11:二人の結婚記念撮影
◆◆◆から異世界のメンデル視点
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「ううむ……」
「マオさん、マオさん、たくさん悩んでも良いとは言ったけど、さすがに決まらな過ぎじゃない?」
「セーラ、これは我らの婚儀代わりとなる記念のものなのだぞ? 今悩まずして、いつ悩めばいいのだ」
「でも、もう二時間も選び続けてるじゃない」
知らぬ間に入籍を済まされ、そして先日職場にマオさんが参上したことにより結婚がバレるという、びっくり続きですが、私の休みに合わせてついに結婚記念写真を撮りに来ました。
まずは私希望で白のウエディングドレスと、似合い過ぎにも程がある花嫁より目立つ、マオさんのタキシード姿に、私や写真館のスタッフが全員『ほぅ……♡』となったのは言うまでもない。
マオさんからすれば、『こちらの方が略式ではあるが、やはり肩が凝る衣装なのは変わらぬものだな』と気だるげにアスコットタイを外す様は、思わず『もう一回!』と言ってしまいそうなほどカッコ良かった。
そして、マオさんのリクエストは和装。どうしても羽織袴を着てみたかったらしい。私もこちらでは色打掛を選び撮影した。
ただ、順調かに思えた撮影も、マオさんが少し納得がいっていないとわかる表情をしていたので、少し休憩を入れてもらい、こっそり尋ねてみた。
「マオさん、なんか元気ないけど衣装が気に入らなければ着替えてもいいんですよ?」
「ああ、いや衣装は問題ない。ただ、手に持っているのがなぜ「コレ」なのか、と……」
マオさんが「コレ」と言うのは扇子。うん、まぁ男性の和装の時はこんなもんだよね?
「扇子が気に入らないなら無しにする? あ、番傘持つとか?」
「いや、番傘も良いが、私は日本刀に見合う服装と思い、着物を着たのだ」
思った以上に、本当に時代劇好きになってきている気がする。大河ドラマも欠かさず見てるもんね。マオさんならGA○KTさんが演じたような毘沙門天の化身、上杉謙信がハマり役だと思う。
それにしても見事にガッカリ感が滲み出ている。扇子を広げては閉じてを繰り返してるし……。つまらんのですね?
「あのぅ……お客様?」
「あ、すみません。もう、休憩終わりですか?」
「いえいえ、少し聞こえてしまったのですが、ご主人様はどちらかと言えばコスプレ撮影の方をご希望でしたでしょうか?」
「コスプレ? なんだそれは」
「なりきるっていうのかな? つまりマオさんの希望通り、侍になってみますか? っていう話」
表情はポーカーフェイスを装い、いつも通りキリっとした顔をしているけれど、背景にパァァっと効果音がつきそうな様子から、きっとなりたいのだろう。
先程は妻の希望を叶えてもらったのだ、それなら夫の希望も叶えなきゃ大黒柱の名折れというものだ。
「マオさん、私も町娘とか一度やってみたかったの! マオさんが良ければ、マオさんが助ける侍役で写真撮らない?」
「町娘セーラが困っていると言うのであれば、私以外救えるものはおるまい。その話、受けよう」
なんだろう、以前『目は口程に物を言う』と言われたけど、マオさんは魔王として表情を崩さないようにしてきたせいか、目というより背中? 後ろ姿を見るとソワソワしている感じもわかるし、尻尾が生えていたら千切れるほど振っているに違いないと思う。
そして、通常の和装の2倍くらい武士と町娘で撮影することになった。ちょっと楽しくなっちゃって、私もなりきったところはご愛嬌だ。
私以上に楽しんだのはもちろんマオさんだけど。
総髪でいつもより少し高めに結んでいるけど、スタッフさんも力が入っちゃったと言うか、目に囲みメイクまで施して、刀剣○舞のキャラクター出てきちゃったんじゃない? 状態だったし。
カメラマンの高橋さんも乗ってきちゃって、『外でも撮りましょう!』って移動してまた撮って……。
渾身の一枚は、模造刀なのに、落ちてくる葉をマオさんが真っ二つに切ったところのショット。奇跡の一枚と言ってもいい。キーホルダーにしてお買い上げ。
***
二時間悩んだ結果、高橋さんのアドバイスも聞きながら、なんとか結婚報告用ハガキの写真も決まり、現像分も決めた。そして最後は購入しなかった分の写真で、またマオさんが悩みだした。
「高橋、どれも同じようでいて、一つとして同じものはないとは……職人として中々のものだ」
「はぁ……ありがとうございます?」
「ホホホ! ごめんなさい、主人の日本語は時代劇を参考にしてまして! ちょっとアレなんですよね!」
しかも、何気にまだマオさんは侍の格好のままなので、それはそれで言い方がハマってて違和感はないけど。
「高橋、お主の作品はどれも素晴らしい出来栄えで甲乙つけがたいのだが……して、この購入しなかった分のデータはどうする予定なのだ?」
「一応、既定の期間は保管しておきますけど、その期間が過ぎればデータは削除、ですね」
「削除、だと!?」
「ええ……あ、はい」
マオさんの囲みメイクの効果も加わり、カッと見開いた目力が半端ない。高橋さんも、ちょっとビビっている。
「高橋、お主は中々に豪胆な商いをしておるようだな……くくっ、気に入った。言い値で買い取ろう」
「は?」
「ホホホ! ちょっと役に入り込んじゃったのかしら? 高橋さん、データ購入するので追加でお願いします」
