1章 2. 1.
茜が再び目覚めて、最初に浮かんだのは疑問だった……なんで生きてるんだろう、という疑問。
茜は死んでいるはずだった。
それも、二重に死んでいるはずだったのだ。
あの時。ふらりと、足がホームから離れて、勢いよく駆け込んできた列車にはねられようとしていた、あの時に。
それが、なんで……。
茜がぼんやりと疑問の中を漂っていると、不意に、その光景が、その記憶が、蘇ってきた。
*
そう……あの時。
列車が目前に差し迫って、今にも茜の身体が車輪のミキサーにかけられようとしていた、その時。不意に爆発が起った。
茜は、心から喜んだのだ。落ちていく最中に、爆笑さえしそうになった。
電車にはねられるのが、結局、手軽で、楽……。散々悩み、ついにはこれしかないと諦めていた茜の最期に、豪奢な華が添えられた……思いがけない奇遇に、心から歓喜を送ったものだった。
思いの他、ゆっくり落ちていく視界の中で、ゆっくりと迫る列車を、凄まじい勢いで呑み込んでいく赤い炎。そして、そのまま茜の身体も呑み込もうとする……そこまでが、茜の覚えている最後の光景だった。
それがなんで、こうしてまだ生きてるんだろう。
茜が顔を上げると、そこは真っ白な世界だった。
真っ白な天井に、真っ白な壁、真っ白なベッドに、真っ白な布団、そして真っ白な服……なにもかもが真っ白な世界。つまり病室だった。
驚いたことに、茜の肌までも真っ白なのだ。焦げ跡ひとつ、傷跡ひとつない、作りたてのようにきれいな、白い肌。
目が覚めた茜に、看護師さんが訊いてきた。
なにか欲しいもの、ありますか。
茜は少し考えてから答えた。
テレビが見たいです。
自分の白い肌を見ながら、茜は言った。
あの日の、テレビが見たいんです。
そして、茜は見た。
あの駅の爆発中心地にあって、無傷で生き残った、ひとりの女子高生を。
*
それは直観だった。
直観としか言いようのないものだった。
茜は明瞭に悟ったのだ……あの爆発を起こしたのは、この少女だと。
そして、自分の最後の望みを奪い取った奴だと。
その時、同時に気が付いた。
茜の中のなにかが、根本から変わってしまったことに。