村でのひととき
俺と仲間たちは、丘を下った先にある小さな村に案内された。
茅葺きの家が並び、子どもたちが走り回り、畑では人々が収穫をしている。
まさに俺の夢で見た“王道ファンタジー村”。
「ようこそ、勇者様!」
村長らしき白髪の老人が深々と頭を下げた。
「この村に伝わる古い伝承にございます。異星より光の剣を携えて現れ、魔を打ち払う勇者のことが――」
……お約束だ。
でも、こういうのがいいんだ。
俺は少し照れながら頷いた。
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その夜。
村の広場には篝火が焚かれ、盛大な宴が開かれた。
木の器に盛られた焼き肉、香草スープ、甘い果実酒。
俺たちは村人たちと肩を並べ、笑い合いながら食事を楽しんだ。
エルフの少女リィナ(夢と同じ名前だった)が俺に微笑む。
「勇者様……いえ、あなた。きっと、あなたがこの世界を救う方だと信じています」
横でザルクは山盛りの肉をむしゃむしゃ食いながら笑っている。
「ククク! 肉はどの星でもうまいな!」
AIミリアは小型ホログラムを投影して、村の子どもたちと一緒に光の幻影遊びをしていた。
騎士ガルドは真面目に村人の訓練に付き合い、木剣を振るう。
……なんだか、心が温まる。
こういう時間こそが、冒険の意味なんだ。
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そして宴の最後。
夜空に流れ星がひとすじ走った。
村人たちは「神の加護だ!」と歓声を上げる。
俺はその光を見ながら思った。
――夢と現実が重なっていく。
ここから始まる物語は、きっと王道の冒険譚そのものだ。
だが同時に、胸の奥ではざわめきがあった。
夢で見た“魔王”。
あれもまた、この星に実在しているのではないか……?
笑顔に包まれた夜の村で、俺だけがその不安を胸に秘めていた。
特に言う事なし