憎悪
「どうしよう」のサーナちゃんの外見についての描写を足しました。
エフタリア帝国。
それは、俺の祖国であり、大陸中部の広大な領域を支配していた大国だった。
俺はその国の皇太子として生まれ、実に平穏な暮らしをしていた。
だが、その平穏は、突如として奪われた。
悲劇が始まったのは、六年前のこと。
エフタリア帝国は、突如として隣国のファーレンハイト王国に侵攻した。
今では、エフタリア帝国がファーレンハイト王国を一方的に攻めたことになっているが、それは真実ではない。
そもそも、最初に攻撃を仕掛けてきたのは、ファーレンハイト王国だった。
ファーレンハイト王国は、その圧倒的な財力をもって、エフタリア帝国を経済的に支配しようとしていたのだ。
そう、母上が言っていた。
帝国国内には、ファーレンハイト王国の企業が乱立し、帝国の大企業が王国の大企業に買収されるという事案が多発した。
更に、飢饉が発生した際には、ファーレンハイトから援助と称して多額の金銭が届いた。もちろん、エフタリア帝国が借金したという形で。
こうして帝国は、王国に財政的に依存しかけていたらしい。
何度抗議をしても、王国側が帝国への経済的な進出を止める気配は無かった。
このままでは帝国が崩壊してしまう。
そう考えた皇帝、デイウルメ・ディ・エフタリアは、最終手段として、軍を動かした。
幸い、ファーレンハイト王国の軍隊は弱かった。
なので、デイウルメは、軍事力でファーレンハイト王国を黙らせようとしたのだ。
当初は、小競り合いと共に軍事的圧力をかけ続ければ、ファーレンハイト王国はすぐに降参すると考えられていた。
だが、王国は、降参しなかった。
それどころか、更なる経済進出を進めてきた。
そして二年前、しびれを切らしたデイウルメは、ついに大軍を動かした。
その数、約十五万。
数と練度で圧倒的に勝る帝国軍は、王国軍を次々と打ち破り、ついには王都を包囲した。
今度こそ王国は降伏する、、誰しもが、そう思っていた。
だが、奴らは、諦めなかった。
突如として、ファーレンハイトの王都守備隊が、攻勢に打って出た。
デイウルメ含む帝国上層部は、玉砕でもしに来たかと鼻で笑っていたが、そうではなかった。
あのファーレンハイトが、無策で攻撃を仕掛けてくるなんて有り得ない。
そう思うのが正解なのだが、この時の帝国サイドは、勝利を確信しきって慢心していた。
実際俺も、勝てると思っていた。
そして、後に王都防衛戦と呼ばれるこの戦いで、エフタリア帝国軍は大敗した。
完膚なきまでに、叩き潰された。
ファーレンハイト王国は、最後にして最強のカードを切ったのだ。
【日ノ本の叡智】レーア・スラグ。
今やファーレンハイト王国の英雄となっているその男は、間違いなく天才と呼ばれる部類の人間だったのだろう。
何倍もの兵力差を物ともせず、練度も低い王国軍を自在に操り、次々と帝国軍の精鋭を破ってみせた。
ついには、帝国軍は国境近くまで押し戻された。
流石に危機感を持ったのか、皇帝デイウルメは、ファーレンハイトと講和を結ぶことを決定した。
そして、ファーレンハイト王国に、使者が送られた。
だが、その使者は、一枚の紙と共に、首から上だけになって帰ってきた。
その紙は、レーア・スラグからの手紙だった。
そこには、『私は怒っている。私の大切な人を傷つけ、大切な人の国を破壊してまわった貴様らには、死んで詫びてもらうことにした。』と書いてあった。
俺たちは理解した。
決して手を出してはいけない存在を、怒らせてしまったということを。
エフタリア帝国軍は、必死に抵抗した。
数と練度で勝っているのだから、普通は負けるはずがないのだ。
森林を使ってゲリラ戦を展開したり、要塞に立てこもって敵に弾幕を浴びせたり、敵基地に空爆を行ったりと、あらゆる手段を尽くした。
だが、それらの作戦さえも、レーア・スラグの前には無意味だった。
帝国軍は段々とその数を減らしていき、ついには帝都が包囲された。
宮殿では、将軍によるクーデターが発生し、皇帝デイウルメは将軍によって討たれた。
将軍は城門を開け放ち、ファーレンハイトに降伏した。
皇族たちは捉えられ、処刑された。
エフタリアの血統は途絶え、帝国は滅亡した。
こうして、エフタリア=ファーレンハイト戦争は、幕を閉じた。
世間一般では、そう解釈されている。
だが、それは間違いだ。
エフタリアの尊き血統は、まだ途絶えていない。
そして、戦いはまだ、終わらない。
この俺、サーナヴェル・ディ・エフタリアが生きている限り。
「あぁ、、許せないよなぁ?」
確かに、軍事侵攻した俺たちが悪かったのかもしれない。
だが、先にちょっかいをかけてきたのは向こうのはずだ。
それに、道理とか関係無しに、どうしても父と母の命を奪った奴らを許せない。
これは、俺の個人的な感情の問題だ。
将軍はもう殺した。
後は、全ての元凶である、レーア・スラグだけだ。
奴さえいなければ、エフタリアは負けていなかったし、両親は死んでいなかった。
全ては奴のせいだ。
俺から、あの温もりを奪った。
父の、ゴツゴツとした頼もしい身体、朗らかな笑い声、優しく背中を押してくれる大きな手。
母の、全てを包み込んでくれる優しい声、上品な笑い声、背中をゆっくりとさすってくれる優しい手。
そして、俺へと注がれる、溢れるほどの愛情。
その全てを、奴は、、、レーア・スラグは、、、奪ったのだ。
許せるはずがない。
だから、必ず見つけ出す。
将軍と同じように、、、いや、それ以上の絶望を、奴に与える。
そして、 ――――――――――――――――
―――――――――― 「 殺 す 。」
安心してください。
この作品がシリアスになることはありません。




