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溺愛されたい令嬢と溺愛したくないその婚約者

作者: つむぎ

誤字脱字ないよう見直してますが、見落としがあればごめんなさい。

 みなさま、溺愛って言葉をご存知ですか?今、王都で流行っている小説でよく出てくる言葉なんですの。そうですね、私が読んだ中では「浮気者を殴ったらなぜか溺愛が始まりました」、「王子の溺愛が溶けそうなくらい甘いです」とかです。読めば分かりますが、それはそれはもう…うふっ。妄想が止まりませんね、王子様みたいな方から、あまぁ〜い愛の言葉を囁かれて、いつでも女性に優しく、守ってくれるそんなシチュエーション。年頃の女性なら絶対、憧れますわよね!?

 それで、私気付いたんですの。そういえば、私はお父様やお兄様から、凄く溺愛されているって!だって、二人とも会えば可愛い可愛いって頭を撫でてくれるし、ちょっと斜めになってしまった刺繍のハンカチをプレゼントしたら「これは芸術的センスがある」と褒められたし、パーティがあれば、どっちがエスコートするかいつも二人で喧嘩するんですもの。溺愛って、凄く嬉しくて心が満たされますよね。

 でもそれだけじゃなくって、いつかは私にも素敵な殿方が現れて、私を溺愛してくれるのを待ち遠しく思ってますの。きっと私の可愛さを知れば、溺愛せずにはいられないと思いますわ!



 今日も、イザベラ・アースキンは妄想に忙しい。彼女はアースキン侯爵家の末娘で、歳の離れた兄と姉がいる。母親はイザベラが小さい頃に亡くなったため、それをきっかけに、家族のイザベラへの溺愛が始まったといっても過言ではない。勿論、カールしたまつ毛の下で愛らしく見つめてくる紫の瞳や豊かに波打っているライトブラウンの髪、そしてその華奢な体は男女問わず、庇護欲をそそられ、溺愛せずにはいられない可愛らしさがあった。

 そんなイザベラの婚約者が決まったのだ。相手は、この国の王女の護衛騎士をしている、マルトス公爵家の次男、オスカー・マルトスだ。眉目秀麗であり王女の護衛を務めるほどの剣技に優れ、そして学園上位で卒業するほどの秀才、女性に対してもスマートで優しく、短所がないのではないかというほど素晴らしい方である。

 イザベラは聞いた後、幼い頃よりイザベラに仕えているメイドに「お嬢様、はしたないですよ」と嗜められたほど、ベッドを転げ回ったのである。


 現在、イザベラはオスカーとの顔合わせを終え、親睦を深めるため二人で庭園を歩いていた。


『あぁ、オスカー様…なんて素敵な方でしょう。その光が当たると輝くシルバーの髪も、鋭く光る青い眼差しも、近衛で鍛えられた体格にしなやかな身のこなし…早く私を溺愛して下さいませ。私はもう心の準備ができております』


 しかし、オスカーは溺愛するような素振りは見せず、ただ令嬢にするような紳士的な対応でその日は終わった。まぁ、初対面だから当たり前か、と気を取り直したイザベラは、その後の展開を期待していた。が、待てど待てども、オスカーの溺愛はやってこない。なんなら、デートすらないし手紙さえない。これはどういうことだと首をかしげるイザベラは、今後について策を練るのであった。



ーーー



 私は、オスカー・マルトス、19歳。今は婚約者のイザベラとお茶を飲んでいる。イザベラは15歳で私の友人から見たら、非常に可愛らしく男からすれば庇護欲をそそられる容姿をしているらしい。まぁ、確かに可愛い容姿ではあるが、私からしたら15歳なんて子供だし、その振る舞いもまだ幼い。リスのように私を見上げては何かに期待したような瞳をしているのだが……君は何に期待しているのだ?

 はっきり言って、イザベラは私のタイプではないし、私の性欲を刺激するものもない。婚約するならば男の欲を満たしてくれるぐらい色気が少しはあっても良かったのだが……王命ならば断れるはずなかろう。 くそっ、王女殿下め、私が婚約もせずに特定の女性を作らない理由を知ってて、面白がってるんだろう。まぁいい、どうせ貴族の結婚だ、愛だのなんだのって馬鹿馬鹿しい。



 そんなオスカーの胸中は知らず、イザベラはオスカーの溺愛を得ようと、初めはその可愛らしさを行動でアピールしていたが効果はなく、次第に、言葉でアピールするようになった。


