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9. シャルはここにいるよ

セラフィーヌの告白と共に、「聖女」の名は剥奪された。

王宮は混乱に包まれ、神殿は冷静に、けれど迅速に“魔女の裁き”を準備していた。

──その裏で、もう一つの動きがあった。


「真の聖女を助けねばー」


誰が言い出したのか。

だが噂はまたたく間に広まり、民が動いた。

神に選ばれた子を守るのだと、彼らはグランヴィル家を襲撃し、馬小屋で休んでいたシャルを救出し神殿へと送り届けた。


豪奢な衣に着替えさせられ、誰かの手によって梳かれた髪。

窓のない部屋で、シャルは静かに膝を抱えていた。


彼女はまだ、何も知らなかった。

ご主人様が“魔女”と呼ばれていることも──

自分が「神の寵愛を受けた存在」とされていることも。



神殿は、魔女の裁きを「公開」で執り行うことを決定した。


「人々に、真実を。

神を騙る偽りがいかなる末路を辿るか。

それを示すことが、次なる信仰の礎となる」

そう語るバルドルの言葉に、誰も異を唱える者はいなかった。


そして、もう一つ。

善意という名の下に、シャルは処刑場へと連れ出された。


「あなたは、神に選ばれし者。

その瞳に、悪しき者の最期を焼き付けなさい。

それが、聖女としての最初の務めです」


誰かがそうささやいた。

だがシャルは、ただひたすら戸惑っていた。


与えられた白い服も。

知らぬ大人たちの手によって整えられた髪も。

聖女と呼ばれても、何も分からない。


いつになればセラフィーヌの元に帰れるのか。

ただ、それだけが彼女の心を占めていた。



処刑の日が訪れた。


神殿広場には、人の波。

魔女の最期を見ようと、誰もが「信仰の証人」たらんと詰めかけていた。


白い衣をまとい、壇上に立たされたのは、元・聖女セラフィーヌ。

傍らにはひとりの少女。

金の瞳を持つその子が、ただ静かに見つめていた。


群衆は叫んでいた。

うるさい。臭い。焦げたパンの匂いと、汗と、興奮と、怒りの臭いが鼻をつく。


わからない。なにが起きてるの?

どうして、ご主人様は──こっちを見てくれないの?


ねえ、ご主人様。

シャルはここにいるよ。ここにいるよ。


「魔女を、斬首せよ!」


高いところから声が落ちてきて、金属が軋む音がした。

重たい音。ざらりと滑る音。カチ、と何かが外れる音。


その直前。

ご主人様の目が、ほんの一瞬だけ、こっちを向いた。


そして。


「シャル」


──確かに、そう聞こえた。

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