小話:①プレゼントはこれがベストバイ / ②悪魔風とはどういうことだ /side マオ
☆短いので小話二本立てです。
前半はセーラ視点での話、後半◇◇◇~マオ視点の別のお話です。
***①プレゼントはこれがベストバイ***
マオさんはいつになく真剣な顔つきで、家電量販店のチラシとカタログを眺めていた。
そろそろ家電芸人と渡り合えるようになるのではないかと思う今日この頃。『やはりこれか……』とようやく選定が終わったようなのでどれに決めたのか尋ねる。
「マオさん、今年のプレゼントは何が良いか決まった?」
「うむ。最後まで迷ったのだが、やはり今年こそこれがベストバイなのではないかと思うのだ」
最近やたらと『セーラこれはまさにベストバイだ』だの『絶対にマストバイだ!』だの、雑誌の影響を受けに受けまくっているマオさん。
そんな家事えもんならぬ、家事魔王がおススメする商品がこちら!
「どれどれ~?」
「電動調理鍋だ」
ビシッと指を刺した先には、黒いオシャレな電動調理鍋。マオさんにピッタリな色チョイスである。
……が、お値段は可愛くはない。
「えぇ……これって結構場所取るし、あの……正直お高くないですか?」
「場所は、我のコレクションルームの一角を確保済だ。それに、少々高いやもしれぬが、元値以上に活躍させてみせる心づもりはある」
「そこはあまり心配していないけどさ。う~ん、二人暮らしにそこまではいらないと思うんだけど」
「……では、人数が増えれば良いのか?」
「人数?」
「ああ、二人ではなければ良いのか?」
ちょっと待って。こ、これって、もしかして『家族を増やそうよ』って言われているの? いや、私だって全く考えていないわけではないけど。でもさ、電動調理鍋の為に家族計画を立てる気はないよね、普通。
しかし、これは非常にデリケートな話。もしかしたら本気で言っている可能性もある。それに魔族と人間では成長速度も梅雨時期の雑草レベルに違いがあるとか、もしくはコウノトリさんが連れてくると真剣に思っているとかあるかもしれないよね?
私は平静を装い、努めて笑顔でマオさんに人間界の子供の成長速度について話すことにした。
「ふぅ……あのねマオさん、魔族の子供のことはわからないけど、こちらの世界では欲しいからってすぐ授かるものじゃないし、母親のお腹で10ヶ月ほどかけて成長するの。それに生まれたからって一日、二日で成長するものではないんだよ?」
「そんなことは常識であろう? それは魔族とて同じ、何を言っておるのだ? 我は【分身】を作り出せば良いのではないかとだな……」
はぁあ!? マオさん一号、二号みたいな分身をって話だったの!? めちゃくちゃ怖い上に、大きいマオさんが更に増えたら、絶対圧迫感が半端ない。それに……
「分身を作って、食費まで増やしたら意味がないでしょ!」
「やはり駄目か……」
ほぼうまくいくとは思っていなかったようで、却下されるや第二候補をいそいそと選び出したマオさん。賭けだったんかい!!