「オスカー様、今日の髪飾りどうですか?」

「オスカー様、このドレス、お父様も似合うと褒めてくれたのです」

「私の今日の装い、蝶が舞うように可憐だと思いませんか」

「このアクセサリー、私のための物だと思いませんか?」

「……今日の私、可愛いでしょう?」


 何度アピールしてもオスカーから、溺愛の言葉は引き出せない。そして、ついにイザベラは切れた。


 「オスカー様、なぜ、私を溺愛して下さらないのですか、こんなに愛らしいのに!!!」



ーーー



 「あはははは!それで、それでお前はどうしたんだ?」


 今、私の目の前で腹を抱えて笑っているのは、この国の王太子であるヴィクトリア王女である。艶やかな黒髪と誰もが賞賛するその美貌とは裏腹に、豪快に笑う様子は側近以外が見れば信じられない光景だろう。


 「どうするもこうするも、急に溺愛しろって怒り出して、私が呆けているうちに騒ぎを聞きつけた侯爵に連れていかれましたよ。あれは、成人前の貴族子女とは到底思えないふるまいです。ただ我儘を言い癇癪を起こした幼子のようでしたよ」


 先日の茶会での出来事が、なぜかヴィクトリア王女の耳にも入っていて、詳細を聞かれていたところである。

 やれ、私は可愛いか、やれ、ドレスが似合っているかなど聞かれるごとにうんざりしていた矢先、ついには、溺愛しろと怒り狂っていた様子には、ただただ呆れた。


 「いいじゃないか、一言、可愛いと言えば済む話だろう?日頃、お前がそうしているように、お世辞を並べれば満足するだろに」


 「仕事とプライベートでは訳が違います。情報を得るため、仕事であれば割り切って言えます。ですが、プライベートでもそれをしろとなると、私も発狂しますね。だいたい、見た目も中身も全くタイプじゃないのに、どうしたら言えますか」


 「まぁ、多少、幼くても可愛い容姿をしているのであろう?まだ伸びしろはある。お前好みにするのも悪くないぞ」


 くくく、と歯を見せて笑う姿からは王族としての慎ましさも垣間見えないヴィクトリア王女を見据え、オスカーは深い溜息とともに、「溺愛溺愛って、そもそも溺愛とは何なのだ」と呟いた。


 「溺愛とは、むやみに可愛がること、盲目的に愛すること……これは、オスカー殿が一人の女性を盲目的に愛する姿を一度は見てみたいものですね」


 そう発言するのは、ヴィクトリア王女の文官であるセス・キールズである。眼鏡を押さえながらニヤリと笑う顔は意地が悪い。ほんとに、どいつもこいつも面白がって……。


 「それにしても、そこまで我儘令嬢だという印象はなかったのだがな……どうやら侯爵が甘やかしすぎているのだろう。まぁ、私もその類の令嬢は苦手だ」


 と、資料に目を通し始めたヴィクトリア王女を一瞥し、オスカーも護衛としての任務に切り替える。

 ……ヴィクトリア王女だけでなく、大方の人が苦手であろう、あのような女は。そうオスカーはどんよりと思うのであった。



ーーー



 ……って言ってたのに、この状況はどういうことだ。なぜ、王女の庭園で私の婚約者イザベラがお茶を飲んでいるのかも分からなかったし、イザベラのような令嬢が苦手だと言っていたヴィクトリア王女が、ペットを愛でるような目でイザベラの頭を撫でているのかも理解できなかった。近衛の鍛錬が終わり王女の護衛任務に来たら、この有様である。文官のセスまで目尻を下げているではないか。その周囲だけ、ふわふわと蝶が待っているように見える光景に頭痛がしてきた。


 「イザベラ……君はなぜここに?」


 「オスカー様、鍛錬お疲れ様です。先日はお見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした。今日は、光栄なことにヴィクトリア殿下よりお茶会に招待されましたので」


 「いや、それはいいのだが……お茶会など私は何も……」


 聞いていない、という言葉は空気に溶け込む。この場の雰囲気がどうもおかしい。皆の気の緩みが見えるぞ。

 イザベラがヴィクトリア王女の腕に手を乗せて言う。

 

 「ヴィクトリア殿下、私、今日は本当に楽しみにして参りましたの。殿下のその美しさにはうっとりしてしまいます」


 イザベラに許可なく王族に触れるなど不敬だぞ、と一言注意しようと口を開きかけた時、「ふふっ、可愛い事を言ってくれるな。私も其方にもっと早く会いたかったぞ」と殿下が、見たこともないような顔で微笑むから、開いた口が塞がらなくなった。周りのメイドも驚きに目を見開くが、すぐにその微笑ましさから、子を見守るような目になる。


 『このままでは、この場までイザベラに侵略されてしまう。あれは、侯爵家だけで十分だ。一言、釘を刺さねば!』


 オスカーはヴィクトリアへ断りを入れてから、イザベラの手を引き、皆から離れた場所へ連れて行った。ヴィクトリアとセスの楽しそうな目が気に食わん。イザベラはイザベラで、「オスカー様……」と頬を染めて恥ずかしげに俯いている。何を勘違いしているか知らないが、決して君が考えているような類の行動ではないからな。

