オットー・レ・ファーレンハイト
お久しぶりですね
「まぁ単刀直入に言うとだナ、性転換病は人工的に引き起こされたかもしれないんダ。」
「わーお。」
いきなり爆弾飛ばして来やがったぞ、マジか。
そんな『トイレが詰まって逆流してきたの~』みたいな軽さで言うんじゃねぇよ。
しかも、そんなに大きな声で喋って大丈夫なの?
周囲の人全員が耳掃除キャンセル界隈じゃない限り、情報漏洩案件なんだけど?
僕が辺りを警戒するような素振りを見せると、ニーナが大丈夫だと言ってくれた。
「ここには遮音結界を張っておいたから、安心して話せル。」
え、何そのファンタジー。
教えて教えて!!
「国家機密ダ。」
きっぱりと首を振る国家元首様。
「このタバコあげるから。」
ファーレンハイト産の限定品だぜ?
「、、、国家機密ダ!!」
ちょっと迷ったな?
「物ではつられないゾ?」
「ちぇー。」
ぶーたれてみてもダメだった。
流石は腐っても国家元首!!
「それでダ。最近我が国の諜報部隊が掴んだ情報なのだが、旧エフタリア帝国内で違法な化学実験が行われているようなのダ。」
「旧エフタリア帝国内?」
え?聞き間違い?
実は僕も耳掃除キャンセル界隈だった説??
確かに最近してなかったからかなぁ。
なんていう現実逃避は、国家元首様の無情な一言で打ち砕かれた。
「そうダ。」
「旧エフタリア帝国って、ファーレンハイト王国の領土なんですけど。
ついに頭おかしくなったか?」
「ナチュラルに暴言を吐かれタ!?」
困惑する僕に、ニーナは頬杖をついて、顔を険しくさせて言った。
「ハッキリ言わせてもらうゾ?
皇 玲明よ。ファーレンハイト国王、オットー・レ・ファーレンハイトは、敵ダ。」
まぁその話になるよね。
「、、、やっぱり?」
「え?知ってたノ?」
『拍子抜けだ』と、ニーナの呆けた顔が物語っている。
「うん、何か怪しいと思ったんだよね。」
オットー・レ・ファーレンハイト。
ファーレンハイト王国の国王であり、エフタリア帝国との戦争に勝ったことで名君として名高い、リアーナの父だ。
あの人が僕を疎ましく思っていることは、だいぶ前から分かっていた。
「な、なゼ、、ワテクシの諜報部隊ですら掴むのに苦戦した情報ヲ、、」
「確かな証拠があるわけじゃないんだよ?
ただ、あの人、露骨だったからね。
最初は国を守ってくれた僕のことを救世主だと思ってくれていたっぽいけど、その後からだいぶ無茶な指示をしてくるようになったんだよ。
『相手側からの降伏は全て無視して、エフタリア帝国に逆侵攻して攻め滅ぼせ』とかね?
多分だけど、僕に戦死して欲しかったんだよ。」
手に負えない存在である僕を、消そうとしたのだろう。
結局勝っちゃって、本当にエフタリア帝国が滅亡してしまったけどね。
「でも、何でここでオットーが敵だっていう話になるの?」
「それがだナ。性転換病を引き起こす薬が、例の違法な化学実験によって作り出されたようなんダ。」
「そして、何らかの手段でオットーが僕を性転換させた、、と。」
何なの?宿敵を美少女にして、楽しいか?
ただの嫌がらせ?
全然僕的には、自分の外見には興味がないから良いけれども。
人は中身が大切だよ、うん。
「そういうことダ。
性転換病を引き起こす薬はあくまでも副産物に過ぎず、永遠の命を手に入れる薬の研究をしているらしイ。
てっきり、玲明とオットーが共同で研究をしていると思っていたから、耳を治す薬もあるかもしれないと思ってお前に聞いたんだガ、どうやら見当違いだったようダ。」
ニーナは残念そうに首を振った。
勝手に期待されて勝手に残念がられても困るんですが?
「なるほどね。」
まとめると、ニーナは、オットーが永遠の命を手に入れる薬の研究をしていることと、その副産物として性転換病を引き起こす薬が出来たことを知った。
本来有り得ないような薬が出来上がっているわけだから、聴力を回復する薬もあるかもしれない。
そう思ってニーナは、何とかオットーやその共同研究者と接触しようと考えていた。
そして、最近性転換した僕が、オットーと繋がっているのだろうと思って接触してきた。
だが、それは見当違いで、僕とオットーは敵対関係にあった。
これが、現状だ。
「オットーが聴力を回復する薬を既に開発している可能性は、ゼロではない。
となると、ニーナはオットーサイドに付くよね?」
「今のところは、そうだナ。」
「つまり、僕の敵っていうことだ。」
You are my enemy!!!!!
「そういうことになるナ。」
どちらの口からも、言葉が発されなくなった。
遮音結界によって周囲の音が遮られているので、僕とニーナの間の空間が無音になる。
張り詰めた雰囲気が広がる。お互いがお互いをじっと見つめ、相手の出方を伺っている。
「、、、、はぁ、もう帰っていいです?」
「あぁ、いいゾ。ワテクシとて、ここで決着をつける気はなイ。
それどころか、オットーが耳を治す薬を開発していなけれバ、この問題から手を引くだろウ。」
「出来ればそうして頂きたいですね。では、さようなら。」
「またナ。」
もう二度と会うことが無ければいいんだけど、、。
席を立ち、家へと向かう。
オットーが敵であることは明白になった。
問題は、リアーナの精神状態だ。
リアーナが僕を愛してくれているのは間違いないが、それと同様に、家族のことを愛しているだろう。
オットーだって、リアーナにとってみれば自慢の父であるはずだ。
だが、オットーは、未だにファーレンハイト王国国内で英雄視され、多大な影響力を持っている僕を消そうとしている。
僕が自分の政治を脅かすかもしれないなどと思っているのだろう。
面倒くさいから、リアーナにそうしてと言われない限りはしないのに。
どういう意図があって性転換させたのかは分からないが、まぁロクな理由じゃないだろう。
最早、和解は不可能だ。
サーナヴェルという不穏分子を始末して国内が安定したので、いよいよもって僕を消そうとするかもしれない。
そうなれば、もちろん僕は死にたくないので、ありとあらゆる手段を使ってオットーを倒す。
けれど、リアーナはどうなる?
愛する父と、愛する婚約者が戦うことになって、リアーナはどう感じる?
もしかすると、精神的に参ってしまうかもしれない。
「これは、家に帰って一度、家族会議が必要だね。」
サーナちゃんが人質にとられる可能性もあるので、サーナちゃんも交えて行おう。
でも、まずは、酔いつぶさせて逃げたことを、リアーナに謝罪しなければならない。
「はぁ、、怒ってないといいなぁ。」
イケボで『愛してる』って言ったら、ゴリ押しで突破できないかな?




