内代替わりが起きる。そうすれば、識字率は一気に上がる。それで良いと思うんだよな。
今の大人は切り捨てるしかない。そういう世代だと思って諦めてもらうしかない。まあ、冒険者でも、勉強しようと思えば出来るんだけどな。町には学校を作って貰う予定だし。そこで勉強すれば、冒険者だって覚えられるんだ。覚える様な殊勝な冒険者は居ないとは思うけど。そういう冒険者に限って、収入が無かったりするからな。稼げている冒険者は、大体教育を受けていたりするんだよ。他の貴族領では、そういう教育を受けているのが普通なんだろうとは思う。ボッテンハイム子爵家がサボっていただけなんだよ。クレメンティア子爵家になって、その辺の事が改変されて行けば良いなとは思うけど。教育は絶対に必要なんだ。教育を受けさせて、魔力が適正よりも多ければ、錬金術師として、王都に送り込むのも良いとは思う。錬金術師を増やした方が良いからな。領地の錬金術師を増やして、発展させる方が、色々と内政が進むと思うんだよ。
そんな訳で、ウェーネと模擬戦をしている訳なんだけど、ウェーネの斧使いとしての才能は凄いものがある。まあ、負けるとは思わないが、普通に攻撃が重い。身体能力強化魔法を使っているから、何ともないように受け止めているが、これが同じ鉄の武器なら、俺の首は飛ばされているだろう。そのくらいは馬鹿げた威力を叩きだしている。これがユニークスキルの力なのかと思う。割と出鱈目もいい所だとは思うぞ。普通に模擬戦をしているが、今のウェーネでも、グラングレイズベアくらいは軽く屠れる。アッシュサーバルも、早さに対応できれば圧倒できる。武器があれば、サラマンドラも余裕だろうな。マジで可能性の塊だ。強いとか弱いとか、そういう次元じゃない。理不尽な何かに襲われている感じがする。まあ、それでも負けないんだけどな。こっちは身体能力強化魔法の第三段階まで使っているんだし。視力も強化されている。そんな攻撃で死んではやらん。
「うがぁー。完全に見切られてる。ギリギリで回避されてる。当たりそうで当たらない。全く勝ち筋が見えないんですけどー」
「勝ち筋が見えて堪るか。こっちの方がまだまだ強いんだからな」
「うー。1本くらいは取りたいんだけどなあ」
「まだまだ攻撃は当たってやらん。というか、最近はフェイントを覚えてきただろうが。マジで冷やっとするときがあるんだからな。斧の軌道が若干ブレるし、加速するしで、対応に困る。武器の性能が良いから何とかなっているけど、鉄の武器だと死んでた可能性もあるんだからな? それくらいには強いんだから。負けてやるわけにはいかないけど、その内マジで負けそうだ。俺から1本取ったら、師匠に稽古を付けてもらうからな。出鱈目な相手も知っておくべきだ。何をしても殺せないというか、死なない人を知っておくべきだな。……ユニークスキルでも捉えられない様な何かだとは思うし」
「そんなに強いの?」
「ああ、強いぞ。俺も本気でやらせてもらったけど、1本も取れなかったからな。身体能力強化魔法を2重にかけていたのに、どうにもならなかったからな。マジで人外だと思う。師匠から1本が取れるんだったら、まず魔物には負けない。魔物程度では止められない。伝説上の魔物クラスを連れてこないと話にもならないとは思うぞ。……というか、ウェーネも魔力量が大概多いんだよな。レジエナよりも多かったのには驚いたぞ。レジエナでも20万くらいの魔力があるっていうのに、その3倍程度の魔力があるんだからな。身体能力強化魔法も、2重で発動させることも考えた方が良いだろうな。まあ、まずは今の身体能力強化魔法を極めてからになるとは思うけど。第三段階までいったら、別の身体能力強化魔法を教えるからな。それだけの魔力があるなら、余裕で使えるから」
「まだまだ強くなれるんだね。えーねも強くなりたいし。冒険者になるからには、誰よりも強くならないとね。目標は大きくないと」
「その意気だ。……頼むから、俺への攻撃は、寸止めにしてくれよ。まだ死にたくないからな」
「そんな事をしなくても、当たらないから大丈夫! せやぁあああ!」
「当たった時の事も考えてくれよな! よっと!」
頼むぞマジで。死んだらお終いなんだから。模擬戦で死んだとか、笑い事じゃないんだし。ユニークスキルって大概だとは思うぞ。戦闘の素人の筈なんだ。この間、初めて斧を持ったはずなんだよ。それなのに、熟練の斧使いの様に戦うんだから、ユニークスキルは侮れない。基本的に斧の使い方が上手い。大きいもののはずなのに、小回りにして加速させたり、最大限腕を伸ばして遠心力を使ったりしてくる。見切ったと思ったら、微妙に伸びてきて、顔を掠めそうになる時もあるんだ。この前まで斧を持ったことが無かったはずなのにだ。最適な動きを知っているかのように振り回してくる。身体能力強化魔法で、動体視力も伸ばしてなかったら死んでると思うぞ。そのくらいには強い。まあ、師匠ほど出鱈目ではないけどな。まだまだ素直だ。駆け引きはまだ俺の方が上手だ。それも上回られたら、どうなるのかが解らないけどな。
ウェーネとの訓練は、非常に良いものである。昔の感覚を思いだす。理不尽に師匠にやられていた頃の記憶を呼び覚ましてくれる。俺も大分鈍っているような感じがするな。まだまだ強くなれる気がしている。ベルンケラーに行く前までに、ある程度の勘を取り戻しておかないといけないだろう。俺だって護衛対象になってはいるが、戦えるんだ。素材を確保しに行くんだから、俺だって戦わないといけない。そのくらいは解っている。動けないなら死ぬだけだ。動けるようにしておかないといけない。どんな魔物が居るのかが解らないんだ。アサシンタイプの魔物だって居るかもしれない。アッシュサーバルもアサシン系統ではあるが、それでも気配はするからな。死属性の魔物のアサシンタイプは、本気で気配が消える奴らも居るっていうし、用心するに越したことはない。