 私は一度咳払いしてから言った。


 「イザベラ、私は王女殿下の護衛騎士の仕事に誇りを持っているし、この職場は私にとってとても神聖なところなのだ。それを、君がいることで、緩みきった場所になるのは許せない」


 イザベラは全く理解していない。大きな目をぱちぱちとさせ、首を傾げている。天然って怖い。いや、これも計算か?どちらにせよ、ここは、はっきりさせる必要がある。

 

 「君は今後、私の職場には来ないでほしい。それに、君が望んでいる溺愛というものを私は与えられないし、与えるつもりもない。婚約者としての振る舞いは当然するが、それ以上は期待しないでくれ」


 イザベラの顔が徐々に強張り、その紫の瞳に薄っすらと涙の膜ができる。青に近い薄い紫色の瞳が涙でキラキラ反射している様子は、自分が泣かせてしまったということも忘れて、綺麗だなと思ってしまった。だが、それとこれとは別、こうやって涙をすぐに流す女性は好きになれない。


 「私の婚約者であるなら、もっと淑女らしく毅然としていてくれ。私は甘ったれた世間知らずが大嫌いだ。人に求める前に、自分を見直した方がいい」


 完全にこれは八つ当たりだ。自分の居心地良い空間を、いとも簡単に皆の好意を得て、求めるだけの我儘な幼子のような一人の少女に掌握された。それが許せなかったし、この苛立ちをイザベラにぶつけている自分にも苛立っていた。ここまで来たらもう止められない、いや、止める必要はなかった。この苛立ちを、この少女にぶつけることで、どこかすっきりしていたからだ。最低だ。だが、人は誰もが君みたいに愛情深く育てられたわけではないし、それを与えられるわけでもないのだ。

 オスカーは涙を堪えるイザベラに少し罪悪感が芽生えるも、イザベラを残しそのまま護衛に戻った。そんなオスカーを見て、軽く溜息を吐いたヴィクトリアは、オスカーに今日は鍛錬するよう指示し、むしゃくしゃしていたオスカーは有り難くその指示に従ったのだった。



ーーー



 あれから一ヶ月ほど経っているが、忙しさもあってイザベラとは会うどころか連絡も取っていない。あれだけ大人気ない行動を取ってイザベラを傷つけたことは自覚している。どうやって会えばいいのか分からなかった。そんな私を見かねてヴィクトリア王女は言った。


 「そんなにうじうじされると仕事も捗らん。明日、休みを与えるからイザベラに会って来なさい。言っとくが、これは王女命令だ、従わなければ減給ものだぞ」


 それは職権濫用です、という言葉は飲み込みその王女殿下の強引さに感謝した。

 そして、今、私の前にいるイザベラはいつもの溺愛だの言うこともなく、ちらちらと私の様子を気にしてお茶を飲んでいる。そんな今にも暴れそうな猛獣を警戒するような目をしなくても……と思いつつ私も会話をするタイミングを見計らっていた。


 ……沈黙がつらい。


 ここは私が先に謝るのが筋だろうな。


 「……この前は、君にひどいことを言った。すまなかった。八つ当たりだったと思う」


 「えっ、い、いえ、私の方こそ勝手なことをして申し訳ありませんでした」


 「君が謝ることはない。王女殿下のお茶会に来ただけなのだから」


 「で、でも……。私にも悪い部分が」


 「これでは堂々巡りだ。お互いもうわだかまりもないということで手を打とう」


 イザベラは小さく「はい」と言い、再びお茶をすすった。そして、沈黙。両方、何かを話すわけでもなく、しばらくお茶を飲む時間が過ぎた。



ーーー



 イザベラは先日の王女殿下から聞いた話を思い出していた。いや、この一ヶ月ずっと考えていた。オスカー様に叱責を受けたあと、しょんぼりしていたイザベラを見かねて、声をかけてきたヴィクトリア殿下が話してくれたことを。


 『オスカーはね、公爵家次男として育ったけど、ちょっとその家庭環境は複雑でね。これは、貴族間の中では皆んな周知の事実だけど知らないかい?オスカーの母は、公爵夫人ではなく隣国の没落貴族だったんだ。公爵が一目惚れでね、国に連れ帰ってまぁ愛人として側に置いてたんだ。けれど、彼女が妊娠して子が男児だと知るなり、公爵夫人が次期当主の座を狙っていると考えて、オスカー親子を別邸に隔離したんだ。その後、オスカーがまだ幼い時期に夫人が亡くなり、オスカーは公爵家の次男として引き取られた。その後の生活は……まぁ想像の通りだよ。公爵も忙しくて息子との時間も十分に取れず、長男も今では健康だが、自分のスペアだと思うと複雑だったのだろうね。そんなに関係は悪くないが、どこか他人行儀な感じさ。そんなオスカーは、他人ともどこか一線を引いたように関わっている。

