1章 1. 1.
葵は優等生だった。
少なくとも、周りは昔からそう言っていた。
「この前のテスト、めちゃくちゃだったよねー」
「先生言ってたんだけどさ、あの最後の問題解けたの、クラスで葵ちゃんだけなんだって」
「え? アレ、解けた人いたんだ……」
「だって、葵ちゃんだもん」
「うち、問題文さえわかんなかったんだけど……」
「問題文が問題起こしてるよね、アレ」
「ま、うちにしてみれば、問題が起きるような問題なんか、ひとつもなかったけどね」
「あんたは最初っから全部あきらめてるだけでしょ……」
「にしても、ホント、カミサマって不平等だよねえ」
友達の親、近所のつきあい、親戚、みな同じ。
それも、いつの間にかそうなっていたことだった。気付いた時……だいたい小学校の高学年くらいには、そう言われている自覚があったように思う。
「葵って、たぶん、根っこっていうか、そういうの掴み取るのが上手いんだよ」
これは、竹馬の友たる蜜月の言。
だからといって、友人関係に不満をもったことはない。他のどんな人間関係もそう。
それどころか、不服に思うようなことはなにもなかった。端から見ても、きっとそう映ったはずだ。容姿、体型、運動神経……なにかしら不満があるなんて、誰も思ってもみなかった。
ただ、そんな葵にも……いや、そんな葵だからこそ、抱いているものがあったのだ。