焦燥
「はぁ、、どいつもこいつも文句ばっかり言いおって。」
深いため息をついた俺は、手を止めて、窓から外の景色をボーッと眺める。
「戦時中はあれだけ団結しておったというのに、終戦した途端にこのザマだ、、。」
このファーレンハイト王国の国王という身分である俺だが、今は民衆が力を持つ時代なので、民衆に気を使いながら政治をしなければならない。
せっかく国を豊かにするための法案を作っても、やれ権利だなんだと言って、何かと批判してくる奴らがいる。
そういう奴は罰するに限るのだが、表現の自由というものがあるので、そう簡単に罰する訳にはいかない。
あんな奴らなんて国政を邪魔したいだけの無法者だというのに、あんなのでも一応国民なので、奴らの権利を尊重してやらないといけないのだ。
何が『民衆を虐げる王を引きずり下ろす』だ、民衆が豊かになるのを邪魔しているのは、お前らだろ?
「何か罪でも犯してくれれば、即刻投獄してやるというのに、、、。」
違法な行為をしているようなのだが、どうにも尻尾が掴めない。
どこかに協力者でもいるのだろう。
エフタリア帝国という脅威が去ってもなお、不穏分子は多いということだ。
「はぁ、、憂鬱だ。」
国の未来を憂慮しながら黄昏ていると、廊下から足音が聞こえてきて、ここ、執務室の扉が開いた。
「へ、陛下ぁっ!!」
大声を上げて入ってきたのは、宰相だった。
とても焦っているようで、顔は汗まみれになっている。
「何だ、何かあったのか?」
またあの無法者たちが妨害をしてきたのか?
「む、無法者たちが立ち上がりました!!」
「立ち上がった?」
どういうことだ?
今までの暴動とは違うということか?
「奴らは、旧エフタリア帝国の帝都を占拠し、第二次エフタリア帝国を名乗っております!!」
少しめまいがした。
はぁ、、愚かだ。
帝都を占領してエフタリア帝国を名乗れば、周辺国の協力を得られるとでも思ったのだろう。
だが、それは不可能だ。
敵の首領が、エフタリア帝国の皇族でないと、第二次エフタリア帝国はエフタリア帝国の後継国家と見なされず、ただの反乱軍となるからだ。
エフタリアの皇族は処刑されているので、もう血統は途絶えている。
そして、大義名分も人気もないただの反乱軍に、周辺国が協力してくれるわけがない。
「ふん、所詮は変な思想家とか腕っ節に自信がある若者程度だろう?」
「そ、それが、、」
「ん、違うのか?」
協力者らしき存在が居るようだったし、そいつらが動き出したのか?
「その、敵の首領が、サーナヴェル・ディ・エフタリアを名乗っておりまして、、」
「サーナヴェルだとっ!?」
サーナヴェル・ディ・エフタリア。
エフタリア帝国の皇太子であり、皇族の中で唯一、生死が分かっていない男だ。
一時、サーナヴェルに似た配信者がいると日ノ本で話題になっていたが、結局それは別人だった。
将軍がクーデターを起こした日、サーナヴェルは、父であるデイウルメが殺される様子を見て泣きながら、窓から飛び降りたという。
その後、宮殿が原因不明の炎に包まれたので、生死は分かっていなかった。
だが、飛び降りた高さ的にも生きていないだろうと思われたので、死亡したと認識されていた。
しかし、その認識は間違っていたようだ。
俺は、第二次エフタリア帝国が公開した、サーナヴェルを名乗る人物の演説動画を急いで確認する。
『我が父と母の仇、レーア・スラグ!!及び、民を虐げる愚かな王よ!!我々は、貴様らを殺すまで、止まらないぞ!!』
演説台の上で声高々と宣言するその青年は、エフタリア帝国皇族の証である、美しき緋色の瞳を持っていた。
髪は金髪で長く、女と間違うほどの美貌をしている。
これは、報告書にあったサーナヴェルの人物像と、完全に一致する。
そして、敵の首領がサーナヴェルなら、話は変わってくる。
第二次エフタリア帝国は、エフタリア帝国の正当な後継国家ということになり、ただの反乱軍とは一線を画した存在になる。
ファーレンハイトの存在をよく思わない周辺国は、当然、第二次エフタリア帝国を支援するだろう。
二年前の地獄の再来となるわけだ。
あの時より王国軍が強くなったとはいえ、周辺国までもが敵に回るなら、勝機は低い。
クソっ、、あの男は何を考えているか分からないから苦手なんだが、、仕方がないか、、、
向こうがサーナヴェルというカードを切るなら、こちらもそれ相応のカードを切らざるを得ない。
「リアーナを呼べ!!レーア・スラグに助力を頼むっ!!!」
※この作品がシリアスになることはありえません




