誤解
サーナちゃんの家にあった記章。あれは絶対、エフタリア帝国のものだ。
しかも、皇族にしか渡されないであろう、緋色の記章だった。
「クソっ、なんで気づけなかったんだろう、、。」
よくよく考えれば、サーナちゃんは、とある人物に似ている。
エフタリア帝国皇族の最後の生き残り、サーナヴェル・ディ・エフタリアだ。
美しき黄金の髪、全てを見通すと言われる緋色の瞳、そして、美女と見間違えられるほどの美貌。
サーナちゃんの特徴は全て、サーナヴェルと一致するのだ。
何で出会った時に気づけなかったのだろうか。
FinalWorldの大会の出場を諦めるほど、エフタリアの残党を警戒していたというのに、、、。
これしきのことに気づけないなんて、警戒心が欠けているんじゃないだろうか。
あれほどリアーナを守ると誓ったのに、危険となる存在に気づけなかったという大失態は、僕の心を深い闇に落とし込んでいく。
「クソっ、、僕のばかっ!」
悪態を吐きながら帰っていると、ふと、電化製品を売っている店で流れているテレビの音声が、耳に入ってきた。
「速報です!!ファーレンハイト王国で、反乱が発生しました。
王国内の反政府組織『栄光のエフタリア』が、旧エフタリア帝国の帝都、エフェリアを占拠し、ファーレンハイト王国に攻撃を仕掛けています!!
『栄光のエフタリア』は第二次エフタリア帝国を称し、そのリーダーは、サーナヴェル・ディ・エフタリアを名乗っている模様です!!
エフェリアでは住民への暴行及び虐殺が行われている模様で、今後の動向にも注意が必要 ーーーー」
あぁ、、目眩がする。
リアーナは、無事だろうか。
「リアーナっ、、、」
『プルルルルル プルルルルル プルルルル、、、お掛けになった電話番号はネットワーク設備の故障、もしくは通話先の通信機器が接続されていないか、電源が入っていないためお繋ぎできません』
「クソっ!!」
電話が繋がらないということは、敵が電波妨害をしているのだろう。
連絡が取れなければ状況確認ができないし、リアーナの安否も分からない。
「どうしてっ、、サーナヴェルは、、、」
サーナちゃんは、、いや、サーナヴェルは日ノ本に居るはずなのにっ、、
テレビでは、サーナヴェルが帝都で演説をしている動画が流れていた。
つい先ほど撮影されたもので、第二次エフタリア帝国が動画を公開したらしい。
だが、サーナヴェルは、日ノ本に居るはずだ。
「どうなってるんだ、、、」
状況が読めない。だが、嫌な予感がする。
「とりあえず、サーナヴェルを尋問しないと、、、」
サーナちゃんは良い子だし、仲のいい友達だが、リアーナに危害を加えるなら、許さない。
あれ、おかしいな、、
サーナちゃんのことは友達として好きだったはずなのに、今は別にどうでもいいって思ってる。
確かに、リアーナさえいれば後はどうでもいいんだけどさ。
「まぁ、敵に情けをかける心配が無くなるし、別に良いか。」
友情なんて儚いものだ。
人生を通して僕は、そのことを理解している。
大切なものを守るために、人は時には、冷酷にならなければいけない。
「待ってろよサーナヴェル、殺してでも止めてやる。」
僕は急いで、来た道を戻った。
◆◇――――――――◆◇◆――――――――◇◆
「うーん、楽しかったなぁ、、。」
色々振り回されたけど、それも含めて最高の時間だった。
特に、彼女の笑顔を間近で見られたことが何よりの、、、、、やめよう。
ダメだ、これ以上はダメだ。
違う、俺は彼女に恋をしているんじゃない。
あんな意味のわからない奴に恋をするなんて、、有り得ない。
上位チャット:レイルさん、凄い人だったなw
上位チャット:色んな意味で()
上位チャット:まさかあんな美少女も喫煙者だとは、、
上位チャット:というかあの人が元男で成人済みとか、マジで想像つかないんだけどw
上位チャット:あのビジュアルで声がイケボなの何度見返しても意味わからんくて好き
「あはは、、確かに。マジで意味わからなさすぎて面白いよね。」
俺は、レイルが家に帰った後、『コラボ振り返り配信』をしていた。
レイルの奇行や、俺のエッッな本の話など、普段とは系統の違う話で、配信は多いに盛り上がっていた。
そんな時だった。
バァン!!という音と共に、一人暮らしのはずなのに、俺の部屋の扉が急に開け放たれたのだ。
上位チャット:は?
上位チャット:えっと
上位チャット:何が起こった
上位チャット:あれw
上位チャット:なんだか見知った顔が、、
上位チャット:顔が怖えぇ
扉の向こうに居たのは、虚な目をしたレイルだった。
あぁ、、その目も可愛いんだよな、、って、何考えてんだ俺は!?
というか、鍵閉めてたよな!?こいつはどうやって入ってきたんだ!?
「お、、おい、、レイル?」
レイルは俯き、今にも泣きだしそうな表情をしている。
どうしてそんな、悲しそうな顔をしているんだ?
「君が、、、どうして、君が、、、、、」
「おい、何を言って、、、、んぅっ!?」
急に腹部に衝撃が入った。遅れて、レイルに殴られたのだと理解する。
上位チャット:はっ?
上位チャット:おいおいおい
上位チャット:レイル様っ!?
上位チャット:これって、日ノ本最恐の武術って言われてる、殺絶流だよな!?
上位チャット:何だ!?ドッキリか!?
「待ってくれ、、何か、、、誤解が、、、、」
マジでまずい。
人生で初めて、命の危機を感じてる。
「誤解?今更誤魔化そうとしなくてもいいだろう?」
「ひぃっ、、」
な、なんだ、、、
レイルの声が、、おかしい。いつものような優しくて温かい低音じゃない。
底冷えするほどの、冷たい声だ。
しかも、明確な殺意がこもっている。
これ以上無駄なことを言えば殺すぞ、そんなメッセージが声に込められている気がする。
「君はどうして、、どうしてこんなことをしたんだっ!!」
レイルは、何かを押し殺すようにそう言う。
どういうことだよ、、何でそんなに悲痛そうなんだよ、、
俺が何をしたっていうんだ、、
俺が返答に困っていると、レイルは、俺を床に組み伏せて、血走った目で俺をギョロリと睨んだ。
「レイ、、、ル?」
俺の腕を押さえつけるレイルの手が、小刻みに震えている。
美しい顔は歪み、涙に夕日が反射して煌めいている。
手の震えから、激しい怒りと困惑、悲しみ、恐怖など、様々な入り乱れた感情が伝わって来る。
「つべこべ言わずに答えろ!!サーナヴェル・ディ・エフタリアッ!!!」
え?
サーナヴェルなんとかって、、
確か、前に俺が似てるって言われてバズった、有名人の名前だったよな、、、?
高評価もよろしくね。




