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小話:魔王は動物社会のヒエラルキーでもトップに君臨


******



 とある休日。


 今日は『次の休みに行きたいところがあるのだが』と言っていたマオさんのリクエストにお応えしまして、やって来ました大型ショッピングモール!


 しかし私は、ペットショップ側からうっかり……自発的に入店してしまったが為に、ご来店30秒ほどで子犬や子ネコちゃん達のいるガラスにへばりつく勢いで愛でている。



「はぁ~やっぱりペットって可愛いよねぇ。うちのマンションじゃ無理だけど、たまにこうやって眺めているだけでも癒し……あれ? マオさん?」



 てっきり隣にいるものと思って話していたのに、いないって地味に恥ずかしい。ちびっこに『あのおばちゃん一人でしゃべってるー』とか言われるやつだよね。せめて「お姉さん」って言って欲しい。

 

 キョロキョロと見回せば、マオさんはペットコーナーから少し離れた調理家電コーナーを眺めていた。まぁ、この辺はいつも通りである。



「もう、マオさんってば! 今月はもう調理家電は買いませんよ!」

「う……む、それはわかっておる。来月、もしくは再来月辺りにどうかとだな……」


「買うなら小さめにして! もうダイニングテーブルにまで調理家電が占拠しだしたんだよ!」

「それはそうだが、購入資金はキチンとやりくりしておるし、そもそも部屋が小さすぎるのが……」



 そう。完全に反対しきれないのは、マオさんがキッチリやりくりしている範囲内なのと、買った物もこれまた使いこなしているものだから『どうせ買っても使わないでしょ!』みたいなことも言えやしない。

 

 先日購入した低温調理器で作った、何それ的サーモンミキュイ、鶏ハム、ステーキ……悔しいけど文句なしに美味しかった。マオさんも自分で作っておきながら『この調理家電、侮れぬな……』と言ってたしね。


 かと言って、私が住んでるマンションにいちゃもんつけるのは酷くない?



「私の(マンション)を愚弄するとは許せん!!」

「セーラ、時代劇の見過ぎではないか?」



 ちょっとー! どう考えてもマオさんの真似なんですけど!? 朝ドラと時代劇を見てるのはマオさんじゃないの!!



「まぁそんなことはいいよ。一緒にペットでも見て癒されようよ~」

「動物で癒し……果たして動物側は癒しになるのか」



 ペットの癒し効果を舐めてかかっているマオさんも、ちっこい子犬や子ネコを見ればきっと『これは愛いの』とか言うに違いない。


 至極興味なさそうな夫の背中を押して、またペットコーナーに戻って来た。



「きゃあ!! 店長!! 動物たちが一斉に吠えたり怯えたりしてますっ!!」

「あぁ!! ふれあいコーナーのワンちゃんが脱走を!!」

「ブミャー!! シャー!!」

「キャン! キャン!」


「えっと……これ、どういう状況?」

「ハァ、だから言ったではないか。私がいたのでは動物たちは休まらんのだ」



 マオさんの話によれば、私にはわからないがマオさんの圧倒的な魔力を、動物たちは敏感に察知してしまい、恐れ戦いてしまうという。


 特にこういったゲージに入っているペット達は逃げ場がないので、一番隅に引っ込みつつもシャーシャー威嚇をしたり、子犬は尻尾を丸めてブルブルと震えていて可哀想の一言である。


 とりあえずペット達を阿鼻叫喚の地獄絵図状態から救うべく、マオさんを連れて足早に立ち去ることにした。



「でもさ、そうなるとマオさんは一生ペットが飼えないわけだよね? 遠目に見ても可愛いとは思えないの?」



 最悪AIBOでも……いや、あれじゃモフれないし。リアル人形のわんちゃんで我慢してもらう?



「特に可愛いとは思わぬな。ただ、小さすぎて触れるのに苦慮しそうだとは思うが。私にとっての癒しはセーラがおるのだから必要なかろう?」

「ふぁっ!?」



 びっくりした!! マオさん、そういうこと言う人じゃなかったじゃない! いきなりどうしたこれ!?



