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新婚旅行 番外編(前編):新婚旅行はどこへ行こうか


******


 リビングのテーブルの上には旅行会社から持ち帰ったパンフレットがずらり。

 

 それらに全て目を通し、三つにまで絞った。そして、その三ヶ所の特徴などを再度二人で話し合い、ようやく最終決定となる。



「では、ここで決定でいいですか?」

「ああ。そもそも、どこを選んだとしても我には初めての場所なのだから、セーラが決めたところで良いと何度も言うておるではないか」


「それはそうだけど……でも、希望とかそういうのはやっぱり合わせたいじゃない」

「我は温泉とやらに浸かれるのであればそれで良い」



 マオさんはお風呂好きなんだけど、我が家の浴槽では当然足を伸ばすことはできない。そこで、私が夜勤日なんかの日を狙ってスーパー銭湯に行ったりもしているらしい。ママチャリで。

 馴染みの常連さんとも顔見知りらしく、サウナーの吾郎さんと言う方にサウナでのマナーを教わったとか。いや、吾郎さんって誰よ?



「あとは、電車内で食べるという【駅弁】と普通の弁当の違いも参考までに食してみたいものだ。スーパーの駅弁祭で購入し家で食した時は、イマイチ「旅の醍醐味」というものが理解できなかったのでな。弁当とはやはり、出先で食べるに限るのであろう?」

「あ~ちょっとわかる。家で冷たいご飯は食べないのにお弁当だと美味しいっていうね。外で食べるおにぎりも最高だし」



 でもマオさんは、塩味、甘み、苦味、酸味、うま味の「基本味」に興味を持った後、渋味、辛味そしてなぜか「味」の文字が入っていることから醍醐味まで知りたくなったようだ。

 でも醍醐味は仏教用語の「五味」という……いや、やめよう。私まで沼に嵌ってしまう。



「今回は普通の旅行と違って新婚旅行だし、ちょっとリッチな旅行にしようね! あえて飛行機ではなく新幹線で行く北海道っていうのもいいよね。マオさん期待の駅弁も、どこの県のものを買うか悩ましいけど、選ぶ楽しみはあるね」

「今回の旅費は全て我が持つ、出費は気にせずとも良いぞ。不足とあらば、また我が家事代行のバイトでも、深夜帯の高時給バイトでもなんでもしよう」


「い、いいよ! そこまでしなくて。それじゃあマオさんの身体が心配で私の心が休まらないよ」

「お主は心配性過ぎる、我はそんなに軟ではない」



 そういう問題じゃないでしょ! それに結局危惧した通り、家事代行だって単発をいくつかやっただけなのに人気が出ちゃって、長期でやって欲しいとお願いされていたしさ。

 

 わかるよ。マオさんの家事スキルは痒い所に手が届くってレベルじゃないからね。大きなビーズクッションにぽふっと包まれているような、帰って来たくなる家っていうかね。



「なんにせよ、セーラが満足行くように好きに選ぶと良い」

「マオさんはわかってない! そりゃ自分の好きなようにしていいよって言うのも優しさなんだってわかってるし、それが良いって人もいるけど……今回は新婚旅行だよ? 二人の旅行でしょ。マオさんの要望だってちゃんと分かち合いたいよ」


「ふぅむ……そうは言ってもだな、今興味があると言えば魚市場でセリの参加、マグロの解体、マグロの一本釣り、それに……」

「すみません、ツッコミどころしかないんですが!? いつの間にそこに興味を持ったの?」


「なに、暇でつけていたテレビを何とはなしに見ていたら【マグロ釣りに命を燃やす漁師物語】という特番があり、つい見入ってしまったのだ。我ならソナーなど無くとも、魚群探知できると思わぬか? 本山氏に一筆認めてみようかと思うのだが、どうだ?」

「ダメです」



『どうだ?』じゃない、ダメに決まってるでしょ!! 本山さんは喜ぶかもしれないけど、魔力消費しちゃうし、素性もバレるっての!