「ねぇ、まさか……マオさんって本当に分身、できる……の?」
「…………いや…………冗談だ」
このたっっぷりとあった間がかえって怪しくて、本当に冗談だったのか、妻の顔をみて『冗談とした方が良さそうだ』と判断したのか、より一層疑わしく思ってしまう結果となった。
ちなみに、購入したのは第二候補のフライヤー。電動調理鍋とさして大きさが変わらない気がする……と思ったけれど、第三候補である有名ブランドの卓上グリラーよりは安価だった為、良しとした。
さすがにプレゼントなのに、全てに駄目出しはし難い。
でも、なぁんか、うまく誘導されたようにも思うんだけど……。
「セーラ、今日はこれで串揚げ居酒屋風にして家飲みを楽しむとしよう」
「ホント!? 大賛成!!」
ま、どっちでもいいか。
◇◇◇②悪魔風とはどういうことだ?◇◇◇
私は今、某教育テレビでイタリア語を学んでいた。と言うのも、料理の幅も和食・洋食がメインで作り続けてきたが、本格的なイタリア料理や今後はフランス料理、中華料理など、そちら方面も力を入れたいと思ったからだ。
決して、『たまの外食っていいよね~』と嬉しそうにイタリア料理店でパスタを頬張っていた妻を見て『なんとなく負けた気がする』と思ったということではない。『美味』と私も思ったから作ろうと思ったまでだ。
「ふぅむ……しかし、なぜこちらの世界には悪魔は存在せぬのに、【悪魔】と名のつく料理があるのだろうな」
店では気が付かなかったが【鶏肉のディアボロ風】とやらは、まさに【悪魔風】と呼ぶそうではないか。何故と調べれば、諸説あるが、焼いた鶏肉の姿が翼又はマントを広げた悪魔に似ているからという。
もう一度言うが、この世界には悪魔は存在しない、ではなぜそれが悪魔に直結したのか。セーラが言うには、『実際にはいなかったけど、いると信じられた時代もあったからじゃないかな』と。姿形はその時の人間の想像力で描き上げたもののようだ。
他にもアッラサシーナ(アサシンパスタ)という【暗殺者のパスタ】、ペペロンチーノは【絶望のパスタ】。私には全く理解し難いネーミングだ。セーラは『面白くていいじゃない』と言うが、おそらく元の世界でそんなメニューを見せられたら絶句するであろうし、誰も注文しないだろう。
魔素が潤沢であった魔国では、食事はこちらでいう所の「嗜好品」と感覚は似ている。食べなくとも魔素で生命維持はできるが、それだけではやはり面白くはない。
それだけに、たまに摂る食事がどのような味付けで、一体何が使われているのかわからなければ、安心して食べられないというもの。「たまに」だからこそ失敗もできればしたくはないのだ。
「名前だけ聞いても、それがどういったものなのかわかりにくいのは、いかがなものかと思うのだがな……」
とは言え、料理名をつけた経験が全くない私が言うのも……少し違う気がする。
「何事もチャレンジと言うのだし、一度試してみる、か」
私は早速イタリア語を勉強していたノートを片付け、代わりにメモ帳を出し、今晩のメニューのオリジナル料理名を考えてみることにした。
◇◇◇
「ただいまぁ~! う~ん、いい匂い! 今日の夕飯は何ですか?」
「ご苦労であったな。今日は初披露のメニューだ」
テーブルには食欲がそそられるよう、彩り鮮やかに盛り付けたサラダ、具たっぷりのコンソメスープ、そして最後に……コト、とメインの皿を置いた。
「わぁ、すごい! これが家で食べれるとは。これって……」
「うむ。【魔王の黒髪風パスタ】だ」
「…………ん? え、なんて?」
「…………なんでもない」
名前を考えることは調理以上に苦労したというのに、大した発想も浮かばず、それでも一応決めたメニュー名を……まさか聞き返されるとは。
こんなもの、聞き返されてまで言いたい料理名ではない。決めたのは自分だが。
「マオさんが料理名をつけたの? 珍しいね。魔王の黒髪……うん、雰囲気は出てるけど、髪ってなるとリアル過ぎて食べ辛いね。あ、私はもちろん食べるから安心して」
「そうか……」
しっかり聞かれていた。
少々ダメ出しされた感はあるが、特に馬鹿にした風もなく、『美味しい! でも、絶対歯を磨くまで口を見せられない!』と、唇を真っ黒にしながら食べていた。
美味ではあるが、これは確かに外では食べない方が良さそうだ。
「マオさん、イタリア料理だから、イタリア語に変換したら案外格好いい響きになるんじゃない?」
「響き? しかし意味は同じなのであろう?」
早速セーラがスマホを取り出し調べると、【ディアボロ ダイ カッペリ ネリ(魔王の黒髪)】と、訳された。
「ほら、なんかちょっとカッコよくない?」
「我にはその辺りはよくわからぬが、セーラが良いと思うのであればそうしよう」
言葉は変われど、あの恥ずかしい名前に変わりはない。
ただ、あくまでも二人の間でのみで使うのならば、料理の名付けも思ったより悪くないのかもしれない。
まぁたまに、だが。
しかし、悪魔も魔王も同じディアボロ……?
こちらの世界でも、魔王と言うのは恐ろしいイメージがあるようなのに、当初から平気で接していたセーラは、やはり聖女の器だったのかもしれないな、とマオは思った。




