教育の必要性
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とりあえず、今は何とかして胴長と長手袋を売りたい。まあ、見た目だよな。見た目がかっこ悪い。だから売れないと言う事なんだろうけど、そもそも存在を知らないって事が上げられるんだよな。というか、獣人の冒険者なら知っている筈なのにな。オーロンドたちから聞いているはずだ。何で買わないんだろうか。借金も認めているというのに。人間の冒険者? そもそも素材を持ってきたことが無いから、よく解らない。他種族の冒険者は見ない。ここに来るのは人間と獣人だけだ。そもそも人間が7割以上、獣人が2割、その他の種族が1割以下って感じの分布だからな。そもそも人間の数が多すぎるって感じなんだけど。それだけ増えやすいってのもあるんだろうし、世代交代が激しいのも原因の1つだろうな。獣人でも、最低150年は生きるから。エルフなんて最低でも800年だ。長生きすぎる種族は増えない。そう言う法則があるんだろうとは思う。種としてどうなんだって思いはあるけど、こればかりは仕方がない。エルフに生まれた以上、俺はエルフなんだ。エルフの中でも変人の方だとは思うけどな。それは仕方がない。転生者だし。
「今日のお客さんはどんな感じだった?」
「そうですね。まだまだ人間の冒険者が多いです。獣人さんも居るには居るんでしょうけど、数が少ないですよね」
「まあ、絶対数が違うからね。人間が多いのは当たり前かな。売り上げの方はどうかな?」
「はい。それは結構皆がダークポーション、暗視ポーション、俊敏ポーションをセットで買っていきますね。獣人の人は、ダークポーションだけって人が増えてきました。もしかしたら、身体能力強化魔法を覚えられたのかもしれないです」
「うんうん。それだけ分析できていたら良い感じだね。初めてのお客さんの反応はどうかな?」
「えっと、初めてのお客さんは、ダークポーションだけを買っていくことが多いです。でも、2日目か3日目になると、セットで買っていくことが多いです。でも、何で皆、初めから買わないんですか?」
「まあ、初めはね。森がどんなに暗くて危険な所なのかが解っていない冒険者も居るだろうし。暗くて何も見えない状況で、魔物と戦闘になったら危ないからね。それを経験すれば、多少は高くても、ポーションがあった方が良いと考えるのが普通かな。初めから買う人の方が珍しいとは思うよ。多分だけど、ここに来ている冒険者の殆どが稼げていないだろうからね」
「あれ? そうなんですか?」
「そうなんだよ。稼げない冒険者がかなりいる。それは何でなのか、解るかな?」
「うーん? えっと、採取をしないからですか?」
「そうだね。採取をしない冒険者も多くいる。そう言う人たちは討伐で稼がないといけないんだ。でも、魔物って何処からともなく湧いて出てくるけど、無限じゃない。それなりに稼げている人も居れば、全然魔物に会わなくて、倒せない人も居る。だから、東西と北に分かれて狩りをするんだけど、それでも魔物の方が少ないんだよね。ゴブリンとコボルト程度しか倒せないだろうし」
「と言う事は、弱い冒険者の人がこっちに来ているって事ですか?」
「そうなるね。見た感じだと、ゴブリンにも苦戦しそうかな。それ以上に素早いコボルトにはもっと苦戦しそうだ。獣人の冒険者は、もともとの身体能力が高いからね。その辺は難なく倒せるんだろうけど、人間の冒険者じゃ厳しいんじゃないかなって見ているんだ」
「えっと、それなら、力を増やすポーションとか、身体能力を強化するポーションとかって無いんですか?」
「良い質問だね。答えは、ある、だ。でも売らない。売れないからね」
「え? 売れないんですか? 皆が強くなれるんですよね?」
「そう。皆が強くなれる。そんなポーションもある。けど、身体強化ポーションは銀貨3枚するんだよ。そうなると、稼げない冒険者には買えない。しかも1時間くらいで効果が切れるからね。1日持つわけではないんだ。だから、余計に弱い冒険者は買えない。それだけの利益を出さないと行けなくなるからね。暗視ポーションや俊敏ポーションは、安くて1日持つから便利なんだよ。素材がそこまで高くないから、ある程度は作れる。ただ、素材も村の人たちや子供たちが採取してくれているものだから、これ以上人数が増えてきたら、品切れの可能性もあるんだよね。その辺は人間の冒険者にも採取をして欲しいんだけど、人間の冒険者は採取をしないだろうからね。彼らには素材を見分けるだけの術がないから」
「?? 素材は見たら解りますよね? あたしはユニークスキルで解りますけど、村の子供でも解るんですよ? それが解らないんですか?」
「これが解らないんだよ。何でなのかって、覚える気が無いからだね。お金にならないと思い込んでいるから。素材は保存瓶を持っていないと採取出来ないでしょ? 人間の冒険者って、獣人の冒険者と違って、リュックを背負っていないって気が付いたかな?」