感覚を研ぎ澄まし、ひたすら訓練をする。出来ることを、出来る限りやるのが良いんだ。動きは最小限に、効果は最大限に。でも、そんな攻撃も、ウェーネに躱される。手加減はしているが、寸止めをするつもりの一撃が、読まれて躱される。戦闘系のユニークスキルはそう言う事も出来るのか。こっちの手の内を全部明かさないといけないくらいには、実力差が余りない。身体能力強化魔法のお陰で、俺が戦えているって状態だ。身体能力強化魔法が無ければ、相手にもならないだろう。それくらいには出鱈目な強さだ。理不尽にもほどがある。
鍛練は2時間くらいで終わりだ。それ以上は俺の神経が持たない。割とギリギリなんだ。余裕がある様に見えて、そんなにない。あっちは全力で来ている筈だが、それでも、斧をもって1か月の新人だぞ? それなのに、熟練の斧使いと戦っているような錯覚を受ける。強いなんて言葉で表しても良いのかって感じだな。普通に戦えば負けている。身体能力強化魔法のお陰で戦えているだけだ。向こうが第二段階まで使える様になったら、俺は身体能力強化魔法を2重でかけないといけないだろう。燃費は悪いが、それくらいの強化をしないと負けかねない。まあ、普通の身体能力強化魔法では、視力や動体視力は上がらないんだけどな。体の力や強度が上がるだけだ。見切れなくなりそうなら、最終段階での模擬戦も必要になってくるとは思う。そんな事まではしたくないんだけどな。俺が冷や汗を掻くだけだから。
「凄いですよね。あんな風に戦えるんですから」
「普通じゃないっしょ。戦いを見てても普通じゃないってのは解るよ。両方ともさ」
「ん。目で追うのが大変。けど、何とか見える」
「ですよね。あたしも目で追うのが限界です。視力を強化しているのに、ついていくのがやっとなんです」
「いやいや、目で追えるだけでもおかしいからね? あーしはそもそも見えてないし。普通じゃないって事しか解らないっしょ。それだけおかしい戦いだって事っしょ?」
「まーけーたー! 今日も勝てなかった!」
「お疲れさまでした。けど、勝てなかったんですか? あれでですか?」
「こっちの攻撃は全部見切られていたから。まだまだ対処可能だって感じで余裕がありそうだった」
「そんな事は無いんだがな。あれ以上でやられると、こっちの身が持たない。……まあ、限界はまだまだ先だけど、同じ強化をしてきたら、俺じゃあ勝てない。今日も負けはしなかったけど、勝てたとは思わないからな」
「あーしには、両方とも人外にしか見えなかったよ。動きがまるで見えないんだからね」
「見えなくて普通だ。あれを追えるだけの強化が出来たら、身体能力強化魔法は第二段階まで行けている。というか、第一段階までしか出来ないはずのウェーネにこっちの攻撃が見切られている方がやばい。ユニークスキルで強化はされているんだろうけど、出鱈目もいい所だ。こっちの攻撃が当たる気がしないからな」
「えーねの攻撃も当たる気がしないんだよね。色々と工夫をしている筈なんだけどなあ。当たってくれない」
「強い奴が工夫を始めたら、本気で手が付けられなくなる。でもまあ、工夫をするなら今だな。身体能力強化魔法の段階が進めば、小細工抜きで俺が負ける。それだけの理不尽さが、ユニークスキルにはあるって事なんだ。持っているだけでSランク冒険者になれるって言われているだけはある。これで身体能力強化魔法をマスターされたら、誰も止められないんじゃないか?」
「そんなになんですか? 詳しい事は解りませんけど」
「そんなにだな。身体能力強化魔法の第一段階と第三段階には、明確な差があるんだ。それを無視するかのように、才能で戦いに来ているからな。こっちの動きもある程度は読まれているのか、勘で察しているのかは知らないが、対処されていたからな」
「半分は勘ですー。対処できないって思える様な攻撃が飛んでくるって勘が告げてるんですー。だから仕切り直さないと駄目だって思う事もあるからさー」
「……普通はそこで回避なんて出来ないはずなんだけどな。平然と回避をされている訳で。出鱈目もいい所だぞ。終わらせたいと思った一撃が、ことごとく回避されるんだからな。勘で動いているといっても、的確過ぎる」
勘とは一体って感じである。動きを予想して、これで終わりだという攻撃を繰り出しても、大きく躱されて、仕切り直しにさせられる。小さい攻撃やフェイントにも引っかからないし、厄介なんてものじゃない。これがユニークスキル。これが才能。本当に嫌になってくるな。戦闘系のユニークスキルが、ここまで出鱈目だとは思わなかった。……因みに、師匠のユニークスキルも戦闘系なんじゃないかと思って聞いた事がある。が、戦闘系では無いって回答だったからな。使いどころは、戦闘でもあるらしいが、汎用的なユニークスキルなんだと。それでも、戦闘は出鱈目に強かったからな。やっぱり師匠は何処かしらおかしいんだよ。ウェーネと戦わせてみたい。師匠の本気を見てみたいな。それでも、ウェーネが勝つ未来が見えないのが凄い所ではあるんだが。あの動きをしていても、ウェーネの攻撃が当たる気がしないんだよ。




