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7:本当の命の恩人はセーラ /side マオ


◇◇◇◇


 彼らは私の存在には全く気付いていない様子。


 大神官らが召喚を行う台座の前で召喚魔法を唱え始める、いよいよその瞬間がやってきたようだ。


 あとから思う、あんなことになるなら、召喚の儀を行う建物ごと破壊すれば全て丸く収まったと。王も、勇者である王子も、大神官も、マルチガイドも全て一ヶ所に揃っていたのだから。


 ただ煩わしくはあっても、まだ目立って何かされたわけではないのに残虐に屠るのも夢見が悪そうだし、そもそもそういった加虐的趣味はない。

 ここぞという時に、この強大な力を使うものと思っている。



 空高く眩い光の柱が塔を突き抜けて上がり、こちらの世界と異世界への道が繋がったのだとわかった。そう、これは私の知的好奇心、実際どのように世界が繋がるのかを一度この目で見てみたかったのだ。


 異世界とこちらの世界への道が繋がり、次は聖女を呼び出す為の呪文を唱えている途中であった。



(召喚方法は見た。聖女を呼び出される前に、マルチガイドを焼却だな)



 パチンと指を鳴らせば、無詠唱でも燃やすことは可能だ。


 詠唱途中で抱えていたマルチガイドが燃え、大神官の慌てふためく姿が下手な踊りのようで滑稽だった。つい堪え切れず、『フッ』っと笑い声を漏らしてしまい不審人物だと疑われたが、まぁいい。



「気付くのが遅い。だが、これでもう聖女は呼べまい。魔国への無意味な侵略は諦めるのだな」

「くっ! 貴様、魔王の手下だったのか!!」


 手下ではなく、【魔王】本人なのだが。まぁ、それもどうでもいい。


 自称勇者の王子がデタラメに魔法を放つが、全く修行が足りていない。

 

 こちらが基本的に温厚民族で、戦争をけしかけることがないとしても、備えていないわけではない。魔族の義務として、平民であっても最低限自分の身は自分で守れる程度には鍛えているし、訓練している。


 放たれた魔法は受け止めて返すことは余裕だが、とりあえず全て避けることにした。このまま召喚の為のこの巨大な塔や台座ごと勇者に破壊させてしまおう。

 

 そう思ってのことだったのだが、避けた位置が悪かったようだ……まだ召喚術で異世界と繋がったままの光の柱の中へうっかり片足を踏み入れてしまった。



「!」



 これは飲み込まれた者しかわからないだろうが、竜巻のような激しさの中で大きな圧力が掛かっているような感覚だ。

 おそらく聖女ではない異質な者が侵入したことにより、排除しようとしているのだろう。


 咄嗟の判断で踏み入れた際、即座に自身へ高魔力結界を張ったお陰で助かった。だが、下へ押し戻されるのではなく、なぜか上の異世界へと向かう方向へ飛ばされている様だ。


 呪文が途中で止まったせいで不安定になっているのか……?

 


「さて、どのようにして抜け出す、か……」



 こんな機会もそうあることではない。ギリギリまで昇ってみるのもアリか? そこまで考えて、自分もドビュッシー同様に刺激に飢えていたのだなと知った。久しぶりの魔力放出で少し興奮状態にあるせいもあるのだろうが。

 


「キャーーーーー!! 止まって! お願い止まって!」



 自笑していると、上から女が奇声と共に落ちてきているのが見えた。あれは聖女……?



「すでに異世界より引き寄せられていたのか、面倒な……」



 魔王なくして、魔国民だけでは勝ち目がないのは明白。


 こうなれば聖女と共に降りるしかなさそうだ。降りたらそのまま女が気付くより早く国へと転移し、そのまま聖女を城の地下にでも幽閉しておけば、聖女の力に目覚めることもないだろう。


 召喚されてすぐには魔王を封印できる程の力はまだ備わっていない。あくまで素質がある状態のままと文献には記されていた。

 

 聖女に恨みはないが、これが国の為には最善だろう。そう思い、高魔力結界を維持したまま、さらに高魔力を腕に纏わせて聖女へと手を伸ばした。



「女、手を……」



 女から見ればすぐそばに手が見えているだろうが、実際は空間を無理矢理捻じ曲げて、手だけなんとか女の側に通している。さすがは召喚魔法と言うべきか、久しぶりに魔力がごっそり持って行かれている感覚があった。しかし、ここで結界を解けば私も無事では済まないだろう。



「キャーーーー!! え!? なにこの手? もう誰でもいいから、お願い助けて! 私、まだ死にたくない!!」



 思惑通り私の手を取った異世界の聖女。作戦は成功した……かのように思えた。


 直後、目を開けていられないほどの眩い光に飲まれた私は、魔力枯渇により不覚にもそこでプツリと意識を失った。



◇◇◇



(やはり、夢であったか)


 夢から覚めてみれば、おそらくいつも通りの時間に目覚めてしまったようだ。それほど習慣として染み付いてしまっているらしい。


 隣で眠るセーラの唇を見て思い出す。後から聞けば、【人工呼吸】というものをセーラはしたのだと知ったが、あの奇妙な口付けもある意味 奇跡が重なっていた。



 自分は確かに魔力枯渇を起こし、意識を失ったはず。しかし、こうして目覚められたのは、今はすでに魔力を感じないセーラが、無自覚にも自分の持っていた魔力を全て私に注いでくれたからだ。


 この世界に魔法はないということは、恐らく一度 セーラが異世界へ入った際に魔力が付与された名残なのだろう。

 魔素がほぼ感じられないこの世界では、仮にあのまま仮死状態にあれば、遠からず自分は衰弱死していたに違いない。


 本来ならば敵対するはずの聖女の魔力が、何故己の身体によく馴染んだのか。


 異世界から自分の世界に戻った時に「聖女」の資格が失われたということなのだろうか。それは推測の域を出ないが、いずれにせよお陰で助かった。




 セーラは【消毒】という浄化行為のため、自ら魔王の血に触れていた。


 魔王である私が血を流すなどそうあることではない。これを好機と考え、聖女のそばに居る契約を結ぼうと考えた。そして内容は明かさず『契約成立で良いな?』と一応聞いてはみたが、あっさりと受け入れた。


 日頃から思うが、警戒心というものがセーラには足りていない。

 

 血に触れた手と握手を交わし、「仮契約」はなされたわけなのだが、本人は知る由もないだろう。



 そもそも、なぜあの時点で仮契約を結ぼうと思ったのかは、今でもよくわからない。


 さすがの私でも出会った瞬間、自分を滅ぼす元凶に惚れ込むなどあるはずはない。少なくともそんな自覚はなかった。


 ただ『今の内に、仮契約だけでも結んだ方が良い』とあの時 直感が働いたのだ。やはり聖女に選ばれるだけの何かがセーラにはあったということなのだろう。


 過去にどう考えようとも、大切なのは今の己の気持ちだ。以前は国と民の為に働いてきたが、魔王を退位したこれからは、セーラと自身、そしてこの小さき城を守ることに注力していきたい。



「それが今の、嘘偽りない我の思いなのだぞ……」



 眠る妻の耳元にそっと胸の内を囁いた。




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