 だからお願いだ、イザベラ。彼を過去から救ってくれないか……君なら、家族の愛情を一身に受けてきた君なら彼を救えると思っているーー』



 公爵家に引き取られたけど、家族からの愛情を受けられず育ったオスカーのことを考えると胸が痛んだ。オスカーが私のことを甘ったれた世間知らずと言ったが本当にそうだ。複雑な環境で育ったオスカーが、ぬくぬくと愛ある家族の下で育った私を見て苛立つのは納得できた。     

 だから、イザベラは一ヶ月考え抜いた答えをここでオスカーに話そうと思っていた。しかし、いざオスカーを前にすると、緊張で言葉が出てこない。さっきから、スカートの上で手を握ったり開いたりしている。


 『もう、嫌われているようなものだから、何も戸惑うことないじゃない』とオスカーをちらりと見て声をかけた。


 「あ、あの、オスカー様」


 「なんだ……?」


 ええぃ、なるようになれっ!


 「ああ、あの、私、先日オスカー様に諭されてから色々考えたのです。それで今日は、私の気持ちを知ってもらおうと思って……どうか、そのままで聞いてください!」


 オスカーが眉をひそめ不思議そうな顔をしてる。大丈夫、一気にいくわよっ!


 イザベラは大きく息を吸い捲し立てた。


 「私、今まで家族からたくさんの愛情を受けて育ちました。それはもう溺愛というほどでしてっ、だから、自分が家族以外からも愛されて当然と考えていたのです。それで、オスカー様からもきっと愛されるだろうと思って、オスカー様には失礼な態度、発言をしてしまいました」


 あの、溺愛しろという発言と行動だな、というように理解してオスカーは相槌をうつ。


 「オスカー様の言葉通り、愛されて当然という与えてもらうだけの考えの前に、私も誰かに与えなければならないと思いまして。だ、だから、私は」


 オスカーが私は?と耳を傾ける。そのしぐささえ、カッコ良い。


 「わわ、私は、オスカー様へ私のこの満ち溢れる愛情を与えて差し上げたいと思ったのです!!」


 ……は?満ち溢れた、何を?

 オスカーがぽかんと口を開ける。


 「私はオスカー様から溺愛されたいです。ですが、その前に私がオスカー様をどれほどお慕いしているか知って頂きたいのです。そして、私は愛されているので、もうその愛情が溢れてて、こぼれ落ちそうなので、それをオスカー様への愛として、お伝えしていこうと思ったのです」


 「べ、別に私は君のその満ち溢れた愛情を求めてないぞっ」


 「いえ、私が与えて差し上げたいのです。そしてオスカー様を知りたいのです」


 イザベラは突然、バンっとデーブルに手を付いて立ち上がった。オスカーは急な事で、びくっと身体をのけ反らせる。


 「私、オスカー様が思っている以上にオスカー様をお慕いしておりますの。以前、夜会でお見かけした時に一目惚れでしたっ。けれど、こんな素敵で大人な色気がある方が私なんて相手するわけないと諦め、一人妄想にふけって楽しんでいたのです」


 ……妄想って何の妄想で楽しんだのだっ?

 オスカーの顔がぴくつく。


 「ええ、それはもう、色んな小説から様々な妄想を頂きました。例えば、王子の溺愛が溶けそうなくらい甘いです、好きな人から溺愛を得る方法とかですね、私、夢中になって読んでしまって……。ごめんなさい、話が外れましたわ」


 オスカーが、眉がつながりそうになるくらい、眉間にしわを寄せている。


 「それから、私の婚約者になってもう私、天にも昇る勢いで舞い上がりました。その青い瞳に見つめられたい、その逞しい腕で抱きしめてもらいたい、その低い色気ある声で私に愛を囁いてほしい、その薄い唇に触れたみたい、そのシルバーブロンドのさらさらストレートヘアを私が結ってみたい!」


 オスカーは耳が赤くなるのを感じる。

 この娘は何を言っているのだっ!


 「でも、私のこの欲望を叶えられるほど、私はオスカー様の隣に立てるほどの器量はありませんし、オスカー様に愛されておりません」


 悲しいことに……とイザベラがしょげる。

 いや、そんなことは、とオスカーがフォローしようとした瞬間、またもや勢いよくイザベラが顔を上げ、オスカーはびくつく。


 「ですからっオスカー様」


 イザベラが前のめりになる分、オスカーは後ろへたじろいだ。


 「私、あと三年もすれば、きっとオスカー様の隣に立てるほどの素晴らしい女性になってみせます。今はこの平らな胸も直線的な腰も、オスカー様を魅了する色気ある女性になってみせますので、どうか、どうか私を見捨てないで下さいませっ!」


