魔王城の恐怖
漆黒の魔王城。
炎のように揺らめく魔力の灯火が、広間を赤黒く染めていた。
巨大な玉座に腰掛けるのは――この世の支配者、魔王。
その足元に、幹部たちがひれ伏している。
猛獣の如き戦士、妖艶な魔女、死霊を従える将軍……かつて数々の国を滅ぼしてきた数々の怪物たちがいる。
しかし今、その怪物達の表情には怯えが浮かんでいた。
「……ドレヴァンが、一瞬で消し飛んだ」
「竜鱗の結界すら、無意味だった……!」
誰もが声を震わせる。
「奴らは空から光を降らせ、軍を一瞬で焼き払った。
あの力は……もはや神の領域……」
沈黙。
重苦しい恐怖が広間を支配する。
だが、玉座の上の魔王は口元を歪め、低く笑った。
「……ふははは。
愚か者ども。確かに奴らは強大だ。
だが我は知っている。あの“天空の裁き”とやらがどこから来るかを」
幹部たちが顔を上げる。
魔王の瞳が深紅に輝き、空を見上げた。
「奴らは天を制したつもりでいる。
だがこの大地には届かぬ領域がある……
結界魔術の極致、〈星障壁〉を張れば、空からのの光なぞ通じぬ」
幹部たちがざわめく。
「星障壁……伝説に語られる、天地を隔てる結界……!」
魔王はゆっくりと立ち上がり、闇のマントを翻した。
「恐れることはない。
奴らは確かに“神”の如き力を持つ。だが神を討ち滅ぼす方法なら、我が知っている」
その声音には確固たる自信が宿っていた。
怯えていた幹部たちの目に、次第に闘志が戻っていく。
「……ならば次は我らが」
「勇者を恐怖で打ち砕いてみせましょう」
魔王は高らかに宣言した。
「異星の勇者とやらに、この地の真なる支配者が誰であるかを思い知らせてやろう。
次の戦は――我らが全軍をもって挑む!」
その声が広間を震わせ、魔王城全体に響き渡った。
幹部たちは一斉に膝をつき、唱和した。
「魔王様に栄光あれ……!」
そして――
勇者を恐れながらも、それを討ち滅ぼすべく、魔王軍は史上最大の侵攻準備を始めるのだった。