「……あ! 確かに、獣人の人は結構荷物を持っていますけど、人間の人は武器しか持っていない様な気がします!」
「そう。武器しか持っていないんだよ。だから、保存瓶を持てないんだ。子供たちは両手が空いているでしょ? 武器を持つ必要が無いから。だから村の中でしか採取が出来ないけど、採取しか許されていないから、お金を稼ぐために、必死で素材を覚えた。でも、人間の冒険者は、討伐で稼ごうとしているから、そもそも採取に興味がない。興味がない事は、覚えられないように人は出来ているからね。俺も、覚える気のない冒険者に教える気は無いし。そもそもそこに展示してあるんだから、見て覚えてねって事でもあるんだよ。あそこにあるのは、この森で取れる素材だ。それを1種類だけでも覚えれば、それなりの稼ぎは出来るのにね。討伐に拘るんだよ。でも、獣人の人は、保存瓶を持っていく。彼らは見た目では判断していないんだ。素材の匂いを覚えて採取をしている。だから偶に、保存瓶を開けてもいいか、聞かれるでしょ?」
「そう言えば、匂いを嗅いでいる獣人の人は多いです。そうやって見分けていたんですね。……でも、冒険者の人が、討伐に拘るのはどうしてなんですか?」
「うーん。それは憶測になるけど、多分だけど、討伐でしかランクが上がらないんじゃないかな。採取だと、冒険者ギルドに納品にいかないからね。別に錬金術師も採取証明なんて発行しないし。素材を持っていれば、それで良いから、そもそもそんなものなんて発行しないしね。ただの紙切れ同然だし。冒険者ギルドがそれで評価してくれるって言うなら、発行しても良いとは思うけど。……そう言えば、エレナちゃんは文字は書ける?」
「書けますし、読めますよ。村長が、絶対に覚えないといけないって言って、子供たちに強制的に教えています」
「流石は村長だな。先が見えている。でも、他の村ではどうかな……。もしかしたら、冒険者の中には、文字も数字も読めない、書けない人が大勢いるとは思うんだよね。そこに書いてある数字も、何の意味を示しているのか解らないって人も居るんじゃないかな。多分だけど、獣人の冒険者は読める。彼らはそう言う事は、仲間内で絶対に教え合うからね。人間はどうかな。銅貨や銀貨でしか金額を認識していない可能性がある。ケッタって言う事も知らないかもしれない」
これが人間の場合、あり得るんだよな。この村の村長はドワーフなんだ。長年生きてきて、文字の読み書きは必須だって解っている可能性がある。だから、強制的に教える。理解が出来るまで教える。それが当たり前の事だから。でも、短期的に考える、人間の村長だった場合、そこまでやってくれるのか? 教育が当たり前なんて、前世の歴史を考えても、普通じゃないからな。お金の使い方は解る。けど、正確に計算する術を持っている人は少なかった。そもそも村では通貨は使われておらず、物々交換が主流でもあった。そんな時代が、西洋では当たり前の事ではあった。……無駄にそう言う事を教え込んでいた日本が異常だ。平民は読み書きが出来ない。計算も簡単なもの以外は解らない。そんなのが当たり前の様な時代。この世界も、それが当てはまる。町の人は、流石に理解をしているとは思うが、それでも怪しい。識字率は20%を下回るんじゃないかな。そうなってくると、錬金術店がぼったくりなのも頷けるだろ?
「だから、そもそも自分がどれだけのお金を持っているのかすら、あまり良く解っていないんじゃないかな。宿屋ではこのくらい取られる。食事でこのくらい取られる。だから後何日ここに居られるって事は解っても、それ以上の事が解っていない可能性がある。……ああ、そうだ。それが解らないから、胴長と長手袋も売れないのか。銀貨33枚の価値が解っていないのか。獣人は把握しているんだろうが、把握していると今度はその金額が無い事が解ってしまう。借金はまだ俺の事を信用しきれていないから怖い。責めてオーロンドたちが信用に値するって判断するまで待とう。そんな所か」
「えっと?」
「……まあ、自分がどれだけのお金を持っているのかも解っていないんだよ。銅貨が100枚あれば、銀貨になるって事も知らないんじゃない?」
「え? それって、子供よりも馬鹿だって事ですか?」
「端的に言えばね。ふふふ、そうだね。子供よりも馬鹿なんだよ。まあ、そう言う人には成ってはいけませんっていう、いい例なのかもしれないけど。この村の子供たちは大丈夫だと思うよ。皆良い冒険者になるとは思う。後は、どれだけ自分たちの価値があるかの認識が付いてくれば、って感じかな。ああ、それと、子供たちにも教えておいて欲しいんだけど、テッケルンに行く事になったら、南東の錬金術師の店を頼れって教えてあげても良いかな? 出来るだけ毎日言ってあげて。嫌でも覚えられるように」
「テッケルンに言ったら、南東の錬金術師の店を頼れ、ですね。解りました」
「それと、獣人の冒険者の人には、どっちの方面で狩りをしているのか聞いておいてもらっても良いかな? 東が苦手な人も居るかもしれないし」