 なんなんだ、この状況はっ?目の前で真っ赤になって言い切り、達成感を感じているイザベラはどこか誇らしげだ。控えている周りの侍女は、目線は下げているが、数人肩が震えている。あぁ、もうほんとに、この娘は予想外のことを言い出すな。恥ずかしさを飲み込み、小さく息を吐く。


 「私の愛、伝わりました……?」


 「君のその溢れた情熱と愛はしかと受け取ったよ…ただ、その分、私が返せるかは分からない。申し訳ないが……」


 「いいのです、私がオスカー様に愛を伝えたいだけで、それでオスカー様が幸せなってくれれば嬉しいので」


 にこっと笑うイザベラはそこら辺の男より男前だ。なんだか、この状況がおかしくて、ふっと笑えば。


 「わぁ、オスカー様の笑った顔初めてです。素敵ですね」


 と真っ直ぐ向かってくるその思いに照れつつも嫌な気持ちは一切なかった。


 「これから、お互い知っていこうか」


 「はい、私はオスカー様が寂しくないように愛を伝えていきますね!」


 なぜ愛情を必死に伝えたいのかは分からないが、イザベラの思いを知ったオスカーだった。



ーーー



 それから、イザベラとオスカーは定期的に、手紙とお茶会の場で会い、連絡を取っていた。


 あんなに、溺愛しろと言い我儘だと思っていたイザベラは、今ではただの恋する乙女なだけで、オスカーもイザベラが向けてくる好意が心地よくなっていた。だが、彼女が向けてくる好意と同じものを彼女に返せてはいない。別に彼女を今までの女性達のように警戒しているわけではない。オスカーはその容姿から、学生の時より女性達がほっとかなかった。しかし、その向けてくる好意の中に公爵家の次男、あわよくばその恩恵を受けようとする下心を感じることがあったし、ただただオスカーの唯一を手に入れたいとする女性達の思惑も鬱陶しかった。紳士的に対応していたが、心の中は真っ黒だ。

 自分に向けられる好意に嫌悪感を抱いていたオスカーだったが、イザベラのまっすぐで何の思惑もない好意は心地よかったのだ。


 「イザベラ、しばらく私は王都を離れて、王女の視察に同行する……期間としては二ヶ月ほどかかるだろう」


 「そうなんですか、会えないのは残念です」


 「手紙を書くと約束しよう。あと、陛下の生誕祭パーティーまでには帰ると思うから、そこで君をエスコートしたいと思ってるが、良いだろうか?」


 エスコート…!と青紫色の瞳を輝かせて頬を染めるイザベラは確かに愛でたくなるほど可愛らしい。


 「分かりました。私、きっとオスカー様に見劣りしない淑女になるよう二ヶ月、みっちり修行しますわ」


 その真っ直ぐな思いに少しこそばゆく思いつつ、イザベラの頭を撫でた。イザベラは頬を染めてはにかむのであった。



ーーー



 あれから、二ヶ月あっという間に過ぎて今日は陛下の生誕祭パーティだ。残念なことに、オスカー様は視察が長引き、パーティーのエスコートにぎりぎり間に合うかどうかなため、先にお兄様と入場した。私はオスカー様と会えず残念無念しょげしょげであるが、お兄様は私のエスコートができて、うきうきだ。ほんとシスコンなんだから。


 ホールは多くの貴族で溢れて、がやがやとしていた。お兄様と一緒にホールへ入ると、ちらちらと私を見る令嬢令息たち。分かっている…エスコートが婚約者のオスカー様ではないから、皆んな私を憐れに思っているのでしょう?約束はしていたんですからねっ!


 そんなこんなで最初から気落ちしていたイザベラは、兄が挨拶周りをする中、一人で壁の花に徹した。


 『家族の溺愛もあって、あまり家から出ることも少なかったからか親しい友人もいないのよね…なんて孤独なのかしら。こんな私がオスカー様に愛を分け与えようなんて、なんだかおかしいわね」


 と心の中で苦笑した。するとホール内が騒がしくなって、そこに視線を向けると、ヴィクトリア王女殿下と護衛につくオスカー様が入ってきていた。……間に合ったんだ、と嬉しくなりオスカー様の視線を追う。オスカー様もホール内を見渡し、私を見つけたのか視線がぶつかる。久しぶりに顔を見れて嬉しくなって、いつものように、にこっと笑いかけた。が、オスカー様は、すっと視線をはずし何事もなかったかのように護衛を続けていた。


 『何かの見間違いだった?いいえ、間違いなく目が合ったのに逸らされた……どうして?二ヶ月合わない間に何か心の変化でもあったのかしら……』


 イザベラはもう一度オスカーの視線を追うが、視線が合うことはない。こんなに近くまで来てるのに、なぜ?