「何を驚くことがあるのだ? セーラも私に『いるだけで癒し』だとか『美味しい食事に浄化される』などと言っておるではないか。私には聖魔法は使えぬと言うのに」

「それは! だって、本当のことだし……。ね、ねぇ、マオさんも私で癒されること、本当にあるの?」



 隣り合っていた手がコツっと当たり、避けようと思ったら『夫婦なのだ、手くらい繋いでも良かろう?』と言って、マオさんの方から指を絡めて繋いでくれた。



「私はな、セーラが元気に過ごす姿を見るのが癒しなのだ。だから日々妻が健康で過ごせるように、家事に力を入れておる。人間はか弱い者ゆえな」

「なんかちょっとペットポジションっぽいけど、マオさんが癒されているって言うのなら良いのかな。それから、マオさんのお陰ですこぶる体調良いよ、いつもありがとう」


「フッ、館内は混み合っておる。はぐれぬよう、セーラの手綱は私がしっかり握っておこう」

「ふふ。はい、お願いします」



 恋人っぽい関係性は感じないまま夫婦になったけど、何だかんだで少しずつこういったむず痒いことを言ってくれるようになってきたように思える。やっぱりマオさんは癒しだなぁ~。



 マオさんに先導され、モール内をぐるり周り、フードコートで食事を済ませた。


 そして最後に寄るところがあると言って辿り着いたのは……。



「ねぇ、マオさん……これは?」



 私の艶消しされた瞳が映したのは、そう、テナントの家電量販店……の中の調理家電コーナー。ですね。



「これはアイスクリームメーカーと言ってだな、店で購入するような渦巻ソフトが自宅でも作れてしまうものだ。セーラも時折『急にアイスが食べたくなった』と言って、コンビニへ買いに行くであろう? コンビニのアイスを100個買うことを考えたら……」


「これはさすがに要りません!」

「やはり無理であったか……。いつかソフトクリーム巻きのアルバイトがあったらしてみたいものだ。私なら崩さずセーラの身長くらいは巻けると思わぬか?」



 いや、床からマシーンまでの高さを思えばそれは無理だと思うし、作ってもらっても食べにくいよね?しかし、ソフトクリームを巻いてみたい願望があったとは思わなかった。もしかしてフードコート!? なんか黙ってじーっと見ているなとは思ったけど、やりたくなっちゃったのか……。


 マオさんは知的好奇心の塊のような人だね。



 とりあえず宥めつつも、『調理家電ではなく、小さければ良いか?』と言って、いそいそと赤いスープジャーを持ってきたマオさん。また衝動買いを……。



「これがあれば、寒い季節でも温かい汁物を持って行けるであろう? セーラの好きな麺類も工夫すれば可能ではないか」

「……くっ! 買ってもいいけど、マオさんの分も選んで!!」



 買う以外の選択肢が見当たらないし、結局絆されてしまう私。でもいい、心の保温効果も抜群だ。



 こうしておねだりが成功したマオさんと、良い買い物をしたと気持ちが満たされた私は、ほくほく顔でマンションへ帰って来た。


 すると、マンションロビーでお話好きのオーナーこと、鈴木さんが頬に手を当てながら『怖いわよね~』と話している。なんだろう、なにか事件かな……?



「こんにちは鈴木さん。ちょっと聞こえてしまったのですけど、なにか怖いことでもあったんですか?」

「あらやだ、星野さんじゃないの! ご夫婦揃って、お買い物かしら?」

「なに、軽く調理家電を眺めにな」


「マオさんもホント調理家電好きねぇ。そうそう、星野さんも変だなって思わない? 最近ハトやカラスを敷地内で全然見掛けないでしょ? それに、名前も出したくないけどGも……全然見ないのよ。なにかの前触れじゃないかって心配で」

「ああ~確かに……でも出ないのは助かりますね」



 隣のマオさんをチラッと見てみた。マオさんもこちらに気付き、少しゆっくりとした瞬きを返した。ビンゴなのか!?

 

 とはいえ、マオさんは三年も前からいるのになぜ最近なのかを後から聞いたら、当時は特に気にもしていなかったので魔力を放つこともせず放置していた、と。


 しかし、最近になってマダム鈴木より『カラスがゴミを荒らすし、ハトの糞被害とかホント嫌よね』と言っているのを聞き『そうなのか』と思っていたところ、干したての洗濯物に糞被害があり、静かにキレたらしい。


 以来、このマンションからはカラスやハト、Gやネズミの類はいないだろうとのこと。




 すごくありがたいし、助かるけど、彼らはどこへ流れて行ったのだろうか?


 逆に被害が増えたところがなければいいなと心から願う……。





今更ですが、マオさんは外出先(人がいるところ)と脳内では「我」ではなく「私」と言います。

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