「獣人の冒険者には、何処で狩りをしているのか聞けば良いんですね。はい、解りました」
「よろしい。じゃあ、もう少しだけ店番をお願いね。暗くなる前に帰る事。そろそろ冬だし、どんどんと暗くなる時間が早くなってきたからね。気を付けて帰るんだよ?」
「はい。真っ直ぐ帰るようにしています」
段々と暗くなってくるのが早くなってきたからな。……暗くなる前に帰れるのが一番いいけど、出来るだけ備えておいた方がいいか。蛍光ランプを作っておこう。光属性の素材があれば作れるし、魔法が使えるんだから、魔力で起動させられる。魔石を使って燃料タンクにする必要がないし、暗くなって帰る時になったら困るだろうからな。出来れば先に作っておいた方が良いだろう。備えはしておくべきだ。……なんだったら、村の人たち用にも作るか? 何かあった時のために、使える方がいい様な気がしている。けど、そんな金があるのかって話にもなってくるよな。俺が反転のユニークスキルを使えるから、光属性の素材が手に入りやすいが、この村での価値を考えると、普通に銀貨30枚くらいするぞ。どれだけ安く作ろうとしてもだ。それは値段的に厳しいんじゃないかな。
何かあった時のために、魔力を吸い出しながら起動する蛍光ランプを幾つか作っておくだけにしておくか。皆で何かを探さないといけない時が来るかもしれない。直ぐに対応できるようにしておくべきだろうな。こんな事もあろうかと、と言える日が来ない事を祈るしか出来ないけど。割と言いたいセリフ上位に入ってくるとは思うんだけど、言わないといけない様な状況にならない方が良いんだよな。言わないといけないって事は、それを使わざるを得ない状況になっている訳で。それはそれで勘弁願いたいんだよな。
「すみません。ちょっと来てもらっていいですか?」
「うん? どうしたのかな?」
エレナちゃんに呼ばれていったら、獣人の冒険者が居た。珍しいな。普段は呼ばれないはずなんだけど。呼ばれるのは、人間の冒険者が、よく解らないものを採取してきたとか、金額に納得がいかないとか、そう言う事が多いんだけどな。
「えっと、この人たちの狩りの場所を聞いたんですけど、転々としているようなので……」
「狩りの場所を転々としているんだが、何か不味いのか?」
「ああ、狩りの場所を固定していないのか。それは止めた方がいいぞ。狩りの場所を転々とするって事は、何処まで入って良いのかのラインが掴みにくいからな。東なら東へ、西なら西へ。何処まで踏み込めば、何の魔物が居るのか。それを掴み切れない。特に北は危険が高い。実力があるなら、グレイズベアでも勝てるだろうが、身体能力強化魔法は使えるようになったか?」
「いや、まだだ。魔力の感覚を掴むところで躓いている」
「それなら猶更北にはいかない方が良い。ホーンデッドラビットとは戦っているか?」
「何度かは。だが、危険だと判断している。見つかったら、1体ならば倒せるが、2体以上いたら逃げるようにしている」
「危険だと判断しているなら北は止めた方がいい。ホーンテッドラビットを積極的に狩りたいのであれば、胴長と長手袋を買う事を薦める。あれなら心臓は守れるし、腕も何とか守れる。守らないといけない箇所が減るからな。首や頭は守らないといけないが、危険は減る」
「……オーロンドたちからは聞いている。だが、本当に借金が返せるかどうかを見極めてからにしておけとも言われている。同朋の忠言だ。無視は出来ん」
「なら東か西だな。西の魔物の匂いは解るか? 西には植物系の魔物が居る。それらのテリトリーが解るなら、西が一番安全だ」
「マンイーターとアースマッドの事か? それなら溶解液の匂いを覚えている。そこには近づかないようにしている」
「それなら西が一番安全だな。アースマッドには気を付けろよ? あれらは、素材を囮にして、人を呼び寄せる性質がある。マンイーターよりも凶悪だ。匂いが解るとの事だが、過信をし過ぎるなよ? 直感が命を救う事もある。ダイヤウルフにも勝てるなら、東の方が安全なんだが……」
「実力的に厳しい。やはり、西に絞る方が良いのか?」
「安全を考えるのであれば、西だけにしておくべきだ。狩場を転々とするのはおススメしない。それが出来るのは、腕のいい冒険者だけだ。自分の実力がそれ程でもないと思うのであれば、狩場は固定した方が良い。それで稼げなくてもだ。身の安全には変えられない。命あっての物種だからな」
「解った。西で狩りを継続してみる」
「それが良い。無茶は止めておくべきだ。エレナちゃん、ナイスだ。良い判断だ。未来ある冒険者を守ったかもしれないからな」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。何かあったら、また呼んでくれ」
狩場を転々とするなんてとんでもない。1つの場所を熟知した方が死ににくい。そもそもゴブリンとコボルトを狩るだけなら、何処でもいいというのが危険だ。魔物のテリトリーに入ってしまう恐れがあるからな。