 「ほら見てマルトス卿とヴィクトリア王女殿下よ。いつ見ても見栄えするお二人よね」


 「ええ、昔から一緒にいるから、ぴったり息も合っているようね……とてもお似合いだわ」



 そんな声が聞こえてきて。オスカーの態度と周りの声に頭が真っ白になり、事実を受け止めたくないイザベラはその場を離れた。ホールを抜け、外に出る。胸が苦しい、涙が出そうだ。会えた嬉しさからの落差が激しくて、気分はどん底だ。

 すると、後ろから声をかけられた。……誰だろうこの人達は。


 「こんばんは、イザベラ様。こんなところに一人で婚約者はどうしたのです?」


 長い金髪の巻き髪令嬢が話す。たしか、この方はホルト公爵家の令嬢だったはず、名前は……


 「こんばんは、ソフィア様…オスカー様は王女殿下の護衛でお忙しいのです」


 「そうなんですの……でも視察で二ヶ月も会えずだったんでしょう?オスカー様も婚約者へ一言声をかけるなりしたらよろしいのに。相変わらず淡白なのですね」


 ふふふ、とソフィアは笑う。その顔はいかにも自分はオスカーと親しいのだと主張している。落ち着け、婚約者は私だ。


 「私は気にしませんわ。お仕事の邪魔はしたくありませんもの……会えない中、お手紙を交わしていたので何も心配してないのですよ」


 負けじと私も返す。ソフィアはピクッと眉を動かしじろりと私を睨んだ。私は、今にも逃げ出しそうになっている自分の足を鼓舞し、佇まいを直す。ただでさえ、貴族との交流がない私が、令嬢達の遠回しな嫌味合戦に慣れてるわけがない。


 「あなた、この婚約をオスカー様が納得しているとお思いで?聞けば、あなたが一方的な好意をぶつけてるだけみたいじゃない」


 グサっ……それは本当。


 「それに、そんな見た目じゃオスカー様に釣り合わないのではなくって?」


 グサグサっ……それも事実。そして一番気にしてるとこ責めないで。私はさっと自分の胸元を隠す。ソフィア様の立派な胸元に目がいく。ソフィア様がふふんと自慢げな表情になる。惨めだ…さっき、オスカー様に視線をはずされ落ち込んでいたところに、これだ。傷口に塩をぬられるより辛い。むしろ、ナメクジのように塩かけられ消えそうだ。


 もう無理、消える前に一言言ってやる。


 「そんなこと自分でも分かってます。でも、私のオスカー様を好きな気持ちは誰にも負けてません、だから一方通行でもいいのです。どうかほっといて下さいませ!」


 ソフィアら取り巻きが驚きで目を見開く。私がこんなに反論するとは思ってなかったのだろう。ふんっ、ざまぁじゃないけど、ざまぁみろってんだ、なんて貴族令嬢らしからぬ言葉を心の中で呟く。

 私はくるりと後ろを向き走り出そうとした。その瞬間何かにぶつかり、「ぶっ!」と淑女らしからぬ声をあげたのであった。



ーーー



 王女殿下と入城した後、私はイザベラのもとへ行こうと彼女を探す。さっきは、咄嗟にイザベラから視線を外してしまったが、あれは仕方なかった。二ヶ月会っていないだけなのに、会えない期間、イザベラのいつものアプローチがないのが寂しく感じ、イザベラを考える時間が増えていった。こんなに一人の女性を思う事はなかったのだが。それで、久しぶりに見た彼女は、いつもと違いとても可憐で。普段は桃色や黄色など可愛い色やフリルやリボンを使った服を好んで着ていたはずが、今回は、その瞳と同じ薄紫色のドレスで、肩を出しチュールをふんだんに使ったそのドレスは、とても彼女に似合い彼女の良さを引き立てていた。子供だと思っていたのに、今日の彼女はとても美しく今すぐにでも自分の側に置いておきたい衝動に駆られた。ちらちらと彼女を見る令息達が気になり目を光らせていたところ、彼女がその場にいないことに気付く。

 慌てて、彼女の行方を探して、ホールを出て人通りの少ない場所で何やら人声がした。近づくと、イザベラとホルト公爵令嬢たちが揉めている様子だ。彼女達へ声をかけようとイザベラの後ろへ着く。突然、くるっとイザベラが身を翻し私にぶつかった。「ぶっ!?」と言い鼻を抑えながら顔を上げたイザベラと目が合った。


 「お、オスカー様!ごめんなさい、私、ちゃんと前を見てなくて!」


 「いや、後ろにいた私が悪い……それより鼻は大丈夫かい?」


 そんなやり取りをしつつ、イザベラの後ろにいる令嬢へ視線を向けた。


 「あまり、私の婚約者をいじめないでくれ。世間知らずなため色々慣れてなくてね。何かあれば、私が代わりに聞こう」


 「あ、いや……いえ。ちょっと立ち話をしていて興奮してしまっただけですわ」


 「そうか……ホルト令嬢。この婚約に私は納得しているし、イザベラの一方通行ではないと断言しておこう。これ以上、変な噂がないようにしてくれ」


 オスカーの鋭い視線と口調に、令嬢達は「ご無礼をお許し下さい、失礼します!」と慌てて帰って行った。



ーーー



 私はどん底に落ちていた気持ちが一気に上を向いた。オスカー様が来てくれて、今私の目の前にいるのだ。なんだかんだ、オスカー様のことを好きすぎて困る。そんなことを考えてると、


 「イザベラ、今日は遅れてすまなかった。エスコートしたかったのだがな……それに、今日の君は凄く綺麗だ」


 と、すらすらオスカー様らしくない言葉が出てくる。……もうお酒でも飲んだの?