 そもそも、それらは旅行とは関係ないので却下しました。



「要望を、と言うから話したまで。元よりできるとは思うてはおらぬ。そういえば、パンフレットを見ると、ランクが上の部屋には温泉がついている部屋があるようだが、これならば好きな時間に何度でも浸かれるということではないのか?」

「客室露天風呂付のプランのやつだね。大体が露天風呂みたいになってる感じでいいよね! お風呂好きのマオさんにはいいかも。じゃあ、こっちの部屋を予約しちゃおうか」


「どうせならば、料理もアップグレードしたらどうだ? 品数も増えればそれだけ技も盗めるというもの」

「旅行に行ってまで、料理の研究をするの? マグロ釣りといい、マオさんは何を目指しているのか」


「将来的には自分で育てた食材で調味料からなにから作り、料理ができればいいのだが。まぁ調味料は無理であっても、メイン食材や野菜までであれば不可能でもないと思うておる」

「となると、畜産にまで手を伸ばすこともありえるってこと!? 室内で牛や豚は飼えないからね、それだけは絶対やめて!」



 マオさんも自分がここまで料理にハマるとは思っていなかったみたいだけど、好きこそものの……とはいっても、極め方がすごい。そして、いつか船舶免許とか取っていそうで怖い。

 

 そして、その好奇心は一旦その辺に片付けて、いよいよ旅行当日を迎えました。



***



「私、新幹線で北海道って初めてなんだよね! どう? マオさん、初の新幹線は」

「うむ、悪くない。スピードがある中での、車内のこの安定感は見事の一言だ。まともに茶など飲めぬであろうと思い、ストロー付キャップを用意したが杞憂であったようだな」



 新幹線の発車前、マオさん的便利グッズを入れたジップバックを取り出し、ペットボトルのキャップを付け替えて渡してきたから、なんでだろうと不思議に思っていた。

 なるほど、そういうことだったのね。口紅が落ちないようにかなとか思ってたよ。



「そして、マオさんお待ちかねの駅弁ターイム!! 私は結局一周まわって、牛タン弁当! この加熱式っていうのがいいんだよね~」

「保温弁当箱ではなく紐を引いて、というのは面白い。私は海鮮と悩んだのだが、そちらは北海道で食す予定にしておるからな、地鶏弁当にしてみた」



『こんなにも種類はあるというのに、食せるのは一つとなると失敗は許されぬな……』と言いながら、めちゃくちゃ吟味していたマオさん。早速フタを開け、実食!



「うむ……。普通に食卓に出せば少々味付けは濃い目ではあるのに、下に敷かれた白米と共に口に含むと、なんとも丁度良い味わいとなる。料理とは科学とも言うそうだが、この味付け肉の量と、白米のバランスも計算されてのことなのだろう。実に美味」



 私の加熱を待つ間にマオさんの食レポを聞いていたけど、ついに科学が飛び出してきたか……。でも『セーラも一口食べてみると良い』と言って口へ運んでくれた地鶏弁当は、本当に美味にございました。

 もちろんアツアツの牛タン弁当をマオさんにも食べさせたけど、『これが駅弁……!?』と衝撃を受けていた。ようするに美味しかったんだと思う。






 今回の旅行は新幹線なので、乗車時間が長い。そして飛行機ではない分、通路の行き来も当然ある。

 


 そうなるとマオさんへの視線は避けられるものではないので、私は密かに対策を取っていた。

 

 まず、グリーン車を選択。通常なら選ばないけど、新婚旅行なんだしってことで、グランクラスも良かったけど、普通に駅弁を食べるならグリーンが妥当かなと。


 それから恥ずかしながら事前にマオさんに自己申告しておいた。



『マオさん。あのですね、きっと移動の時とかはやっぱりマオさんは見られることが多いと思うんだよね。そうなると、また私しょうもない嫉妬をどうしてもしちゃうと思う。で、ですから、あの、できるだけ、そのぅ……』

『常にセーラについてやれば安心か? それとも仲睦まじい様子を見せつけるでも良いぞ。いかようにもそれでお主の気持ちが落ち着くのであれば叶えよう。せっかくの旅行でセーラに泣かれては敵わぬからな』



 これのお陰で、マオさんが甘くて甘くて(当社比)、嫉妬するよりも恥ずかしさの方が勝っている状態です。

 

 座っていても食事以外はずっと手は絡められているし、身体は私に寄っていて、話す時は顔を寄せて耳元。マオさんがこういう芸当を行える人だとは思わなかった。



 

 これが魔王クオリティなのだろうか……。

 夫の新たなる一面を知りました。





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