メタモル
昼寝から覚めると倦怠感で、さっきまでの夢をオーバードーズしてしまった。
僕はたった一人で沼地のボロ小屋に暮らしていた。周りは毒沼だから外には出られず、窓があるのに外を眺めてはいけない。時間は瞬く間に過ぎていった。朝になれば夕日が壁を紅色に染め、夜が近づくとお喋りな月がそれを教えてくれた。窓を覗いてはいけないが、手にはボウル一杯のマカロニスープを持っていた。これも決して手放してはいけない。スープには空の様子が星座版のように映し出されていて、いつも鳥や雲やお月さまが泳ぎながら、レタスやじゃがいもやセロリを分け合っていた。でもマカロニだけはみんな避けて食べるので、朝も夜もスープを吸いつづけ徐々に膨張するその姿が、たしかに気持ち悪かった。
ときどき遠くからは大きな爆発の音が聞こえてきて、その轟音に小屋が軋むこともあった。僕は不安だったが、それでもやはり窓を見てはいけないので、爆発があるたび、気を紛らわす意味も込めてスープのみんなと話をしていた。
「あの音は一体なんなの。」
するとみんなはいつも口を揃えてこう言うのだった。
「あいつとは別に仲良くないしなあ。」
「仲良くないって、あれが何の音かは知ってるの。」
「うーん、仲良いわけじゃないからなあ。」
僕はこの返事をされると、「じゃあ僕とは仲良しなの」と聞き返したくなる気持ちに駆られた。自分だけあの爆発のことを欠片も知らないことが寂しいのだった。しかし躊躇われたのは、いざ聞いてみてその返答までもが「仲良くないないしなあ」であるかもしれないためだった。あの爆発があると、僕はふとこのボロ小屋の静けさをひとりで受け止めなくてはいけなくなった。外には毒沼が広がっているが、そもそも外に出てはいけないので自殺するには使えなかった。
爆発のない日は朝から夜が多少ゆっくりに感じた。爆発のある日は朝から夜が早く、夜だけが長く感じた。月はいつも夜が来たのを教えるだけだった。月なんてお喋りで明るくみせて、その実結構冷たいのかもしれない。鳥も雲もそうだ。食べてばかりで、そういえば僕の話をちゃんと聞いてくれているところを見たことがない。こんなことを思いついてしまう自分のことが一番嫌いだった。
スープの入ったボウルは手放せないが、こっちから打ち明けさえしなければみんなに僕の悩みがバレることはなかった。だが爆発の頻度が増えてくると、嫌な性格を隠せているのか、声は震えていないか、言葉の端々に悪意が乗っていないか、自信は墜落し、爆発があろうとなかろうと、すでに朝も夜も何も関係なかった。
あるときスープを溢してみようと思った。もしかしたらスープのみんなとこの小屋で暮らしていけるかもしれなかった。とてもいい案に思えたと同時に、自分の思ういい案への不信もあったが今日は何かが違った。だからこそ僕は思い切って、これまで片時も放せなかったボウルを小屋の隅に投げた。そして想定よりも身軽に事は起こった。ボウルはひっくり返るとスープも具材も床にぶちまけ、それだけだった。沼地のボロ小屋はただ静かである。
かろうじて瞼を開いた。ねばついた汗とくしゃくしゃのシーツに包まれ、呼吸をせき止めている鼻血が鉄臭い。視界のあちこちにバナー広告が表示されたみたいだった。