 「さっきは、つい目をそらしてしまったが、いつもと違う君に驚いてしまって。ほんとに……会いたかったんだ」


 イザベラ、といいながらオスカー様がじりじり寄ってきて、気付けば私の後ろは壁、前はオスカー様。


 『って、ええええ!何この状況おお。ほんとにお酒でも飲んじゃったの?こんなオスカー様初めてだよぉ』


 と一人慌ててたら。がばっと抱きしめられた。もう私、心臓どきどきで嬉しさより、パニック状態。


 「お、お、オスカー様!どうなさったのですか?お酒でも飲まれました?それとも視察に行ってホームシックにでもなりました?」


 「言っただろう?君に会いたかったと」


 こんな気持ちは初めてだ、と呟き、ひとしきり、ぎゅーって抱きしめられた後、オスカー様が私から離れた。その熱のこもった青い瞳にドキドキして、私が酔いそうで、つい聞いたんだ。


 「私が恋しかったんですか?」


 「あぁ」


 「抱きしめたいほど、私を思っていたのですか?」


 「そうだ」


 「……私のこと好きになっちゃいましたか?」


 「……あぁ、好きだ」


 私は嬉しくて嬉しくて信じられない気持ちで彼を見つめた。オスカー様はそんな私に見つめられ、少し照れたようにはにかみ、もう一度私を抱きしめる。私もオスカー様の背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。


 ……これはもう、成功だよね?オスカー様に私の愛が届いたんだよね?王女殿下、ミッションクリアしましたよ!いや、でもまだ達成してないことがある。


 「あの、オスカー様。私、オスカー様に見合う女性には、まだ程遠いと思うんです。淑女として……それに」


 オスカーは身体を離すと、ひょいっと私を後ろの石造りの窓枠に乗せた。いつも見上げていたオスカー様の顔が近くにある。


 「君が言うその私に見合う女性に関してはまだ三年もあるだろう?」


 オスカー様が私の髪をすくい、そして、


 「平らなここも」指が鎖骨下をなぞる。


 「直線的なここも」そのまま、腰に手が流れる。そのどの動作にも色気があって、背中がゾクゾクしてもっと触れてほしいと思ってしまった。


 「三年後、私をもっと魅了してくれることを楽しみにしている」


 そう耳元で囁かれて私はノックアウト寸前。こんなのズルすぎる。お子様の私には刺激が強くて、真っ赤になって口をパクパクする。オスカー様はそんな私を満足気に見て、額に口付けた。


 私は驚いたけどなんで、おでこなの?と言わんばかりに眉をひそめて、自分の額に触れた。


 「物足りないなら、どこにしてほしいか言ってごらん」


 青い瞳が魅惑的に光る。そんな視線に誘われるように真っ赤になりながら、それでも、どうしても触れたい私は言う。


 「口に……唇にして下さいませ」


 オスカー様の唇が降ってきて、私たちは甘い口付けを交わした。



ーーー



 それから、ホールに戻り私たちは王女殿下と合流した。視察帰りで十分な準備ができてないヴィクトリア王女殿下だけれど、相変わらずお綺麗で見惚れていると、オスカー様の両親が挨拶したいと声かけてきた。

 私はドキリとする。公爵夫人はお身体が弱く領地に帰っていたため婚約してから会うのは初めてだ。それに、王女殿下の話によれば公爵夫人はオスカー様にとって継母で……。

 

 ごくんっと喉を鳴らし継母、いや公爵夫人へ警戒心を持つ。何かあれば、私がオスカー様を守るんだ!

 姿勢を正し、婚約者として相応しい姿勢に切り替える。そして公爵ご夫妻へご挨拶をした。


 『この方が……オスカー様を虐めてきた継母ね!なんだか、とってもオスカー様に似てる……ような……?」


 イザベラの頭にはてながいっぱい。


 イザベラは、オスカー様と公爵夫人を交互に見て、その後、王女殿下を見た。王女殿下は目が合うと、ウィンクしてニヤッと笑う。


 「!!! ヴィクトリア王女殿下、ど、どういうことでしょうか!?」


 「イザベラ、どうもこうも、彼女が公爵夫人でオスカーの実の母親だよ。実にオスカーと似ていて、美しいと有名じゃないか」


 やられた。じゃあ、あの悲壮感漂う話は嘘だったの?