結局、半目やピンボケのものを除き、全てのデータを購入。うんと悩んで決めたお気に入りの5枚は四畳半の元マオさんの個室、今はコレクションルームに額入りで飾られている。
ちなみに2枚は洋装固定ポーズとアップポーズ、もう2枚も和装で同様。そして最後の1枚は黒髪ロングのアップがすごくハマっている侍姿のマオさんが刀を抜いて戦っている……風の後ろに町娘の私が「きゃあ! カッコいい!」となっている写真だ。
『時代劇好きなら……』と高橋さんが演出してくれた、マオさんお気に入りの一枚だ。
ちなみにマオさんはスマホで写真を撮るのも好きなんだけど、なぜかそれらを現像して飾ることはしない。料理の写真が多くもあるけど、二人で自撮りした写真もあるのに。
理由を聞けば、『正装ではないからだ』だそうで、プライベートなものは自分が見るものとしてお気に入りのホルダに保存してあるとか。
「ちなみになにをお気に入りに入れてあるの?」
「…………秘密だ」
密かに撮影されていた妻の寝顔や日常の一コマが保存されていることを、セーラは知らないのだった。
◆◆◆◆◆
ところ変わって、ここは魔王城。
魔国の魔王城には歴代の魔王の肖像画が並んでいる廊下がある。
その中の一枚に、賢王と呼ばれた前魔王の肖像画があったのだが、本人の希望により異世界の衣装を纏ったものに描き直させた。そこには【真名は妃セーラに捧ぐ】とあり、代わりに異世界での愛称『マオ』とだけ記されていた。
「……完璧ですね」
描き直させた肖像画を手づから飾り直し、角度も調整。
改めて眺めるが、こちらにはない衣装と剣のようなものを持っていて、以前よりもずっと瞳に力が宿っているように見える。これは良い出来栄えだと新魔王メンデルは口角を上げた。
魔国の為と、身を挺して民を守ったと語り継がれる魔王。
聖女と共に異世界へ渡った後、聖女の知恵を借り、異世界からも魔国の発展に大きな影響を与えた賢王。
彼は後年、美しく慈悲深い聖女の愛に包まれて、仲睦まじく幸せに暮らしたという。
「と、まぁこのような感じで魔国の歴史には残そうかと思っているのですが如何ですか?」
今回のオンライン会議では、聖女様も交えて後世へと残す一節はこんな感じで如何ですか? といったお伺いの為の会議である。聖女様にはマオ様の婚儀後に画面越しではあるがお会いしていた。
基本的に聖女様がお勤めがある時に会議は行っている為、ほとんどお会いすることはないが。
≪如何もなにも、我はまだ死んではおらぬが?≫
≪メンデルさん、私そこに行くことはないからと思って我慢していましたが、歴史書に『美しく慈悲深い聖女の愛』はちょっと御幣が……≫
「死後では確認が取れませんので、こうして事前にお伺いを立てているのです。それにある程度決めておかないと想像力豊かな者が更に話を盛りますよ?」
逆に本人が生前に武勇伝を脚色しまくったせいで、歴史の内容に齟齬が生じ、結局死後、適当に書き換えられてしまった例もありますが。
≪まぁ、死後は好きに書いたら良いとは思うが……。新魔王はメンデルなのだ、王の政治に役立つように利用してくれて構わぬぞ。発明とて、メンデルの手柄で良い≫
≪確かに。後継に決まっていたとは言え、急に新魔王に就任することになってご迷惑をお掛けしたみたいですし。私の顔が晒されることもないなら、もう自由にしてくれていいです≫
「さすが聖女様は慈悲深い。マオ様を見ていると、少し婚儀にも興味が湧きます。私の代でも聖女召喚がありましたら、ぜひそちらへ渡ってみたいですね」
≪不吉なことを言うな。……ただ、万が一そのようなことがあれば、高魔力結界の練習と家事力を磨いておくことを推奨しておこう。まずは聖女の胃袋を掴むと良い≫
≪……え? マオさんってそういう計画で近づいたの? ねぇ、どうなの?≫
おっと、これは余計な一言を言ってしまったようですね、マオ様。しかし、胃袋を掴むところから始めたのですか……以前では想像もつきません。
「……では、そろそろ本日のオンライン会議はお開きと言うことで。マオ様、聖女様へのフォローお願いしますね」
この後の展開を思い浮かべると、つい笑いが込み上げてきそうになるのを堪え、にこやかに『では、また』と手を振りながら通信を切った。
画像がぼやけて行く中、マオ様がなにか文句を言っていたようだが、ご自身で蒔いた種ですので頑張って下さいとしか言いようがないですね。
マオ様とは何度もオンライン会議を行っているが、聖女様とはこれで三回目。
恐らくは初対面時に聖女様が『メンデルさんも美形なんですね』と社交辞令を述べたせいもあるのではないかと思っていますが。
少し背後寄りにいらっしゃったマオ様が表面上は取り繕ってましたけど、一瞬眉間にシワが寄ってましたからね。私は見逃しませんでしたよ。
挨拶だけ済ませると『少し仕事の話があるのでな、先に湯浴みを済ませてくると良い』と言って聖女様を退場させましたし。柄にもなく妬いてましたよね?
それまでは聖女様の方がマオ様を……と思っておりましたが、マオ様も中々……ふふ。
凛々しく笑う、異世界の【サムライ】という衣装のマオ様を見て、「やはり」と思う。
「【仲睦まじく幸せに暮らしました】というのは、明記しておくべきですよね? マオ様」
FIN
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