道に迷う違反喫煙者
ファーレンハイト絡みの話は後ほど、、、
「うーん、確かこっちだったような?」
リアーナは、どうやらファーレンハイト王国に仕事を残してきたようで、泣く泣く帰っていった。
それを見送った後、僕は、サークルの部室がたくさんある棟にやってきていた。
僕が部長を一応やっている【軽音サークル】の部室がこの辺りにあった気がするので、顔を出しておこうと思ったからだ。
まったく、何でギター触ったことすらないのに軽音サークルの部長やってるんだか、、。
「えー、、どこだー?」
だがしかし、どうやら道に迷ってしまったらしい。
二ヶ月くらいは来ていなかったので、部室にどうやって行くか、どこにあったかすら覚えていない。
というか、ギターとかドラムの音すら聴こえて来ないんだけど、、、
「帰ろっかなー」
あ、でも待って、、道に迷ってるからどこから外に出れるかすら分からないじゃん、、、
「終わった、、」
どうしよう?
ちょうど目の前に階段あるし、屋上にでも行ってみようかな?
ボーっとしてたら誰か来るでしょ、多分。
「うー、階段上るの辛い、、。」
誰だよこんな急な階段作ったの!!
エスカレーターを設置しろエスカレーターを!!
◆◇――――――――◆◇◆――――――――◇◆
「ふぅー、、疲れたぁ。」
場所は変わって屋上。
死にかけながらも階段を登り切った僕は、ベンチに座って、道行く人々を眺めていた。
別に芸術家とかではないので何のインスピレーションも浮かばないが、たまにはこういう何もしない時間があってもいいだろう。
「あれ、、でも、いつも何もしてないかも?」
家に居たってゲームか配信か酒飲むぐらいしかしないし、、
あ、でもタバコも吸ってるか。
「もしかして、結構やばい生活してるかも?、、ふぅー、、、。」
このままでは社会不適合まっしぐらではないだろうか。
というかここ、灰皿ないの?
「でもなー、それ以外やることないし。」
一生暮らしていけるだけの金は持っているので、働く必要はない。
というか、働きたくないでござる。
めんどくさいし。
なんて親に聞かせたら発狂されそうなことを考えていたら、階段を上る足音が聞こえてきた。
「おっと、誰か来たようだ。」
間違えた、、やっと、誰か来たようだ。
「あのー、すみません。ここってタバコ禁止なんですけどー、、、」
Huh?
「そうだったの?ごめん、全然気付かなかった。」
「いや、あの猫みたいな首の動き、、あっ、え?、、皇、先輩、、、?」
「んー?」
もしかして僕の知り合いだろうか。
そう思って振り向いてみると、どこか見覚えがある顔の少女がいた。
身長は160㎝くらい、黒髪ツインテールで、いわゆる”地雷系”の服を着ている、可愛い。
「それで、えーと、、誰だっけ?」
マジで誰?美人局ですか?
「へ?」
「いや、その、、ワットイズユアネーム?」
「いやっ、、何で忘れてるんですかっ!!!」
怒られた、酷い。
「ごめん、、最近物忘れが酷くて、、、」
高齢化が進んでるのよ。
「絶対噓ですよね!?皇先輩って『日ノ本国の叡智』でしたよね!?
完全記憶能力を持ち、超高速思考と並列思考が可能な史上初の人間ですよね!?」
よくそんな大声出して疲れないね。
あ、よく見たら息切れしてるじゃん。
「いやー、あれ疲れるから、今はOFFにしてるんだよね。」
「そんなことできたんですかっ!?」
「ううん、噓だよ?、、、、、ふぅーっ。」
出来るわけないでしょ?
「いや出来ないんかーい!、、って、タバコ禁止ですって!!」
「あ、そっか、ごめんw」
「今絶対語尾に【w】って付いてましたよね!?」
「??」
あ、でも、、確かにこんな感じの後輩いたかも。
確か【軽音サークル】の副部長だったよね。えーっと、、、
「そうだ、思い出した!うるさいツインテだ!!」
「えっ、、私、先輩の中でそんな不名誉なあだ名付けられてたんですかっ!?」
不名誉ではなくない?
「え、火奈多 深雪だよね?」
「いや、そうですけどっ!?、、はぁ、はぁ、、、疲れた、、。」
そう言って汗を拭った深雪は、僕の隣に座ってきた。
「とりあえず、このタバコは没収です!」
「あっ、、、」
目にも止まらぬ速さで取り上げられた。
俺でも見逃しちゃったね。
「それで、今日は何をしに来られたんですか?
先輩が学校に来るなんて珍しすぎてビビりましたよ?」
僕が学校に来るってそんなに珍しいかな?
結構な頻度で来てると思うんだけど、、多分月に1回くらいで。
「リアーナに呼び出されたんだよ。【美少女になったってどういうことよ!】って。」
あのスタンプ連打は流石にビビった。
スマホが壊れるかと思った。マイバチ使いの太〇の達人の連打よりやばかった。
「あー、なるほどです。」
「それで、暇だったし【軽音サークル】に顔出してから帰ろうかなと思ったんだけど、部室がどこだったか忘れてて、今絶賛道に迷ってる。」
「完全記憶能力はどうしたんですか、、」
「一応記憶はしてるんだけどね、しばらく使ってない記憶を引っ張り出すのって、めんどくさいんだよねー。」
「な、なるほど?」
4、5分は頑張らないと取り出せない。
具体的に言うと、大量の本の山から一枚のプリントを見つけ出す時くらい頑張らないといけない。
「だから深雪、部室まで案内してくれないかい?」
「、、あの、無駄にイケボ使わなくてもそれくらいしてあげますよ?」
これも僕の人徳が成せる技か、、。
「おー、ありがとう。じゃあ行こう。」
のそのそと立ち上がった僕は、スタスタ歩く深雪に置いて行かれないように、頑張って付いて行く。
「あ、そういえば先輩、配信してるんですよね?」
急に深雪が聞いてきた。深雪も僕のファンかな?
サインでも書いてあげようと思ってペンを取り出したが、いりませんと言われた。
そんなに即答しなくてもいいのに。
「うん、そうだよ。」
「実は私も配信をやっていて、、その、良ければ、コラボしてくれませんか?」
どうやら深雪は、『ユキのゲームch』という名前でゲーム実況をしているらしい。
安直な名前だと思うが、言ったらキレられそうだから黙っておく。
配信では主に、FPSゲームをやっているのだとか。
僕もFPSは好きだ。というか、FinalWorldというFPSゲームが好きだ。それ以外のFPSはやったことがない。
逆に言うとFinalWorldは、【Order of Phantoms】というチームを作って世界大会に出ていた程やりこんでいる。
ここ二年くらいはログイン出来ていないけど。
そういえば皆、今頃何してるんだろう、、、久しぶりに連絡してみようかな?
「、、先輩?」
「あ、、あぁ、うん。コラボね、いいよ?」
「やっぱり駄目ですよね、、、はっ、ええっ?、、いいんですかっ!?」
そんなに驚かなくても、コラボなんていつでもしてあげるのに。
あっ、良いこと思いついた。
「でも、その代わり、一つ頼みがある。」
出来るだけシリアスな雰囲気を出しておく。
「、、な、何です?可能な限り叶えますけど、、。」
僕のイケボの出番だ。
「ここでタバコ吸わせて?」
「不可能ですね。」
Huh?