 「全部が嘘じゃないよ、真実にちょっとオリジナルを混ぜて説明しただけさ。まさか信じるとは思ってなかったから」


 くくく、と笑う姿は、もはや王女ではなく悪戯が成功した子供のようだ。


 「何がどういうことだい?イザベラー?」



 私は王女殿下より聞いた話から、オスカー様は母親が亡くなって孤独な子供時代を生き、愛情に飢えていることから、自分が愛情を与え、彼を孤独な人生から救おうとしていたことを説明した。


 「だから、あんな突拍子もない話が出たのか……君も婚約者である私の身の上を知らないのはどうかと思うけど、殿下もイザベラで遊ぶのはやめてください。それに、母上を勝手に死なせないで下さい」


 「私は一言も、オスカーの母が死んだとは言ってないし、オスカーが虐げられて生きてきたとも言ってないよ。複雑な環境とは言ったがね」


 要はこうだ。オスカーの幼少期に前公爵夫人が亡くなり、オスカーの実母が公爵夫人になった。その後は、急に公爵家の子息となったから色々大変だったらしい。特に、その美貌と公爵家次男という婿にはぴったりな条件から、それ狙いの女性達が後を絶たず、うんざりしてたらしい。それで女性不信になり、恋愛から遠ざかった生活になっていたのだ。そこに、溺愛溺愛って詰め寄る女が現れれば、嫌にもなる。 


 「でもまぁ、こうやって上手くいって結果良かったじゃないか。イザベラのアプローチが身を結んだのだ。私は、オスカーが幸せそうな顔をしてるだけで満足だよ」


 「ほんとに、あなたって人は……昔から変わらないんですから」


そんなやり取りを、ぼーっと私は聞いていた。最悪だ、勝手に勘違いして勝手に暴走していた。恥ずかしくて逃げたい。

 音楽が鳴る。ダンスか……婚約者と素敵なシチュエーションで踊るダンス、素敵だろうな。でも今はそれどころじゃない。ちらりとマルトス公爵夫人を見たら、にこにことこちらを見ていた。そんな私を見て、オスカーが言う。


 「イザベラ、私と踊ってくれるかい?今宵は其方と楽しい時を過ごさせてくれ」


 そういって私に手を差し伸べる。私は言われるまま彼の手を取りダンスボールへ。なんか、既視感があるけど、どこで見たのだろう。


 ダンスが始まる。


 くるりくるりと回りながらイザベラはオスカーを見つめる。


 『女性不信だったって言ってたけど、さっきのキスは凄く慣れてたわよね……あれが大人の余裕ってやつなのかなしら』


 「イザベラ、君が踊る姿は妖精が舞うより美しいな」


 え、ちょ、いきなりどうしたの?そんな甘いセリフ言う人だっけ?


 「君をもうこの腕から話したくない」


 オスカー様の瞳が意地悪く光る。

 ……あ!


 「お、オスカー様、もしかして読んだのですか?あの小説を!?」


 そう、『王子からの溺愛が溶けそうなくらい甘いです』を!あのオスカー様が!


 「君が、溺愛溺愛言うからな、勉強しようと思って読んだよ……なかなかに興味深い内容だった。あんな歯が浮くような言葉をスラスラ言える男はそうそういないんじゃないか?」


 からかうように言う。でも、それが良かったんだから!

 しかし、イザベラはふと思う。確かにあんな言葉をスラスラ言える王子は、目線を変えれば軽い男だ。女慣れしているとも言える。でも、言葉で言ってほしいのも女心である。


 「確かに、オスカー様が王子のような甘い言葉を毎日毎日言っていたら、私、女性不信なんて本当は嘘じゃないかとか、遊び人なんじゃないかとか考えそうです」


 オスカー様が嫌そうに眉をひそめる。


 「だから、思ったのです。溺愛は妄想だけでいいので、行動は常に、たまに言葉で愛を伝えてくれれば十分だと」


 「妄想って、君は何の妄想をするつもりだ」


 「それは内緒です」


 うふふ、と笑えばオスカー様も呆れたように笑う。でもどこか楽しそうだ。私はオスカー様の襟首をぐっと引き寄せて言った。


 「オスカー様はそのままで、私を愛して下されば十分です」


 オスカー様は耳を真っ赤にする。そんな私たちを見て、公爵夫人は「あらあら、まあまあ」と微笑み、王女殿下は「溺愛もそう遠くないのではないか?」と呟いた。


 

 これは、溺愛されたい世間知らずの令嬢の勘違いから始まった、溺愛したくない婚約者の二人の物語。それは、まだ始まったばかり。



完。

最後まで見て下さりありがとうございました。

色々書いていたら、どうしても長くなってしまいます…。

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